SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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話数管理を見直しています。第9話(下)→5-2


5-2

CE71/5/15

 

フリーダム(ZGMF-X10A)

ザフトが開発した最新鋭MSだ。

大推力スラスターによる加速とウイングバインダーによる機動性、それを支えるフレーム。

アグニに匹敵する大火力の火器を多数と、それを統制するロックオンシステムによる、大量の敵への広域先制攻撃を可能とする兵装。

そしてそれらに実効性と継戦能力を付与する、核エネルギー。

まさしく現時点における最強の機体だ。

 

その機体が、ゆっくりと空母に着艦する。

夜闇に紛れて行われた、数時間の実機動作検証が終わったのだ。

 

いくらかした後、リフトで降りてきたキラを、トールが甲板上で迎え入れる。

「キラ、おつかれ。……どうだ? プラントの作った()()()()は?」

受領時の確認で判明した、技術者の遊び心。

OS名称のアクロニムは、単語こそ違えど連合のG兵器と同じようにG.U.N.D.A.M.になっているのだ。

 

キラは差し出されたボトルを受け取り、思案げな顔でドリンクを口に含む。

ゴクリと飲み干すと口を開いた。

「このフリーダムは凄いよ、さすがザフトの最新鋭機というしか無い。核動力というのを差し引いても、フレームの運動性と応答速度はストライクやM1アストレイを遥かに超えているし、それを満たせるほどOSの反応も早い。量子サブルーチンの最適化が完璧だ。マルチロックオンシステムは情報量が多すぎてパイロット側で空間認識の調整をする必要はあるけど、その分自由度が高い。……でも、ウイングバインダーの調整はマニュアルだから、慣性制御とか射撃反動は大変だね」

 

まくしたてるキラの言葉に、トールがふむふむと頷く。

「基礎スペックはヤバいし、一対多での戦闘能力も凄いけど、どんなときでも冷静に敵位置の把握と自機の姿勢制御をやらないといけないってことだな。それでそんな余裕が一対多の状況で果たしてあるか、と。……だいぶ人を選ぶなー。まぁお前が使えるなら問題ないんだろうけど」

俺には無理だ、とトールは肩をすくめた。

そもそも、この機体の入手経緯からして理解不能である。

 

突然オロファトに呼び出されたと思ったら、そこには亡命してきたラクスがいて。

ペットロボットのお礼にと、ザフトの最新鋭MSをプレゼントされたという。

わらしべ長者的ななにかだ。

 

そうしてモルゲンレーテに搬入されたフリーダムだったが、ラクスの想い(キラ専用)に応えてキラがガチガチにセキュリティを固めており、室長(シモンズ)が歯噛みをしている。

あくまでキラを信用して機体を渡したのであり、モルゲンレーテに渡したのではないとのことだ。

提示された概要によればNJCを搭載した核動力機らしいから、それも当然であるのかも知れない。

 

(しっかし、NJCとかプラント政変とかアラスカ基地崩壊、わからないものが次々出てくるけど、俺が死んだ世界はどうなってたんだ?)

普通の人間には今は一度しか無いが、トールには今が10回以上あったから、今と今を比較することが出来た。

しかし、CE71年5月以降は、トールにとって未知の領域。

新しく出る情報は新鮮では有るが、誰にとってもと同じように不気味でもあった。

 

特にかつての歴史において、トールがついにたどり着けなかったアラスカ基地、その崩壊については情報が錯綜している。

大規模な戦闘があったのは間違いないのだが、単純に連合の基地が陥落したというには、ザフトの動きが微妙だ。

一部報道によればザフトのほうが損害が多いのでは、とも言われている。

 

アークエンジェルとハルバートン提督に関しては、連合から敵前逃亡で指名手配されたという事実から生き残っていることは確からしい。

そもそも何故パナマ所属の精鋭部隊として報道で謳われていたアークエンジェルと、宇宙に居るはずのハルバートン提督がアラスカに居たのか、という時点で外部からは状況が見えない。

トールもキラも心配はしているのだが、どうしようもないというのが現実だ。

今は、フリーダムに夢中になっている方が楽だった。

 

ぬるい潮風が吹き続ける甲板で、試験前である火器の仕様についてや、フレームだけでも情報開示してもらえないかと二人が話す中、不意にキラの電話が震えた。

懐から取り出して耳へ当てる。

 

「もしもし?……あ、カガリ? 試験は終わったよ。……うん、トールもそこにいるよ。って、え?」

わかりやすく困惑した表情のキラをトールは見やる。

また何か無茶振りか、ラクス関連か。

しかし通話を切ったキラが困惑と安堵を綯い交ぜにして告げたのは、予想外の言葉だった。

 

「アークエンジェルが、オーブに来たって。僕とトールで迎えと監視に行けってさ」

 

 

CE71/5/16

 

モルゲンレーテに詰めていたキラとトールは、カガリから呼び出されオノゴロの地下ドックを訪れていた。

目の前には、昨夜から変わらずアークエンジェルが鎮座している。

ここに案内するまでの間、通信越しにマリューと会話を交わしてお互いの無事を喜びはしたが、機密保持として詳しい話は出来なかったし、その後はウズミがアークエンジェルに乗り込んでの事情聴取となったため追い出されていたのだ。

 

エレベーターを降りたところで、トールはカガリと話すラクスの姿を見つけた。

同じく二人を見つけたらしいキラに「……いいのかな?」と問いかけると、「同じ場所に呼ばれたってことは、いいんじゃない?」と苦笑しながら返される。

 

トールは護衛達の顔色を伺いながらそろそろと近寄って行くと、二人もトールに気づいたらしい。

「まぁ!! トール、お久しぶりです。ミリアリアとのことは伺いました。おめでとうございます」

喜色を浮かべて手を合わせるラクスに、トールは安堵して笑みを浮かべた。

フリーダムに関わる経緯の中で、ラクスの身に何があったかはザックリと聞いていたのだ。

 

「ご無沙汰、ラクス。ありがとう、ミリアリアも元気にしているよ……色々あったって聞いているけど、今は元気そうで良かった」

 

「ふふ……。キラのおかげですわ」

にこやかに返すラクスの言葉を聞いて、何をやったのかと傍らに寄ってきたキラの脇腹を小突く。

キラは照れ笑いを浮かべていた。

 

「カガリ、ラクスも一緒ってことでいいの?」

キラの言葉に、目に隈を作っているカガリは重々しく頷いた。

「……ホントは駄目なんだろうけど、ちょっと今回の話は影響が大きすぎる。ラクスの意見も聞きたいんだ」

 

「逆にそれ、俺が聞いていいのか? キラも微妙だろうけど」

え、というような顔でトールは問いかけたが、カガリは小さく頷いた。

トール、そしてキラにとってもカガリは社外取締役じみた上司では有るのだが、かしこまるのは戦場だけでいい、ということになっている。

 

「影響を検討するのに、一般人の意見も聞きたいってことらしい。喜べ、一般人代表」

皮肉げなカガリにトールはフン、鼻息を吹いたが、ラクスはころころと笑っていた。

 

カガリに案内されて、アークエンジェルへ搭乗すると、トールは懐かしさを感じた。

無機質な部屋割りは、見た目で区別がつくわけではない。

わかりやすい傷などが残っているわけでもない。

それでも宇宙で過ごした1月足らずと、砂と潮風に揺られた夢の中の光景が、まるで職場のような安堵と緊張感を呼び覚ました。

頭に残るレイアウトから、行き先は士官用の食堂だとアタリがつく。

宇宙では、ラクスとハルバートンが語らった場所だ。

通り道でマードックの姿を見つけて会釈すると、彼は小さく驚いてから鷹揚に頷いた。

 

「失礼します」

そうカガリが口を開きながら、守衛が開いた扉をくぐる。

マリュー、ナタル、ムウの見慣れた士官組と、一度だけ会ったハルバートン提督。

ウズミはモルゲンレーテであったことが何度かある。

事前に参加者を聞いていたのだろう、全員が落ち着いて座っている。

いや、マリューは穏やかな笑みを返し、ムウは少しだけウインクの仕草をした。

 

ウズミが口を開く。

「……む。よく来てくれた。ラクス・クライン、これからの話は口外しないことを約束してくれ。かわりにハルバートン提督からの情報を提供する。キラ・ヤマト、トール・ケーニヒについても口外することやメモをとることは、軍最高司令官、モルゲンレーテ役員として禁ずる。……理解したならば、着席してほしい」

トールたちは顔を見合わせると、一つ頷いて指示された席に座った。

カガリだけは大型モニタのそばに立ち、接続された端末を操作している。

 

(状況を知れば、できることだってある。情報だって力だ)

本来得られるはずのない情報を聞ける、トールはそう思いながら姿勢を正した。

世界の情勢の変化は、当然オーブにも影響を及ぼす。

早い内に情報を仕入れるに越したことはない。

 

周囲を見回したウズミが頷くと、カガリが声を上げた。

 

「それではまず、ラクス・クライン、ハルバートン提督双方に聞き取りしました状況を説明します。相違があればご指摘ください」

そうしてお辞儀をしてから説明を始めた。

プラントの混乱と、アラスカの事件。

今その突き合わせができるのは、恐らく世界でここだけだ。

 

 

数十分の後、画面には文字が踊っていた。


4/25 :プラント

・NJCの本格運用、戦力化が表面下。

・パトリック・ザラによりシーゲル・クライン他、穏健派・反核派など最高評議会4名が暗殺。

・ラクス・クライン脱出およびNJC搭載MS奪取。

>暗殺は地球連合によるものとの公式発表。

>パトリック・ザラ独裁政治化か不安定化が想定。

>核動力を使用した大量破壊兵器を製造中と想定。

>NJCについては民間への公式発表は無いものと想定。

 

5/8  :プラント

・パナマ攻撃との想定を裏切り、アラスカへ侵攻。

・投入戦力想定:地上展開戦力の半数。

>ほぼ全数が消滅と想定。

>地球連合への情報漏洩が想定。

5/8  :地球連合

・地球連合首脳部(大西洋連邦/ブルーコスモス?)が侵攻を事前察知。

・サイクロプス自爆によるザフト殲滅を企図。

・駐在、展開部隊には侵攻及び自爆について通知せず、死守命令を継続。

・ハルバートン提督、アークエンジェルなどの排除を企図。

・ユーラシア連邦の部隊も多数巻き込まれている。影響力削減を企図?

・ハルバートン提督、アークエンジェル、ユーラシア部隊の大多数が脱出に成功。

>地球連合首脳部は侵攻直前に脱出。

>脱出部隊の内、敵前逃亡で手配されたのは大西洋連邦麾下のみ。

>大西洋連邦とユーラシア連邦の勢力争い激化が想定。

 


 

情報の確認が終わり、ウズミが疲れ果てたように口を開いた。

 

「たった2週間の間に、まさに激動の状況だ。徐々に劣勢に進んでいたザフトは再び核の力を手にし、パトリック・ザラが強硬手段に打って出た。国内を統制し、劣勢をひっくり返すだけの力を得ようというのだろう。しかし意表をついたはずのアラスカでは大打撃を受け、混乱は避けられまい」

ウズミの視線に、ラクスは蒼白な顔で大きく頷く。

ザフト地上戦力の半数が消滅。

それだけの命が失われたということだ。

そして普通に考えれば軍を引くべきタイミングだが、あまりに劣勢すぎるとむしろ先鋭化するというのは、人類の血塗られた歴史が証明している。

元が地球連合の蛮行に対する怒りと恐怖から始まった以上、なおさらだ。

 

「一方で、地球連合は結果的に大戦果を収めたが、内部の勢力争いがあからさまに出てきた。味方を騙し討ちで討とうというのは、まともな軍組織の姿ではない。普通に考えれば相当な反発が起こるものと思うが、いかがか?」

ウズミの問いかけにハルバートンが重苦しく頷く。

「元より大西洋連邦の専横に反発する声は大きい。アラスカの件は脱出部隊よりユーラシア連邦へ既に伝わっているはずだ。ユーラシアの出方に寄っては……地球連合が割れても、おかしくない。東アジア共和国がユーラシアの側に付けば、戦力としては真っ二つと言うところか。MSもそれぞれが開発を進め、技術格差も縮んできている。目先の敵(ザフト)が強ければ、それでもまとまるだろうが……アラスカで失われた戦力と、プラントの側の混乱を知れば、どうだかな」

 

ラクスがハルバートンに向き直る。

「ご無沙汰しております、ハルバートン提督。……地球連合が割れた場合、対プラントの立場はどうなるでしょうか? 内部の方のご意見を伺いたいのです」

 

「うむ。ラクス嬢も大変だったと思うが、まずは再会を嬉しく思う。……今となっては、どちらも母国から追われる身だ。なんとも世はわからないことばかりだな」

ハルバートンは、から笑いを浮かべてから思案げに視線を頭上に向ける。

 

「……基本路線としては、先を争ってプラントに侵攻し、戦後の利権を確保、その後は二つの連合による冷戦だろうか。しかし、それはプラントが単純に負ければだ」

トントンと指でテーブルを叩く。

 

「プラントが核を筆頭とした大規模破壊兵器を持ち出して各個撃破する。あるいは二つの連合の内、どちらか一方だけがNJCを手にし、特権的立場として他を全て従属させる。このあたりになる可能性も十分ある。この場合、どう転んでも残るのは焼け野原だな」

 

その場に居た全てのものの頭に、ある言葉が浮かび上がる。

再構築戦争、あるいは第三次世界大戦。

資源枯渇と環境汚染により分割された世界で、民族・宗教紛争が連続。

そんな中、大国が全てを平らげようと次々と核を放った、人類史の汚点。

それは西暦を捨て、コズミック・イラという名で世界をリセットしようとするほどの。

 

ウズミが苦虫を噛み潰したように呻く。

「……国内のシンクタンクにも投げかけるが。私にも同じ懸念が浮かぶ。だからこそ意見が聞きたいと思って皆を集めたのだ」

 

トールが眉を寄せて声を上げる。

「オーブに住む一般人として、率直に聞きます。……ウズミ様、オーブが巻き込まれる可能性はあるんですか?」

 

「……今までは、良くも悪くもプラントと連合の緩衝地帯、後方に目を光らせずにすませる"仕切り”となっていたから見逃されたが。連合が割れた時点で前線は全世界に広がり、その役目は意味を果たさなくなる。そうなれば、モルゲンレーテの持つ軍事力、マスドライバー。環太平洋全てに目が届く立地。プラントも割れた連合も、喉から手が出るほど欲しいはずだ」

 

「いずれかの勢力の下に付けば?」

苦しむように告げるウズミを、間髪入れずトールが問い詰める。

カガリが暗い表情を浮かべたが、気づくものは居なかった。

 

「……流石に、私一人では分析しきれないが。オーブを手にしたものが勝つ、そこまでの状況になることも十分あり得るし、そうなれば奪い合いになる。何なら主戦場になる可能性も。……むしろ自国に主戦場をおかず、海に浮かぶ中立国を主戦場とするほうが、少なくとも地上の勢力においては望ましい」

ウズミの言葉は、問いかけたトールの想像以上に残酷だった。

さすがのトールも、わなわなと震えながら下を向く。

 

冷たい空気が部屋に漂う。

しかし、カガリが立ち上がって声を上げる。

「どうせ巻き込まれるならば!! ……私は、抗いたい。オーブの意思を、世界に示したい。お父様、ここにはハルバートン提督が居るんだ。ラクスの言っていた、中立国同盟。今ならできるんじゃないか?」

 

強い言葉に、ウズミはうろたえたように答える。

「アレは……しかし、あれは連合、プラントに対しての話だ。連合が割れてしまえば、混迷を深めるだけだ。それに、ハルバートン提督が居たところで、戦力がアークエンジェル一隻であればどうにもならん」

 

そこで、黙って話の行方を聞いていたハルバートンが口を開いた。

「……ラクス嬢、カガリ殿が言っていた中立国同盟というのは、軌道上で話した件かな?」

 

ラクスは一瞬ウズミを見やったが、彼が頷いたのを見て、逆にハルバートンへ問いかけた。

「……連合の皆様、お話する内容は、必ず口外せぬこと、お約束いただけますか? 違えるようであれば、私が必ず討ちます」

厳しい言葉に「承知した」ハルバートンが頷き、困惑している士官組も顔を見合わせてから「了解しました……」と小さく答えた。

 

ラクスは大きく頷くと、息を大きく吸って口を開いた。

「ええ、そうです。……今私の手には、先程話に出たNJCの製造データがあります。これをオーブの管理下にしたまま各国へ持ち込む。そうすることで、発電所再稼働によるエネルギーを質にして影響下に置き、中立国同盟を作る。そしてプラントと連合に圧力をかける。そういうプランです」

 

ハルバートンはほう、と息を吐いてから再び考えこむ。

いくらかした後、口を開いた。

「……前提として、私は軍人だ。将官である以上、こういった独自の情報収集や多少の臨時指揮は認められている。だが、戦力を私有化するようなことはあってはならないと考えるし、軍内部のことならともかく、国家の政治に口を出す立場でもない」

ハルバートンの言葉に、カガリが落胆したように椅子へ戻る。

士官組、特にナタルは、当然だ、という表情を浮かべて頷いていた。

 

「……が。地球連合が連合軍である以上、私の指揮系統は、必ずしも大西洋連邦に縛られない。連合が割れる前にユーラシア連邦から出向許可と指揮権貸与が有るならば、多少の自由は効く」

ニヤリと笑うハルバートンが続けた言葉は、周囲を驚かせるものだった。

士官組は大きく口を開いて、ウズミやラクスすら手で口を抑えている。

 

「ユーラシア連邦には、気候が厳しい地域も多い。彼らは()、エネルギー不足に喘いでいるのだ。二つに割れる連合、そのうちの、過激でない方と手を組めるなら。……条件は、大きく変わる」

ブルーコスモスも大西洋連邦が基盤だしな。とハルバートンは小さく続けた。

 

「末端の切り崩し程度は考えていましたが……そんな事が可能なのですか?」

衝撃の抜けきらない様子でラクスが問いかける。

 

「アラスカであれだけの部隊を失うところだったのだ。助けた私に恩を感じてくれていれば、話自体は通せる。そこに実利を示すことができれば……食い込むことは可能だと、私は考える」

笑みを浮かべながらハルバートンは指を組む。

「なにせ、エネルギー確保、オーブの技術協力、アークエンジェルという精鋭部隊、大西洋連邦を弾劾する大義をもたらす私。全てにおいて彼らの得でしか無い。後はオーブの側がとりこまれぬようにすることだが……仲間とした中立国の後押しと、核心であるNJCの確保。このあたりが整えば対抗できる。綱引きは続くだろうが、何、それが正しい組織の姿というものだ」

 

「そういえば……アルテミスもユーラシアでしたね」

呆然としたままトールは口を開いた。

かつての歴史では、アークエンジェルはアルテミスを見捨てて逃げた立場だった。

だが、今となってはアルテミスを管轄するユーラシア連邦との確執は存在しない。

それどころか、トールが生き延びるためにつけた話が関係を繋いでいた。

 

「ん? そうだな。あの後も物資のやり取りを通して、ガルシア司令とは()()な関係を築いていた。先月本国に戻ったと聞いているから、そこからも多少の援護は有るやもな」

もはや部屋の中はハルバートンの独壇場だった。

 

地球連合の月面本部、プトレマイオス基地。

新星(ボアズ)、世界樹と言った宇宙要塞が陥落する最中にあって、頑健に抵抗し続ける事ができるのは、工業力が有るからだけではない。

各指揮官の優秀さあってのことだ。

中でもハルバートンは、戦前に地球側で唯一MSの開発を主張し、政治的逆風の中でそれを実現させた彗眼の持ち主。

パワーゲームの見極めという一点においては、その戦略眼はウズミにすら勝る。

 

各々が少しずつハルバートンの言葉を咀嚼する中、これまで独り黙っていたキラが口を開いた。

 

「……思うんです。敵だから撃つ、立場が違うから戦う、そういうのじゃなくて。……僕らが本当に戦うべきは、人を戦いに駆り立てる、憎しみそのものじゃないかって」

全員の視線がキラに集まる。 彼は迷いを振り払うように、言葉を重ねた。

 

「……ハルバートン提督から宇宙で聞いたように、この戦争は奪い合いじゃなくて、憎しみで戦っている。だから、そこだけを討つ。……僕は、そう思う」

キラの真摯な言葉が、波打って響いた。

皆がそのように感じた。

 

 

 

 

 




本当の敵は、ザビ家ではないのか!ってやつです。
このためにアラスカでユーラシア助けたり、話をつけてアルテミスを平和に離脱したりしました。
COMPASSが何の略か、覚えていなければ前話で確認願います。


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