SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
計算中に14と4を打ち間違えるとかまたベタなことを…。
CE71/8/16
加速が落ち着いた。
漆黒の宇宙、しかもドリルのように緩やかに回転しながら加速したため、もはや常人には感覚が掴めないが、レーザー距離計が示す月からの距離は既に11万kmを数えている。
スピン安定で推力の偏りを殺しているとはいえ、常に重心の燃焼剤ブロックとレーザーを一致させ続けた
ジェネシスαからのレーザーもなくなり、ここからは慣性飛行状態。
同一の系に居る艦内部やMSたちにとっては、時折行われる姿勢制御を除けば静止状態と同じだ。
移動も気軽にできる。
ハイペリオンの傘にあぶれたデブリを、MSが迎撃する光が前面に映る。
だが、それも散発的だ。
現在居るのは月とL5を直線でつなぐ航路上。
ラグランジュ点、あるいは地球近傍のデブリ帯と異なり、早々ゴミは留まっていられない。
「ノイマン、お疲れ様。……まだ役目はあるわ、少し休んでいなさい」
マリューがねぎらいの声を掛けるが、ノイマンは首を振る。
「いえ……大丈夫です。何かあれば、困りますから」
真面目なノイマンの答えだが、マリューは苦笑いをしながら命令する。
「命令よ。……20分だけでも休憩しなさい。他のものも、10分交代で休息して。到着したらすぐに鉄火場よ」
「それでは、すみません。……10分だけ」
そう言ってノイマンが、首をひねりながらブリッジを後にする。
「……ドミニオンの方は、申し訳ないけど」
言葉通りの表情を浮かべてモニタをマリューが見つめるが、ナタルはいつもどおりの硬質な表情だ。
『構いません。こちらは人が少ないですので』
姿勢制御をアークエンジェル側で行う前提で、ドミニオン側の乗員は最小限。
ナタルを含めても5人程度だ。
なんなら最初から無人で、という話もあったのだが、出力調整などを考えればいくらかの人間は必要だった。
「……この作戦、本当に成功するのかしらね?」
『成功しなければ、我々の離脱は絶望的です。今さら考えても無意味かと』
ふと漏れてしまったマリューの泣き言染みた言葉を、ナタルが端的を通り越した毒舌で撃ち返す。
「フフッ。……そうね」
マリューは思わず吹き出し、口元を引き締める。
「今は作戦を成功させることだけ考えましょう。──地球のためにも」
『そういうことです』
アークエンジェルとドミニオンの艦底搬入口同士を繋いだフレーム、そこに置かれたランプの色が緑から赤に変わる。
乗員が乗り移り、隔壁が降りたのだ。
「さて、と。それじゃ俺もそろそろ移動するかな」
トールが機体についたケーブルを取り外す。
そろそろドミニオン側に移動する頃合いだ。
逆にドミニオン側に展開していたMS達も、次々とアークエンジェル側へ移動してきている。
「お先に大役、果たしてくるぜ。……キラたちも、頑張れよ」
『うん。任せて』
艦の乗員、MSのパイロットの内、トールだけ行き先が違うのだ。
トールが戻ってきて合流する頃には、すべて終わっているはずだった。
突き出したフリーダムとニンバスバスターの拳が触れ合う。
地上であればゴツンと音がしただろうか。
それを反動にするかのように、トールはドミニオンにひょいと飛び移った。
L5最外縁に置かれたボアズを通り過ぎたところで、アークエンジェルとドミニオンの速度を調整する。
幾らかの全力減速の後、ブリッジでマリューが叫ぶ。
「状況報告!」
「ドミニオンの乗員、全て退避完了しました。通路ブロックの閉鎖を確認しております」
先ほど副長席に戻ったナタルが敬礼をしながら告げる。
『テザーの接続異常なし。いつでも大丈夫です、艦長』
マードックが落ち着いた声で連絡してくる。
『ドミニオン展開のMS部隊、全てアークエンジェル側へ移動完了。問題ありません』
落ち着いたアスランの声がスピーカーから響く。
『バスターニンバス、ドミニオンブリッジに固定完了。通信ケーブル及び増槽、接続済みです』
流石にこわばった表情で、モニターに映るのはトールだ。
「了解した。……ケーニヒ君、悪いけど……よろしく頼むわね」
『任せてください。……やり遂げてみせます。そちらもお気をつけて』
不安を押しつぶしたように絞り出したマリューの言葉に、トールが頷く。
「……作戦を、第2段階へ移行する! 連結フレーム、爆砕ボルト点火!」
「連結フレーム、爆砕ボルト点火します。……爆砕ボルト、点火!」
マリューの張り上げた声に、パルの手が連動する。
アークエンジェルとドミニオンを繋いでいたフレームが、内部に仕込まれた爆薬によって破断する。
「続いてドミニオン仰角20、アークエンジェル仰角5!」
「アイマム!」『了解!』
ノイマンの両手が、操舵輪と出力レバーを複雑に操作する。
トールが通信ケーブルを介して、ドミニオンに事前に設定された指令を出す。
フレームがなくなった今、2艦の位置関係を=から不均等なVの字へ広げようという動き。
角度の違いから、進行方向に対してだけ見ればドミニオンが遅れていくように見える。
ドミニオンに置かれたリールが回り、長い長い
「ぐっ……」
ショックアブソーバーが吸収しきれず、思わずマリューがうめき声を漏らす。
前に居たアークエンジェルは、後ろにいるドミニオンに引っ張られて減速する。
後ろに居たはずのドミニオンは、アークエンジェルから速度を吸い取って加速する。
テザーを張り詰めたままドミニオンが弧を描きながら加速していく様は、古式ゆかしい
ベースボールのワインドアップでもいい。
それを行う強度を担保するのは、月基地にあった何本もの繋留ロープをつなぎ合わせ、長い一本のテザーに仕立てる幾つかのPS装甲製の
ナタルの厳しい目が、アークエンジェルとドミニオン、そしてジェネシスの位置関係を睨み続ける。
「……今ッ! フェイズシフト、電源カットアウト!」
ナタルが手元のスイッチを操作した瞬間、再びアークエンジェルの巨体が揺れる。
フェイズシフトが切れた瞬間、莫大な張力にリンクが弾け飛び、テザーがバラバラに宇宙に漂った。
ドミニオンが、超高速で投げ飛ばされる。
マリューの号令の少し前。
トールはバスターのOSの、奥深くに沈んでいたプログラムを呼び出していた。
「近距離通信システム、コネクション確立。コンピュータ連結正常。メビウスーバスターニンバス、リンゲージ」
ドミニオン艦上に置かれていた
バッテリーを増設された特別仕様だ。
ドミニオンの最終誘導として、共にかっとんでいくバスターは、当然帰ってくるには減速しつつUターンするというプロセスが発生する。
長い時間をかけての減速はバッテリー機には酷、ということで減速用ブースターとしてメビウスが採用された。
(なんでも残しとくもんだよなぁ……)
バスターのOS開発時に、AMBAC肢のデータを取り込むためとしてメビウスのデータをつかい、その余録としてMSの側からの遠隔操作システムを組んだ。
キラが第8艦隊先遣隊の救援時にストライクと接続したが、当然同じシステムはバスターにも組んであった。
オーブで
今となっては、このメビウスが命綱。
減速できなければ深宇宙まで、孤独な旅路が始まってしまう。
(……そういうのは無人機で頼むぜ)
げんなりとした気分を、首を振って取り直す。
ドミニオンのブリッジ下、タワー上になっている部分に機体の背中を押し当て、そしてドミニオンから伸びる通信ケーブルを接続する。
指示通りにドミニオンに指令を送り、後はマウスピースを噛み締め、その時を待つ。
グンッ!!
「…………!!!」
声を発することも出来ない。
MSのショックアブソーバーではとても吸収できない急加速が、背中をドミニオンに押し付ける反動となる。
とはいえ、ある意味この手のGにトールは慣れている。
レールガンを撃った時は、いつも派手に反動を食らうからだ。
漆黒の宇宙を映す視界に、はっきりと現れる白い線。
あらゆる投射物の軌道が、コンピュータの計算を上回って視界に現れる。
それは、自分自身も同じだ。
アークエンジェルが減速したかわりに、ドミニオンは秒速100kmの大台をゆうに越えた。
この速度のドミニオンを、自分の目の前に伸びる白い線として感覚で軌道修正し、視界に映る米粒ほどのサイズのジェネシスまで導く。
(……やってみせるさ)
等速度運動が続く。
文字通り、瞬く間に大きくなっていくジェネシス。
通信ケーブルを介してローエングリンを無照準で発射、掃海する。
細かなデブリは、ここまで来ると触れた瞬間に蒸発し、ラミネート装甲が持ちこたえる。
人間の感覚は、線とのズレを認識する精度が意外なほど高い。
無意識で
そして、その時が来た。
トールはドミニオンの船体を蹴って、虚空へと機体を投げ出す。
メビウスが逆噴射を続けると、ドミニオンと繋がっていた通信ケーブルが限界まで張り詰め、ミチミチとちぎれていく。
最後にバチンと断線し、トールの機体は慣性でグルグルと回転を始めるが、即座に連結したメビウスのスラスターを制御して姿勢を安定させた。
「……さて、合わせてどれだけの金額になるのかわからないが。派手な花火を上げてくれよ」
スラスターを吹いて軌道を変え、戦域を離脱していくトールの視界の先で、ドミニオンがジェネシスに突っ込んでいく。
アークエンジェル級の質量は、空荷でも14万トン*1。
それが秒速100kmで衝突した場合のエネルギーは、およそ700PJ。
TNT火薬換算167メガトン、
それがドミニオンの断面積という、僅かな範囲に集中する。
ジェネシスにどれだけの装甲が施されたか不明だったが故の、確定的なオーバーキル。
余りのエネルギー量に、衝突を通り越して溶け合うようにドミニオンとジェネシスがプラズマの塊に変化していく。
やがて大きな火球が一つ出来上がり──弾けた。
L5を通り抜けていくトールから最後に見えたのは、彗星の尾のように広がった雲だけだ。
投射後も減速を続けたアークエンジェルが戦域にたどり着いたのは、ドミニオンから遅れること数十分後だった。
守備隊から散発的に攻撃がくるが、減速してなお高い速度に加えて、向こうも混乱しているようで組織だった抵抗はない。
マリューは再び声を張り上げた。
「作戦を、第3段階へ移行する! 我々はヤキン・ドゥーエに強襲揚陸を行い、パトリック・ザラ捕縛とヤキン・ドゥーエの管制機能沈黙を行う!」
通信を繋いでいた皆々が頷く。
ジェネシスを破壊したとて、別の大量破壊兵器を準備されては元も子もない。
首謀者で有り、何より独裁体制を築くパトリック・ザラをプラントから排除することで、ザフトの動きを強制的に麻痺させる。
予想外の高速突撃にザフトがもっとも混乱している今このときが、最小限の犠牲でその斬首作戦を実行する最大のチャンスなのだ。
重ねてヤキンの管制機能を沈黙させれば、アークエンジェルが逃げ出す隙も生まれるだろう。
麻痺から抜け出したザフトが停戦に頷くか、戦争を再開するか。
それはCOMPASSの面々にも分からないことであったが、人々の理性を信じたかった。
「ノイマン──回頭、180度! 全力噴射!」
「了解!」
アークエンジェルの舵が一気に回転する。
6つのメインエンジンが全力で噴射され、目標を飛び越えそうなアークエンジェルを必死に押し留める。
ここまでの減速含め溢れ出た排熱を、大気圏突入用の融除ジェルを介することで外に放り捨てる。
最後には艦底をヤキン・ドゥーエの外壁に擦り付けるようにして減速、揚陸を果たした。
「いやぁ、またこのメンツでアークエンジェルを守ることになるとはなぁ……」
座礁状態のアークエンジェルの直援として傍らに降り立ち、ムウがポツリと漏らすと、即座に反論が上がった。
『そりゃないでしょ隊長! こっちはパナマが乗っ取られても、独房に入れられてまでアークエンジェルの味方をしたんだぜ?!』
『まぁ、複雑な状況でしたからね。……しかし、またこうして共に戦えるのは嬉しいものです』
『そんなことはどうでもいい。地球を守るのが俺たちの役目だ。……気合いを入れろ』
「へいへい……。しかしいいなおっさん、そのパック、ガンバレルなんだろ?」
『お前の背負ってる
ダガーに、新たに開発されたガンバレルストライカーを装備したモーガン。
『こっちも良いぜ。ソードダガーより間合いが広いしな』
斬艦刀を振る、ソードカラミティを駆るエドワード。
『カナード君程には扱えませんが、ハイペリオンも良い機体です。うまくやって見せますよ』
ユーラシアから貸与された、量産仕様のハイペリオンを操るジャン。
かつて連合最強を謳われたアークエンジェル隊と、最新鋭MS。
地球の命運をかけたこの作戦に、出し惜しみなしで集められた旧地球連合の最高戦力だ。
一方で、アークエンジェルのカタパルトから飛び立った三機。
「言っておくが、俺の足を引っ張るなよ」
『はいはい……アンタの方こそ、オレの足を引っ張るんじゃねぇぞ』
『ちょっと、二人とも。落ちついてください』
カナードの吐き捨てた悪態にディアッカが噛みつき、ニコルがなんとかなだめようとする。
ディアッカとニコルが乗るのも、量産仕様のハイペリオンだ。
違いとしてはディアッカは
ハイペリオンだけで構築されたこちらの小隊は、
守るムウたちと真逆に、ヤキン・ドゥーエのゲートをつぶして回り、相手方の出撃を阻止するのが役目だ。
そして──
「行こう、アスラン」
『……ああ。この馬鹿げた戦争を終わらせるために』
フリーダムとテスタメントジャスティスの全力砲撃が、ヤキン・ドゥーエの外壁を打ち砕く。
キラとアスランは、内部への侵攻を開始した。
ライトクラフトって扱い的にはマスドライバーなんで、やってることはギガノス帝国。
もう大量破壊兵器のような気がするが、ジェネシス本体は無人だからヨシ!
スペースファンタジーなので細かいところは許して。