SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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話数管理を見直しています。第7話(上)→4-1

本作おさらいです
・トールはアングラネット(主としてジャンク屋ギルド)をよく覗いていた(prologue)
・上記を利用して、ヘリオポリス崩壊でもジャンク屋ギルドを呼び寄せた(2話)
・血のバレンタインではアングラネット書き込みを契機に事前脱出やジャンク屋による救助が行われた(3話)
・上記によりユニウスセブンでの犠牲者は22万9021人。遺体収容10万人程度。(3話)
※原作では犠牲者24万3721人(小説版で確認)。遺体収容ほぼなし。


 自由への翼
4-1


CE71/4/15

 

アスランは、手にしたバッグの取っ手を握りしめたまま、迎えの車を待っていた。

クルーゼ隊長が地球に降下し、入れ替わりに自分がプラントへ戻ったのはつい先ほどのことだ。

休息の許可は出ている。それでも、気が休まる気配はなかった。

 

プラントの空は、地上の戦火をよそに静かだった。

 

緊張が高まるザフトとオーブ。

カーペンタリア司令の思惑。

そしてキラとカガリの行方。

 

思考の端々をそれらが渦巻く。

だが一方で、オーブ(キラ)と直接矛を交えることはなくなったという事実に、ほっとする心もあった。

(……情けない話だ。ニコルたちは、まだ戦っているというのに)

 

捕虜に協力した疑いのある兵を前線に出せぬという理屈は、理解していた。

クルーゼから言い渡された任務は“新型機のテストパイロット”。

栄転でも左遷でもない。

ただ「ほとぼりが冷めるまで黙して待て」という無言の命令だろう。

 

その父と会うのもバツが悪かったが、家族としての義務が、アスランを足止めしていた。

 

黒塗りのハイヤーが音もなく停まる。

開いたドアの向こう、助手席の護衛に軽く会釈して乗り込むと、車内には既に父の影があった。

腕を組み、目を閉じている。

 

「お久しぶりです、父上。……ご迷惑をおかけしました」

カガリを見逃した件については、間違いなく父へ迷惑がかかっていることだろう。

 

そう思って頭を下げたアスランだったが、パトリックは見向きもせずに鼻を鳴らした。

「事務局が勝手に忖度しただけのことだ。些事にすぎん。……だが、余計な面倒はかけるな」

 

「……申し訳ございません」

 

謝罪の言葉に、返事はない。

重苦しい沈黙が車内を満たす。

 

車が止まったのは、近くの医療区画だった。

足早に病室に向かうパトリックに、慌ててついていく。

 

病室の扉を開けると、無機質な光が白く満ちていた。

人工呼吸器の規則的な呼気音と、心電図の電子音。

それが、この部屋のすべての時間を刻んでいた。

 

ベッドには、地上に降りる前と変わらず、(レノア)の姿がった。

(……やっぱり、痩せたな)

 

青白い肌に浮かぶ細い血管、乾いた唇。

彼女の手を取ったパトリックの肩が、小さく震えていた。

 

レノアは農業研究者として、ユニウスセブンにいた。

穏健派である彼女は、強硬になるパトリックと距離を置き、新設の農業コロニーに移っていたのだ。

血のバレンタインの日、避難を促す友人のメッセージを受けて避難を始めたが、直後の核攻撃によりコロニーの破片がシャトルを直撃。

自動航行機能でアプリリウスにたどり着いたときには、脳は致命的な障害を負っていた。

 

無数のチューブとセンサーに囲まれた姿は、もう人というより装置に近い。

それでもアスランにとっては、大事な家族だった。

 

(知らせてくれた誰かのおかげで、母はここにいる……)

誰がアングラネットに書き込んだかは、杳として知れない。

ただ、情報の正確さから地球軍内部の人間であろうと予測されていた。

地球軍にも、攻撃を知らせようとしたまともな人間は居る。

その事実は血のバレンタインを経ても融和を唱える、クライン派の足がかりとなっていた。

 

アスランはそっと父の背に手を置く。

二人のあいだにあるのは、政治でも思想でもない。

ただ一人の妻、一人の母を失う痛みだった。

 

「・・・なかなか目覚めてくれないな」

震えるようなパトリックの言い振りに、アスランの手が固まる。

冷徹と言っていいほど冷静なパトリックに、願望にこわばったかのような言葉は似合わなかった。

 

「地上のノミどもを視界に入れたくないのだろう。やはり消さねばな」

 

パトリックの小さくかすれた声は、機械音に紛れて傍らのアスランの耳にすら届かなかった。

 

「父上・・・?」

 

パトリックが部下に呼び出されるまで、沈黙は続いた。

 


 

CE71/4/24

 

ZGMF-X09A(ジャスティス)ZGMF-X10A(フリーダム)

現状のアスランの任務は、これらを乗り回すことだった。

とはいえ、ジャスティスもフリーダムも、すでにロールアウト済み。

最低限は動くことはできる。

 

それでもシミュレータでは判別しきれない、全力稼働時の各部の応力や摩耗度を調べるには、実機を動かすのが手っ取り早い。

 

問題は、その操縦難易度の高さだ。

 

「ッく!」

フリーダム全力機動中のGに振り回されながら、マルチロックオンシステムを起動する。

光点がダミー目標を捉えて光るが、視界が捉えきれない。

なんとかトリガーを引くが、タイミングがズレて半数は外してしまった。

 

そうこうする内にバッテリーが落ちる。

最小限の明かりが灯るコックピットで、アスランはため息を吐いた。

 

「やはりフリーダムは難しいな。ジャスティスならなんとか扱えるんだが・・・」

ジャスティスはジャスティスで、フリーダムを超える高加速や、多数の近接武器を有用に組み合わせる機転が必要となる。

クセの強い機体だが、アスランにはなんとか使いこなせた。

 

 

(しかしフリーダムもジャスティスも、どう使うつもりなんだ・・・?)

試験機としては、次期量産機であるゲイツをテストヘッドにした火器試験用ゲイツ改というのが先に居るらしい、

アスランも乗った地球軍のG兵器にもよく似た機体たちは、実戦配備用という話もきちんと聞いている。

 

その割に実機のバッテリーは、5分も全力戦闘すれば切れる。

バッテリーの高性能化も順次進められているが、よほど大きなブレイクスルーがなければ足りるとは思えない。

しかし、すでにロールアウトされたということは、少なくても目処はついているはずなのだ。

現時間では、火器の出力を絞った上で、短時間のテストと分析を2機を入れ替えながら無理やり進める形となっている。

メカニックにたずねてみても、曖昧に笑われるだけだ。

 

 

 

あからさまに効率の悪い試験を終えて、仕事終わりに端末でメールを確認している最中だった。

 

拡大する戦線の戦況速報は膨大であり、さしものコーディネイターといえど確認しきれない。

個々人向けに関係性の高い事項を、AIが割り振って抜粋するようになっている。

 

自動的に生成された無味乾燥なメールタイトルを視界に収めたとき、アスランの思考は凍りついた。

 

<クルーゼ隊でMIA(2名)>

 

指が震えるようにひとりでに動き、内容が表示される。

 

 


 

クルーゼ隊でMIA発生。

 

以下の2名。

 

ディアッカ・エルスマン

ニコル・アマルフィ

 

場所:オーブ領海(E58N-GU 1235/3444)

作戦名:物資回収及び強行偵察‐710417‐021

 


 

 

「ニコルと、ディアッカが・・・?」

 

頭が僅かに動き出し、詳報を探し始める。

所属が同じであろうが、同じ任務についていなければ情報封鎖の対象。

そんな当たり前がもどかしかった。

オーブがMSの公開と対外強硬策を打ち出したのは知っていたが、その後についてはようやく情報が届いていた。

 

 

落下した突入カプセルの強行回収と、オーブとの交戦。

その経緯を確認したあと、どうやって帰宅したのかアスランには覚えがなかった。

気がつくと軍服のままベッドの上に転がっている。

 

 

「俺のせい、か・・・? そうだな、俺のせいだ・・・」

 

真っ白な天井を見上げたまま、独白が漏れる。

 

カガリをキラ共々見逃した。軍務に忠実に突き出すのはもちろん、逃がすにしてももっとやり方を考える余地はあっただろう。

司令官に自分のせいだと嘘を突き通した。どうせ嘘を付くなら、地球連合の存在を仄めかして司令官の目先をオーブから逸らすこともできただろう。

任務が与えられたから、これ幸いとプラントに逃げ帰った。アスランが戦場に経てば、状況は変わっただろう。

 

その場にいれば、激情に身を任せることもできたかもしれない。

だが、すべてが終わったあとになってしまえば、空虚な妄想が浮かぶばかりだ。

 

(結局、中途半端なんだな。俺は・・・)

虚ろに開いたままの目尻から雫がこぼれる。

 

その場その場で、自分の感情に任せてそれらしい行動を取っているだけ。

後先まで考える思慮深さもなければ、貫き通す信念もない。

 

自分が情けなくなって、身動き一つ取るつもりになれなかった。

 


 

CE71/4/25

 

それでも時は過ぎる。

懊悩を抱えたまま眠れぬ夜を過ごしたアスランにも、人工太陽の白い光が指す。

のそのそとシャワーを浴び、それでも軍服だけは整えて今の職場へ向かう。

爽やかなはずの朝の中でも、アスランの影はジトッと湿気っていた。

 

MSドックまで行ってみれば、見知った人物がいた。

 

「ユーリさん・・・」

 

ユーリ・アマルフィ(ニコルの父)が焦燥した表情のまま端末を叩いていた。

 

「・・・やぁ、アスラン。済まないが今日は試験はできないよ。OSの入れ替えをするからね」

端末から目線も上げずにユーリは答えた。

アスランは言葉を続けようかと悩んだが、やがて口を開いた。

「その、ニコルのことは・・・」

 

「何も言わないでくれ」

ユーリの拒絶に、アスランは黙り込んだ。

 

しばしの間、キーを叩く音だけがドッグに響いた。

やがてユーリがぽつりと呟いた。

「戦争なのだから、そういうこともあると分かっては居た。それでもあの子(ニコル)は僕ら夫婦の光だったんだ。・・・君が関係ないのはわかっている。それでも、君の代わりにニコルがプラントに戻れば・・・」

 

嗚咽がユーリの言葉を止めた。

同時に、その言葉を言い続けないだけの良識もユーリには残っていた。

 

それでもアスランは、自分を責めることしかできなかった。

涙を袖で拭ったユーリは、無理やり明るい声を出して機体を眺めた。

 

「・・・悩んでいたが、もうそうも言ってられないのだと議長に説得されたよ。OSを入れ替えてキャンセラーを制御すれば、ジャスティスとフリーダムは真の力を発揮できる。犠牲を少なくすることができるはずだ」

アスランはいくらか眉をひそめた。議長()が求めた真の力とはなんだろうか。

 

ユーリの視線の先を追ったアスランは、驚愕の表情を浮かべた。

フリーダムのの胴体に、メカニックの手によって今まさにマークが描かれている。

小さな円を、3つの扇形が取り囲んだマークが。

 

 

アスランはまず父の元を訪れようとしたが、今日は夜までアポイントで埋まっているらしい。

であればとおもって、しつこく通話を試みる。

 

作業を続けるユーリの様子を伺いながら、二時間も開けずにコールをかけ続ける。

ようやくつながったのは、夕刻になってからのことだ。

 

「……何だ、アスラン?」

パトリックの張り詰めたような、虚脱したような声が端末から届いた。

 

「父上! NJキャンセラーとは一体どういうことですか?! プラントはすべての核を放棄すると、そのためのNJではなかったのですか?!」

がなり立てるアスランに答えたのは端的な言葉だった。

 

「必要だからだ。私がそう判断した」

 

「ですが……!」

 

「アスラン、お前にもわかるだろう。もはや猶予はないのだ。・・・地球軍は着々とMSを配備し、オーブなどの中小国まで有効な戦力を持ち始めた。これまで積み重ねてきたプラントの有利を押し切るには、一気呵成に進める必要がある。どんな手段を用いても、だ」

アスランは押し黙る。

パトリックの言う事は、たしかに正論だ。

 

「……もう良いだろう。私も今日は詰めねばならん」

「父上っ!」

 

疲れ切ったような呟きと共に、通話が切れる。

再度コールをかけても、パトリックが応えることはなかった。

 

アスランはデッキにそのまま座り込んだ。

睡眠不足な身体から、更に力が抜ける。

虚ろな表情でフリーダムを見上げながら、帰宅していくユーリやメカニック達を見送った。

 

(俺は、俺達はいったいどこに行こうとしているんだろうな?)

 

終わりも見えず、激化する戦線。

経緯はあったとはいえ、中立国にも牙を剥くザフト。

開戦当初の思いを消し去ってまで振るわれる、核の力。

 

庇ったはずのオーブ(キラとカガリ)を巻き込んだ。

自らの軽挙の結果失われた仲間(ニコルとディアッカ)

父に歯向かうこともできず、核の力を受け入れるしかない自分。

 

何も成果をあげられず、何もしないのにも耐えられない。

 

(まさしく無能な働き者、だな)

自笑が漏れる。組織にとって最も害悪な存在だ。

周囲の邪魔をしないよう、ペットロボットの製作にでも没頭したかった。

 

こうして職場であるMSデッキで、何もせず転がっているのもそれらしい。

それでも、そろそろ消灯時間になる。

 

アスランが、ゆっくり立ち上がろうとしたときだった。

 

重苦しい音を当ててハッチがゆっくりと開く。

誰か戻ってきたのかと思えば、予想だにしない顔だった。

 

血しぶきのついた服を着て駆け込んできたのは、険しい表情をした婚約者(ラクス)だった。

「ラク、ス……?」

 

思わず呟いたアスランだったが、反対にラクスは一度まばたきをしたかと思えば、スッと両手で拳銃を構えた。

銃口が迷いなくこちらを向く。

 

「……小父様はこのルートまで読んでいらしたのですね。流石に予想外でしたわ」

破裂音が連続する。

 

意表をつかれたアスランは腹部に一発を受けたが、咄嗟に身体を捻り、二発目以降をどうにか避ける。

 

今日は機乗もしなかったから、防弾繊維の軍服一枚きりだ。

弾丸は体内に残り、焼けるような痛みが腹を走る。

内臓がやられていない保証はない。

 

それでもアスランは物陰に隠れながら銃を抜いた。

「ラクス、何のつもりだ?!」

 

自らの怒鳴り声が傷口に響く。

ハンカチを丸めて押さえるが、血が止まらない。

 

視界の端、ラクスは銃を構えたままフリーダムのコクピットを外から開けていた。

目線が合うと、ラクスの表情に、決意と哀しみが混ざっていた。

 

「何のつもりも……先に手を出してきたのは貴方たちではありませんか?!」

震えながら、しかし迷いのない声ががらんとしたドドックに響いていた。

 

「お父様が亡くなった今、私がすべきことをするしかありません。そのためにこの機体、頂戴いたします」

銃声が再び響く。

 

アスランも撃ち返すが、遠のく意識に狙いが定まらない。

跳弾が壁を叩き、破片が頬を掠めた。

 

「ラクスッ!!」

返された声は、余りにも平坦だった。

 

「……もはや、貴方と語る言葉はございません。精々、お父上の命令に従って敵を撃てばよろしいですわ。ザフトのアスラン・ザラ」

ラクスの姿がハッチの奥に消える。

這うようにアスランは近づこうとしたが、フリーダムの瞳に光が宿った。

 

駆動系の唸りが空気を震わせ、飛び上がった機体がハッチを突き破る。

一気に気圧が抜け、流出する空気の流れに必死に抗う。

 

宇宙を翔ぶ翼を見上げたが、自動で噴射された修復材の白い気泡が雲のように遮る。

それきりアスランの意識は途切れた。




ガチギレラクスのガトー風味。シャア風味に「あなたは良い婚約者ではなかったですが、それ以上に貴方のお父上がいけないのです!」と結構悩みました。

設定によればNJC搭載初号機のドレッドノードが2月中旬、ジャスティス/フリーダムは4/1のロールアウトです。ちなみにニコル戦死は4/15。
ニコルパパ・・・?

オーブに厳しい方がいるのでネタバレすると、オーブからの捕虜照会はどっかのえらい人が握りつぶしました。
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