SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
ご注意下さい。
地上から見れば、まるで小さな太陽のようなロケットの燃焼光。
ザフトの地球撤退作戦──残存兵力を宇宙へ逃がすための
しかし、連合の到着前に出発できた第1波の時とは状況が違った。
基地を取り囲むように迫る地球連合の包囲網から、無数の対空ミサイルとビームの束が天へ向かって伸びる。
上空では、ジャスティスが文字通り八面六臂の働きで連合の三機の新型機を引き付けていた。
ビームの光が何度もまたたき、ミサイルを撃ち落としていく。
アスランも上空へ向けて必死にライフルで援護する。
だが、旧態然としたジンの76mm重突撃銃は、弾速も射程も足りない。
どれだけ狙いをつけたところで、虚空を引き裂くだけ。
やがて凶弾が、上昇していくHLVの一機を食い破る。
まるで落とした卵が弾けるように、数百の命が消え失せた。
CE71/7/29
「……っ!」
アスランは、止まった息に目を覚ました。
ぜぇはぁと大きく息を吸うが、目の奥に痛みを感じてぎゅっとつぶる。
網膜に焼き付いた光景が、数日経った今も消えない。
朝の食堂は、諦念と焦りが入り混じった空気が漂う。
カーペンタリア基地に地球連合が攻撃を開始した当初こそ、文字通り四六時中攻撃が続いたが、地上と空の包囲網が完全に閉じたこの数日は、ある程度周期的な攻撃が続いていた。
ビクトリアのマスドライバーの自爆が、ある程度ながら成功したとの報告は上がっている。
連合にしてみれば、宇宙にも行けない以上、無理攻めをしてまで基地を早期制圧する必要はなく、補給を絶ってこちらが干上がるのを待っているのだ。
バタバタと忙しなく人が行き交う中、アスランは長期保存用レーションを黙々と口に運んでいた。
味は全く感じないが、最低限カロリーが取れればそれで十分だ。
「よぉ、アスラン。相変わらず不味そうな顔して食ってんな」
オレンジ色の髪を無造作に掻き回すハイネが、軽いトレイをテーブルに乗せてガラガラと椅子を引いた。
その顔には色濃い疲労が刻まれているが、彼は努めて明るい声を出していた。
毎日展開される防衛戦では、いつもハイネが連合の新型を惹きつけている。
彼の駆るジャスティスを無傷で鹵獲するために、ヤケになって自爆等されないように、というのが地球連合の真綿で首を締める戦略の要因の1つである、と分析官は言う。
「……ハイネ。お疲れ様」
「おう。あの三馬鹿ども、どんな奴なのか知らないが、ジャスティス相手に全く怯みやしねえし、執拗に追い回してきやがる。流石の俺もメンタル削れるぜ」
愚痴をこぼしながらも、ハイネの視線はアスランの沈んだ横顔を気遣わしげに探っていた。
「……まぁ、なんだ。前回の第2波の件は……ショックだったよな」
ハイネは声を潜め、少しだけ真面目なトーンになった。
「目の前であんな花火を見せられりゃ、次乗るのが恐ろしくなるのも無理はねぇ。だが、割り切れ。明日の第3波は大丈夫だ」
「ハイネ……?」
自信を見せつけるようににやりと笑うハイネを、アスランは戸惑いがちに見つめた。
「今、HLVの外壁を突貫で改造しててな。俺のジャスティスが直接しがみついて、上昇しながら外側で護衛できるようにしてる。お前も知っている通り、カーペンタリア湾内の細工も順調に進んでいる」
ハイネは手を差し出して、バンとアスランの肩を叩いた。
「だから、お前は安心してHLVに乗ってくれ。俺が絶対に、宇宙へ連れてってやるからよ。本国に戻れば、今度は立て直しだ。忙しくなるぞ」
アスランを元気づけるように、そして自分自分に言い聞かせるように言いながら、ハイネはレーションをかき込む。
アスランは小さく苦笑した。
「そのセリフは、俺の方からだな。……絶対に守り切る、必ず宇宙へ行ってくれ。立て直しも大変だろうが、お前ならできるさ」
その言葉にハイネは一瞬困惑の表情を浮かべたが、すぐにハッとして立ち上がる。
椅子が音を立てて転がった。
「まさか、お前……決死隊に?」
信じられないものを見るようなハイネに、アスランは静かに頷く。
「今回のやつは、文字通りの決死隊だぞ! 本当にいいのか? ……お前ほどの腕の奴、今のザフトには絶対に必要だ」
冷静に言い聞かせるように語りかけるハイネに、憑き物が落ちたようにアスランは笑う。
「俺の腕が良いのは否定しないさ。……だからこそ、だ。ジャスティスは、NJCは、絶対に連合へ渡してはならない重要戦力だ。確実に宇宙へ上げる必要がある」
腕の見せ所だ、そう言ってアスランは自分の二の腕を叩く。
ハイネは周囲を軽く見回してから、小声で返す。
「俺だって自分の腕には自信がある。それでも……お前のほうが上だってことも、わかる。そんな事を言うなら、お前がジャスティスに乗れ。俺が守って見せる」
「今のザフトにとって、お前は
ハイネの言葉をアスランが遮る。
「パナマのマスドライバーを破壊し、ビクトリアの残存部隊を救い出した。最新の英雄であるお前を失えば、全軍の士気に致命的な影響が出る。……お前は、宇宙へ帰らなければならない」
アスランの冷徹なロジックに、ハイネは反論の言葉を失い、奥歯を噛み締めた。
「それに、俺はもう、うんざりしてるんだ。誰も守れない、疫病神みたいな自分に。だから、守らせてくれ。プラントの希望を」
CE71/7/30
『緊急発令……HLV発射までカウント1200。これより基地機能は制限される。各自、全力で任務に当たられたし。緊急発令……』
警報音と共に鳴り響くアナウンスを聞き流し、アスランはMSのコックピットに座り込んだ。
ふぅ、と息を吐く。
連合の部隊、特にハイネが三馬鹿と呼ぶ新型を相手にするには、火力と機動力が必要になる。
特にPS装甲相手にビームは必須だ。
ジンやシグーには荷が重い。
だから、倉庫に死蔵されていたこの機体を引っ張り出してきた。
もとより、技術検証の為に各地から集められたパーツで組まれた、研究用。
武装も各パーツ試験後に、内部データに残っていた設計データから整備員が戯れに組み上げたもの。
かてて加えて、操作系もザフトの標準とは大きく外れている。
決死隊の他の面々は、それを嫌って乗り慣れたバクゥやディンに乗り込んでいた。
だが、アスランにとっては問題にならない。
起動スイッチを押すと、モニタに文字が浮かぶ。
アスランは、皮肉げな笑みを浮かべてそれを見つめた。
General
Unilateral
Neuro-Link
Dispersive
Autonomic
Maneuver
「アスラン・ザラ、
機体バランスが悪く、鈍重な機体がゲートから飛び出る。
だが、バランスが悪いのは重力下のイージスも同じだ。
ちょっとした動きにもAMBACを効かせて、体勢を整える。
何度か飛び跳ねるようにして移動し、HLVにほど近いエネルギーコネクタに到着する。
整備員に無理を言って作ってもらったアダプタを介して、
ダガーにはPS装甲は採用されておらず、その面ではエネルギーに余裕はある。
だが、量産機であり内蔵バッテリーの容量そのものはイージスより小さい。
マルチプルアサルトストライカーでは背部に6個の増設バッテリーを備えるが、消耗を避けるに越したことはなかった。
HLVを仰ぎ見る。
(……絶対に、守り切る。──俺の命を燃やしてでも)
気炎を上げて操縦桿を握り込む。
カウント、500。
HLVのエンジンに火が入る。
熱反応を検知したのだろう。
連合の艦艇から放たれた対空ミサイルが次々と高速で飛来する。
前方上空に展開する決死隊のディンが迎撃を試みるが、数も破壊力も足りない。
脆いHLVでは一撃一撃が致命傷になりかねないそれを、
「……邪魔だ」
アグニの薙ぎ払いで、まとめて消し飛ばす。
優先順位は、大型のものや高速のもの。
うち漏らしを、基地の自動防衛システムとハイネが迎撃する。
最終防衛線として、そしてHLVの内部ペイロードを少しでも残存兵に空けるために、ジャスティスはHLVの外部に急造された風防の下グリップを握っている。
崩れたバランスは、ジャスティスの推力で無理やり是正する形だ。
離れてもジャスティスなら初期燃焼中は追いつけないこともないだろうが、余計なリスクは負わせるべきではない。
アスランの集中力が、より高みへ引き上げられていく。
いつしか断続的な薙ぎ払い射撃は、すべてのミサイルを迎撃し始める。
カウント、300。
飛び込んでくるスピアヘッドやスカイグラスパーを、ディンの美しい編隊が迎撃する。
侵入してきたダガーを、統率されたバクゥの群れが打ち払う。
若い命を助けようと集い、地上を死地と見定めた決死隊のレベルは、決して低くない。
カウント、200。
発射管を空にしたミサイルの波が落ち着く。
上空からビームが降り注ぎ、バクゥが撃破される。
空中にぶちまけられた花火が、ディンの編隊を塗りつぶしていく。
カウント、180。
アスランの眼の前を、3つの影が通り過ぎ去ろうとする。
「させない!」
アグニの光が、高速で飛来する
そのまま薙ぎ払った光が、ふわりと浮く
反撃に向かってきた何条ものビームを、軽やかにステップして交わす。
重いアグニをパージして、身軽に。
そしてオープンチャンネルへ通信を繋いだ。
「だれかと思えば、いつもいつも
MSの自由になった左腕を、これみよがしに広げて見せる。
『あァ!?』
『なんだとテメェ、ぶっ殺してやるッ!!』
『うざいな』
(……釣れた!)
再び放たれたいくつもの攻撃を、飛び上がって避ける。
ハイネからもらった戦闘ログから垣間見える、ジャスティスに対する執着心と、それを邪魔した相手への攻撃性。
言い換えれば、集中力の裏返しの視野の狭さと、子供の癇癪じみた凶暴性。
軍人らしからぬ3機の思考を読み取り、HLVやジャスティスに攻撃を向かわせないために行った不慣れな挑発は、しっかりと効果を上げた。
右手のビームライフルを左に持ち替え、右手に
「……ここまでくれば、もう迷うこともない。──俺が、必ず、守りきる!!」
アスランの脳裏で何かが弾ける。
クリアになった視界は、敵機の動きを完璧に予想する。
エールで飛び上がり、大鎌を振りかぶる
『な!』
そこから更にジャンプ。
肩のガンランチャーが火を吹き、爆炎の中で左腕に固定されていた砲塔付きの盾が脱落する。
『馬鹿な?!』
そのままワイヤーアクションのようにアンカーを軸に一回転、
『何だそりゃ?!』
背部増設バッテリーの一つがすべての電力を吐き出し、ガゴン、と音を立てて落ちた。
カウント、150。
「さぁ、力の差がわかったなら、とっとと逃げろ。今なら見逃してやる」
そう挑発を繰り返す。
とはいえ今の攻撃は相手が油断していたからだ。
本気になった相手にどう戦うか。
『テメェ……! 言わせておけば調子に乗りやがって! 蜂の巣にしてやるぜぇっ!』
声とともにスキュラを筆頭とした特大の弾幕が広がる。
アスランはエールの推力を活かし、弧を描くように全速でホバーを続けてそれを回避。
『滅殺!』
その軌道を先回りするように、人型に変形した敵機から鉄球が横薙ぎに振り回される。
避けきれないが、無理に抵抗もしない。
弾き飛ばされる方向にスラスターを吹かし、飛び上がりながら衝撃を逃がす。
『……痛いじゃん。壊れちゃうだろ!』
先ほど足場にされた怒りがこもった声で、
パンツァーアイゼンの基部である、アンチビームシールドを掲げてそのままつっこむ。
焼けたシールドと焦げた腕。
だが、まだ動く。
勢いのままに斬艦刀を突き出す。
慌てたように、
パッと右手を開いて、左肩の
行方も見ずに急降下、とり落とした斬艦刀に追いつき、再び右手に掴む。
無防備な頭上から狙おうとした
体勢を崩し、火線はあらぬ方向を向く。
その合間に着地。
ガゴン。
バッテリーがもう一つ落ちる。
カウント、120。
『なんだこいつ?! おかしいよ!』
『こんな奴、今までいたか?!』
『うぜえ。マジで』
初めてアスランと真正面で、初めてストライカーパックの変幻自在な攻撃を浴びる三機。
一方で、この三人を相手取る様シミュレーションを繰り返したアスランでは事前準備が違う。
近接戦闘において、初見殺しほど厄介なものはないのだ。
暫し睨み合う。
時間稼ぎがしたいアスランとしては好都合だ。
『……ち、盟主サマがウルセェ。とっとと行くぞオラァ!』
本部からハッパが入ったのか、アスランを無視してHLVへ向かおうとする三機。
だが、そうさせる訳にも行かない。
左手のビームライフルを連射。
敢えて敵機を狙わず、三機の進行方向に線を引くように地面へ銃痕を残す。
「どうした? 逃げるのか? 残念だが、そっちは行き止まりだぞ」
一瞬な沈黙。
『ふざけんなオマエ、オマエ、オマエェェ!』
ライフルを放つがロールして避けられる。
ガゴン。
増設バッテリーは残り半分。
カウント、90。
サイドステップして左へ避け、敵機の進行方向へ斬艦刀を置き、振り抜こうとする。
『分かってんだよ!』
鉤爪が開き、実体剣部分を掴んでダガーの右手からむしり取る。
『消えろや!』
更に左に
敵機へ肩からタックルするようにして直撃を避けるが、ライフルの銃身が、すぐ左を通り抜ける光の中へ消え去る。
「くっ」
『終わりだよ』
駆け抜ける機体と入れ替わるようにして、上空から大鎌が降ってくる。
「ォォオ!」
とっさに、エールのベクターノズルを最大俯角へ。
上体そらしの姿勢から、いびつなバランスと有り余る推力が、倒れこむ機体を縦に半回転させる。
そのまま
『……ウソだろ?』
不格好に肩から地面へ落下するが、敵機は信じられないモノを見たように唖然と固まっている。
その隙に何とか体勢を取り直して、距離をとる。
一気に推力を消費したため、空になったバッテリーが、立て続けに2つ脱落する。
カウント、60。
突如、硬い岩盤を奥底から砕くような破裂音が連続し、敵の3機は思わず周囲を見回した。
カーペンタリア湾のいたるところに沈められた、
それらには、ありったけの爆薬やバッテリーといった爆発物が詰め込まれている。
有線信号によって順番に起爆されたそれらは、浅い湾内の海水を次々と気化させ、未曾有の水蒸気爆発を連続させる。
サウナのような超高温の水蒸気のベールが湾内を覆い尽くし、ビームの威力を減衰させミサイルの誘導を完全に不可能にする。
海底すら露出した湾内には、それを埋めるように外海から大量の海水が流れ込む。
急激な海面変動の大渦が、沖合に布陣する地球連合の艦隊を容赦なく飲み込んでいく。
HLVの発射を完遂させるため、カーペンタリア基地司令部が考え出した環境破壊も厭わぬ最終手段。
カウント、30。
猛烈な噴射炎と共に、HLVの巨体が地上から浮き上がる。
その瞬間、アスランは敵機に完全に背を向け、白煙に包まれた大地をまっすぐに走らせた。
バッテリーの限界が近く、もはやエールで飛ぶことすらできない。
慌てたように放たれるビームの束が、エールパックに直撃する。
誘爆前に切り離し。
構わず2本の足で走り続ける。
更に追撃。
極太のスキュラが、無防備な両足を根元から消し飛ばす。
腕を振り回して無理やり姿勢を変え、機体は無様に背中から地面に転がる。
──だが、パージしておいたアグニに手が届く。
カウント、0。
両足を失い、仰向けに転がった状態で無理やりアグニを構えたところで、敵機に射線を合わせることなど出来ない。
それでも十分だった。
メインカメラの画角ギリギリで、水蒸気のベールをかいくぐって上昇していくHLVとジャスティスの姿が写り込む。
連合の艦隊から放たれた無誘導ロケットの群れが、それに追いすがろうとする。
「……勝ったぞ」
枯渇寸前の本体バッテリーも、基地動力に接続されたままのアグニの引き金を引く程度は出来る。
不格好な姿勢で、長大な砲身を振り回す。
弧を描く軌道は、全てのロケットを焼き尽くした。
HLVには、傷一つついていない。
HLVが、一気に加速して雲を突き破って行く。
もはや地上のいかなる攻撃も、その背中には届かない。
カウント、マイナス10。
光をたなびかせて、HLVが宇宙へ向かう。
HLVが穴をあけた雲の切れ間から光が差し込み、水蒸気のベールに大きな虹を描いた。
それを、地面に横たわったままの機体から見上げる。
(……綺麗だな)
あまりにも美しい光景。
アスランはそれを見上げ、小さく微笑んだ。
直後。
湾内で引き起こされた未曾有の水蒸気爆発の揺り返しが、数十メートルの巨大な人工津波となって、全てを薙ぎ払った。
戦闘描写長い、長すぎない?
アンケート設置しますのでご意見下さい。
・ダガー鹵獲仕様+マルチプルアサルトストライカー
CE71春より地球連合が大量に配備を始めたダガーの戦力分析のため、ザフト地上最大の拠点であるカーペンタリア基地で組み上げられた機体。
撃破した機体から手足やストライカーパックをパーツ単位で回収し、状態の良いものの寄せ集め。
標準のソード、エール、ランチャー各パック装備での性能評価後、機体側の認識ドライバで全部載せがあることを知った整備員が大笑いで組み上げた。
当然PS装甲はなく、誤認防止のため胴体のカラーリングが赤に塗り替えられている。
性能評価後はアグレッサー用として残されたものの、アラスカ以降はその余裕もなく倉庫に放置されていた。
バトル描写は
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長い(疲れる)
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クドい(テンポが悪い)
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こんなもん(現状でOK)