SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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話数管理を見直しています。第10話(下)→5-5


5-5

CE71/6/1(現地時間)*1

 

宵闇があたりを包んでいるが、目標の周辺は煌々と照らされている。

 

「まったく、議会も無理難題を言ってくれるぜ」

成層圏近くまで飛び上がった機体の中で、宇宙からの降下ポッドを待ちながら、ハイネ・ヴェステンフルスはため息を付いた。

 

アラスカに目標が変更される以前、パナマ攻撃に際して用意されていた予備プラン。

大規模EMP兵器(グングニール)を使用し、超伝導体であるマスドライバーのレールの磁場を乱して自壊させる。

とはいえそれも、地上部隊が降下地点までを制圧し、起動まで守り切るというのが前提だった。

 

オペレーション・スピットブレイクの大失敗により、ザフトの地上戦力は払底している。

其の中でも、議会(パトリック・ザラ)は勝利を求めていた。

不安定化する政情の中、せめて実力を持つ軍人たちの支持を手放すわけにいかないのだ。

まして本国の防備にも余裕がない中、地球連合を地球に押し込めるというオペレーション・ウロボロスの完遂が求められていた。

 

そのため、いつでも作戦を行えるようグングニールは軌道上で待機状態に置かれていたのだが。

(パナマの部隊が出張ったからって、独りでやってこいってのはな……)

 

地球連合がパナマから発ち、オーブへ攻撃する模様。

基地防衛力は低下している。

その情報が議会に上がった結果、数時間後には強行攻撃の指令が下った。

 

折しも新機体と特務隊の襟章がハイネの手元に届いた矢先。

『その機体とグングニールがあれば、必ずやマスドライバーを落とせる。そして君は英雄になるのだ』

それが所属するジブラルタルの基地司令の言葉だったが、ハイネは内心でせせら笑いを浮かべていた。

 

(英雄ねぇ……。死んでも英雄ってか)

核動力を積んだ新機体。

情報保持のためとして念入りに教えられた自爆プロセス。

つまり()()()()任務を達成しろということだ。

 

生還して喝采を浴びる英雄になるのも、死して追悼を受ける悲劇の英雄になるのも、どちらでも議会にとっては構わないらしい。

 

しかし、ハイネは機体を渡してくれた友人を思う。

まさか赤服を剥ぎ取られるまで追い詰められているとは知らなかった。

だが、彼の期待に答えなければならない。

 

降下してくるカプセルの周りを、とぐろを巻くように周回する。

地上に降りるまでの護衛と、起動するまでの防衛。

難易度は高く、文字通り孤立無援の任務。

上からの指示は、ほとんどカミカゼしろと言っているようなものだ。

 

だが、ハイネは薄く笑う。

「なぁに……。ジャスティスなら、勝てるさ」

機体は加速しながら、地上の光を目指した。

 

 


 

 

CE71/6/2

 

「くそッ、何なんだこいつらは?!」

トールは口汚く罵りながら、機体をロールさせる。

空気を引き裂きながら赤光が舞い踊る。

 

簡易拠点に戻ってバッテリーを補充し、再出撃。

狙撃を巡洋艦に一度決めた後だった。

再攻撃に移ろうと高度を上げたタイミングで、奴らが寄ってきた。

 

人面鳥を思わせる奇怪なMA(レイダー)と、その上に乗った見るからに重厚な砲戦用MS(カラミティ)

センサーは、そのふざけた状態でも、フライトシステム全開のバスターニンバスを僅かに上回る速度で接近してくることを伝えた。

 

速度差が微妙なら、振り切るのは難しい。

一方で、向こうも高速移動中なら音響センサは使い物にならない。

トールはスラスターを切って、滑空状態のステルスでやり過ごそうとした。

だが、敵機はトールの予想を超えた。

 

「頭おかしいだろ?! 核動力でもあるまいに……」

砲戦MSは虚空に次々と砲火を上げていった。

索敵射撃とも言い難い、ただの盲撃ちはほとんど花火だった。

バッテリー機では致命的な消耗をもたらす、常識では考えられない行動。

 

しかしその面制圧に抗しきれず、やむなくトールはステルスを切ってPS装甲を起動しながらスラスターを吹かした。

その結果起きたのが、このドッグファイトだ。

 

(こっちはもう、バッテリーが心もとないのにッ)

 

狙撃を終えて、更にギリギリまでステルスを起動していた。

既に残量は30%を切りそうだ。

向こうも消耗は激しいだろうが、出撃直後であればまだまだ持つだろう。

 

振り切るか、向こうが諦めてくれれば。

だがその様子はない。

このままでは補給拠点まで追尾されてしまう。

そうなれば、補給の手当もなくなっていよいよ手詰まりだ。

 

「……仕方ないか」

トールはため息を付くと、ベルトのテンションを調整する。

再び放たれるビームを躱し、機首を下げる。

強烈なエアブレーキ。

そしてそのまま、フライトウイングの連結を解除。

(揚力)を喪った機体は、射撃時と同様にガクンと失速し、慣性で膨らみながらも真っ逆さまに落ちる。

 

(痛い!)

ナチュラルには酷な機動に、むち打ちになりながらもトールは操作を継続する。

真下を向いたまま全スラスターを噴射。

海面に向かって加速し、距離を稼ごうとする。

 

しかし、上空からビームが襲いかかり、機体をかすめる。

MAであれば、宙返りしたところで、これほど早くこちらを向けるはずがない。

(まさか……)

 

機体を下に向けたまま、無理やり上空へカメラを向ける。

人型に翼を生やしたMSが、ドリフトする様に機体を傾けながらこちらに銃口を向けている。

 

(可変機だった?! ヤバい、このままじゃ…)

この状態ではトールの側は機体の運動軸を変えられない。

上空から撃ち続けられては避ける余地がない。

 

戦慄しながらも必死に姿勢をずらし、周囲を見渡す。

(さっきのMAが可変MSなら、その上に乗っていた機体は?……え?)

 

見つけた。

しかし困惑が広がる。

 

砲戦MSは、相棒が急激な変形を行ったせいで空中に放り出され、落下しながらもがいていた。

機体のスラスターを吹かしているようだが、見るからに重量過多だ。

先程までの速度を考えればかなりの慣性が乗っている、普通のMSのスラスターではとても姿勢を整えられないだろう。

 

 

敵の自滅か。

そうトールが思った瞬間、信じられない光景が展開された。

 

トールの視線の先で、砲戦MSは諦めたかのように腕を一度下げると――上空の可変MSへ砲火を放った。

 

(は?!)

 

灼炎に晒された可変MSが煙を上げながら高度を下げていく。

そして手にした巨大な棘付き鉄球を、落下する味方へ向かってブン投げた。

 

鉄球はまるで意志を持つかのように伸び、鎖が砲戦MSの足に絡みつく。

次の瞬間、可変MSはMA形態へ変形すると、スラスター全開で急上昇を始めた。

鎖が張り詰め、落下していた砲戦MSが、まるで幼児に弄ばれた玩具のように足から宙吊りにされた。

 

『……しゃーねーな! 落ちんなよ鈍亀ぇ!』

『うっせぇ! 揺らすな!』

 

オープンチャンネルで、狂った笑い声がノイズ混じりに聞こえた気がした。

彼らはそのまま、トールを置いて撤退していく。

 

「えぇ……意味がわからないんだが……」

安堵よりも先に、得体の知れないものを見た不気味さがこみ上げる。

海面スレスレで再びフライトウイングを連結し、揚力を取り戻したトールは、ただひたすらに困惑しながら簡易拠点へ進路を取った。

 


 

フリーダムが、まるで分身しているかのようにひらひらと甲羅付き(フォビドゥン)へ加速する。

プラズマ砲がのたうち回るヘビのように空間に踊るが、意に介さずスルスルと間を抜ける。

実体弾(レールガン)と機関砲が弾幕を形成し、フリーダムの行く手を塞ぐ。

 

「そんなものッ」

PS装甲の防御力、そしてウイングバインダーによる慣性制御で無理やり押し通る。

慌てたように振るわれた大鎌の柄を右手で切り裂き、左手で胴体を――

 

『へ、やっぱ俺って、不可能を可能に……』

聞こえた通信の声に、思わずキラは振り返る。

 

其の隙に甲羅付きは実体弾を放ち、直撃したフリーダムが押しのけられる。

構わずキラは通信に答えた。

 

「フラガ大尉!」

 

『坊主か。……バッテリーはヤバいが、俺は大丈夫だ。さっさとそいつをやっちまえ』

ストライクの方を見やれば、フェイズシフトダウンこそしているが胴体は無事のようだ。

 

それに息をつく間もなく、甲羅付きから再びの実体弾。

今度の狙いはストライクだ。

 

「駄目だッ」

フリーダムの身を盾にして防ぎ、クスィフィアスが火を吹く。

敵機を衝撃が襲い、突き飛ばされるように離れる。

いや、これは自ら離脱しようとしているのか。

 

『ははは。笑える』

オープンチャンネルに、乾いた笑い声が残る。

 

落ち着いて周囲を見れば、味方の奮戦により既に趨勢は決まっていた。

敵艦は次々と最大戦速で離脱して行く。

 

「逃げる……?」

追撃するのは、こちらもバッテリーの問題が有るのだろう。

ハルバートンから、追撃不要の連絡が入った。

 

キラは、荒い息を吐きながらフリーダムを海面へ降ろした。

コクピットに充満していた熱気が、急速に冷えていく。

その代わり、耳を圧迫するような静寂が戻ってきた。

 

 

モニターの中、海面に浮かぶストライクを見つける。

フェイズシフトが落ち、灰色になった機体は、まるで死体のように重く、波間に沈みかけていた。

キラはフリーダムの手を伸ばし、その腕を掴んで引き上げる。

 

ズズン、と伝わる質量。

その重さに、キラはようやく生きた心地がした。

 

『……悪いな、助かった』

ノイズ混じりのムウの声に、いつもの軽口はない。

 

「無事で、よかったです……」

キラの返しもまた、震えていた。

一歩間違えれば、この手で知人を殺していたかもしれない。

 

(もっと、広い視野を持たないと)

初めて見る機体だとしっかり認識していれば、不用意に手を出すこともなかったはずだ。

戦場全域を支配する、そんな強さが必要だった。

 

オーブとCOMPASSは、敵の再攻撃に備えながらもシフトを組んで短い休憩を取った。

トールも、独り離島で休息を取る。

ぴりついた空気が漂う中、やがて夜闇が海を覆った。

 

 

CE71/6/3

 

あけて翌日。

地球連合部隊は、昨日の攻勢が嘘のように姿を消していた。

困惑するオーブとCOMPASSに、世界を揺るがすニュースが届いたのは、昼前のことだった。

 

地球連合、パナマ基地。

正体不明のMS1機とEMP兵器による襲撃を受け、マスドライバー(ボルタ・パナマ)を喪失。

該当MSはそのまま逃亡。

 

ザフト、ジブラルタル基地。

ユーラシア連邦を主力とする部隊の電撃的奇襲により陥落。

直後、ユーラシア連邦は地球連合からの離脱を宣言。

 

基地攻撃に参加させた大西洋連邦部隊を放逐し、同盟の準備が整ったとユーラシア連邦から通信が来た。

 

 

 

*1
オーブ(ソロモン諸島)とパナマの時差はおよそ16時間。オーブが6/2正午ならパナマは6/1夜




続きです。短いのは勘弁。
ユーラシアが言ってきた時間稼ぎの要求→そういうことです。
中立になったら目の前の脅威を排除出来ないからね、仕方ないね。
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