SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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5-3

CE71/5/19

 

「……かつて、ジョージ・グレンは語りました。人の今と未来の間に立つ者、調整者。それこそがコーディネイターであると。私は、その言葉を忘れていません」

ラクスがそう言いながら祈りを込める。

 

静謐な沈黙が周囲に漂う。

数秒の後、パチパチと言う拍手の音がスタジオ中から響いた。

 

ふぅ、と息を吐いたラクスは、傍らのハルバートンと目を見合わせて頷くと、強く握手する。

そうする内に、ミリアリアがゆっくりと歩み寄ってくる。

彼女は暫定的にCOMPASSの秘書官を務めていた。

 

「お二人共、お疲れ様でした! 編集が確認しますから、ちょっとお待ち下さいね」

そう笑いかけるミリアリアにラクスは頷きながらも、少し申し訳なさそうな顔をする。

 

「やはり、こういう呼びかけというのは、リアルタイムの方が良いとは思うんですが……」

ラクスは歌姫として活動で、たとえ放送越しであろうとも、生中継かどうかで迫力の違いが出ることは分かっている。

ライブ感による説得力は、何物にも代えがたいのだ。

 

ミリアリアも困り顔で答えた。

「わかるんだけどねー。説明した通り、軌道上で戦闘があったりするとNJの影響で途切れちゃうし……」

地球上へ放送する分はともかく、なにせプラントは遠い。

ジャンク屋組合の所有する、リレーレーザー回線を借りられることにはなっているが、通信障害による同期ズレで言葉が飛んだりすると最悪だ。

事前にデータを物理距離の近いサーバーにおいておくに越したことはない。

 

「大丈夫、ラクスの言葉はちゃんと伝わるよ」

重要な演説であるがゆえに力が入っているラクスの肩を、ミリアリアがポンポンと叩いた。

 

「となると問題は私の方かな? いかんせん、カメラの前で喋るのはどうも慣れん」

「いえ、提督も声にしっかり力が入っていましたよ! 鬼気迫るというか!」

茶目っ気を出して笑うハルバートンに、ミリアリアは慌てて手を振る。

ラクスも、その様子にクスクスと笑ってしまった。

 

 

 

アークエンジェル内の協議で見えてきた方針。

ユーラシア連邦に対して、エネルギー保障を筆頭とした諸々の協力を材料に、大西洋連邦との離間策を図る。

そのうえで、オーブとユーラシア連邦を中核とし、中立国を糾合して新たな同盟を結成する。

この同盟は、原則は中立としながらも、パトリック・ザラやブルーコスモス過激派といった"戦争犯罪人"の逮捕を要求し、また戦場での残虐行為防止の徹底を求める。

プラントに関して言えば、パトリックの逮捕と戦闘停止、そして評議会へのオブザーバー参加を条件に、戦争の当初目的である独立を認可する、というところまで踏み込む。

 

そして、戦争犯罪人の逮捕・残虐行為阻止のために武力介入を実施する、新たな組織(COMPASS)を発足させる。

 

ウズミは即座にシンクタンクへ査問を依頼し、同時に氏族会議を緊急招集。

最終的にユーラシア連邦の同意を条件に、この方針を了承した。

5/17の早朝には、キオウの人間がNJCの実証データ、ハルバートン提督の証言記録というデータで送れない重要機密を抱え、時間外起動させたカクヤを使用してシャトルを弾道飛行。

ユーラシア連邦首都ブリュッセルへ、文字通り飛んでいった。

現地のオーブ大使がギリギリで許可を通さなければ、撃墜されかねないほどの綱渡りだ。

 

その後は通信でやり取りし、戦時下だけあって向こうの反応も早かった。

『条件を飲むかわりに、すぐにでもNJCを回してほしい』

それが回答だった。

 

しかし一方で、ユーラシア連邦と大西洋連邦は、隔意はあれど結びつきは強い。

下手に急ぐと情報漏洩のリスクが有るが、時間をかければ南アメリカのように先行して攻め込まれかねない。

防備が整うまでの間、大西洋連邦の目を引きつけてほしい、と条件に付け加えられた。

 

「……提督。本当に、よろしいのですか?」

ふいに、ラクスが真剣な瞳で問いかけてくる。

「この放送が流れれば、貴方は世界で一番、大西洋連邦に命を狙われる軍人になります」

 

オーブ側は再度氏族会議を招集し、方針を一部変更。

先行してCOMPASSを発足させ、ハルバートンの身柄を使って大西洋連邦を挑発する方針を決めた。

 

そうして作成されているのが、この動画だ。

それは正義の告発であり、決意の表明であり、大西洋連邦の面子を潰す釣り餌でもあった。

もう一つ言えば、プラントの統制を乱す毒餌でも有る。

この放送後、ユーラシア連邦側の意趣返しという体裁で、ハルバートンとアークエンジェル組の軍籍復帰とオーブ出向の事務処理が行われる。

そのとき、大西洋連邦がどう出るか。

この程度でユーラシア連邦と仲を割ることは有るまい。

あり得るのはハルバートン側の排除。

 

攻めて来ないならその方が良い。

一方で、攻めて来たその鼻面をひっぱたく事が出来れば、大西洋連邦の威信は低下しユーラシアが動きやすくなる。

あるいはオーブを裏切りにくくなる。

 

そのジレンマを抱えながらも、動画の放送準備は着々と進んでいた。

急ピッチで進められる国民避難計画の作製や、軍備増強も。

 

ラクスの言葉に、ハルバートンはニヤリと笑う。

内心でくすぶる大西洋連邦への怒りも、標的となる恐怖もねじ伏せて、勝利のために。

「構わんさ。これも仕事だ」

 

 

 

CE71/6/1

 

COMPASS設立宣言が、地球、プラント問わず放送されておよそ10日。

オーブには、予想された困難が訪れていた。

 

作戦司令室のメインスクリーンに、洋上を封鎖する艦影が映し出される。

その数は二十隻あまり。

画面に出ている先行部隊は、巡洋艦や駆逐艦といった比較的軽量で足の速い艦艇ばかりだ。

肝心の打撃力となるタラワ級強襲揚陸艦などは、後方に数隻確認できるのみ。

一国の正規軍にケンカを売る戦力としては、いささか心もとない。

 

「24時間以内のデュエイン・ハルバートンの身柄引き渡しと武装解除、か。……しかしプラントがおとなしいとはいえ、よくもまぁこの短期間で戦力を持ってきたな」

呆れ顔のウズミに、ハルバートンも苦笑しながら答えた。

「正直、常識的な軍事行動の範疇を超えています。パナマ基地にプールしていた艦艇を全速で回したとしても、よほどの高速艦でなければ物理的に日数が足りない。……おそらく大半はハワイやマーシャル諸島など、太平洋各地に展開していた部隊を、補給も整備もそこそこに強引にかき集めてきたのでしょう」

 

どうしたって重力下では戦力(重量)と速度はトレードオフだ。

本来なら最も遅い艦に合わせて艦隊速度を調整し、万全の陣形を組んで威圧するのがセオリーだ。

戦地で体制を整える中世でもあるまいし、相当なムリをしているのは間違いない。

 

「パナマから順次呼び寄せて、五月雨式に合流するつもりなのでしょうが……。強行軍で戦場にたどり着いて、そのまま戦闘に突入するなど不可能です。何を考えて居るのか……」

ハルバートンは首をひねる。

彼の知る限り、流石にそこまでの素人は居ないはずなのだが。

(……あるいは、軍事的合理性を無視した強力な政治的圧力か)

無理を通せば道理が引っ込む、そう思っている輩もいるのだ。

特に、机上の計算が全てと考える、現場を知らないビジネスマンなどは。

 

「……カガリ、国民避難の準備は?」

つい先程、カガリが報道官としてオーブ国内へ避難を呼びかけた。

世論は巻き込まれた戦争を非難し、ハルバートンの引き渡しを求めるものと、当然オーブ国内でも放送された演説を元に、大西洋連邦と敵対してでも正義の実現を求める声に真っ二つに分かれていた。

普通であれば前者がほぼ全てであろう。

だが、オーブ国民は後者も選んだ。

 

『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。それがオーブの理念だ。しかし、世界の破滅をただ座して見て、燃え移った火に自らも焼かれる。それは愚かではないか。……オーブの理念は、自らの保身の為ではない。己が信じる道を奉じて、決して屈すること無く戦い続ける。そのための覚悟としての理念なのだ。我々はこの決断こそが、この南海の楽園を未来へ継ぐために必要なものだと、信じる』

演説放送後に、5大氏族共同で出した声明だ。

 

反対するものは、5月末から次々とマスドライバーを起動しアメノミハシラに、あるいは他国に船便で旅立っていった。

勿論そんな身軽なものは少ない。

嫌々残っているものも多いだろう。

それでも、戦乱を忸怩たる目で見ていたものが、疎開したものを除いても4割は居る計算になる。

そんな勇敢な国民を、簡単に被害に晒すわけにもいかない、そうカガリは訴えた。

 

結果、機密を投げ捨ててモルゲンレーテの地下ドックを筆頭に、オーブが多数抱える地下空間をシェルターに見立てて解放することとなった。

アスハ家の隠し蔵となっていたアカツキ島も同様だ。

24時間の猶予があれば、本土に残る国民の7割は詰め込めるだろう。

 

「……国民に対する保障の発表、移動手段、物資の搬入。全て順調です。ただ、全物資を含めてもやはり数日が限界です。短期決戦とする必要があります」

カガリが重々しく告げる。

物理的な限界はいかんともしがたい。

 

ウズミが頷く。

「向こうの戦力も少ない。集結する前に叩くしか無いな。……軍備の方は?」

問いかけにハルバートンが頷く。

 

「事前にお話しました通り、本土決戦は愚策。フライングアーマーを活用し、離島群に防衛線を築きます。フリーダムおよび改修の完了した()()()()()()()()の簡易補給基地は設営に着手しており、本日中に完了予定。問題ありません」

MSを十全に活かそうと思えば本土決戦が望ましいが、市街地の被害も大きくなる。

量産の進むフライングアーマーと、元より相応の規模を持つ海軍を活用すべき、と提言したのはハルバートンだ。

オーブ国民を巻き込んでしまった申し訳なさも、無くはない。

 

「了解した。……火中の栗を拾うことにはなるが、ここを超えれば一気に楽になる。どうかよろしく頼む」

ウズミの言葉に、巻き込んだのはこちらですよ、とハルバートンは苦笑いした。

 

 

アークエンジェルのブリッジでは、同じように艦影をマリューが見つめていた。

しかし、心境は大きく違う。

IFFを眺めながら、マリューは泣きそうな表情でため息をついた。

 

「……知っている艦、ばっかりね」

アークエンジェルは、つい先月までパナマ基地の所属だった。

救援部隊として、地球上のアチコチに顔を出しても居る。

 

同じ基地で過ごした仲間や、救援した自分たちを盛大に称えてくれた味方。

それが今では砲を向け合うことになった。

 

アラスカで拾われて以降、副長に返り咲いたナタルが口を開く。

「敵方が気づいているかはわかりませんが、この戦いはユーラシア連邦と大西洋連邦の勢力争いでもあります。地球連合を割るという方針を立てた時点で、こうなることは分かっていたはずです、艦長」

鋭い言葉に、しかしマリューは気遣わしげに問い返した。

 

「ナタル……。貴方は、良かったの? 大西洋連邦には、ご家族もいるんでしょう?」

家族をなくし、婚約者を喪って以降、マリューは既に天涯孤独の身だ。

艦に残っているのは、そう言うものが多い。

ユーラシア連邦により、乗員の軍籍が復帰されて以降、COMPASS所属を拒んだものはハルバートンの手筈により既に出国している。

ナタルの実家は大西洋連邦の軍人家系、親類と相対することになる。

退艦したところで責めるものは居ないだろう。

 

「……良いのです」

ナタルは苦渋をにじませながら告げる。

「パナマにいた、貴方方はご存じないのでしょうが……。アラスカ、JOSH-Aの大半は、もはやブルーコスモスの一部でした」

ナタルは天井を仰ぎ見ながら吐き捨てる。

 

「ブルーコスモスに忠誠を誓うものが昇進し、従わないものは大した理由もなく左遷、降格。上も下も能力に見合わないそれが、議員の指示であるなら、まだ文民統制の範疇ですが。ただの思想家、活動家、企業家が幅を効かせていた」

頭痛を払うように首を振る。

 

「私は軍人です。上に従って戦うことしか出来ませんし、それが間違っているとも思いません。……しかし叶うならば、広い視野で情勢を見据え、的確な判断を下すことのできる指揮官の下につきたいと考えます。たまたまそれが、ハルバートン提督だっただけです」

士官学校に入った時点で、ナタルは感情を押し殺してでも、指揮系統に従う覚悟を決めている。

とはいえ、アラスカで目の前にあったのは、民間人の専横甚だしい合理の乏しいグダグダの指揮系統と、優秀な指揮官に因って築かれた指揮系統。

立場上どちらでも選べたナタルは、後者を選んだ。

そして後者が接ぎ木によって正規の指揮系統を復旧した以上、もはや悩む余地はない。

 

ナタルの言葉に、マリューはふっと表情を緩める。

「真面目ね、貴方は」

 

「性分ですので」

ナタルは短く答え、軍帽の鍔を直した。

 

 

 

 

そのころ、モルゲンレーテの静まり返った格納庫で、キラは一人デッキからフリーダムを見上げていた。

唇は固く引き絞られ、その瞳は揺るがない。

そこに人影がゆっくりと近寄り、隣に並んだ。

ピンク色の髪が揺れる。

 

「キラ……。申し訳ありません。貴方を巻き込むことになってしまって。でも、貴方に力を貸していただきたいのです」

ラクスの悔恨をにじませる言葉に、キラは「まぁ、ハッパをかけたのは僕だからね」と苦笑した。

 

「何もしなければ、何も出来ない。そして何かをするには、そのための力が必要。それはもう、分かっていたことだから」

キラはラクスに向き直る。

 

「だからラクス、僕は君の力になるよ。ラクスの願いに……ラクスの望む未来(場所)に、君を連れて行くために」

 

ラクスはもう堪えきれなくなって、キラの胸に縋り付いた。

華奢な肩が震えるのを、キラの手が優しくポンポンと叩く。

しばらくして、涙を零しながらゆっくりと顔を上げた彼女は、キラの頬に優しく口づけした。

 

 

 

 

一方トールは、自宅で泥のような眠りについていた。

突貫作業で進められたバスターの新たな姿への改修は、ナチュラルであるトールに色濃い疲労を残していた。

歯を食いしばって眠る枕元に、そっとミリアリアが座る。

汗ばんだ前髪を梳くように撫でると、トールの表情が少し安らいだ。

(まったくもう、トールったら……)

 

パイロットを代わることも出来たはずだ。

オーブ軍のパイロットは、先月と比較しても大幅に増員されている。

だが、開発から関わっている自分が一番うまく機体を扱えるとトールは主張した。

その自分がパイロットであることが、皆を守ることにつながると。

とっくの昔に、トールの特異なアドバンテージ(未来の知識)は無くなっている。

今はただ、MSに慣れた、多少射撃の得意なナチュラルでしか無い。

 

「頑張り過ぎだぞ、お父さん」

反対の手で自らのお腹を撫でる。

まだ目立つ程でもなく、友人たちにも言っていない。

ただ、新たな生命がトールを追い立てて居ることも事実だろう。

 

優しくて、気遣いができて、楽しげで。

ガムシャラで、諦めが悪くて、時折悲壮な表情を浮かべて。

そんな彼が好きだった。

一緒に未来を歩きたいと思った。

それは彼も一緒で、だから今ムリをしている。

 

(守りたいのは、私達も一緒なんだからね)

ミリアリアは苦笑を堪えると身を屈めて、愛しい夫の頬にそっと口づけを落とした。

 

 




基本こうだったらこうなるよね、こうなってもおかしくないねの積み重ねで展開を考えるんですが、書けば書くほど原作ウズミ様の酷さが……

見ての通り次はバトルシーン
時間かかると思いますのでお待ち下さい

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