SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

3 / 59
話数管理を見直しています。第1話(下)→1-2


1-2

トールがモルゲンレーテに駆け込む少し前、キラは銃撃戦に巻き込まれた末にMSのコックピットに滑り込んでいた。

 

(アスラン、なんで……)

つい先程襲いかかってきたザフト兵のことを考えて、キラの脳裏に雲が渦巻く。

 

アスラン・ザラ、月面都市コペルニクスでともに育った親友。

言葉足らずだが面倒見が良くて、根のどんくさいキラはさんざん面倒を見てもらった。

 

確かに彼はプラントに行くと言っていたが、優しい彼がザフトに入っているなんて露ほどにも思わなかった。

 

一緒にMSに乗り込む羽目になった地球連合軍らしい女性が鋭く叫ぶ。

「後ろに乗って! ……私だって、動かすぐらいは……」

 

混乱の極地にあるキラは、その言葉にハッとして問い返す。

今は悩んでいる余裕がない。

 

「大丈夫なんですか?! ストライクはまだ未調整だったはずです、まともに動けるとは思えません!」

「キミ、なんでそれを……! いえ、ここはモルゲンレーテだったわね」

銃痕の苦痛に顔を歪めながらも、視線を背後のキラに向けるマリュー。

 

 

一方キラはモニタを眺める。

 

General

Unilateral

Neuro-Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

 

 

 

(ガンダム……。まさか本当に、これに触ることになるなんて)

トールに話を聞いたとき、キラは恐怖を覚えはしたがこんなことになるとは思わなかった。

調べ始めたあとも、8割ぐらいはギーク的な興味本位。

 

それでも、ザフトが来るかも知れないという危機感は持っていた。

それが現実になっている。

 

 

「とりあえず、PS装甲をONにしてください。あとの調整は、僕がします。カトウラボで動作解析をしていました」

「……ごめんなさい。頼むわ」

 

キラの言葉に、マリューは大人しく従う。

モルゲンレーテのカトウラボが、G兵器のOS開発に関わっていたのはマリューも知っている。

マリューはG兵器開発要員だが、ハード側の人間だ。

操作ならまだしも調整と言われても用語の意味すらよくわからない。

 

指示に従ってPS装甲をONにして後ろに下がる。

灰色だったストライクの装甲がトリコロールに染まる。

 

 

PS装甲をONにしてしまえば、工場の崩落や火災もそこまで気にしなくていい。

しかしザフトのMSが暴れている現状、余裕はない。

キラは急いでOSの書き換えに挑んだ。

 

 

(ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定、だめか。なら疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結、行けるな)

ニュートラルリンケージ・ネットワーク再構築、メタ運動野パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、伝達関数及びコリオリ偏差を修正、運動ルーチン接続。

 

次々とプログラムを書き換えていく。

それは並のコーディネーターでは及びもつかない速度だ。

 

額の汗を拭う。

「OK、とりあえず動かせるようにはしました。武装は? ストライカーパックはどこにありますか?」

「この短時間で……?! いえ、いいわ。ランチャーストライカーならすぐ外のトレーラーに……」

「コロニー内でランチャーなんて正気ですか?! エールはどこです、他にライフルとか」

 

キラの指摘にマリューの言葉が詰まる。

今更ながらにどこまで情報が漏れているのか不安になった。

キラの有能さに対しても。

 

「……その通りね。エールストライカーは予備機が搬出途中で道路上にあるはず、壊されてなければだけど。ライフルは搬出済みだけど、バズーカならそこに予備が。……調整ありがとう、操縦変わるわ」

身を乗り出すマリューをキラは押しとどめる。

無理矢理動かしているから、今のストライクの操縦難易度は高すぎる。

 

けが人を矢面に立たせるのも気が引けた。

 

「……今この機体はマニュアルで動かしています。オートメーション全て落としてますから、僕がこのまま操縦します。まずは、ヘリオポリスからザフトを追い払わないと!」

そう言ってキラは機体を立ち上がらせる。

 

固定ボルトや接続されていたケーブルが、バシバシと音を立ててちぎれ飛んだ。

 

 

 

 

工場外に出たキラが周囲を確認すると、友人たちが近くにいるのが見えた。

安堵にふっと息をつく。

 

(良かった、みんなそろってる……。思ったよりコロニー内の被害も少ない、このままザフトを追い払うことができれば……)

ここを戦場にしてはいけない。

 

 

意識を操縦に戻したキラは、マリューの案内により擱座したトレーラーに向かう。

目当てのコンテナのすぐ隣には、バスターがトレーラーに横たわったままだった。

 

「どうやら、X102(デュエル)X207(ブリッツ)は無いみたいね……。コロニー内に侵入していたジンは見た限り2機、それぞれが持ち去ったのかも」

 

マリューの声は低い。すべてではないにしろ、先ほどのX303(イージス)を含めG兵器の最新技術を奪われるのは大きな打撃だ。

 

一方でキラにとっては僥倖だった。

ヘリオポリスの被害が少ないのは、早々にジンが去ったおかげだろう。

 

「エールストライカーは装着に難があるわ。私がバスターに移ってバックパックを支えるから……」

 

 

「いえ、構いません。もう時間もないみたいです、なんとかします」

鋭い声を上げて、キラはモニタの端に映った機影を拡大する。

 

 

ジンだ、2機いる。

バスターの回収に来たのだろう。

このまま戦闘になれば、直ぐ近くにいる友人達が巻き込まれるかも知れない。

 

 

牽制にバズーカを放つが、距離がこれだけあるとバスーカでは容易に避けられてしまう。

それも1機の軌道が歪み、2機の間が開く。

 

 

スペースが空けば十分だ。

 

 

キラは掴んだエールストライカーのバックパックを、チェストパスの要領でスピンしないように空中に放り投げる。

 

唖然とするマリューを他所に、コロニー上空に浮遊したバックパックに向けてジャンプ、背中からぶつかるようにしてバックパックを装着した。

 

 

 

そのままエールストライカーの加速力でジンの1機に急接近、近距離でバズーカを撃ち込む。

爆散するジン。

 

 

怒ったようにもう1機のジンが、こちらを突き飛ばそうとでもするかのように突進しながらライフルを連射する。

正確な射撃だ。しかし実体弾はPS装甲に無力。

 

ストライクのスペックを信じて、弾幕を気にせず接近するキラ。

ジンはブレードを引き抜こうとするが、ストライクが加速力を載せた蹴りを放つほうが早かった。

 

姿勢を崩すジンにトドメのバズーカが炸裂し、再び爆発が起きる。

 

 

もう周りに敵はいない。

耳の奥に、自分の心臓の音だけが残る。

 

「……これでよし。軍人さん、この後は……。ってアレ?」

 

息をついたキラが背後を見ると、負傷中に高加速Gを受けたマリューは気絶していた。

 

 

 

 

先ほどの場所に戻ると、友人達はまだそこにいた。

PS装甲をオフにして膝をつく。

コクピットを開けて姿を現すと、友人達は恐る恐る近づいてきた。

 

備え付けのリフトで降りると、トールが走り寄ってキラを抱きあげた。

 

「キラァ!! 生きてて良かった……!」

 

「ちょ、トール?!」

トールの勢いに思わず声が漏れる。

涙ぐむ顔を見て、余計に言葉が出てこない。

 

 

 

「……トール、あんた……。私相手でもそこまで盛り上がらなかったのに……。婚約者をないがしろにしすぎじゃない?」

トールはバッとキラを離すと、「婚約解消すべきかしら?」とぼやくミリアリアに慌てて釈明している。

相変わらずラブラブだ。

 

 

「キラ、おまえいつの間にあんなモンに乗ったんだ? お疲れ」

サイが目を見開いたまま歩み寄る。

差し出されたボトルは、指差した先を見るとトールの差し入れらしい。

 

 

「サイ……。ありがと。いろいろ……あってさ」

ボトルを受け取って一口飲む。

カラカラに渇いた喉を、生ぬるい水がなでた。

 

 

「でもさ、ちょっとスカッとしたよ、キラがMS倒してくれて。あいつら何考えて中立のヘリオポリスで暴れてるんだ?」

ぼやき続けるカズイを余所に、キラの背筋が凍った。

 

(……そうだ。ジンを二機倒した。バズーカで、疑いの余地がないほどに。だから、パイロットは……)

指先を冷たく感じる。寒風にさらされたようにこわばり、感覚がない。

 

しかし、トリガーを引いたのはこの指だ。

まちがいなく自分のものだ。

 

わなわなと震えるキラに戸惑うカズイ。

そこミリアリアを拝み倒したトールが戻ってきた。

今度はキラの肩を抱く。

 

 

「キラ、本当にありがとな。お前がいなかったら、俺たち、今ここにいなかった。……巻き込んじゃって、ゴメンな」

 

 

スッと体の震えが収まる。

(なにがあったって、みんなを守れたんだ。それで良かったじゃないか)

キラは弱々と笑いかけた。

 

「ううん……。みんなが無事で、良かった」

それを聞いたトールの表情は、なぜだか泣きそうだった。

 

 

 

その後キラは、気絶した女性軍人をストライクから下ろすことを願い出た。

ミリアリアの厳しい視線があったので、トールの持つ防災キットから毛布を取り出し、担架のようにして公園のベンチの上に乗せる。

 

手当をかって出たミリアリアの処置が一段落すると、皆疲れ果てたように地面に腰を下ろした。

コロニーのバランスが崩れているためか、かすかな振動を感じる。

 

 

カズイがハーッと大きく息を吐いた。

「いつまでこんな事になってるんだか……。ホント勘弁してほしいぜ。でもさキラ、お前、なんであのMS動かせたの? アレって多分連合のだろ?」

うんざりという態度を隠そうともせずに問いかけるカズイに、キラの言葉が詰まる。

 

なぜ動かせたか。キラが高い能力を持つコーディネーターであり、機体の情報を知ってもいたからだ。

なぜ知っていたか。カトウ教授の端末に不正にアクセスしたからだ。

どちらも、はっきり言うのは憚られた。

 

「あー、それについては俺から」

手を上げたトールは立ち上がり、ズボンの砂を払う。

 

「実はさ、カトウ教授はモルゲンレーテ共々、連合のMS開発に協力してたの。特にOSとかの機体操縦関係。それでもってキラが教授から変な課題渡されてただろ? ソレがその関係。終いにゃ納期が迫ってるからって、キラに細かいデータも渡して丸投げみたいになっちゃった。俺もたまたまその場にいたから、キラの補助を仰せつかったってわけ。……だから機体のデータも持ってるし、操縦系もなんとなくは分かる。まぁ、実際に操縦できたのはキラが優秀だから、ってのはあるだろうけど」

当たり前の事を言うように、堂々と嘘をつくトール。

 

 

キラは呆気にとられたが、小さくアイコンタクトしてきたトールに乗っかることにした。

 

「そ、そうそう。いやー、ほんとに困っちゃったよ。極秘開発だから周りに言うな! って言う割に丸投げしてくるし」

多少棒読みになったかもしれないが、周りは気づかなかったようだ。

心のなかでだけ、小さくため息を吐く。

 

「本当に? カトウ教授そんなことしてたのかよ……。全く気が付かなかった」

年上のサイは当然カトウ教授と一番付き合いが長いが、驚きの声を上げた。

カトウ教授も隠すつもりはあったらしい。

 

(逆にトールはよく気づいたよね……? モルゲンレーテで噂になってたと言ってたけど)

MSという巨大な機械を5つも組み上げていたのだから、全く情報が漏れないということも無いのだろうが、キラは不思議に思った。

 

 

「それじゃあ、ザフトはその極秘開発されたっていうMSを狙ってたってこと? アレみたいな」

ミリアリアがストライクを指差す。

主電源を落とした灰色のストライクは、今は静かに佇むだけだ。

 

「多分、そうだと思う。あのガンダムは、機動性はザフトのジンの数倍、小型のビーム兵器を持っていて火力も数倍、更にPS装甲で実弾は効かないって代物だったから」

何年も前から開発を進めていたザフトのMSを、参考があるとはいえ遥かに凌駕する性能を持っている。

さすがは地球連合と表現すべきだろう。

 

「へー、ガンダムっていうんだ」

「いや、起動時のOS表示がそんなアクロニムになってるだけ。機体名はストライクだね」

ミリアリアの頷きをキラは手を振って否定した。

ペットネームをつけたようで微妙に恥ずかしい。

だが、ガンダムという呼び名は不思議に馴染んでいる気がした。

 

 

「……そんでさ、この後なんだけど」

立ち上がったままだったトールが頭を下げ、少し小声で話す。

 

 

「シェルター、粗方閉まっちゃっただろ? ここから探すのも大変だし、俺は地球連合に保護を求めるべきだと思う。もらったデータによれば、戦艦がドックにあるはずなんだ。俺とキラは民間協力者ってことになると思うから、扱いはそう悪くないと思う。……どう?」

 

皆で話し合い、結局そうすることに決めた。

ザフトがいなくなるまで何処かに隠れておくか、空いているシェルターを探し回る、という案をカズイが提案したが、「攻撃でヘリオポリスが壊れたらどうする? ザフトの連中、もう何でもやるつもりだと思うぜ」とトールが燃え盛るビルを指差した。

貴重なはずの酸素を消耗する炎に、誰も反論できなかった。

 

 

 

 

目を覚ましたマリューとキラたちは互いに自己紹介をし、戸惑いながらも学生たちの保護要求を受け入れた。

 

マリューにとって、助けられた恩義はあるが機密保持も必要な事項。

向こうから言い出してくれたのは、渡りに船だった。

 

保護を求めるため、ストライクの通信装置でアークエンジェルに連絡を取ることにした。

一方でマリューの要望に応えるため、バスターや部品の乗ったトレーラーはサイとカズイ、トールが回収にいくことになった。

 

 

キラはアークエンジェルに対して通信を呼びかけるが、応答がない。

落ち着かない気持ちを抱えてチャンネルを切り替えながら試していると、新たなMSがヘリオポリスに侵入したのが見えた。

更に1機、オレンジのMAが続く。

 

「シグー……! 指揮官用の高性能機よ! キラくん、MAの援護をお願い、あちらは連合のメビウス・ゼロ!」

 

「わかりました、やってみます」

 

エールのバッテリーはまだ十分残っている。

PS装甲をONにすると、ストライクが再びトリコロールに染まる。

 

バズーカは4連装で、すでに2発撃ってしまっている。

MAの援護になればとバズーカを連射するが、シグーは悠々と迎撃する。

それでも、その間にMAは態勢を立て直すことができたようだ。

こちらに向かってくるシグーを撹乱してくれている。

 

ストライクも空中へ飛び上がり、イーゲルシュテルンを連射しながら加速して近づくが、ひらりと避けられてしまう。

「くぅ……!」

キラもそこまでMSの操縦に慣れているわけでもない。

先程のジン撃破も、結局は真っすぐ行ってバズーカを放っただけだ。

 

弾切れしたバズーカを放り投げるが、当然回避される。

一瞬カメラを動かしたシグーが、全く違う方向へ向かう。

 

(まずい! バスターのことが気取られた!!)

強奪を免れたバスターは、トールが運転するトレーラーによって移動中だ。

ザフトからすればストライクもバスターも一緒、そしてパイロットがおらずPS装甲もオフのバスターは与し易い相手だ。

 

シグーのライフルが直撃すれば、トレーラーごと爆散するだろう。

トールとともに。

 

「なんとか気を逸らさないと!!」

 

キラの集中力が極限に達しようとした瞬間、破砕音が聞こえてアークエンジェルがコロニー内に躍り出る。

 

その存在感に思考が遮られ、一瞬の空白が訪れる。

同時にシグーから、トレーラーにライフルが放たれた。

 

「ああっ?!」

悲鳴を上げるキラだが、アークエンジェルの大きく広がった羽が、シグーからトレーラーへの射線を切ってくれた。

 

 

続けてアークエンジェルから放たれたミサイルが、シグーに向かっていく。

シグーは大きく回り込んでヘリオポリスのシャフトを盾にしようとするが、MAの射撃がそれを阻む。

 

それでもシグーはライフルとシールドと一体化したバルカンによりミサイルを撃ち落とす。

流石に不利と悟ったのか、シグーは踵を返してゲートに向かった。

 

 

(危なかったけど……追い返せた)

キラは大きく安堵のため息を付いた。

 

 

アークエンジェルやMAも余力が無いようで深追いはしないようだ。

白い巨体が、静かに人口の大地へと足を下ろした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。