SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
(……どういうこと?)
向かい合うザフトの軍服とノーマルスーツ。
キラが耳を更に澄ますと、それらしい言葉が漏れ聞こえてくる。
「なぜパトリック・ザラを庇う?! 奴のしたことは、プラントから誇りを奪い取る、ただの虐殺だ!」
「ナチュラルの絶滅無くして、コーディネイターの平和は訪れない!! 血のバレンタインを忘れたか?!」
ヘルメットを投げ捨てた銀髪の兵士が怒鳴ると、奇しくも同じ銀髪の軍服の主が吐き返す。
どうやら
(クーデター……? このタイミングで?)
都合が良すぎるのではないか、とも思う。
だが、ジェネシス破壊の混乱を狙うというのは、実に合理的な判断だ。
例えば、ヤキン・ドゥーエのジェネシス管制機能を狙って下準備していたタイミングで、突如ジェネシスが破壊されたなら。
これ幸いと、クーデターを一気に進める可能性は十分にある。
(であれば……)
実際今ここにキラしか居ないCOMPASS側からすれば、クーデター側と協力できればそれに越したことはない。
戦闘後にクーデター側と決裂したとしても、それはその時だ。
キラは防衛側のバリケードの配置を見極めながら、腰のポーチから3つ取り出し両手に振り分けて構える。
そして叫びながら身を翻して、駆け出した。
「COMPASSです!! 介入します!」
突然の乱入に、両者に1拍の沈黙が訪れる。
その間にキラは、壁面を駆け上がりながら投擲した。
バァン、という強烈な爆轟。
音の反響まで計算された3つの振動源は、波の重ね合わせを以て脳を直接揺らしたかのような衝撃をもたらす。
ヘルメットを被るキラすら耳が痛むような感覚を覚えながら、床にゴロゴロと転がりながら着地する。
当然、生身の軍服のままだった防衛側の被害は甚大だった。
ほとんどの人員はうずくまり、直前で耳を押さえたらしい数人もフラフラと足取りが定まらない。
一方でノーマルスーツを着ていたクーデター側の兵士たちは、衝撃にたじろぎつつも銃を構え直そうとしている。
……もっとも、自らヘルメットを脱ぎ捨てていたクーデター側の指揮官だけは、「うぉぉお……」と膝をついて呻いていたが。
それでも、彼は頭を振りながら必死に指示を絞り出す。
「行け……ッ、行け!!」
その怒声に呼応し、クーデター側が一気にバリケードになだれ込んだ。
彼らは軍人らしい無駄のない動きで、耳を押さえてうずくまる防衛側の武器を次々と蹴り飛ばしていく。
ふらつきながらも銃を構えようとした数名も、瞬時に壁に押し付けられた。
キラが膝を立てた頃には、通路は既にクーデター側の手によって掌握されていた。
「……お前が、COMPASSか。全く、余計なことをしてくれたな」
片手で耳を押さえ、顔をしかめたままの銀髪の指揮官は、言葉とは裏腹に手をキラに差し出した。
躊躇いがちにその手を取り、引かれるままにゆっくりと身を起こす。
「はい……。COMPASS所属のキラ・ヤマトです。すみません、状況を教えてもらっていいですか?」
「イザーク・ジュールだ。今はレジスタンスに身をおいている。……見ての通り、といったところだが。我々はジェネシスの再発射阻止と停戦を掲げている。……ジェネシスは、お前たちが?」
イザークの問いかけにキラがゆっくりと頷くと、イザークは小さくため息を吐いた。
「そうか。こちらでカタをつけたいところだったが……まぁいい。では、残すところはパトリック・ザラの身柄だけだ。ヤツを捕えた後は、停戦のテーブルを整えてもらうぞ」
言うだけ言って、背を向けて通路の先に歩き出すイザークに、キラは慌ててついていく。
やがて、その突き当たり。分厚い重隔壁で守られた管制室の扉。
イザークは壁に背を張り付け、警戒を怠らずに扉のパネルを操作する。
通路の中央では、クーデター部隊が膝立ちの姿勢でアサルトライフルを構え、完璧なカバーリングの陣形を敷いている。
キラも慌てて、反対側の壁に背を当てた。
いくつかイザークが操作すると、赤く光っていたドアの色が緑に変わり、パシュッと音を立てて開く。
しかし、何の動きもない。
不審に眉を寄せたイザークが、背中のライフルではなくホルスターから鋭く拳銃を抜き放ち、前転しながら室内に飛び込む。
左右を素早くクリアリングし、銃口を下げたイザークは、呆然とした声を上げた。
「……誰も居ない。……パトリック・ザラは、どこだ?」
「クソっ!」
アスランは悪態をつきながら、テスタメントジャスティスを横滑りさせる。
ミサイルをガンランチャーとリフターのビームで打ち払うが、とても追いつかない。
PS装甲には無意味なはずのミサイルの爆炎に、姿勢が崩れると、
『ほゥら、どうだ?』
巨大なビームが飛んでくる。
紙一重でかわすが、余波がPS装甲をただれさせる。
「一体何なんだ?! あのバケモノは?!」
ミーティアユニット。
本来は、フリーダムとジャスティスの為に製作された支援装備。
MS用としては最強・最大の120cm高エネルギー収束火線砲と、大型のMA-X200ビームソードを持つアームユニット。
高い速射性と射角を誇る93.7cm高エネルギー収束火線砲と、戦艦並の出力とMSの機動性を両立する新型エンジンを備えた本体。
そしてそれらの隙間という隙間に埋め込まれた、60cm対艦ミサイル発射管が合計77門。
アスランはその詳細は知らないが、本来MS1機相手に振り回すようなものではない。
ちら、とヤキン・ドゥーエの側を見る。
内部に戻って、ミーティアを使えなくするのも手だ。
しかし、『ホラホラ、どうしたぁ?!』と景気よくミサイルを放ち続ける相手が、ヤキン・ドゥーエまでの移動を許してくれるか。
そしてゲート付近の直線部で撃たれても逃げ場が無い。
軌道を急変化させ、ミサイルを避けきる。
(アークエンジェルのことも考えれば、ここで仕留めるに越したことはない。……狙うとすれば、死角だが……)
先程までのリジェネレイトすら上回る巨体。
近接戦闘に持ち込めば、やりようはある。
だが、リフターを持つテスタメントジャスティスすら置き去りにする推力。
近づけられるか、そうしたところで逃げられないか。
ヤキン・ドゥーエ内部という閉所での戦闘を想定していたため、防御範囲優先でエールのシールドを持ち込んでいたのだ。
次々と放たれる火線を回避に専念して避けきる。
(いつまでミサイル撃っているんだ……!)
心中で悪態をついてしまう。
ミサイルの弾幕が尽きれば一気に楽になるはずなのに、全くその気配がない。
アスランの脳裏で戦術を組み合わせる。
(どんなに強力な兵器でも、操る人間はただ一人……そこに賭ける!)
「うぉおおおお!!!」
分離したリフターに飛び乗り、雄叫びを上げながらライフルを連射し突進する。
『馬鹿が! 飽きちまうぜ!』
ビームとミサイルの弾幕。
アスランの放ったライフルは、分厚いミサイルの壁に阻まれて中途半端な距離で誘爆を起こし、煙を上げるにとどまる。
それでも残った大量のミサイルが、テスタメントジャスティスに向かってきた。
そこで、アスランは機体を90度真上へと跳ね上げた。
リフターの底面がミサイルを受け止めながら上方向へ加速し、大量の爆煙を振り払いながら進んでいく。
『だからどうした!』
リフターに偏差射撃でビームが放たれる。
しかしリフターは、
ビームは虚空を裂いた。
その動きに、一瞬の疑念を覚えるアッシュ・グレイ。
だが、それは遅すぎた。
「……………!!!」
無言でビームサーベルを
『なん、だと……』
困惑の声を上げるアッシュ・グレイを置き去りに、リジェネレイトの核動力が爆発する。
アスランは飛び退いて避けた。
「……ふぅ」
息を吐きながら、アスランの額に汗が滴る。
急上昇のタイミングでリフターとの連結を解除し、リフターのブラインドと爆煙にまぎれる形で、あえて
軽くなったリフターが相手の予測を超えるのも、当然のことだ。
しかしアッシュ・グレイは歴戦の兵士だからこそ、リフターの動線を予想して視線をその先に向けてしまった。
結果的に見落とされる形となったアスランが慣性を活かした最小限のスラスターで接近し、長大なサーベルを振るったのだ。
もし相手が惑わされなければ、リフターの推力を一時的に無くしたアスランの側が窮地に陥るところだった。
リフターが背中に戻ったあたりで、ヤキン・ドゥーエへ視線を向ける。
(キラを追いかけなくては……)
しかし、視線の先から現れた姿に思わず目を丸くする。
『アスラン!』
「キラ?! もう終わったのか?」
通信を繋ぎながらフリーダムが飛び寄ってくる。
確かにリジェネレイト相手に時間は食ったが、管制室を抑えたとすればあまりに早すぎる。
アスランの疑念に、キラが笑みを浮かべながら答える。
『実は、プラントの側でもクーデターが進んでいたんだ。そっちと協力して管制室を抑えた』
「そうか……。良かった」
どうやらプラントの側にも、理性を持った人間はちゃんと居たらしい。
安堵のため息を付くアスランに、キラが言い淀んだように続ける。
『でも……パトリック・ザラが居なかったんだ。調べたら、ジェネシス破壊の少し前に急遽アプリリウスへ向かったって』
『……破壊の前に?』
後ならば、まだ考えられる範疇だ。
命惜しさに逃げ出すなり、体勢を整えようとするなり、なんとでも思いつく。
しかし前となると、この戦時下では理由が考えにくい。
向かった先はアプリリウス。
プラントの首都では有るが──
(……まさか?)
アスランの脳裏に、一つ思いつきが浮かぶ。
しかしそれを口にするより先に、盛大にノイズが走る通信がつながる。
『フリーダム、ジャスティス! 状況はどうなった?!!』
もう一つ開いたウインドウに、鬼気迫る表情の女性が映る。
『バジルール副長? ヤキン・ドゥーエの管制室は抑えました。ただ──』
キラが報告をしようというのが、アスランの側のモニタにも聞こえる。
しかしそれを、ナタルの大声が遮った。
『ならば良い! 即刻アークエンジェルへ戻れ!! 今すぐ!!!』
オープンチャンネルから声が聞こえる。
『やぁ……遅かったじゃないか』
アークエンジェルが視界に収まるまで急行したキラとアスランは、思わず絶句した。
そこら中に大穴が空き、
その周囲には、地球連合のエースたちと、量産型のハイペリオンの残骸が骸のように転がっている。
残るのはムウのオオトリストライクと、カナードのハイペリオンだけ。
しかしストライクは
『坊主共、遅いぞ!! クルーゼの野郎、今回ばかりは尋常じゃない!!』
通信を繋ぎながらアーマーシュナイダーを振るうムウのストライクだが、敵機は軽やかに飛び去るだけだ。
機体名がIFFへ浮かぶ。
『ラウ・ル・クルーゼ!! 戦闘をお止めなさい!!』
ラクスの叫びが通信に乗るが、どこ吹く風と言ったふうに
『クソッ!!』
力を失ったストライクが、ヤキン・ドゥーエの外壁に横たわる。
ハイペリオンも最後の力を使い果たして、蹲ってしまった。
「……ラウ・ル・クルーゼ!!」
キラの脳裏で何かが弾け、
今の状況だけではない。
ムウからその名を聞いて以来、忘れたことなどなかった。
キラのストライクとムウのメビウス・ゼロに追い詰められた末、撹乱のために意図的にヘリオポリスを破壊した下手人。
見慣れた大地が千々に引き裂かれていく様は、キラの脳裏に未だ残っている。
しかしプロヴィデンスはフリーダムの射撃をなんでもないように躱すと、両手にライフルを構えて連射。
「くっ!」
キラがなんとかシールドを差し出してそれを防ぐ。
『クルーゼ隊長!! ジェネシスは破壊し、ヤキン・ドゥーエは抑えました。……もはや抵抗は無意味です、投降してください!!』
アスランの懇願するような声が通信に乗ったが、帰ってきたのはむせ返るような哄笑だった。
『投降? なぜだ? 私は今、かつてないほどの喜びに震えているというのに!!!』
その網目に潜り込むようにしながら、辛くも逃れる。
『素晴らしいと思わないかね……?! 地球のすべての人々が君たちの背を押し、プラントではレジスタンスが立ち上がった。ジェネシスの地球発射という狂気に抗おうと、ザラ派という僅かなノイズを除いた全人類が、今一つに団結した!! 実に、有史以来の奇跡だろう!』
避けようとした瞬間に回り込むように、あるいは時間差を置いて行き先を封じるように。
11機の砲台の、更にそれに備え付けられた
「うわぁ?!」『くっ』
さすがのキラとアスランも避けきれない。
ウイングバインダーや肩の装甲といった部分でダメージコントロールを行ってはいるが、次々と穴が空いていく。
『ジェネシスは破壊されてしまったが……ならば、新たに建造するまでだ! 一つで足りぬなら二つ、三つと!
「何を?!」
これほどの恐怖と反抗を招いたジェネシスを再建する、それもいくつも。
何を考えているかも分からず、思わず問いかけてしまう。
『気付いていないのかね? ……いや、そんな筈がない! 愚かな人が個々のエゴを捨て、団結できたのは何故か!! 見て見ぬふりをせず、恐怖に抗おうと手を取り合ったのは何故か!!』
サーベルを構えたプロヴィデンスが突っ込んでくる。
キラがシールドでそれを押し留め、その背後からアスランが斬りかかる。
しかしプロヴィデンスはドルフィンキックのようにフリーダムを蹴ると、その反動で身を翻しながらテスタメントジャスティスへ斬りかかる。
アスランはシールドを切り飛ばされながら、辛くも逃げ延びた。
ラウ・ル・クルーゼは、常に絶望し、諦念し、軽蔑していた。
短く定められたその
だが違った。
それは確かにあったのだ。
漆黒の
「幾度となく地を焼き、そして
それは知的好奇心なのか、独善なのか、当てつけなのか、あるいは初めて世界に抱いた執着なのか。
もはや、クルーゼ自身にすらわからない。
しかし虚無感と愉悦にただ流されていた彼に、強烈な
まるで、
クルーゼの脳裏で、黒い稲妻が閃いた。
彼を苛み続けてきた寿命への絶望、人々への憎悪、諦念。
その固く冷たい殻が砕け散り、隠された種子が弾ける。
「この私がッ! 人類の
当方はACも大好きです。
解釈違い言われないか心配。
ラストバトルですが次はお時間ください。