SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
お可愛いこと。
CE71/8/7
モニタに映った
エアコンの効いた自室は快適だが、机の上に積み上げられた生物や数学、さらに化学の参考書は、どうにも彼女には難解だ。
ヘリオポリスの工業カレッジでは、まだ専攻も決めず教養学科をこなしていただけだった。
それも当然で、疎開先としてヘリオポリスを父が選んだだけで、何年通うかも決まっていなかったのだ。
戦争が終われば地球へ帰って別のカレッジ編入することも視野に入れ、目の前の単位を取る。
授業内容に興味を持ったことなど一度もなく、ただ何となく日常を楽しんでいたあの頃。
しかし戦闘に巻き込まれ、アークエンジェルという戦艦に乗って宇宙を彷徨うことになった。
迎えに来てくれた父を失いかけた時は、本当に恐ろしかった。
そして、ヘリオポリスでの友人の一人は、未だに連絡がつかない。
サイがメールで送ってくれたオーブ国内のリストでも、数カ月経っても行方不明のままだ。
「ミーシャ……」
一緒に選んだ小物を見る。
彼女との縁を残すものは、ヘリオポリス崩壊時に身に着けていたこれだけだ。
自分に何かが出来たとは思えない。
あんな
けれど生き残ったからには、人を助ける手助けがしたい。
今は心配性の父に言われて休学中だが、近々薬学や看護の学科のあるカレッジに編入することを考えていた。
BGM代わりに流していた壁掛けテレビから、聞き慣れた単語が耳に飛び込んでくる。
『──ユーラシア連邦の離脱に端を発する中立国同盟の急拡大は、今や世界的な安全保障の枠組みを根底から揺るがす事態となっています。大西洋連邦政府は、オーブを中心とする彼らの無責任な態度が、結果的にザフトに利し、世界にさらなる混乱をもたらしていると強く非難し──』
大西洋連邦の首都であるワシントンでは、連日このようにオーブや中立国同盟を非難する報道が続いている。
フレイはテレビから目を逸らし、手元の端末でメールソフトを立ち上げた。
画面には、数日前に届いたサイからのメールの履歴が残っている。
数ヶ月前にはなるが、ミリアリアやキラからも。
(みんな、元気にしてるかな……)
「さてと……今日の分はこれくらいにしよっかな」
凝り固まった肩をぐるぐると回しながら、フレイは壁に掛けられたカレンダーに目を向けた。
地球連合の情勢が激変したことで、外務次官である父はずっと政府中枢の対応に追われ、ここ数ヶ月ろくに帰宅できていない。
だが昨夜の短い通話で、明日の夜には久しぶりに家で食事ができそうだと、疲労の中にも嬉しそうな声で語っていた。
明日は、勉強を一日休みにして、地元の友人と気晴らしに出かける約束をしている。
どこに行くかも決めていないが、早めに切り上げないといけない。
(ウィートンまで行ってみるかな)
モンゴメリー郡のそこは、旧世紀から続く大きなショッピングモールがあるのだ。
ずっと働き詰めの父に、何か気の利いたプレゼントを買おう。
新しいネクタイか、それとも上質な万年筆か。
父の喜ぶ顔を想像しながら、フレイは端末を閉じて、静かにベッドへと潜り込んだ。
CE71/8/8
フリーダムをロールさせながら突っ込ませる。
両手に構えたサーベルで、正面に立ちふさがっていたジンの手足をバラバラにする。
アークエンジェルと、増強戦力としてハルバートンの護衛から振り替えられたクサナギが、L4のその宙域にたどり着いてすぐだった。
無警告で攻撃してきたザフトのMSは、こちらが逃げる素振りを見せても襲いかかってきた。
これは、と判断したラクスは、副理事の権限でCOMPASSの強行偵察を指示。
クサナギのM1アストレイ部隊が艦の直援に残る中、フリーダムとストライクが飛び出してザフトの施設を視界に収めようとしていた。
『坊主! スマンがそろそろバッテリー切れだ。直ぐ戻るから突っ込みすぎるなよ!』
「わかりました! 大尉もお気をつけて!」
敵陣侵入中へパックを射出ということも考えられず、定期的にムウは帰る必要があった。
エリアさえ保持しておけば、オオトリストライカーの推力ならすぐ戻ってこれる。
会話をしながらもマルチロックオンシステムを立ち上げ、
手足を撃ち抜かれたジンやシグーが、慌てたように引き返していく。
その先には、ここからではゴルフボールほどの大きさの施設。
(思ったよりも、数が少ない……?)
問答無用で襲いかかってきた割りには、ザフトの戦力はそれほどでもなかった。
戦略兵器の護衛と思えば、もっと戦力があるはずだ。
やはり囮か、そう思ったキラの視界に、新たに近づいてきた機体が映る。
システムが照合した型番は、ZGMF-X09A。
「ジャスティス!!」
そう叫んで、放たれた3条のビームを躱す。
こちらも
『よお、フリーダム。お前に恨みは……無いこともないか。アイツがああなった理由は、その機体を奪われたことだからな』
ジャスティスのパイロットは、オープンチャンネルで力なくそう語りかけながらも、ライフルを連射。
更に機体を側転させながら、両肩の
ビームの土砂降りがフリーダムに襲いかかる。
「くッ!」
キラは機体を上に向け、飛び上がるようにして回避。そのまま弧を描くようにしてジャスティスの背後に回り込もうとする。
『甘いぜ』
ジャスティスの背後から
リフター側が放つ2門のビーム砲塔と、機体のビームライフルが、十字砲火となってフリーダムを襲う。
キラは覚悟を決めて、ビームライフルをかいくぐりながらジャスティスへ突っ込む。
サーベルを引き抜くと、鏡合わせのようにジャスティスもサーベルを抜く。
すれ違いざま、お互いのサーベルは空を切った。
「やめてください! 僕らはただ、殺戮を止めたいだけだ!」
機体の背後を振り返るようにして、オープンチャンネルでキラは叫ぶ。
相手の答えは冷ややかだった。
『そりゃ残念だったな。ココにあるのは
声とともに、リフターと合体したジャスティスはライフルを撃ちながら後ろを追ってくる。
「囮……!」
やはり危惧は正しかった。
そう思いながら、キラはウイングバインダーを全力展開。
完璧に慣性を制御して、その場でクルリと反転。
再び交差するようにして、サーベルで斬りつける。
(浅い……!)
腕を狙った一撃は、肩の装甲を削っただけだ。
そう認識するより早く、蹴り上げられた足をなんとか躱す。
そのままジグザグに進んで距離を取った。
『まぁ、わざわざ
ライフルを撃ちながら今度はジャスティスが接近してくる。
キラは歯噛みして苦悶の表情を浮かべる。
重要戦力であるジャスティスの行方が、疑うCOMPASSの面々を行動に駆り立ててしまった。
ジャスティスからはため息が聞こえる。
『議長はもう、通常戦力はアテにしていないらしい。新たな英雄に祭り上げられた俺も、
連射を続けるフリーダムの火線から、泳ぐようにジャスティスは逃れる。
「貴方は、それでいいんですか?!」
オーバーヒートした砲身をしまうと、入れ替わるようにジャスティスからビームの雨。
蝶のようにひらひらと動いて逃れる。
『いいわけ無いだろう?! 俺に希望を託した奴も、これじゃ無駄死にだ。……こんなことなら、やっぱり代わりゃ良かった! ホント……割り切れねぇよなッ!』
僅かに嗚咽の混じった声で叫びながら、ジャスティスはリフターを突っ込ませてくる。
ウイングバインダーで慣性制御し、真下へ沈み込むようにして回避。
だが、その死角から投げつけられた二つの
(上手い……!)
キラは咄嗟にシールドで右からの刃を弾き、機体を捻って左からの刃を躱す。
体勢が崩れたその一瞬の隙を突いて、ジャスティスがビームライフルを連射しながら肉薄してきた。
「くっ……!」
キラもビームライフルで応戦するが、どうしても
相手のコックピットを狙えないフリーダムの射撃の甘さを、ジャスティスの捨て身の突撃が容易くすり抜けてくる。
『ォォオオオッ!』
サーベルを構えて突っ込んできたジャスティスを、蹴り上げて跳ね飛ばし、右脚を切り飛ばす。
距離を取ろうとするところにレールガン。
衝撃でシールドが吹き飛んでいった。
『まだまだァッ!』
戻ってきたリフターと合体して推進力を補ったジャスティスは、左腕にサーベルを
終わらない相手の闘志に、キラはシールドでその重い一撃を受け止めることしかできない。
「それだけじゃない! 大量破壊兵器は、必ず民間人も巻き込む! ユニウスセブンの悲劇を知った貴方達が、なんで!!」
至近距離で放ったプラズマ砲が、ジャスティスの右腕を吹き飛ばした。
僅かに距離が空く。
『それでも……俺は、ザフトの軍人だ!!』
サーベルを前方に回転させながら突進してくる。
フリーダムのビームが弾かれる中、合間を縫って頭部を吹き飛ばすが、止まらない。
突き出されたサーベルが、フリーダムのコックピットに届く──寸前、キラは再び機体を急降下させた。
激しいノイズと共にメインモニターがブラックアウトし、直後に解像度の荒いサブカメラの映像へと切り替わる。
サーベルが貫いたのは、フリーダムの頭部だけだ。
「この……!」
突き出された左腕を掴み取り、ひねりあげるように押さえつけて激しく蹴りつける。
通信越しに機体がシェイクされるうめき声が聞こえて、機体は動きを止めた。
「……投降してください」
キラの呼びかけに、ジャスティスはだらりと力を抜いた。
『わりぃなアスラン……俺じゃ、お前の代わりは……』
ジャスティスのつぶやきに、キラが耳を奪われた、まさにその時だった。
遙か遠くからでも見える放電光と共に、地球を囲うデブリ帯が次々と爆発してプラズマ化し、不可視の直線を突き進んだ。
暴力的な軌跡は、瞬く間に青い地球へ突き刺さり、オゾン層を発光させた。
ヤキン・ドゥーエの管制室。
新たな機能が追加されたそこには、興奮に満ちた沈黙が漂っていた。
位置は隠せても、存在がバレているのであれば、隠し玉としての効果は限定的だからだ。
代りにPS装甲も重要パートだけの採用として、大幅に工期を圧縮した。
当初の計画であったなら、もう一月半はかかっていただろう。
しかし、ユニット化したパーツを組み上げる最終工程だけは、光学監視に捉えられる可能性がある。
当初予定では各パーツごとにミラージュコロイドステルスを発動させたまま、ガイドビームに因る自動連結ですませる予定だったが、そうもいかなくなった。
監視に引っかかってしまえば、建造中の脆い状態で攻撃を浴びる可能性がある。
その結果考えられたのが、プロトタイプであるジェネシスαをデコイとして目先を逸らす方法だった。
ジャンク屋組合に情報を流して存在を暴露し、更に地球から離脱したばかりのジャスティスを派遣することで信憑性をもたせる。
最も防備の薄い数日間だけ誤魔化せればいい。
そして今、ジェネシスは完成した。
突貫作業での組み上げであることから、出力は最悪に備えて20%まで。
あとはどこを狙うか、
地球を撃つことに躊躇いを持つものはいない。
徹底した国内統制の末、特に忠誠心が高いものだけがこの部屋に集められている。
あとは、パトリック・ザラ議長の指令を待つのみだ。
管制室全体を見回せる、高い指令席で、眉間に皺を寄せたパトリックは口を開いた。
「目標は……」
グリニッジ標準時、C.E.71年8月8日16時。
現地時間、8月8日正午。
無警告で放たれたプラントの新型大量破壊兵器により、大西洋連邦首都ワシントン、消滅。
ガンマ線レーザーと思われる攻撃は、直径30kmにわたり地表を溶かし尽くした。
ガンマ線の残留と大きく空いたオゾンホールにより現地の放射線濃度は非常に高く、救助活動は断念された。
死者、行方不明者の想定は、400万人を超えた。
公開されたリストには、アルスター事務次官父子の名前も記載されていた。
たまにはキラがレスバに勝っても良いはず。
ハイネは犠牲になったのだ。
フリーダムVSジャスティスをするのに、アスランがジャスティスに乗っているとグダるから代わりがいる。
その展開の犠牲にな……。
これにて6章は終わりです。
閑話が一応あります。