SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
※順番を入れ替えています。アラスカの前にオーブ編が入っています。栞から読み始めた方はご注意。
クルーゼは謹慎中、イザークは療養中です。
CE71/5/8
アラスカの海に浮かぶアークエンジェルのブリッジで、マリューとムウは踵をそろえて敬礼した。
「お久しぶりです、提督」
同時にアラスカに居合わせたことを知ったハルバートンが、激励のためにアークエンジェルを訪れていたのだ。
にこやかに敬礼を返す。
「そう固くならんで良い。君らは軍の英雄だ、人望で言えば私よりも上ではないか?」
茶目っ気混じりの言葉に、マリューはなんと返していいかわからず思わず言葉に詰まる。
そこに軽薄にムウが入り込んだ。
「いえいえ、なんといっても提督あってこそのアークエンジェル隊です。便利に使われてはおりますが、閣下のお力無くてはとうに使いつぶされているでしょう」
明るいムウの言葉に、ハルバートンは笑いで返した。
第八艦隊を外れ、パナマ基地に所属したアークエンジェルは、MSの生産ラインの目処が立ってからは地上を転戦していた。
陸上戦艦や水上艦艇を圧倒する機動力と運用範囲、環境汚染を考慮して
もちろんそこには、実戦データ収集のために乗り組むMSの力もあった。
ロングダガーが前衛、バスターが後衛として戦線を構築しながら、ストライクとダガーが臨機応変にパックを換装して対応する。
中でもムウがエールを装備して遊撃、エドがソードを装備して強襲を担うフォーメーションは、コーディネイターだけで構成された特務隊をも凌駕し、地球連合最強の呼び声も高い。
アークエンジェルとMSを合わせた”アークエンジェル隊”は、地球連合の最精鋭としてアフリカ、大西洋、アジア、太平洋すべての戦線に投入され、結果を出していた。
今や兵士や民間人の間では、地上の希望、鉄槌を下す大天使と謳われている。
一方で、
直接的な指揮下からは外れたとはいえ、宇宙で圧倒的な声望を誇り、ザフトに頑健にあらがい続けるハルバートンの子飼いという立場は、地球連合首脳部をして、気遣いをせざるを得ない防波堤となっていた。
笑顔を浮かべたままハルバートンはムウに近づいて肩をたたいた。
「それはお互い様だな。君らの戦果によって私の発言力も増えた。おかげで宇宙にもダガーや
地球側が宇宙への打ち上げを制限されるのに反対に、これまでザフトは自由気ままに地球へ降下してきた。
しかし護衛のMSを打ち払えるだけの戦力があるなら、ザフトの補給線を掣肘する事ができる。
規模の問題でプラント本国への侵攻はできないにしろ、戦略的には大きな進捗だった。
しかしそこまで言ってから、ハルバートンの表情は曇った。
「・・・・・・だからこそ、パナマ防衛後に返す刀で一気に地上を奪い返す。その連携のために呼ばれたはずなのだがな。もう2日待たされている。もちろん、首脳部がそろうのにも時間はかかるだろうが・・・・・・」
ザフトの大規模侵攻に向けた準備は、4月半ばには既に確認されている。
これまでの動きを考えれば、まず目標はパナマだ。
それを大戦力を持って迎え撃つことで消耗させ、一方で増援を宇宙で押しとどめる。
そうしてザフトの地上戦力をすりつぶし、地上を奪い返す。
そこまでできれば後は自力の勝負だ。
ともすれば今年中にも、地球連合の勝利で戦争は終わるだろう。
ハルバートンがわざわざ危険をおかして月から降りてきたのは、その調整をするためだった。
しかし、呼びつけておいてなかなかその協議が始まらず、無聊をかこっていたところだ。
「我々も、GAT-Xの新型の受領と言うことで呼び出されたのですが、最終チェックで不良が出たとのことで待たされているのです。ザフトの攻撃がいつ起きるかわからない以上、パナマを空けたくないのですが・・・・・・」
マリューも眉を潜めて懸念を告げる。
パナマ防衛に当たってはアークエンジェル隊も主力となるはずだったが、なぜだかアラスカに呼び出されている。
ヘリオポリスでの
今パナマを空けることと見合うとは思えず、仕方なくムウを除くMS隊の内3人をパナマに残してアラスカに赴いたが、ハルバートンと同様に足止めを食らっていた。
マリューの言葉を聞いたハルバートンは首をかしげる。
「GAT-Xの新型・・・・・・? 知らんな」
「・・・・・・提督もご存じではなかったのですか?」
マリューが驚きの声を上げるのは当然だった。
GAT-Xはハルバートンが主導して計画を進めたものだ。
その新型ができるというのに耳に届いていないというのは、明らかに誰かの思惑が働いている。
「何やらきな臭いな・・・・・・手のものに調べてもらおう。こうなっては足止め自体をされていること自体、作為の可能性がある」
その場に沈黙が満ちる。
足止めや隠蔽が何のためのものなのか、誰にも見当がつかなかった。
そのときだった。
外からサイレンが鳴り響きと同時に、モニタを見た
「基地司令部から緊急通報!! ・・・・・・ザフトの大部隊が、
戸惑いと緊張、そして焦りがその場の空気をかき消した。
「左翼、ハイペリオン
ハルバートンの声が響くのは、アークエンジェルのブリッジだけではなく戦場全体だった。
戦端が切られた当初こそ基地司令部からも指示が出ていたが、いつしか死守命令を繰り返すだけとなっていた。
それに業を煮やしたのがハルバートンだ。
当然アラスカの指揮系統にハルバートンは組み込まれていないが、将官の立場を笠に着て、横紙破りを押し通した。
乗り合わせたアークエンジェルを旗艦としてユーラシア連邦や基地防衛隊を糾合し、防衛線を張っていた。
多数の艦艇や基地防衛隊のMA、MSについても
これに地球連合の中枢として整備された基地防衛設備を組み合わせれば、かなりの攻勢であっても跳ね返すことができる。
問題は、押し寄せるザフトがかなりの攻勢という程度すら生ぬるいレベルであることだ。
「アラスカを狙うのだから当然とはいえ、地上の全戦力を持ってきたとでも言うのか・・・・・・。司令部の回答はどうなっている?!」
「未だ応答ありません! 何で今こんなことに・・・・・・?!」
艦長席をハルバートンへ譲り、CICに座るマリューが答えると、ダンッという音とともに艦長席が揺れる。
「ダガー
「ダガー1ー2、戦力喪失! パイロット回収後の後退許可を求めています!」
「ハイペリオンアルファ、後方ボスゴロス級への攻撃に成功! バッテリー交換のため後退するとのことです」
「ハイペリオンベータを右翼に回せ! ダガー1ー2は後退を許可する!」
戦力か少しずつすり潰されている。
ザフトの方も被害は大きいだろうが、まだまだ後続は途切れない。
ハルバートンは舌打ちすると、帽子を床に叩きつけた。
立ち上がって腕を振る。
「・・・・・・誠に遺憾ながら、現有戦力での基地防衛は困難と判断する。各隊は順次後退し、戦線を基地後方へ下げる。基地内へ撤退勧告を出せ! アークエンジェルは基地港湾部へ停泊し、残存兵の回収を行う」
「提督・・・・・・?! それは」
思わずマリューが聞き返す。それはアラスカを見捨てると言うことだ。
「事ここに至っても基地司令部の動きはない。援軍もなしにこれ以上、ユーラシアの兵を付き合わせるのも今後に差し支える。・・・・・・潮時だ」
ハルバートンが苦虫を噛み潰したように告げた。
今地上に展開しているのは、たまたま訪れていたユーラシア連邦所属の部隊が大半で、襲われたから反撃しているという意味合いが強く、無用な被害の拡大は大西洋連邦が非難される要素となりかねない。
「・・・・・・了解しました。アークエンジェルはC-21ゲートに接続させる! バリアント照準、ルートを開け!」
マリューが指示をだし、
そのとき
「ストライクより緊急連絡とのことです! 回線、つなぎます!」
突然の連絡に、すわストライクにも被害が出たかと全員がスピーカーに耳を傾ける。
しかし、聞こえてきたのは怒りを押しとどめた声だった。
『提督・・・・・・。どうやら我々は担がれたようです。バジルール中尉を拾いました。
「・・・・・・は?」
ハルバートンは、一瞬戦いの中にあって戦いを忘れた。
ナタルはアークエンジェルのクルーの内、実家の関係もあって唯一アラスカへ籍を移していた。
朝から妙に忙しない基地内の状況を感じてはいたものの、ザフトの攻撃開始後は防衛部隊の指揮に駆り出され、それどころではなくなっていたらしい。
その中で、司令部から降りてくる命令は明らかに異常だった。
“死守”
“配置固定”
“後退認めず”
あまりに合理性を欠いた指示。
しかも、繰り返されるばかりで戦況判断が見えない。
指揮系統崩壊を疑ったナタルは、直接判断を仰ぐべく司令部へ向かった。
しかし、探せどもどこにも上官がいない。
そしてついに司令所へいけば、無人の部屋に地下のサイクロプスが映っていたという。
ストライクへ乗り込んだナタルの言葉が続く。
『……恐らく、ザフトの目標がパナマではなくアラスカと知った司令部が、罠を仕掛けたものと考えます。ただ、敵を欺瞞するだけであれば地上の戦力は過剰に過ぎます。提督がご存知無いということも含め、合理的判断とは思えません』
ナタルは生粋の軍人だ。
軍がそう指令を下したのであれば、捨て石となることは厭わなかった。
通知無くそうされることも、敵を欺瞞するためと思えば承服できる。
しかし基地防衛隊だけならともかく、地上の部隊まで捨て石とすることは合理性に乏しい。
JOSH-Aそのものが囮として十二分、火力としてもこの規模のサイクロプスがあれば同様だ。
ザフトの基地の一つ二つを潰せる戦力をここで使いつぶすのは、どう考えても無駄だった。
その冷徹な判断が、ナタルが車両を駆って見知った機体へ駆け寄り、事態を知らせることに繋がった。
司令部が責任放棄した以上、この場で最上級のハルバートンに指示を仰ぐのが、彼女にとっての軍への忠誠だ。
話を聞いたハルバートンはため息を漏らした。
最早呆れる他無い。
「バジルール中尉、良く知らせてくれた。……どうやら軍首脳部はもう勝ったつもりらしい」
話の間にも戦線は徐々に押し下げられ、ゲートに横付けされたアークエンジェルへ続々と基地の要員が脱出してくる。
「戦後の政治を考えて、目障りな私を消しつつユーラシアの戦力を削ぐつもりだろう。……全く、これだから戦場を知らぬ輩は」
確かに、量で勝る地球連合が質の面でザフトに追いすがれば戦況は連合の勝利へ大きく傾く。
ハルバートンとて、そう思ってアラスカへ降りてきた。
しかし、その考えには重要な懸念があった。
「追いつかれたザフトが、そのまま座して見ているとでも考えているのか……? 我々の相手は、人間なのだぞ」
ポツリと呟く。
連合がMSを開発したように、今度はザフトも新たな手をとってくるに違いない。ハルバートンにはその確信があった。
再び深くため息をつく。
「……まぁ追求は後の話だ。NJ環境下で狙ってサイクロプスを起動するなら、ザフトがグランドホローに入り込んだタイミング辺りだろう。……全艦艇は即時撤退を開始。アークエンジェルは10分後に収容終了、その後殿を務める。MSは全て艦の直援に当たれ」
ハルバートンが再び指示を出す。
それから一時間もしないうちに、アラスカは地獄となった。
オーバーロードさせたサイクロプスが発するマイクロ波は機械に致命的な影響を与え、空中のグゥルやディンが墜落していく。
だが脱出するものはいない。
体組織や血液中の水分子がマイクロ波に強引に揺れ動かされる。分子の振動は加熱とよばれ、急激なそれは容易に相転移を引き起こした。
沸騰した血液と筋肉が弾け、人の体はグズグズに崩れ去る。
幾らもしないうちに地面も溶け落ち、地下空間が露わになり、やかてクレーターが形成された。
その様子を眺めるアークエンジェルのブリッジは、ただ沈黙に満ちていた。
あの場に残れば、自分達も同じ目にあっていたのだ。
やがて通信を目にしたマリューがハルバートンへ問いかけた。
「……ユーラシアの部隊は、キルギス基地まで後退したいと具申してきています」
「許可する。協力に感謝すると添えてくれ。……我々も、一端パナマへ退くべきだろうな」
アラスカが地球連合の中枢かつ大西洋連邦の中央であるなら、キルギス基地はユーラシア連邦の牙城だ。
別れていく部隊を、皆が敬礼して見送る。
彼らの尽力がなければ、アラスカの真実を知るまで戦線は持たなかっただろう。
仮に中途半端に下がれば、そのままサイクロプスに巻き込まれていた。
ブリッジの様子は外から見えないだろうが、そうせざるを得なかった。
唯一外から見えるのは、甲板にのるストライクに取らせたムウの敬礼だけ。
その様子に気づいたらしい、同様にユーラシアの艦甲板に乗る白いハイペリオンが返礼してきた。
ハイペリオンはG兵器に匹敵する性能を持つと言うが、灰色の機体の中にただ一機混じるその機体は、正にエースと呼ぶに相応しい戦果を上げた。
ストライクは敬礼をほどいて、そのまま手をふる。
ハイペリオンは戸惑うように手を振り返した。
そうして、アークエンジェルは損傷を抱えながらもアラスカを後にした。
パナマに残したエドワードから、ハルバートン提督が敵前逃亡、装備品略取、そして反逆の疑いでアークエンジェルごと手配されたという遠距離通信が届いたのは、翌日のことだった。
勝利がちょっとでも見えたら内ゲバが起こるってMuv-Luvで学びました。
アークエンジェル隊の活躍やMS量産の前倒しもあって、原作よりかなり地球連合が有利になっています。
まとめて処理するのは合理的ですが、流石に戦力集めすぎて墓穴になってます。
一番致命的なのはユーラシアの部隊が生き残ってることですけど。