SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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カナードに興味ない方は読まなくて構いません。
原作の設定をしっかり理解している人も、まとめているだけですので読まなくても大丈夫かと。
これで6章は終わりとします。

カナードのどこが失敗かは見つからなかったので捏造です。


閑話:スーパーコーディネイター

CE71/8/5

 

モルゲンレーテの企業城下町であるオノゴロ島。

その片隅にある住宅街の一角で、カナードはらしくもなくグルグル回りながら逡巡していた。

 

通りがかった親子連れが一瞬挨拶しようとしてきて、しかし困惑の表情を上げて遠巻きに離れていく。

 

(まさか、キラ・ヤマトがCOMPASSに所属していたとはな……)

普通とは言い難いが、軍事組織だ。

スーパーコーディネイターを確保していても不思議ではなかった。

 

カーペンタリアで見つけたザフト兵のうわ言を問いただそうとしたカナードに、任務に同行していたトールが放った「キラと関係有るのか?」という軽い一言。

それが、どれだけカナードに衝撃を与えたことか。

 

トールやカガリに問いただしても、スーパーコーディネイターの存在を知らず要領を得ない。

むしろナチュラルであるカガリがキラ・ヤマトのきょうだいという情報が、特大のノイズを追加しただけだ。

 

COMPASSの一員としてオーブへ入国してしまえば、所在の分かっている、しかも同じ組織に所属する人物のデータなど、カナードにとってはフリーパスに等しい。

だが、それは困惑しかもたらさなかった。

 

パイロットとしての運動能力試験や、エンジニアとしての実績を見ればある程度のスペックはわかる。

空間把握能力や反射神経が高く、分析能力やエンジニアとしての処理能力はウィザード級(超特級)

代謝を含む肉体の頑健度も高い。

だが、筋力や心肺能力はコーディネイターとしては上の下。

学習能力が高く、僅かな訓練が効果的に発現する傾向は有るものの、スーパーコーディネイター(コーディネイターを超えたもの)と言わしめるには、いささか弱い。

 

当人は宇宙で、しかも移動中と言うから問いただす手段もない。

いずれ顔を合わせる機会もあるだろうが、待ってなどいられなかった。

 

懊悩を抱えたままのカナードは、いつしかキラ・ヤマトのプロフィールに示されていた住所を訪れていた。

 

足取りを止めて、拳をパチンと平手に打ち付けた。

覚悟を決めて、目的地のベルを鳴らす。

 

『……はい?』

インターホンから聞こえたのは、穏やかな女性の声。

恐らくはキラ・ヤマトの母親、カリダ・ヤマト。

 

「俺は、COMPASSに所属するカナード・パルス。……ヒビキ博士の研究成果について、聞きたいことがある」

その不躾な内容のせいか、それとも声色(キラと同じ声)のせいか。

スピーカーの向こうで、息を呑む音が聞こえた。

 

やがてドタドタと慌ただしい足音が響き、玄関の扉が大きく開かれる。

目を丸く見開いた女性が、カナードをまじまじと見つめていた。

 

 

 

 

カチャリ、と音を立てて香りの良いハーブティーがカナードの前に置かれる。

「どうぞ」とカリダが声をかけたが、カナードは警戒するように腕を組んで目を瞑ったままだ。

 

カリダは自分の側においたカップに口をつけた後、恐る恐ると声を上げた。

「……もう一人、居たのね」

 

「そういうことだ。……もっとも俺は、失敗作らしいがな」

己の運命を嘲笑うように、カナードは露悪的な笑みを浮かべる。

カリダは「そういう言い方はやめて」と悲しげに顔をしかめたが、構わず続けた。

 

「生き長らえることが間違っている、そう思ったこともあったが。……俺なりの()()()()()を見つける事もできたんでね」

キラ・ヤマトを倒し、自分が本物になる。

その妄執じみた目的を、その母親に知らせない程度の分別は、今のカナードにも残っていた。

 

ほっと息を吐く相手に、カナードは獲物を追い詰めるように身を乗り出した。

「聞きたいのはキラ・ヤマト……人類の夢、スーパーコーディネイターのことだ。閲覧できたデータでは優れたコーディネイターという程度でしかない。……何を隠している」

 

その問いかけに、カリダは目を瞑って首を振った。

「隠していることなんて、ないわ。あの子は普通の子よ。……ブルーコスモスを始め、誰も彼も期待し過ぎなのよ」

 

「とぼけるなッ! そんなことがあるものかっ!」

バンとテーブルに手をついて立ち上がる。

 

今のデータを見る限り、カナードと大差がない。

なんなら過酷な訓練を積まされてきた分、肉体面ではカナードのほうが優秀なほどだ。

しかしユーラシア連邦のラボは、カナードのデータはヒントにもならないと吐き捨て、反抗の目を向ければ容赦なく電撃を放った。

 

歯を食いしばり、眼光鋭く睨みつけるカナードに、カリダは小さくため息をついて立ち上がった。

「……そこまで言うなら、病院へ行きましょう」

 

小さく、憐れむような瞳でカナードを見つめる。

「保護者である私なら、医療センターに再生治療用として残されている、キラのデータへアクセスできるわ」

 

カナードは牙を剥くように答えた。

「……いいだろう。俺もヤツがどんな化け物か、気になっていたところだ」

いずれ打倒するために。

(……本物と失敗作の違いを、この目で見極めてやる)

 

 


 

コーディネイターの存在もあり、現代の遺伝子解析設備は、判定後の自動消去もふくめて高度に自動化・高速化されている。

声をかけようとしては逡巡するカリダと、細胞採取を終え、苛立ちを隠さないカナードが待合室で同居したのは、ほんの小一時間ほどのことだった。

 

呼び出された診察室。

中年の医者の前に立ったカナードの口元には、歪んだ笑みが張り付いていた。

失敗作であることの証明――自虐的な興奮が、彼にニヤニヤとした笑みを強制していた。

「親族関係の確認と、遺伝子デザインおよび発現の確認、ということでしたな」

 

「……はい」

両手を握り、椅子にうつむきながらカリダが口を開いた。

 

「まず、提供されたキラ・ヤマト氏とそちらのカナード・パルス氏の親族関係。父系遺伝子、母系遺伝子、共に一致しております。細胞分裂時の微小なテロメアの差異などを除けば、お二人のDNAは完全に同一です。生物学的には100%、一卵性双生児として成立しております」

予期していたことではあったが、カリダが息を呑む。

(ヴィア)に妊娠の兆候があったのは、カガリだけ。

義兄(ユーレン)が、あの設備(人工子宮)を使ったに違いなかった。

 

「次に遺伝子デザインについて。先程の差異を除いた全ゲノムは、完全に一致しております。全く同じ遺伝子デザインがされている、と言ってよいでしょう」

 

カナードは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

「……だろうな。失敗作()の設計図が同じなのは当然だ。それで、その発現はどうなんだ?」

細胞分裂でのDNAエラーもあり得るが、そうであれば極初期段階でわかる。

カナードが人の身を持って生きているからには、失敗の判断は出生ギリギリ、遺伝子発現に関わる部分であるに違いなかった。

身を乗り出し、デスクに両手をついて眼前のモニタを睨みつける。

 

「筋繊維の密度か? 脳のシナプスの伝達速度か? ……どこが違う、どんな異常な数値が出ている!?」

これまでカナードの人生を苛み続けた、失敗作という烙印。

モルモットとして飼われ、過酷な訓練を強制され、どれだけの数値を積み上げても本物のサンプルがあればと嘆かれ、いいように扱われてきた。

その答えが、眼前にあるはずだった。

 

医者がその凄まじい剣幕におののきながらも、言葉を続ける。

「……代謝効率、筋繊維の成長ポテンシャルといった身体系の遺伝子スイッチ、および脳神経回路の形成において、お二人に有意な差はありませんでした。ご心配されないでください、貴方のコーディネイトは、しっかりと効果を発揮しております」

 

「……は?」

その言葉に、カナードの表情が抜け落ちた。

何かが劣るはずだった。

だからカナードは、アレだけの過酷な人生を歩まされていたのだ。

しかし目の前の医者は、何も変わらないという。

 

「……ただ、非常に言いづらいのですが。RNAの負荷テストの結果、免疫系において特定の抗体の生成速度が劣ります。具体的にはおたふく風邪(ムンプスウイルス)に対しての事前免疫が効きません。血液検査より抗体が無いことが分かっていますので、念の為早めに予防接種をされることをおすすめします」

 

医者の言葉が、意味を成さない音の羅列となってカナードの耳を通り過ぎていく。

「しかし、非常に精緻な遺伝子デザインと発現管理ですな。素晴らしい」

のんきに感心する医者の襟首を、無意識のうちにカナードの手が掴み上げていた。

 

「……そんなはず……そんなはずがないんだ……ッ!」

ギリリと力を込めながら、呻くように呟くカナード。

「な、何を……っ。抗体がないくらい、大した話ではないですよ!」

困惑の表情でもがく医者の平和ボケした言葉が、カナードの壮絶な過去をどこまでも矮小化していく。

そこへ、立ち上がったカリダの手が添えられた。

 

ゆっくりと腕が押し下げられ、やがて振りほどいた医者はため息をつくと、「失礼します」と言って去っていった。

 

 

静まり返った診察室で、カリダが口を開く。

「……スーパーコーディネイターは、あくまで精密にデザインされた遺伝子を、100%発現させるための研究。だからキラは、冷たい機械から産まれてきた。でも、それだけなの」

 

そっと、震えるカナードの肩に手を回す。

「義兄にとっては、100%かそうでないか、それしか判断基準がなかった。別に魔法のような超人を生み出すとかではなくて。……コーディネイターの上澄みの能力を一通り持ち合わせている、その程度の話なの」

カナードを養育したユーラシア連邦の組織は、メンデルで散逸したヒビキ博士の設計図も、完成品のキラのデータも持っていなかった。

ユーレン・ヒビキという本物の天才に対する評価と、スーパーコーディネイターという仰々しい名前への期待値が高すぎただけなのだ。

失敗作というメンデルでの評価は、あくまでおたふく風邪の抗体が発現しなかったという、その一点のみ。

 

あまりにも滑稽で、あまりにも不条理な真実。

「俺は、一体何のために……ここまで、生きて……」

 

膝から崩れ落ちそうになる彼の背中を、カリダが優しく、だがしっかりと抱きとめた。

「……生きてるだけで、いいのよ」

 

 

 

 




Xアストレイだとクルーゼ(の変装)はキラの名前知っているけど、SEED本編ではアスランから名前を聞いた時は気づかなかったというガバガバ。
どっちも基幹設定だから変えられないっていうね……。
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