SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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色々詰め込みました。


7-2

CE71/8/13

 

「急げ……準備を怠るなよ」

偽装されたトラックの薄暗い荷台で、イザーク・ジュールは周囲の同志たちへ鋭く檄を飛ばした。

 

ザフトの開発した新型大量破壊兵器による、地球への先制攻撃。

民間の地球観測や、ザフト内部からのリークによって確認されたそれは、COMPASSの告発(大量破壊兵器開発)を単なるプロパガンダだと楽観視していた人々すら巻き込んで、プラント世論に大きな渦を作り出した。

 

地球大気に現れたチェレンコフ光や、目標となったワシントンの日中人口から、民間の専門家たちが算定した被害は、少なくとも数百万人。

オペレーション・ウロボロス(エイプリルフール・クライシス)のもたらした数億の被害(飢餓や凍死)を他人事として感じていた無自覚な民間人ですら、一瞬で都市が蒸発するという事実には背筋を凍らせた。

理知的であったはずの自分たち(コーディネイター)が引き起こした惨禍に、人々は恐怖した。

 

だが、議会への文書通告や各コロニーで自然発生したデモは、身内であるはずのコロニー内に投入された最新鋭MS(ゲイツ)の放つ砲弾に文字通り踏み潰された。

 

弾圧は、暴走する議長(パトリック・ザラ)へ疑問を投げかけた議員たちにも等しく向けられた。

『形見と思いなさい』

拘束される直前の(エザリア)から渡された女物のネックレスが、イザークのシャツの内側で揺れている。

母はザラ派の重鎮でありながら、自国民に銃を向ける狂気には決して同調しなかった。

その誇りが、イザークの胸を焦がすような怒りへと変えていた。

 

反面、動きを強めたのは影で動いていたレジスタンス(反政府組織)だ。

シーゲル・クラインやアイリーン・カナーバという支柱を失い、鬱屈していたかつてのクライン派を巻き込んで、ジャンク屋組合のネットワーク内で動いていたそれは、再度のジェネシス発射阻止と停戦を掲げ、一気に表に現れた。

 

レジスタンスの指導者の奇跡的な手腕は、2度目の発射時に謎の自壊を起こしたジェネシス本体の修復と、発射に使用するミラーブロックの製造に対する阻止に向けられていた。

 

標準的な部材(ボルトやケーブル)といった、目立たないが絶対に欠かせない部品の製造・輸送に関するサボタージュ呼びかけ。

物資の結節点となる場所への、一撃離脱の瞬間的な襲撃。

強硬な締め付けの中にあって、実行者の安全を最大限に配慮しながら的確に急所を突くその戦術に、賛同する者は次々と身を投じていった。

ザフトの赤服であったイザークも、今やその一人だ。

 

「忘れるな、『人類には生きるべき道がある』」

倉庫への襲撃を控える同士たちに、イザークは声を投げかける。

指導者である()()()()()()()()の言葉だ。

 

「「「『人類には生きるべき道がある』」」」

トラックの荷台で、皆が祈るように唱和する。

 

(そうだ、無為に死んでいい人間など居ない。……人類全て(コーディネイター/ナチュラル)に、生きるべき道があるんだ)

イザークは力強く頷くと、ライフルを構えて声を張り上げた。

 

「行くぞ……。突入! 突入!」

開け放たれたトラックから、イザークは駆け出した。

 

 


 

CE71/8/15

 

月のプトレマイオス基地に集結したCOMPASSの皆々は、作戦内容を説明する長いブリーフィングを聞いていた。

 

『──これにより、運動エネルギーは実に700PJ(ペタジュール)に達します。理論上PS装甲であっても──』

スピーカー越しにシモンズ主任の言葉が響く。

 

控えめに言って、生還確率は低い作戦だ。

しかし、早く、確実にジェネシスを破壊するという目的を考えれば、これ以上無いほど合理的でもあった。

 

(トール、アスラン……)

共に死地へ赴くことになった友人たちの顔を思い浮かべ、キラは唇を噛む。

自分がもっと頑張れば、彼らを安全な後方に残しても済むのではないか。

そんな未練がましい考えが頭を巡り、ブリーフィングが解散した後も、キラは席を立つことが出来ずにいた。

 

そんなキラの肩を、ポンと力強く叩く手があった。

「なんだ、随分と不安そうな顔をしてるじゃないか? あのキラ・ヤマトともあろうものが」

 

「カナードさん……」

地球から上がってきたという彼は、初対面だと言うのに妙に親しげだった。

皮肉げな、だが不思議と晴れやかな笑みを浮かべて、カナードは言葉を続ける。

「なぁに、心配するな。お前はちゃんと、()()()()のところに帰してやるさ」

 

「え……?」

困惑して目を瞬かせるキラをよそに、カナードは高笑いを上げながら背中を向けて歩き出した。

「ハハハハハ! 守るべきものを手に入れた、俺のハイペリオンは無敵だッ」

 

その背になにか問いかけようかと思ったが、何を言えばいいかもわからない。

中途半端に伸ばされたキラの手を、横から伸ばされた柔らかな両手が包む。

「キラ、少しよろしいですか?」

「ラクス……」

微笑みを浮かべながら、ラクスの手がキラを立ち上がらせた。

 

 

「……壊しちゃって、ごめんね」

「いいのです。キラを守れたのなら、十分ですわ」

二人は、格納庫内の機体の前にいた。

キラのトリィとラクスのブルー(キラの渡したペットロボット)が、話し込むように機体の肩へ留まっている。

 

フリーダムの頭部は、ジャスティスの決死の突撃によって完全に破壊された。

技術漏洩を防ぐためにブラックボックス化していた分、代わりのパーツ等は存在しない。

結果として今は、予備機だったストライク(キラが乗っていたコピー機)の頭部を強引に移植している。

 

「こうなると、ストライクフリーダム、になるんでしょうか?」

首を傾げたラクスに、キラは苦笑いをしながら「どうだろ?」と答えた。

 

言葉を探すように視線を泳がせるキラ。

その横顔を見つめ、ラクスはふふっと小さく吹き出すと、ごく自然にキラの腕を取り、自身の細い腕を絡めた。

「えっ?!」と言って顔を赤らめるキラに、小さく伝える。

 

「私も、行きますわ」

 

「……ラクス?」

呆然とキラが問い返す。

ラクスはハルバートンやカガリと同様、月に残るはずだった。

 

「今回の作戦で皆様の生還確率を押し下げるのは、目標達成後。四方八方をザフトに囲まれた状況になることです。……私の説得が通じれば、少しでも確率を上げられます」

(……いざとなれば、無理やり()()()()()

使わないようにしているが、今も力はラクスの中に眠っているのだ。

そんな覚悟すらも覆い隠す優しい微笑みに、キラはたまらずラクスの華奢な肩を抱き寄せた。

 

「駄目だっ! 君には生きて──」

「これは、私の我が儘なのです」

縋るようなキラの悲痛な叫びを遮り、ラクスは彼の胸元に、こつんと額を押し付けた。

 

「焚き付けたのは、キラ。貴方ですよ」

悪戯っぽく微笑みながら告げるラクスに、キラは目を見開く。

そして、力を抜いて下を向いた。

 

「……かなわないなぁ……」

負けを認めたような優しい笑みを浮かべるキラに、ラクスは背伸びをして、そっと口づけを落とした。

「末永く、面倒を見てくださいね」

 

 

二人が身を離し、格納庫の通路へ出ようとすると、向かいからアスランとカガリが連れ立って歩いてくるのが見えた。

「アスランッ、カガリ!」

 

表情に明るさを取り戻したキラが駆け寄る。

アスランはどこかバツが悪そうに口元を歪め、軽く手を上げた。

 

「機体の確認か? ……俺も機体を見ておこうと思ってな」

例によって、アスランはぶっつけ本番で新しい機体に乗ることになったのだ。

多少のシミュレーションはしたが、より多く触れるに越したことはない。

 

「えっと……そうだね」

キラが頬をかきながら、追いついてきたラクスを横目でみる。

ラクスの表情は変わらず、微笑んだままだ。

 

「積もる話もあるが……、俺たちは互いに積もりすぎてるからな。……この作戦が終わったら、ゆっくり話そう」

苦笑いしながら拳を突き出すアスランに、キラは力強く頷き、自分の拳を打ち合わせた。

「……うん、約束だよ!」

 


 

「……いいのか? お前たち、元は婚約者だったって聞いてるぞ」

横倒しにされた巨大な機体のコクピット。

シートに座って調整を行うアスランへ向けて、開いたハッチに腰掛けたカガリがジト目で問いかける。

隠すつもりが有るのか無いのか、先ほどのキラとラクスの間の甘い空気は誰の目から見てもバレバレだった。

 

「いいんだよ。所詮親同士が決めただけの話だ」

微かな寂寥を滲ませつつも、あっさりとそう告げ、アスランは操縦桿のグリップの感触を確かめる。

 

ZGMF-X12A+X09A。

シモンズが仮称として名付けた、テスタメントジャスティス。

ジェネシスαで発見された、動力部とNJCを抜かれた未完成の核動力機(テスタメント)

そしてハイネごと回収されたジャスティスの胴体(動力部)とリフター、ビームサーベル。

アークエンジェルにそれらを積み込み、月へ回航する数日間の間に組み上げた仮設のキメラ機だ。

 

驚くべきことに、ザフト製であるはずのその機体には、ストライカーパックと同規格のハードポイント(接合部)が備わっていた。

バラされた予備機のストライクでジョイントや不足パーツを補い、リフターをストライカーパックのように接続している。

行方不明となったジャスティスの両肩のビームブーメランの代わりとして、ストライクのソード・ランチャーの肩部武装がマウントされている。

 

シモンズが自棄混じりに組み上げたパズルだが、これを扱えるとしたらジャスティスとマルチプルアサルトストライカーの操縦を経験したアスランしか居ない。

 

「……ふーん、そうなのか」

あらぬ方向を向いてそうつぶやいたカガリは、コックピットに身を乗り出す。

 

「オマエ、その機体初めてなんだろ? ……本当に戦えるのか?」

カガリの心配そうな問いかけに、アスランはモニタを見つめたまま頷く。

 

「大丈夫だ。問題なくあつかえるさ。……さっきハイネとも話したが、『いい加減自分で乗れ』ってさ。……テスタメントジャスティス(正義の証)なんて名前、俺には似つかわしくないけど、な」

捕虜として月に残ることになっているハイネに面会した時は、再会の喜びとともに怒られてしまった。

 

「……また殴られたいか?」

自嘲混じりに笑ったアスランの鼻先に、カガリが握り込んだ拳を突き出す。

 

「……勘弁してくれ」

鳩尾の痛みを思い出したのか、アスランは観念したように両手を上げて降参のポーズをとった。

 

「まったく、ウジウジと危なっかしい奴だ。……ほら、これ、持って行け」

呆れたようにぼやきながら、カガリが突き出した拳を開く。

その小さな掌の中には、桜色の美しい石をシンプルに編み込んだ首飾りが置かれていた。

 

「ハウメアの護り石。オーブのお守りだ。きっとお前を守ってくれるさ。……ちゃんと、帰ってこいよ」

アスランは眩しいものを見たように目を細めると、手を重ね合わせるようにそれを受け取った。

「……ああ。帰ってくるよ」

 


 

月基地の展望室。

上空を見上げれば、カガリたちの持ち込んだドミニオンが、宇宙空間でアークエンジェルと強固なフレームで連結されていくのが見える。

鏡合わせのように底面を向かいわせ、お互いの()()や後部を繋いでいる。

遠目で見れば、まるで一つの矢尻の様だ。

 

トールは手元の端末へ視線を落とした。

画面には、いくつもの人名候補が並んでいる。

出発前にミリアリアから託された大仕事、産まれてくる子供の名付けだ。

直前のエコー診察によれば、男の子だという。

 

「……やっぱり、マグニかな」

ぽつりと呟いた音は、誰に聞かれることもなく静寂に吸い込まれた。

北欧神話において、ラグナロク(終末の日)をも生き残る、雷神トールの息子。

これからどんな絶望的な世界が訪れようとも、力強く生き抜いていけるように。

 

サーバーにメールを預け、数日後の予約送信をセットする。

通信完了のアイコンを見届けた後は、出撃のコールが鳴るまで、トールはずっと端末のフォルダに入った写真を眺め続けていた。

ミリアリアや友人たちの、平和な日常を。

 

 


 

『現時刻をもって、作戦名"エンジェルストライク"の発動を宣言する。……諸君らの健闘を祈る!』

 

月基地の司令室に残るハルバートン提督が、通信モニタ越しに力強い敬礼を送る。

艦橋のクルーも、MSに乗り込んだパイロットたちも、誰もがそれぞれの持ち場で敬礼を返した。

 

10、9、8…

減っていくカウントを、アークエンジェルのブリッジでマリューが、そしてドミニオンのブリッジではナタルが見つめていた。

3、2、1、0。

その瞬間、二人の艦長の声が重なり合った。

 

「アークエンジェル、機関始動! 最大戦速!!」

「ドミニオン、機関始動! 最大戦速!!」

連結されたフレームごと、各艦6、合わせて12のスラスターが火を吹き、爆発的な加速が行われる。

空気抵抗の無い真空の宇宙では、究極的には加速を続ければいくらでも速度を上げられる。

だが、真空であるがゆえに排熱の逃げ場がない。

宇宙艦において、最大速度は最大熱容量とほぼイコールだ。

 

だが、それを回避する手段もある。

チャンドラ2世(CIC情報分析官)の声が響く。

「後方、ジェネシスαから高エネルギー反応! 照準、来ます!」

 

「ノイマンッ!」

「もうやってます!!」

 

マリューの声掛けに先んじて、ノイマン(操舵士)の手が動いている。

同型艦であり、さらに積載物も緻密に計算された二艦の重心は、鏡合わせの丁度中心に備えられた燃焼剤ブロックに寸分の狂いもなく位置している。

 

ジェネシスαに残ったクサナギのクルーにより照射されるX線レーザーがそこに当たれば、ライトクラフトによる加速が可能だ。

しかし、それぞれが全長数百m、合わせた質量が10万tに届こうかという巨艦を操り、たかが数mのレーザーを長時間的確に当て続けることができるのは、地球圏でこの操舵手しか居ないだろう。

 

1時間足らずの連続加速終了時、到達速度は秒速80km。

月軌道とL5のプラント本国(ヤキン・ドゥーエ)の距離38万kmを、加速を含めてわずか2時間で走破する。

 

広大なボアズの防空識別圏すら、わずか数秒で通り抜ける。

どんな迎撃も、できるはずがない。

 

この速度域では、僅かなデブリが致命的な銃弾になる。

その微細な障害物を前衛として迎撃・排除するため、アークエンジェルとドミニオンの艦体各所には、出撃状態のMSたちが陣取っていた。

防空の要は、正面中央に配置されたハイペリオン(カナード)だ。

艦からエネルギーを供給され、最大出力で張られるアルミューレ・リュミエール(アルテミスの傘)からあぶれた分を、各MSがビームで焼却する。

 

ドミニオンと向かい合わせになった、アークエンジェルの艦底。

その隙間に身を忍ばせ、バッテリー機故に艦から伸びたケーブルを機体に繋ぎながらトールは口を開いた。

 

「まさかまたココに来るとはなぁ」

『バスターの、OS試験のときのこと?』

 

隣のブロックに陣取るフリーダムから、キラの穏やかな声が響く。

「アレから半年そこらっていうのに、派手に状況が変わったな」

 

周囲には、アークエンジェルとドミニオンを熱的に結合して、ラミネート装甲の容量を増大させるための熱伝導ジェルがところ狭しに積められている。

しかしそれ以外は、あの時のままだ。

いや、激戦を物語る傷跡が、艦の装甲のあちこちに増えているか。

 

『うん。……ねぇ、トール。本当にいいの? もしかしたら、生まれてくる子供に会えないかも知れないんだよ』

キラの声が微かに震えている。

事前の計算がボタン一つ掛け違えただけでも、宇宙の塵となる作戦だ。

どれだけ準備しても、確実に生還できる保証などどこにもない。

 

「いいんだよ。……ある日突然、ジェネシスが皆のもとに落ちてくるほうが怖い。何かできるのに何もしないってのは、受け入れられない。だから、」

 

『「できることは全部やる」』

トールの言葉の先を、キラが明るい声で引き継いだ。

 

「トールはいつもそれだね」「座右の銘だからな」

二人の笑い合う声が、空間を置き去りにしていく。

 

 




割りとノリノリで書いたんですが、最終決戦前インターミッション感はちゃんと出ていますでしょうか。
感想と、できれば評価をいただければ幸いです。
続きは少々お待ちください。

・ストライクフリーダム(仮称)
ジャスティスとの戦闘において頭部を破壊されたフリーダムに、予備機のストライクの頭部を移植した機体。
若干カメラ性能は低下したが、誤差の範囲。
ドラグーンは当然ありません。

・テスタメントジャステイス(仮称)
テスタメントは原作では5/15ロールアウトだが、ジェネシス製造優先によるエンジニア・物資不足により製作中断。
ハイネごと回収されたジャステイスの胴体(動力部、ファトゥム00、腰アーマーのラケルタサーベル含む)を組み込み、不足したパーツを予備機のストライクから補ったもの。
両肩にはランチャーのガンランチャーと、ソードのビームブーメランが赤く塗装されて付いている。
テスタメントはストライクのコピーかつ、ジャスティスと同系列のためうまくハマった。
暇になると恐慌状態になりそうだったシモンズが、やり場のない焦燥感を逃がすために製作へ没頭した。

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