SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
CE71/6/2
明かりの殆どない、休止状態のコックピット。
世界から切り離されたような静寂の中で、トールは携帯端末の時計だけを見つめていた。
秒針が頂点を越える。
「……時間だ」
大西洋連邦の通牒から、24時間が経過した。
ほぼ真上に登った太陽が、美しい緑に覆われた離島を照らし出す。
設営された臨時拠点の外れで、トールはただ独り
前線から遠いこの離島には、敵の影も味方の姿もない。
立ち上がった機体の姿は、従来とは大きく異なる。
ダークトーンに塗り替えられたカラーリングはまだしも、
固定火器は左肩の上に乗ったビーム砲だけ、後は手持ちの長大な砲だ。
代わりに背面に伸びた腰部アームの先には、直角三角形の翼とスラスターが一体となった、大型のフライトウイングがついている。
「フライトウイングロック解除、機体前面へ展開」
手順を口にしながらオートメーションされた動作で機体を動かす。
背面のウイングがアームを軸に回転し、機体の側面を滑るようにして前面へとせり出す。
「……左右連結」
ガキン、と硬質なロック音を立てて、左右の翼が胸の前で噛み合った。
機体の前面を三角形の装甲が覆い隠す、一種の変形機構だ。
フライングアーマーの要素を分解し、機体の固定装備に設えたフライトシステム。
制御機能や姿勢制御を機体側に統合したかわりに、空いたスペースに新型バッテリーと追加の機能を詰め込んである。
トールは機体の足をたわませ、大ジャンプ。
頂点でフライトシステムに火を入れると共に姿勢を整え、機体をほぼ水平にする。
フライトシステムに伏せるような形を取って関節をロック。
機首を上へ向け、どんどん高度を稼いでいく。
眼下の島が豆粒になり、まばらな雲に近づいた辺りで機体を再び水平へ。
スロットルを絞りながら、スイッチを入れる。
「ミラージュコロイド、生成開始。……散布減損率52%」
フライトシステムから噴出したガスが、機体の磁場に絡め取られる。
青空を背景に機影が揺らぎ、世界から溶けて消えた。
ブリッツの残骸からリバース・エンジニアリングした、ミラージュコロイドステルス。
可視光やレーダー波から機体を隠せるそれの弱点は、熱や音は消せないこと。
だが、それは敵との距離が近ければの話だ。
せいぜい十数キロ程度の探査範囲など、この機体には関係ない。
バスターニンバスが機体とフライトシステムの間に伏射の姿勢で抱える、71式
開発が中断した
もちろん、地上では空気抵抗と地平線の盾に阻まれる。
だが、この高度からなら150km先まで射線は通る。
射撃後に再度ステルスを展開して予測射撃を封じれば、どんな反撃もこの機体には届かない。
誰にも見えず、誰の声も届かない高度から、ただ一方的に死を振りまく。
それが、バスターニンバスの戦い方だった。
「……通信は来ない、か」
小さく呟く。
もし大西洋連邦の部隊が攻撃を開始しなければ、5分ごとに待機の命令が入ることになっている。
既に5分は経っている。
つまり、敵方は早々にぶっ放したというわけだ。
ふぅ、と息を吐いてスコープを下ろす。
両肩にあったミサイルポッドのかわりに押し込まれた、光学観測システムが起動する。
光学レンズは最大望遠、CG補正後に拡大、拡大。
100km離れた先の、水平線の彼方にあるぼやけた黒いシミがトールの網膜に映る。
レールガンを構えると、コンピュータがレーザー観測による弾着予想円を描くが、あまりに誤差が大きすぎてスコープの視界内に収まらない。
全体が赤く染まるだけだ。
「邪魔だ」
舌打ちして表示をOFFにする。
71式電磁加農砲には通常弾頭の他に、超長射程と破壊力を実現する特殊弾頭が装填されている。
コストは高いが貫通力と質量に優れたこれなら、多少外れても余波だけで相手を転覆させられる。
レールガンのPS装甲を起動。
多大な
「さて、一方的に殴られる、痛さと怖さを教えてやろうか……」
相手は、オーブを防衛戦力しかない小国だと舐めているから攻めてくるのだ。
ならば恐怖を教えてやるしかない。
息を吐いて、吐いて、吸って、止める。
心臓の脈動すら意図的に落とすような、極限の集中。
狙撃手は孤独、そう言われることも多い。
まるで世界で一人ぼっちのような感覚。
だがこの引き金にかかる指には、自分だけではなく周囲の命まで守るという意思がこもっているのだ。
解像度が増したような色鮮やかな視界に、
それがスコープのシミと重なった瞬間、トールは静かに引き金を引いた。
バォンッ!
鼓膜を破るような轟音と共に、機体全体がきしむ。
射撃の反動で機体が一瞬で失速し、穴に落ちるように高度を失う。
電磁的な余波に因って磁場が乱れ、ミラージュコロイドステルスが剥がれ落ちる。
トールは荒く息をしながらバスター本体のスラスターを吹かし、必死に姿勢制御を行う。
なんとか揚力を取り戻し、水平飛行へ復帰した。
計器を見ると、バッテリーは一射だけでガクリと減っていた。
「核動力とまでは言わないけど、もっとエネルギー欲しいなぁ……」
撃ててもう1射か。
トールは位置を変えながら高度を上げ、戦果を確認しようとカメラを向けた。
一方で、レールガンから放たれた砲弾は、大気を削るように進んでいった。
宇宙へ飛び出さないギリギリ、重力と釣り合う速度では、大気は鉄筋コンクリートより硬い壁だ。
凄まじい空気摩擦と断熱圧縮で、アンチビームコーティングされた弾殻は瞬く間に赤熱し、溶けて、削れて――中から
まるでブリッツのランサーダートのようで、まるで違う。
ビームの穂先、重金属の柄、バッテリーの石突。
穂先を形成するミラージュコロイドが、空気を嘗めるように押しのける。
それでも消えぬ
ビームの穂先は、たとえPS装甲やラミネート装甲だったとしても物理的に侵襲する。
船体構造物にぶつかった
即座にビーム発生器がひしゃげ、今度は高速の重金属が衝突の圧力で液体のように振る舞いながら、装甲を貫通しつつプラズマ化する。
敵艦のバイタルパート、その中心までたどり着いたところで、プラズマが石突のバッテリーをも飲み込み、開放されたエネルギーが炸裂した。
船体を内側から真っ二つに割り裂き、青白い炎を上げて爆発四散する。
トールがステルスを再展開して上空にたどり着いたときには、先程の艦は影も形もなかった。
「……やれたか」
母艦ごと落としてしまえば、どれだけMSを積んでいても役には立たない。
宇宙ならまだしも、海上で放り出されればただの鉄屑だ。
「もう一発、撃っておきたい……」
何が起きたかわからない混乱よりも、状況を理解した上での恐怖が欲しい。
COMPASSが砕くべきは、戦力ではなく戦意なのだ。
ルーティーンを再度繰り返し、スコープで敵艦を捉える。
ドットに白い線が重なる――わずか前に、こわばった指が引き金を引いてしまった。
あ、とトールの口が息を吐くより早く、再度の衝撃と失速。
内心で頭を掻きながら、トールは再び姿勢を戻し、今度こそ補給のために離脱することにした。
トールの確認しなかった射線の先。
海面にぶつかった砲弾は、運動エネルギーのままに海を割り砕いて十mほどのクレーターを作り出し、運悪く
立ち上がった水しぶきと巻き上がった津波が、艦隊全体にパニックを撒き散らした。
一方、左翼最前線。
フリーダムが空中で側転する中、
艦艇から放たれたミサイルが一気に誘爆し、無為に大気を揺らした。
直後の空間をフライングアーマーにまたがったM1アストレイの編隊が通りぬけ、敵艦に肉薄する。
一方、敵艦甲板上に身を出したのはランチャー装備のダガー。
「させない!」
それを目の端で捉えたキラは、
片腕と両足を射抜かれたダガーからは、慌てて人が飛び出した。
脅威が去った敵艦に対し、アストレイ隊が一斉射撃を加え、砲塔を溶かしていく。
オーブ側の前線を飛び越えようとした戦闘機は、キラがライフルを向けた瞬間に、高空で鉢合わせしたアストレイが蜂の巣にした。
隙あり、と言いたげにフリーダムに飛びかかってきたエール装備のダガーの両腕を、引き抜いた
身を翻すように敵艦直上に飛び上がると、腰から伸びた
そのまま近づき、
甲板に乗り移ったアストレイがブリッジへライフルを向け、投降を呼びかける。
「今のところは……大丈夫」
キラは小さく呟いた。
COMPASSが砕くべきは、戦力ではなく戦意なのだ。
敵を蹂躙して無力化し、心を折る事ができれば十分。
(……できれば、殺したくない)
軍人たちは命令を下したものの責任と否定するが、敵を撃った責任を最後に負うのは、自分独りだとキラは考えてしまう。
であるからこそ、避けられる人死は避けるべきだ。
たとえその孤独な責任の重さに、押しつぶされそうになったとしても。
次の目標を、と考えたところで通信が騒がしくなる。
敵艦隊がこちらに目もくれず増速し始めた。
不審に思って音量を上げると、ノイズ混じりの混乱した声がコックピットに広がる。
『う、撃つな! 味方だぞ?!』
『違う、俺じゃない! ビームが曲がったんだ!』
『MSは無視しろ! 艦隊が突破を、あぁ?!』
『甲羅付きは俺に任せろ! お前らは他を狙え!」
(……どういうこと?)
キラはマルチロックオンシステムを展開して戦況を確認する。
左翼と右翼の艦隊が増速し、中央に押し寄せるように群がってくる、
中央部も速度を上げ、まるで三角の鏃のような陣形だ。
冷や汗が流れた瞬間、ハルバートンの指示が入る。
『敵艦隊は戦力を集中して戦線を強行突破、本土へ強襲上陸を企図している! MS隊は中央に寄れ!』
「……急がなくっちゃ!」
声とともに、何かが弾ける。
マルチロックオンシステムは起動したままだ。
キラはそのまま
5つの砲火が2度連続し、10の目標に到達する。
艦艇の手前に放って行き足を失わせる、あるいは後部の推進機近くに放ち航行不可能にする。
混乱する艦隊を尻目に、アストレイ隊をも置き去りにして急ぐ。
「見えた!」
前線の中央にはアークエンジェルが陣取っている。
ゴッドフリートが連続して放たれ、艦艇を押しやろうとするが、反撃は幾つもの
回避を強要され、十分に火力を発揮できない。
その姿を見つけたキラは、再びマルチロックオンシステムを立ち上げた。
先程以上にコントロールされた火線は、正確に敵機に襲いかかり――その中の一つ、ルプスの緑の光が、狙った艦の手前で不自然にねじ曲がった。
射線に、別のMSが割り込んでいる。
「え……?」
その光景にキラが困惑の声を漏らすより先に、ねじ曲げられたビームが、すぐ近くにいた別の機体を貫いた。
時間が、引き伸ばされる。
爆炎が上がるその機体。
たとえ画面に映る姿が小さかろうが、見間違いようがない。
GAT-X105、かつて自分が乗っていた、今ではムウの駆るストライクだ。
キラの時間が止まり、唇がわなわなと震える。
そこに直通回線が繋がった。
『――坊主、いいか?!』
ムウの緊迫した声が響く。
『この甲羅付きはビームを弾いて捻じ曲げる! PS装甲だ、サーベルでなんとか、ってクソっ!』
爆発するエールストライカーをパージして、ストライクが海上に没する。
水柱が上がり、やがて海の色に飲み込まれて消えた。
「……あ」
はっとする。
「フラガ大尉!」
呼びかける声に回答がない。
ただ無機質なノイズだけが、スピーカーから響いていた。
数瞬の沈黙。
キラは、震える拳で自分の頬を殴った。
ガツッ、という鈍い音。
切れた唇から血が滴る。
「……おおおっ!!!」
獣のような雄叫びとともに、スロットルを全開にする。
ビームライフルとシールドを投げ捨て、両手にサーベルを引き抜く。
ウイングバインダーをはためかせながら、緑の甲羅を被ったような機体に突っ込んだ。
戦闘終了まで書きましたが、分量が多かったので切ります。
0時に(下)を投稿します。
バスタ―ニンバスのデザイン
・1/144バスターガンダムの両腕ををライトニングバスターorライトニングガンダムに。
・左肩にV2のスプレービームポッド。手持ち武器もV2のメガビームライフル。
・左右のグレイト砲を外し、腰部アームの先に1/100Zガンダムのバックパックの左右をそれぞれ接続
・スネの外側に予備バッテリ
・カラーリングはブリッツに近いが、どちらかといえばデスサイズヘル(EW)
・Zの変形の要領で左右のバックパックが前にせり出し、機体前面で連結して航行モード。
・レールガンはあくまで対艦狙撃用。破壊力はゼウスシルエットなんかより遥かに下。