SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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ヤキン・ドゥーエ。

開戦当初まではただの資源採掘用の小惑星だったが、戦争の激化を受けてプラント本国を守る絶対防衛線として要塞化された。

資源採掘の時点でMSの前身の一つであるパワーローダーが重機として使用されており、その通路はMSサイズでもそのまま通行が可能だ。

 

「どいてください!」

オープンチャンネルで告げながら、フリーダムが地を這うように疾走する。

壁面にこじ開けられた横穴と、そこから突撃してきたフリーダムに足を止めてしまった見知らぬ新型(ゲイツ)の四肢を、そのままサーベルで切り捨てる。

 

ザフトの戦力がパンパンに詰まった要塞の中枢に向かおうと思えば、真正面(ゲート)からは不可能だった。

そこでヤキン・ドゥーエの外殻に穴をこじ開け、管制室への最短距離で侵入した。

2機の核動力機を活用した力技だ。

地上であればこんな乱暴な進み方は崩落を招くだろうが、ヤキン・ドゥーエの質量分しかない重力では、ほとんど考えないで済む。

 

非戦闘員を巻き込んでしまう可能性もあったが、そこはもう割り切るしかなかった。

人を殺めれば、自分で背負うしか無い。

その責任感がキラを縛っているが、自分の心を守るために仲間を犠牲にしていいとも思っていない。

何よりアークエンジェルには、ラクスも残っているのだ。

戦闘に紛れ込むでもなく敵本拠地に単艦で孤立という、常識では考えられない作戦を取ったアークエンジェルが自衛できる時間は、どうしたって限られる。

カナード達がゲートを潰すとはいえ、向こうも復旧しようとするからいたちごっこだ。

可及的速やかに、目標を達成する必要があった。

 

『よし……次はこっちだな。ここを抜ければ第三区画まで行けるはずだ』

アスランが先導するように、長い通路を飛ばしていく。

常軌を逸した速度の質量弾(ドミニオン)によるジェネシス破壊の混乱。

それはどうやらCOMPASS側の想定を超えたようで、数十分後のアークエンジェル揚陸時でも、ヤキン・ドゥーエ側の無線封鎖が不十分だった。

 

本来はアスランの記憶が頼りの作戦だったが、内部の通信が遮断される前ならば、データベースにアクセスできる。

幸いにもMIAとなってまだ半月のアスランのコードは残っており、ダウンロードした詳細なマップを携えてのナビゲートとなっていた。

 

時折現れる敵機を文字通り蹴飛ばし、集団が道を塞ぐようであれば即座にルートを再構築する。

『……想定より、ザフトの動きが鈍いな。お陰で壁抜きの回数が減るのはいいんだが……』

順調にすぎる進軍に、唸るようにアスランが疑念を述べる。

 

ヤキン・ドゥーエ内部の通路はMSがギリギリ並べる程度の幅は有るが、そこをMSで埋められては戦いに勝ったとしても残骸に道を塞がれてしまうのだ。

残骸を撤去すようとしても、撤去する端から新たな敵機が現れてしまうだろう。

そうなった場合は、通路を構成する岩盤をサーベルで切りつけてはフリーダムの火器で打ち崩して、新たなルートを築くしか無い。

フリーダムもテスタメントジャスティスも、()()()()()が大きいゆえに穴を開けるのも一苦労だ。

 

時間が掛かるが、それでもヤキン・ドゥーエの戦力を考えれば何度かは仕方がないはずだった。

しかし現実には、内部に侵入してからは先程の一度だけで済んでいる。

まともな作戦指揮がされていない証左だ。

ヤキン・ドゥーエ側の無線封鎖は既に完了している様子で、新たな情報を得ることは出来ない。

 

(もしかして、父が居ないのか? ……いや、父が要塞内の戦闘指揮までするわけじゃない)

COMPASSにとっては、パトリックがヤキン・ドゥーエに居ないというのはかなり最悪のパターンだ。

しかし、ジェネシスが破壊されて既に数十分。

高速艇なら、充分プラント本国からすぐ近傍のヤキン・ドゥーエに戻ってこれる時間だ。

 

独裁体制を築いた最高指揮官だからこそ、戦略の根幹であるジェネシスが破壊されれば、軍部の動揺を抑え、威信を保つために必ず戻ってこざるを得ない。

それが情報官の分析だ。

 

そしてどちらにせよ、要塞内部の戦闘指揮は当然要塞の司令官が行う仕事。

パトリックと司令官のどちらも居ないというのは、戦時下である以上ありえない。

だと言うのに、状況が矛盾する。

(無線封鎖というより、要塞のメインサーバーからの応答自体が死んでいるのか……?)

 

拭いきれない疑念を抱えたまま機体を進め、突き当たりのT字路にさしかかった、その瞬間だった。

『見つけたァ!!』

 

「なにっ?!」

T字路の右側の死角から、巨大な機体が完全に通路を塞ぎ、壁に火花を散らしながら突進してくる。

閉所で範囲が限られていたとはいえ、レーダーには何も反応が無かった。

ミラージュコロイドステルス。

その言葉が脳裏に浮かぶより先に、後ろの縦道にいるフリーダムを押しのけながら下がろうとする。

 

『アスラン?!』

しかし、相手の方が上手だった。

機体から見覚えのある形状(イージスと同じ)にクローが開くと、逃れようとしたテスタメントジャスティスをくわえ込む。

 

IFFが照合される。

ZGMF-X11A(リジェネレイト)

 

管制室とは逆となる、T字路の左側に押し込まれながらアスランは叫ぶ。

「キラッ!! おまえは先に行け! こいつは俺が片付ける!」

ザフトの核動力機。

相手をするには時間が掛かる。

 

瞬時にそこまで判断してアスランが叫ぶと、キラは苦渋を滲ませて声を絞り出した。

『……分かった。だけど!!』

縦道からT字路の交点へと躍り出たフリーダム。

その視線の先には、アスランを左へ押し込んでいくリジェネレイトの巨大な背中が晒されている。

フリーダムがレールガンとプラズマ砲を連射。

貫通してアスランに当たらないよう、意図的に出力を絞った攻撃だったが、逃げる余地の無いリジェネレイトの背部が確実にダメージを受ける。

 

『絶対に追いついてきてよ!』

 

『勿論だ!』

キラに白兵戦は酷、そう分かっていても今は任せるしか無かった。

逆にキラならば基地のシステムに細工もできるだろう。

 

そう思考を切り替えて、管制室に向かっていくフリーダムの後ろ姿を見送る。

リジェネレイトはアスランをクローに捕まえたまま、次々と隔壁を開き、ザフトの機体を押しのけて。

 

やがて封鎖されていたゲートをも突き破り、宇宙へと押し出した。

スペースが空いたことで、ようやくクローを振りほどく。

 

「クソッ」

予想外のタイムロスに思わず悪態をつくアスランへ、リジェネレイトから通信がつながる。

 

『その声、まさかアスラン・ザラかぁ!? 傑作だなぁ、まさか自慢の息子に裏切られるなんて、議長(パパ)も考えてなかっただろうなァ!』

 

高らかに嘲笑する声が、アスランの脳裏をひっかく。

カーペンタリアで見た、痛んだ赤服。

捕虜であるカガリを、無理矢理穢そうとしていた男。

名前を確か──

 

『今度こそたっぷり遊べるなぁ! ……アハハッ、お前も俺の人形に加えてやるよ!』

アッシュ・グレイ。

 

 

その声とともにリジェネレイトが姿を変えていく。

異形の、しかしアスランからすれば慣れている姿から、誰しもが見慣れた人型の、しかし違和感を覚える姿へ。

通常のMSの1.5倍近い巨体(全長35.6m)

 

『ほらほらッ! 逃げられるか?!』

 

「くっ!」

触手のように伸びた両手や足、更にフロントアーマーから、不規則な軌道で放たれるビームの雨。

それをなんとか掻い潜り、背部のリフターを分離して飛び乗ると、ビームサーベルを構えて一気に距離を詰めた。

 

『ざぁんねん!』

先程までビームを放っていた基部が、今度は巨大なビームソードを形成する。

うねる手足から伸びる、1本1本が20m近い刀身。*1

それがアスランの間合いの外から振るわれる。

 

アスランは慌ててリフターを急上昇させ、逃れる。

(なんて火力だ……!)

MS離れしたサイズに見合った火力。

 

一旦距離を取ろうとするが、

『おやおや、追いかけっこか?』

再びMA形態に変形し、テスタメントジャスティスを超える加速力でアスランへ向かってくる。

 

咄嗟にリフターを蹴り飛ばして分離。

こちらを追い越していくリジェネレイトを挟み込むように、上下に分かれて回避する。

そして通り過ぎていくその背中に、ビームライフルとリフターのビームキャノン。

 

『……クソが!』

運よくキラが抉ってくれた背部の傷に当たったようだ。

一部のスラスターが停止し、バランスを崩して錐揉み状態に。

しかしリジェネレイトは、再びMS形態に戻ることでバランスを取り戻した。

 

一方アスランはリフターを背中に戻し、フゥと息をつく。

「後出しなのは百も承知だが……」

カガリのあの輝きを曇らそうとした男を、許すわけには行かない。

アスランの脳裏で、何かが弾ける。

 

『次はこっちだ!』

背部から取り出した長大な砲身(ロングビームライフル)から、ビームが放たれる。

見るからに高出力だが、砲身のサイズも相まって今のアスランからすれば至極見切りやすい。

足からも同時にばらまかれるビームの雨に、X軸(左右)Y軸(上下)ではなく、Z軸。

ビームの雨の隙間に、踏み込みながらかいくぐる。

 

テスタメントジャスティスがライフルを正確に、ビームソードの基部へ。

『何だと?!』

1つだけではない。

2つ、3つ、4つ。

 

ロングビームライフルを構え、それでいてスラスターを損傷した機体には、機敏な動きには限界がある。

だからといって普通狙って当てられるものではない。

そんな常識を、アスランの技量が覆す。

 

そうして、無防備になった懐に飛び込む。

「……終わりだ」

 

リジェネレイトの胴体に、ビームサーベルを突き出す。

致命的なはずのその一撃に、しかし

『……ハハッ』

鼻で笑う声が返ってくる。

 

「なにッ?」

確実に貫いたはずの、リジェネレイトの動きが止まらない。

むしろ手足を伸ばし、クローが再びテスタメントジャスティスを捉えようとする。

 

『いやぁ、強いなぁアスラン・ザラ。……でもザァンネン、こっちはリジェネレイト(再生)なんだ』

 

含み笑いとともに、リジェネレイトの背中からなにかが分離する。

アスランが知る由もないが、リジェネレイトの本体はバックパック(コアユニット)

動力もコックピットもそちらにあり、変形機構を備えるMS部分は、言ってしまえば追加武装なのだ。

 

アスランが振りほどこうとするが、関節に絡んだクローをすぐには排除できない。

そうこうする内にも、分離したバックパックがヤキン・ドゥーエへ近づいていく。

 

()()を呼び出してもいいが……スラスターをやられちまったからなぁ?! となるとやっぱりこっちかぁ!』

 

ヤキン・ドゥーエの隠しゲートが開き、赤い宇宙艦が現れる。

その先端から巨大な砲塔が分離し、こちらに飛び出してきた。

 

アスランがクローを振りほどく頃には、その砲塔の突き出した2本の砲身の隙間(マルチロック・ポート)にリジェネレイトのコアユニットが滑り込んでいた。

 

『これがミーティア(超高速戦術強襲支援機)だ!! さぁ、もう一度遊ぼうぜぇ!!!』

再びの哄笑とともに、空間を支配するほどのミサイル(60cm対艦ミサイル発射管✕77門)がテスタメントジャスティスへ向かっていった。

 

 


 

リジェネレイトをアスランに任せ、フリーダムはダウンロードしたマップどおりにヤキン・ドゥーエの深部──管制室が位置する中枢区画へと到達していた。

 

エアロックの有るここから先は、MSでは進めない。

キラはフリーダムを隔壁の死角に停めて、起動ロック。

少し悩んで、まともに撃ったこともないが一応拳銃を持っていく。

後はいくつかのポーチをベルトにくくりつけて、ノーマルスーツのまま機体を降りた。

 

小型端末(モバイル)からケーブルを伸ばし、壁面のメンテナンス用ポートに物理接続する。

手のひら大の小さなキーボードを叩き、要塞のメインシステムへの不正アクセス(ハッキング)を試みる。

 

「……駄目だ。システムが完全に落ちている」

恐らくは、どこかのタイミングで中枢のサーバー自体が落とされている。

だから要塞内の部隊に、まともな迎撃命令すら届いていなかったのだ。

これ以上のハッキングは無意味。

キラはエアロックの扉のみを操作して開くと、端末をポーチにしまった。

 

エアロックを通り過ぎると、非常灯に照らされた薄暗い通路が広がっている。

キラが一気に駆け抜けようとすると、澄ました耳に微かな怒号と金属音が届いた。

 

足取りを変え、極力音を抑えて壁に背をつけながら歩めば、音はどんどんと大きくなっていく。

開きっぱなしのドアの隅に、身を潜めるように覗き込めば、予想だにしない光景が広がっていた。

 

 

「撃ち合いたいわけじゃない、道を開けろ!!」

「もうジェネシスは破壊されているんだ、諦めて投降しろ!!」

ザフトのノーマルスーツを着たものと軍服を着たものが、向かい合って撃ち合っている。

ノーマルスーツを着用した側は、ヘルメットにきれいなステンシル(転写)で"D"と書かれていた。

 

 

*1
ミーティアと同型のMA-X200 ビームソード。リジェネレイトではビーム砲兼用。




すげー地味な因縁張っていました。
3章ではおとなしめに調整した分(日常で戦闘シーンほどハジけてたら病院送りなので)気付く人は居なかったと思いますが。
アスランがクローに羽交い締めにされるシーンを書きたかっただけです。

・ミーティアユニット+X11A
大凡原作通りのミーティア。
しかし、フリーダムは奪取、ジャスティスは地球からL4直行したため届けられず、テスタメントは(ザフト視点で)未完成・放棄、プロヴィデンスには絶対つかない、ということでリジェネレイトコアユニット向けの調整がされている。
具体的にはコアユニットとのクリアランスを確保した上で、パワードレッドじみた大型アームが最初から付いており、コアユニットだけ接続しても左右の砲身を振り回せる。(通常のMSであれば腕を連結することでクリアランス分離れた砲身にアクセスできる。)
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