SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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いつものアスランいじめ回。



6-2

CE71/6/15

ビクトリア基地の食堂、その奥まった席。

アスランは食べ終えた直後のトレイを見つめた。

 

(……やはり、量が減っているな)

ハイネにジャスティスを渡してから異動してきたビクトリア基地。

緑服となり、多少の待遇の差はあったが、そもそもザフトに階級はない。

出される食事は皆同じだった。

 

しかしこのところ、明確に食事の量が減ってきている。

コーディネイターとは言え、省エネに出来ている訳ではない。

むしろ運動能力確保と肥満回避のため、代謝を高める方向でデザインされるのが一般的だ。

 

必然、食事量は多くなるが、現在の食事はナチュラルの女性向けに+エナジーバーと言ったところか。

カロリーは確保されているが、野菜などは減ってきている。

サプリメントで補うのはプラントでも良くあったとはいえ、食料豊かな地上では食事で賄うのが通例だった。

 

(親プラント国との距離感、か)

地球連合から離反し、親プラントの立場をとったアフリカ共同体や大洋州連邦。

 

エネルギーの支援が見返りだったとは言え、激怒させた地球連合とよりを戻せる訳もなく、必死にザフトに尻尾をふって来ていた。

漏れ聞く話では、飢餓輸出すら横行していたという。

 

アラスカでザフトが壊滅してからも、旗色を変えることができず支援を続けてきた親プラント国。

 

だが、中立国同盟の結成が状況を変えた。

内心ザフトに見切りをつけていた国々は、手を切りこそしないものの、徐々に距離を取り始めている。

生鮮品の供給が絞られている、この結果がこのメニューなのだろう。

 

 

思考を巡らせていたアスランのテーブルに、不躾な影が落ちた。

 

「おや? アスラン・()()じゃないか。いけないな、食事が終わったらとっとと席を立たなきゃ。皆が配給を待ってるんだ、邪魔だろう?」

 

頭上から降ってきた嘲笑を含んだ声に、アスランは視線だけを上げる。

立っていたのは、見知らぬ数人()だった。

手には、アスランと同じように貧相な量の食事が乗ったトレイを持っている。

 

「おいおい、ヅラなんて変な名前はないだろう?」

「いーや、この役立たずが、我らが最高評議会議長と同じ名前の訳がない。だからコイツはヅラだ」

 

わざとらしく肩をすくめて笑い合う兵士たち。

周囲の席にいる他の兵士たちも、その騒ぎに気づいてこちらを一瞥するが、誰一人として止めに入ろうとはしない。

むしろ、元赤服(エリート崩れ)が嘲られる様を冷ややかに傍観していた。

 

ザフトの戦況は一般兵が感じるほどに悪く、そして改善の見込みも立たない。

彼らの苛立ちは、戦況に寄与しただろう最新鋭機を無様に奪われたアスランと、手をこまねいているプラント本国の両方へ向けられている。

 

「……すまなかったな」

アスランは短くそれだけを口にすると、トレイを持って静かに立ち上がった。

彼らの当てこすりに反論する気力すらない。

背中に投げつけられる「逃げんのかよ」「この腰抜けが」という罵声と下品な笑い声を背中で受け止めながら、アスランは逃げるように食堂の喧騒から歩み去っていった。

 


 

 

CE71/7/1

 

ケニアのサバンナ。

アスランの乗るジンは、重力下特有の鈍重な駆動音を響かせていた。

訓練不足の新兵と余りもの(アスラン)で構成されたこの小隊は、ジンが3機のみ。

戦争を支えた傑作機とはいえ、今となっては型落ちだ。

重く感じる機体を効率的に動かし、足早に前線へ向かう──としたところで、同じ小隊のメンバーの足取りを見て慌てて速度を落とす。

 

かつての仲間(クルーゼ隊)の面々より、遥かに鈍重な動き。

コーディネイターとはいえ、これが普通なのだ。

 

スエズの監視部隊から、連邦の部隊が突破して来たと通報があって1週間。

ビクトリア基地は北アフリカからバルトフェルド隊(砂漠の虎)を呼び戻しながらも、上陸が想定される旧ケニアに大規模な防衛線を構築した。

他はMSですら苦戦する天然の要害、地球連合が大戦力を持ち出すつもりならここ一択になる。

実際に6月末には上陸した地球連邦が拠点を開設し、睨み合いが続いていた。

 

今日になってついに地球連合が動き出したが、それでもブリーフィングは楽観的だった。

あと数日持ちこたえる事ができれば、カーペンタリアからの増援と挟み撃ちができる。

パナマのマスドライバーを破壊した、新たな英雄(ハイネ)も増援と共に来る。

 

『見つけたぞ、前方敵影3! MSだ!』

仲間の通信が響く。

現れたのは、高機動装備(エールダガー)が2機、そして後方に陣取る砲戦装備(ランチャーダガー)が1機。

アスランはステップを踏みながらも、センサーを広域に切り替えて戦場全体を俯瞰した。

機体性能で劣る以上、地の利を活かしたフォーメーションを構築するしかない。

しかし、僚機の2機は止まらなかった。

 

『地球軍のMSなんて所詮猿真似、中身はただのナチュラルだろうが!』

『手柄を独り占めにされるなよ!』

 

「待て! 突出するな!!」

 

アスランの制止を振り切り、2機のジンは目の前のエールダガーへと、それぞれ1対1の勝負を挑むようにスラスターを吹かした。

 

開戦以来、ザフトは個人の戦果を大きく喧伝し、幾人もの()()()()()を生み出した。

兵力差に劣る以上、そうせざるを得なかったからだ。

それを聞いて志願した新兵は、個の力を過信しがちだ。

赤服(成績上位)なら自重を持つか、実際に個の力が突出している。

あるいは開戦当初なら、MSの暴力で誰しもそう振る舞えたかも知れない。

しかし今、予備部隊としてシミュレータで遊んでいた彼らでは。

 

エールダガーは機関砲(イーゲルシュテルン)をばらまきながら、立ち位置を変える。

それに気づいたアスランは慌ててライフルをランチャーダガーに向けたが、味方が射線を塞いでいた。

逆に言えば、味方とランチャーダガーが一直線に重なっていた。

 

超高インパルス砲(アグニ)が火を噴いたのは、アスランが空中に飛び上がるのと同時だった。

極太のビームの奔流が、戦場を横薙ぎに払う。

 

『な──』

回避すら間に合わない。エール機に気を取られ、無防備に横腹を晒していた2機のジンは、アグニの光の帯に呑み込まれ、断末魔すら残せずに一瞬でドロドロに融解し、爆散した。

 

「……ッ!!」

ジンの推力では駐空はできない。

すぐに着地すると、小ジャンプを繰り返しながらジグザクにエールダガーの1機へ向かう。

慌てたように連射されるビームライフルを、装甲を焦がしながら紙一重で避け続ける。

今度はこちらが、エールダガーを盾にして敵の射線を切る。

 

サーベルに手をかけたエールダガーの視界を地を這うように避け、重斬刀を逆袈裟に切り上げ。

コックピットを断ち切られたエールダガーが、力なく倒れ伏した。

 

その間に別ルートから回り込んでいた味方のバクゥ小隊が、ミサイルポッドの斉射で厄介なランチャーダガーを粉砕する。

 

残ったもう一機のエールダガーが後ずさり、こちらを伺う。

後方から迫るバクゥの小隊と正面のアスランのジン。

意を決したようにビームを連射しながら突進してくる。

こちらはジン1機、抜いてしまえばエールの速度で振り切れるという腹だろう。

 

それを見越していたアスランは、重斬刀をブーメランの様に回転させて投げつける。

思わず撃ち落とそうとする敵機の視界が逸れたのを察して再び飛び上がり、スラスターを全力で噴かして、右脚で飛び蹴り。

 

お互いの相対速度が乗った一撃は、アスランのジンにもアラートを響かせる。

だが不意を突かれた敵機はそれ以上だ。

「……目の良さが命取り、だったな」

 

混乱したように地面に転がる敵機へ、ライフル。

コックピットを真正面から撃たれたエールダガーが沈黙した。

 

最近頻繁に感じるようになったズキズキとした頭痛に顔をしかめながら、アスランは周囲を見回す。

バクゥの小隊は、さっさと次の獲物を求めて行ってしまったようだ。

まずは味方と合流し、再度指示を仰がなければならない。

 

アスランはモニター越しに、見渡す限りの荒野と、その先のくすんだ空を見上げた。

(戦っている時は、楽だな……。何も考えなくていい)

異音が鳴る右脚の設定を誤魔化し、アスランは戦場を彷徨った。

 

 

CE71/7/2

 

戦闘は続いている。

昨日のアスランは、ガタの来た機体を乗り換えながら戦場に出ずっぱりだった。

欠員の出た小隊に配備されては、その小隊が壊滅し、アスランだけが残る。

実に6回繰り返された光景だった。

 

敵が一時的に兵を引いた合間を縫って最低限の休息を取り、再び格納庫へ足を運ぶと、背後から「疫病神」「死神」というひそひそ声が耳へ届く。

アスランは自嘲を漏らす。

頭では分かっているのだ。

アラスカ以降、ザフトに残っているのは元々二線級の部隊ばかりだ。

彼らの練度が低く、相対的に自分の腕が異常なだけなのだと。

乗っているのが最新鋭機であれば、無理やりにでも彼らを庇うことができただろう。

だが、鈍重なジンでは、アスランの反射速度に機体が追いつかない。

 

(だが……おれが役立たずの疫病神なのは、その通りだからな)

 

悩んでばかりで一歩も進めず、肝心な時に居ない、役に立たない。

アスランはいつもそうだ。

 

整備員に無言で頭を下げ、再び調整の甘い予備のジンを受け取る。

指揮官の匙投げか、アスランは特定の小隊に編入されず、独自の遊撃行動を取っていいという許可が出た。

気が楽といえば、ひどく楽だった。

 

戦場に出て敵機を撃ち、切り裂き、危なそうな味方を見つけては援護に走る。

無茶な機動で機体を壊し、整備班の白い目に耐えながらまた次の予備機へ乗り換える。

その終わりのない反復。

 

 

そんな中、ひどいノイズ混じりの広域通信が、戦場に展開する全ザフト機のチャンネルに強制受信された。

 

『──こちらレセップス。バルトフェルドだ』

砂漠の虎。

増援に安堵が浮かびかけたが、続く言葉がそれを一瞬で凍り付かせた。

 

『4時間前、ビクトリアに着いたが……残念なニュースだ。基地の自爆シークエンスが通知されていた。基地は、陥落している。繰り返す、基地は陥落している』

 

アスランは息を呑んだ。

信じられないというような沈黙の中、バルトフェルドの苦渋に満ちた声が続く。

 

『諸君らにこの事実が伝わっていないということは……アフリカ共同体が、我々の通信網を意図的に遮断したということだ。……我々に、もはや退路はない』

 

通信が切れる。

乾いた空笑いが響いた。

 

(本当に……俺は、どこまでいっても疫病神だな)

 

 


 

 

CE71/7/3

 

日付が変わる頃、バルトフェルドは、レセップスの私室でようやく短い休憩をとっていた。

元より補給の乏しい中、この状況では少し前までのようにコーヒーを楽しむことも出来ない。

ひどい味のインスタントを飲むぐらいなら、と白湯をカップに注いで啜る。

 

「アンディ、無理しちゃ駄目よ」

扉を開けて入ってきたアイシャが労わるように、バルトフェルドの肩に手を添える。

 

「仕方ないさ、この状況だ」

パートナーの腕に頭を乗せるようにしながら、バルトフェルドは目元を揉む。

今日は残存部隊をまとめ上げ、連合の目をそらすのに手一杯だった。

その合間に少しずつ整理していった情報を、脳内でまとめ上げる。

 

「どうやら、元より今ここにいる地球連合は先遣隊だったらしい」

 

「……あの戦力で?」

アイシャが慄いたように漏らす。

地球連合が運用しているダガーは、ジンどころかシグーの上という性能だ。

それが当初80機以上、さらにスエズから度々増援という大戦力だった。

 

「喜望峰回りで更にその3、4倍送りつけてきているらしい。まぁ、スエズは狭いしバレバレになるからね。それでアフリカ共同体を恫喝、基地周辺と移動ルートの譲渡とそれ以外の不干渉を条件に転がせたみたいだ」

元よりプラントを見限りつつあったアフリカ共同体だ。

勝てないと分かってザフトを守る訳もない。

 

バルトフェルドは苦笑しながら続ける。

「ついでに情報遮断させて、少数精鋭を空路で突っ込ませて、前線に戦力を抽出した基地を落とすと。ほとんどパナマの意趣返しだな」

 

「……でも、そうすると、本隊はどうするの? 脅しをかけて終わり、にしては遠い旅路でしょ?」

問いかけながらも、アイシャも薄々分かっているのだろう。

困った笑みをバルトフェルドへ向ける。

 

「まぁ、ビクトリアへの後詰でもあったんだろうが。基地が落ちたからには、カーペンタリアだろう」

ポリポリと頬を掻く。

 

このまま旧ケニアでなんとかしのぎ、当初増援だったカーペンタリアの部隊が来たら一緒に引き上げるつもりだったのだが。

地球連合の本隊が来る前に引き上げられるのか、という上に、引き上げたところでそこもまた戦場となる。

 

「こまったもんだねぇ……」

 

 




6章(6-6まで)は全て一日一回予約投稿しております。
7章に向けてモチベ上げたいので、よろしければご感想お願いいたします。
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