SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
ストライクダガーは原作では数を揃えるための簡易量産型ですが、本作では輸出・現地生産用のモンキーモデルとして扱います。
MS量産自体が早まっているので、少なくとも大西洋連邦の主力は105ダガーです。
CE71/4/15
『オーブがMSを実戦配備したという発表は、私も耳にしている。しかし、それが何の問題になる? 所詮は守銭奴どもだ。手を掛ける必要もないだろう』
通信の向こうからは、苛立たしげな言葉が送られてくる。
作戦の準備は勿論、それを“ひっくり返す”手筈に忙しいのだろう。
「オペレーション・スピットブレイクは、地上から連合が使えるマスドライバーを無くすことが目的。……でしょう?」
仮面の男が、含みを持たせて言葉を返した。
それは現段階において真実であるが、彼らの間ではそうではない。
一月後の事実においても、そうだろう。
「しかし作戦を成功させても、オーブが地球軍を支援すれば雲行きは怪しくなります。……地球軍に、逃げ道を残すのは良くないではありませんか?」
地球上に残るマスドライバーは、ザフトの管理下のものを除けばボルタ・パナマとカグヤだけだ。
そこでパナマを抑え、宇宙軍を干上がられるというのが、議会に提出された案である。
また、通信を交わす二人はより根源的な案を練っていた。
しかし、懸念事項がある。
仮面の男は声を続けた。
「地球軍が配備を進めるMSは、実際大したものです。大西洋連邦が"壊滅的被害を受けたとしても”、オーブの支援さえあれば窮鼠猫を噛む可能性があります。……こちらも戦力を消耗するのは間違いないのですから」
大西洋連邦は地球連合の首魁と言っていい存在だが、あくまで地球連合は寄合所帯だ。
先行するのは大西洋連邦の
パナマを破壊しても、オーブがマスドライバーを貸し出せば効果は限定的。
大西洋連邦に大打撃を与えても、オーブの支援があれば、地球連合全体としてはまだ戦える。
そういう話だった。
『……流石に穿ちすぎではないか? オーブがそれほどの力を持っているとは限らんし、そこまで地球連合に尽くすとも思えんが』
「恐縮ですが、それが分らぬから言っているのです」
訝しげな返信に、ピシャリと返した。
「一当てしてみて、どれほどの力を持っているか、はたまた地球軍に助けを求めるか。それを見極めることはそれほど難しい話ではありますまい。その結果によって、対応を変えればよいのでは?」
『……良かろう。そこまで言うのであれば許可を出す。基地司令からも陳情が出ている。だが、小競り合いまでに留めろ。手筈はこちらで整える』
画面が途切れ、スピーカーが沈黙した。
端末を切った彼は、仮面を外し静かにその横においた。
(……さて、平和の国とやらは、戦乱が迫った時にどう踊ってくれるのか)
消えた画面に映る素顔は、すべてを嘲笑うように口角を上げていた。
彼にとっては、すべてが余興に過ぎない。
CE71/4/17
トールはバチン、と目を覚ました。
爽やかな朝の光に、自らを抱きしめるミリアリアの寝息と、端末がブルブルと震え続ける音が響く。
何の違和感もない身体で寝転んだままサイドテーブルに腕を伸ばして端末を開くと、アラートとともにメッセージが表示された。
(……招集通知、か)
ふっとため息を付くと、端末を放り投げる。
狙いもしなかったのに、滑るように元の位置へと戻った。
不思議と気分が穏やかだった。
今日に至るまで、
夢の中身は毎年の通りだ。
事情を知って、一晩中抱きしめてくれると言ったミリアリアのおかげもあるだろう。
でも、できることは全てやりきった故の、満足感だと思いたかった。
視界が冴えて、空中を舞う埃の数すらわかる気がした。
「……トール? 大丈夫?」
目覚めたミリアリアのふやけた声に応えずに、腕を引いて抱きしめる。
顔中にキスをすると「やめてよぉ……」とミリアリアが腕を払った。
トールはニヤけると体を起こして告げた。
「ザフトが来たらしくて、招集通知。……行ってくるわ」
その言葉にミリアリアは目を見開くと、起き上がってトールの首に腕を絡めた。
「トール……。いかなきゃいいじゃない」
悲痛な声に首を振り、額と額をくっつける。
「皆を守るためだから、さ。……大丈夫、帰ってくるよ」
囁くように告げると、腕を優しく振りほどく。
ミリアリアのお腹をゆっくり撫でた。
「身体、冷やすなよ」
そう言って立ち上がろうとするトールの袖を、なおも涙ぐむミリアリアが引いた。
トールは苦笑をしてその腕を取り、両手でギュッと握ったかとおもえば、指切りの形にした。
「……約束する。君を独りにはしないさ。パパにならなきゃ、いけないしな」
微笑むトールに、「絶対だよ」という滲んだ声が応えた。
軍港へ向かってパイロットスーツへ着替え、MSデッキに行けば同じくパイロットスーツ姿のキラの姿があった。
デッキには、種々の試験パーツによりいくらか姿を変えた
「おはよ、キラ」
「おはよう、トール。……来ちゃったんだね」
手を挙げるトールに、キラは苦笑して答えた。
「新婚なんだから、サボっても良いんじゃないの?」
「いやいや、軍属で給料貰ってるんだからそうも行かないさ。それに、縮こまって待ってるなんて性に合わないよ。だって俺は」
「「できることは全部やる」」
トールのいつもの言葉にキラが合わせると、二人は目を見合わせて笑った。
「まぁ機体の量産は進んでいるけど、パイロットはまだまだだしな」
キラは別にしても、モーションの収集から行ったトールと比べて、殆どのナチュラルのパイロットの練度はまだまだだ。
それに見合った装備として、サブジェネレータ内臓の
主力になるのは、国防軍所属のコーディネイターのパイロットや、周りから三人娘と呼ばれるテストパイロット達、そして開発班のキラとトールだ。
「それでも、バスターとストライクをあわせて20機は出せる。ザフトの規模次第だけど、フライングアーマーがあれば十分追い返せるさ」
MSの全高とぼぼ等しい全長の大型全翼機とすることで、広大なオーブ領海を飛び回れるだけの推進材とバッテリーを搭載し、MSを悠々飛ばせるだけのペイロードをもつ。
そして最大の特徴は、有り余るバッテリーを活用したPS装甲の搭載だ。
機体上にMSがうつ伏せや膝立ちになれば、地上からの実弾はPS装甲がシャットアウト、前面は投影面積を絞ることになる。
後は腕を出して一方的に攻撃可能だ。
「そうだね。ザフトがどれだけ出てくるか。……イージスが出てくるか」
キラの呟くような言葉に、返そうとしたときだった。
ブーという警報がなる。
次いでブリーフィングルームへの集合命令。
トールとキラは顔を見合わせると、駆け足でその場を後にした。
「接近が確認されたザフトの艦艇は5。最大で18機のMSが想定される。現時点では3機のディンが護衛にあたっているが、こちらは燃料消費等の面から退却ないし退路の確保に駐機すると考えられる」
「敵艦隊はマーシャル諸島沿いを経由しており、現状においては突入カプセル落下地点に向けて直進している。警備艦隊が領海に入る直前に退去命令を出すが、望みは薄いだろう」
「MS隊はM1アストレイ3機6小隊と、ストライク・バスター2機1小隊とし、このままフライングアーマーにて出撃。地面効果モードで経済巡航を行い、指定した防衛ラインまで急行する。回収部隊は後発する」
つらつらとブリーフィングと、その後の質疑を指揮官が終えると、背後に座っていた礼服を着たカガリが前に出てくる。
トールとキラは入ってきたときから、何故居るかと戸惑っていたところだ。
結婚式であったときとはまるで違う毅然とした様子のカガリは、目を見開いたまま会釈すると口を開いた。
「私はカガリ・ユラ・アスハ、アスハ家の人間だ。オーブ首長会議の名代として、この場に来ている。……オーブは他国の侵略を許さない。その決意の証として振るわれるのが、諸君らだ」
片拳を握りしめ、抑制したトーンで語られる言葉は、聞くものに畏敬の念を抱かせた。
「この平和の国に住み、戦いを嫌うものも居るだろう。それでも、力を貸してほしい。……オーブの理念のために」
カガリの敬礼に指揮官が敬礼を返すと、パイロットたちも立ち上がって敬礼を返した。
トールとキラも慌てて続く。
(……肩に力が入っているな)
以前の様子と比べれば、強がっていることがわかる。
トールにも、身に覚えがあることだ。
自分が戦いに巻き込んだ人間を戦場に送り出すのは、すり潰されたように胸が痛む。
救いになるのは、全員が無事に戻ってくることだけだ。
ブリーフィングが終わって部屋を出るとき、トールは腕をぐるりと回した。
自分はもう、送り出すだけの無力な人間ではない。
皆を守れる戦士だ。
水面を滑るようにフライングアーマーの編隊が移動していく。
翼の周囲で発生する乱流が地面に遮られ、整えられた気流がクッションのように翼を支えるのが地面効果だ。
水面近くに限られる為速度はそこまで出せないが、必要揚力を抑えられて燃費は遥かに良くなり、戦域に到達するまでの消耗を少なくできる。
海上に浮上したボズゴロフ級のカタパルトから3機のジンが飛び出し、後追いしてきたグゥルへ乗り移る。
ストライクとバスターはPS装甲を起動させた。
『敵機を確認……各小隊へ通達。臨戦態勢へ移行。敵発砲後は、自由戦闘を許可する』
M1アストレイに乗る中隊長の通信が終わらぬ内に、ジンはライフルを連射する。
各機は花を開くように散開しながら上昇した。
上空を向いたフライングアーマーが盾となってライフルを弾き返す。
中隊長が叫んだ。
『
その声はトールにも届いた。
ヘルメットに響くハァハァという自分の呼吸が煩わしい。
バスターをうつ伏せにしたままトールは
敵機の
真上から貫かれたジンが爆発した。
初撃の後も戦闘は続いている。
飛来するミサイルを、バッテリー消費を嫌ってガンランチャーで叩き落とす。
お返しとばかりに置いたミサイルにディンがぶつかり、黒煙を上げて高度を落としていく。
その合間にキラがSFSとエールストライカーをあわせた加速力で敵機に突っ込むと、サーベルを一閃してジンの足を切り離す。
すれ違ったストライクを狙った別のジンは、出鼻をトールが抑えた。
トールとキラの
(久しぶりの実戦だけど……。思った以上に動けてる。
味方にも被弾して引返した機体も有るが、全体としては優位。
トールには考え事をする余裕すらあった。
しかし、視界の端に僅かに赤が横切る。
「ッ避けろ!!」
トールが通信でそう叫んだと同時に、野太い光芒が斜め上から大気を引き裂く。
減衰をものともしないそれに、後方の機体が下半身ごとSFSを破壊された。
それでもM1アストレイ自体のスラスターを吹かす内に、となりの機体が自機のSFSへ引っ張り上げ、後退していく。
その様子を視界の端で捉えたトールは、ふっと息を吐いた後、光芒が打ち出された根本を見つめる。
カタパルトから飛び上がって、上空から撃ち下ろしたのだろう。
スキュラを撃ち終えた機体は人型に戻り、グゥルとランデブーする。
その赤は、青空によく映えていた。
「ついに、おいでなすったか……!」
イージスだ。
傍らにはブリッツとデュエルの姿もある。
ブリッツのシルエットは、これまでと異なる。
どうやら
赤、青、黒のカラーリングの3機は、左右と上に膨らむような軌道をとりこちらに向かってくる。
頼りになったフライングアーマーも、ビーム相手には対してはただのゲタに過ぎない。
また1機、落とされた。
M1アストレイが盾にしようとしたSFSがビームに爆散し、必死に機体のスラスターを吹かしながらゆっくりと降下していく。
こちらも1機落とした。SFSから飛び上がったキラが、ジンを機上から蹴落とし、残ったグゥルを撃ち落とす。
合間にトールが、イージスへライフルとミサイルを同時に放つ。
トラウマに震えた指が、操縦桿を握るうちに静かになっていく。
動きを染み込ませた身体は、しっかりと動いた。
(キラの友達だって話も、気にはなるけど……)
トール自身の
イージスは後方へ距離を取りながらミサイルをイーゲルシュテルンで撃ち落とし、ライフルをシールドで防ぐ。
「……スキュラは、撃ってこないのか?」
トールは訝しむ。スキュラなら攻撃を丸ごと薙ぎ払ったうえで反撃にもなる。
カタパルトから射出された直後の自由落下時の一撃だけで、その後は撃ってこない。
確かにバッテリーを食うし、重力下で変形して撃つのは難易度が高いが、”悪夢”の中ではポンポン撃ってきたはずだ。
そう考えが頭をよぎった瞬間、キラが動いた。
「……ってあのバカ?!」
ブリッツが中隊長機に肉薄し、サーベルを振るおうか、というところだった。
キラがSFSごとブリッツに突っ込み、中隊長機を救った。
だが、ブリッツの
さすがのエールストライクも2機分の重量を支えられない。
揉み合いになって2機とも降下していく。
援護に回ろうかと2機に近づこうとするデュエルのグゥルを、トールがガンランチャーで撃ち落とす。
しかし、デュエルは姿勢を整えながら2機を追って降下していった。
いいのか悪いのか、下には島が見える。
このままでは2対1になる。
慌てて援護に回ろうとしたのが悪かった。
イージスのライフルが迫り、なんとかSFSを盾にして飛び去る。
目の前に爆炎が広がった。
「クソッ」
悪態をつきながら、トールもスラスターで姿勢を整える。
落下しながら撃ったライフルは、グゥルがブラインドとなりイージスには見えていない。
相手もグゥルを失い降下していく。
小さな孤島に、コピーも含めて5機のG兵器が集まった。
小高い斜面を細かく跳ねながら、深緑の機体が進む。
背後の赤い機体から撃たれるビームの雨が樹木を焦がし、なぎ倒していく。
「迷彩カラーが、珍しく役立つな……!」
イージスのライフルを躱しながら、トールはそうごちた。
そうする間にも、バッテリーのインジケータが下がり続ける。
フライングアーマーの助けがあったとはいえ、戦闘継続時間はトールたちのほうが長いのだ。
あちらのように乱射はもう出来ない。
それでも空中に飛び上がるイージスに、肩のミサイルポッドを開く。
残弾を撃ちつくすまで吐き続けると、イージスは防ぎきれずに爆炎に包まれた。
PS装甲に効果はないだろうが、その内にトールはIFFの光点に目掛けて機体を進める。
状況はキラも同じ筈だ。あちらは2対1だから、なおさら。
光点が消えないことを祈りながら、額に滲む汗を気にせず、ジャンプを繰り返すように進む。
「見つけた……!」
飛び上がった機体が見下ろしたカメラに、ストライクの姿が映る。
他には片足を無くし、それでも銃口を向けるデュエルと、左腕の無いブリッツ。
ストライクは健在、そう思って眉を緩めたトールだっだが、次の瞬間ストライクは色を失った。
フェイズシフト・ダウン。
戸惑うストライクに、ブリッツがトリケロスを、デュエルがミサイルとライフルを向ける。
トールの耳から、すべての音が消えた。
刹那の走馬灯が、トールの脳裏を走る。
何度も見た瞬間。
頭が引きちぎられ、砕かれた自分の身体を見つめる。
今度はそれが、キラの番となるのかもしれない。
「……そんなこと、させるかよぉ!!!!」
走馬灯を吹き飛ばすように、何かが弾ける。
トールの視界が、白い線に染まった。
ビームも、ミサイルも、
流星のように降り注ぐ攻撃の軌道、その集結点にガンランチャーを放つ。
たった一発の散弾が、ストライクに向かう全ての攻撃をはたき落とした。
視界が元に戻る。
静寂が途切れ、自らの荒い息がトールの耳へ帰った。
次の瞬間、灰色のストライクがパックを取り落とし、アーマーシュナイダーを引き抜く。
背後から向かってきたイージスのライフルが、バスターの背に当たる。
推進剤に誘爆してバスターが、ストライクの傍らに墜落した。
追い打ちにサーベルを降りかかるイージスを、ストライクが迎え撃ち、サーベルを突き出す様に突進するブリッツに、バスターは銃口を向ける。
そして。
アーマーシュナイダーがイージスの胴体を貫き、バスターのライフルがブリッツに直撃した。
戦場に沈黙が満ちる。
直後、爆炎が二つ上がった。
思わすトールが息をつくと、スラスターの力だけで飛び上がったデュエルが、激高したように向かって来ている。
まだギリギリバッテリーは残っている。
銃口を向けようとしたが、上空からパラパラと銃弾が降り注ぎ、慌てて避ける。
グゥルに乗って急降下してきたシグーは、空中のデュエルを掴むとそのまま飛び去っていった。
こちらにも追撃する余裕はない。
棒立ちのストライクとバスターが、その場に残る。
「……終わった、のか?」
トールに答えるものは居ない。
イージスを討ったキラの嗚咽が、微かに通信に響いていた。
爆炎の静まった森の中で、爆発に跳ね飛ばされたディアッカは微かに意識を戻した。
目を開こうとすると、左目からドロリとしたものが流れ出す。
右目には、近くにいる赤服のパイロットスーツが映った。
アスランがプラントに呼び戻されたのを、事実上の更迭だとイザークと笑いあったのはつい先日のことだ。
残されたイージスに、これ幸いと乗り込んだディアッカだったが、重力下ではこうも扱いにくい機体だとは思わなかった。
折れた肋骨が肺を刺して溺れそうになる。
再び意識を失う瞬間、視線の先でパイロットスーツの腕がかすかに動いた。
SEEDネタなんだから、主人公が弾けねば無作法というもの。
いうてラウとかなら、空間認識能力で同じようなことできるかと思いますが。
キャラ生存についてはアンケート結果に合わせてみました。
キラもムウも生きてたんだからへーきへーき。