SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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 虹と光
6-1


CE71/6/3

 

オロファトに設けられたCOMPASSのオフィスには、困惑と呆れがない交ぜになった空気が漂っていた。

壁面の大型モニタに写されているのは、ユーラシア連邦からのメッセージだった。

 

要約するとこうだ。

1つ、ジブラルタル基地を攻めたことの釈明。

南ヨーロッパにあるかの基地は、自国にとって最大の脅威であり、安全保障上見逃せなかったとのこと。

ただしこれによって、中立を名乗れるだけの余裕を世論に持たせられるだろうという。

 

2つ、中立同盟への参加要望と代表の辞退。

エネルギー危機は続いており、NJCによる支援を含む中立同盟への参加は予定通り行うとのこと。

既に地球連合に対しては離脱を宣言済みであり、受け入れて欲しいというが、退路を断ったと言われると受け入れざるを得ず、半ば脅しだ。

ただし当初はオーブとユーラシアの共同代表という形であったが、軍事侵攻直後であるから資格に欠けると判断し、オーブを盟主として受け入れるという。

裏を返せば責任逃れでもある。いざとなれば同盟から脱げだすことも可能だろう。

 

3つ、地球連合離脱直前に伝わったニュースの情報展開。

パナマ基地のマスドライバーは、謎の高性能MSがバッテリー機とは思えぬ活躍を見せる中、EMP兵器により破壊。

ただしピンポイント攻撃であり、兵力の消耗は限定的という。

このMSについてはCOMPASSへの情報照会要求も合わせてある。

 

4つ、この状況を鑑みて、月面基地切り崩しの提案。

マスドライバーを失い補給のできなくなった地球連合と、カグヤをもつオーブ。

補給を条件に地球連合から月面基地を離反させ、旧知のハルバートンの居るCOMPASSへ合流させるべきという提案だ。

 

「なんというか……。大国のしたたかさと傲慢さを煮詰めたような話ですわね。ザフトの切実さも、よくわかります」 

ラクスがため息がちに漏らす。

 

「パナマをMS1機で強襲させるというのは、ほとんど特攻ですな。……ラクス嬢、この機体については?」

ハルバートンの問いかけに、ラクスは小さく頷く。

 

「恐らくはジャスティス。フリーダムの兄弟機です。1対多というには本来向きませんが、主力となる兵器が別にあるのであれば、その加速力と格闘戦能力は護衛には最適です」

ハルバートンは頷くと、「ユーラシアに回答しておきます」と言葉を続けた。

 

「ユーラシアも本当にもう……。自分の言い分を受け入れるしか無いだろう、と言うのがありありと分かるな。実利を取った上で責任を逃れ、本当に自分の都合の良いように動いている」

 

カガリが頭を抱えてうつむく。

オーブ(中小国)のしたたかさに驚いた日もあったが、さすが大国はよりしたたかかつ傲慢だ。

 

「なんだかんだと言っても、大国の言い分を飲み込むしか無い。……まぁ、国家間のやり取りではいつもの話だ。実際、今更ユーラシア無しでは中立国同盟もCOMPASSも動きようが無い」

ウズミは肩をすくめる。

こうなることも薄々考えていたのだろう。

 

「それでも、一度エネルギーという果実を得てしまえば、こちらの意見も聞いてくれるハズだ」

ウズミがトールへ目配せをする。

トールは小さく頷いてモルゲンレーテの資料を読み上げる。

 

EF-21C(キャンドル)、フライングアーマーの生産ライン転用で既に8機が完成しています。NJCユニットの製造も堅調。完成後順次派遣し、6月末には規定数がそろう見込みです」

 

当初ラクスが想定したのは、オーブの艦艇に組み込むことだったが、元来の中立国だけでなく広いユーラシア連邦が含まれては数が足りない。

土地の提供やNJC起動用電力の供給は相手国側から、とした上で、航空機ベースでの貸与となった。

 

防御力に優れるフライングアーマーを転用したSFSに、ドレッドノート同型の広範囲NJCユニットと、人員輸送用のバケット、そして高速離脱用の固体燃料ロケットを追加。

M1アストレイを護衛につけて、いざとなれば諸共強行離脱、というプランとなった。

最悪の最悪は、ロケット起爆による自爆だ。

 

「NJCは最大の武器かつ弱点だ。オーブがそれを持っていることを知られた瞬間、大西洋連邦は再び襲いかかってくることだろう。体勢を十分以上整え、完全に秘匿する必要がある」

ウズミの言葉に皆が頷く。

 

エネルギーをなんとか回せている大西洋連邦にNJCが渡れば、その用途は兵器利用となる。

COMPASSの理念としては、絶対に回避しなければならない展開だ。

 

「……そういう意味では、ハルバートン提督。防衛戦でフリーダムを出しても良かったのですか?」

カガリは問いかけた。

COMPASS設立宣言によって、NJCの存在とそれを搭載したMSがあることは、地球圏全てに広められている。

大西洋連邦が怪しむ可能性があった。

 

「本土の防衛を考えれば、全力の出し惜しみをする余裕まではなかったですからな。ただ、配置としてはM1アストレイのバックアップですし、適宜インターバルも設定しておりました。なにより、キラ君の戦い方が素晴らしかった」

キラは、自分を向いてニヤリとするハルバートンに困惑してしまう。

 

「フリーダムのガンカメラを確認しました。被弾が少なかったのもいいが、ビームやプラズマ砲を当てたのは、MSの関節やミサイルと言った軟装甲のみ。装甲が薄すぎるため標的に残ったわずかな熱量の余波からでは、本来の出力は計算できません。レールガンなどの実体弾も同様です。意図的に装甲の薄いミサイル発射口などを撃ち抜いているため、弾丸は貫通、あるいは誘爆している。大西洋連邦は正確な威力を測りようがないのです」

ハルバートンは愉快げに続けるが、キラはただ、相手の武器だけを抑えようとしただけだ。

人死を避けようとはしたが、そんなこと(核動力の隠蔽)など考えもしなかった。

 

「……あえて言うのであれば、最後にPS装甲持ちに当てたレールガンによる、敵機のエネルギー消費(PS装甲発動)。ですがたったの一回、隅々まで調査してようやく出てくる話です。ハナから怪しまれていない限り、そこまで見ることもないでしょう。……幸い、より目を集める()()M()S()が地球連合に大損害を与えていますしな」

ハルバートンは愉快げに鼻を鳴らした。

ザフトの決死の行動が、中立国同盟に対する最高の煙幕になっているのだ。

 

 


 

CE71/6/15

 

「……で? たった一機のモビルスーツ相手に、好きなように暴れられたと。あなたの言い分はそれだけですか?」

パナマ基地の迎賓室で尊大にソファに座っていたのは、金髪碧眼に仕立てのいい白いスーツを着た男だった。

 

睥睨するその目に冷や汗をしたらせながらも、基地指令はなんとか口を開く。

ただの幕僚だった彼がパナマ基地司令の座を手に入れられたのは、JOSH-A自爆後にブルーコスモスへ基地を明け渡すという密約を、事前に行っていたからだ。

故に、目の前のブルーコスモス盟主(ムルタ・アズラエル)に逆らうことは出来ない。

 

「単機のMSがパナマの防空網を破壊してEMP兵器を降下させることも、降下した兵器を起爆まで維持することも、完全に予想外でした。ザフトの残存部隊に動きがなかった以上、事前の予測は不可能だったのです」

まくしたてるような釈明に、アズラエルは苛立たしげにテーブルをゴツゴツと叩いた。

 

「アナタ、本当に使えませんねぇ。いいですか、予想外も考慮しておくのが一流、予想外に対して分析と対策を行ってやっと二流。……ムリだったとまくしたてるアナタは、三流以下だ。ビジネスならクビですよ。ク、ビ」

指を突きつけてから親指を引く。

おののいて沈黙する司令を、黒服の部下に命令して追い出す。

 

独り残った部屋で、ガ、と音を立ててアズラエルの足がローテーブルを蹴り上げる。

指は苛立たしげに前髪をいじり続けていた。

「まったくッ! 使えないなぁどいつもコイツも!」

ヒステリックにわめきながら、再びテーブルをゴンゴン叩く。

 

いくらかしてアズラエルは努めて冷静な顔を作り直し、手元のノート端末を乱暴に引き寄せる。

映し出された映像は海上にデータで届いて以降、何度も見返したものだ。

やがてその口角が、再び三日月型に歪んだ。

「見ればわかるじゃないか。コイツが核動力機だ」

 

表情は苦々しく、しかし愉しげだ。

目障りな狂人ども(COMPASS)が告発した、NJCを搭載した核動力MS。

 

オーブ近海で見た新型機も気にはなったが、確証があるわけでもない。

一方でパナマに現れた赤い機体は、そのすべての行動が基地のカメラに残っている。

長時間に渡って飛行しながら基地の防空網を破壊。

固定砲座による逃れられないほどの弾幕を食らっても、PS装甲が切れる気配もない。

パナマに置かれた大量のダガーを、次々と破壊し続けられる破壊力と継戦能力。

そのどれもが、この機体が無限のエネルギーを有していることを証明している。

 

(対空監視に寄れば、ザフトの打ち上げは限定的。まぁアラスカでアレだけ叩いた後では戦力は降りてくるだけで宇宙へ戻す余裕はないだろう。……つまり、この機体はまだ地球上にいる)

思わずニヤニヤと笑いが漏れる。

 

パナマのマスドライバーを喪ったのは痛かったが、基地自体は健在。

立ち上げから既に4ヶ月経つ、パナマのMS製造ラインが生み出した数の暴力。

さらにオーブでは余り役に立たなかったが、生体CPUと後期GAT-Xシリーズ。

これらを合わせれば、地上のザフト殲滅は可能だ。

その中で、この赤い機体を回収することができれば──

 

狐狩り(フォックスハント)と行きましょうか。……なに、この情勢ならビクトリアを攻めるのを反対するバカも居ないでしょう」

 

まずはビクトリアを制圧。

パナマの喪われたマスドライバーの代りを確保すると同時に、ザフトの逃げ道を塞ぐ。

ここに赤い機体が現れるならば拿捕する。

 

もし現れなくても、残るザフトの拠点はカーペンタリアしかなくなる。

カーペンタリアからの打ち上げはノロマなHLV依存、対空ミサイルを山程準備すればいくらでも塞げる。

それで詰みだ。

 

「まずは地上のノミどもを処分して、核が手に入れば砂時計を焼くと。……なんとも良い流れです」

静かな部屋に、くつくつと笑いが響く。

 

しかし、端末の新着メッセージがポップアップして、アズラエルは真顔になった。

詳細を開けば、更に苦々しい表情に変わる。

 

「赤道同盟もか。……あの臆病者どもの何がそんなに良いんだか」

不愉快げに世界地図を開く。

これまで青色(連合)赤色(プラント)に色分けされて居た地図に、この10日で次々と緑色が増えている。

なかでもユーラシア大陸の大半は、青から緑へと色を変えていた。

 

パナマへ帰還する船旅の間、アズラエルを苛立たせ続けたのがこの緑。中立国同盟だ。

ユーラシア連邦が地球連合を突如離脱し、こちらの問い合わせに答えない中、オーブが提唱した。

その直後にユーラシア連邦は参加を表明し、スカンジナビア連合と言った中立国も堰を切ったかのように参加している。

 

狂人ども(COMPASS)を支援し、連合・プラント両方から距離を置くとかいう、地球人(ナチュラル)に有るまじき恥知らず共。

それが急速に規模を広げている。

 

本来は地球連合(大西洋連邦・東アジア共和国)も掣肘したいのだが、ユーラシア連邦が参加国への軍事支援を表明し、既に派遣が始まっている。

地球人同士での戦いの不毛さと、腐っても地上No2のユーラシア連邦相手にプラントとの二正面作戦を取るというのは、アズラエルをして難しいと判断し、今は距離を測っている状況だ。

 

その中立国同盟は、人道的支援を名目に月面基地への補給を提案してきている。

ポルタ・パナマを喪った地球連合からして、ありがたいといえばありがたいが、その意図は明確だ。

 

(月面基地の補給を握って、宇宙へ勢力を広げるつもりだろうが。タヌキめ)

奥歯をギリギリすりつぶしながら、ウズミ・ナラ・アスハの顔を思い浮かべる。

そもそも彼がオーブまで足を伸ばしたのは、ウズミが匿ったハルバートンとかいう反逆者の世迷い言を止めるためだ。

どうしても大洋上では足止めを食らう。

後期GAT-Xの試験として向かったのは間違っていたと、さしものアズラエルも後悔していた。

 

ビクトリアのマスドライバー奪取が遅れるほどに、月面基地の中立国同盟への依存度は増え、寝返りの危険度は高くなる。

無理矢理にでも行動を起こし、戦線を押し上げる必要があった。

 

アズラエルは護衛を外から呼びつけると、足早に部屋を出た。

 

 

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