SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
「そんな……そんな理屈ッ!!」
混乱と苛立ちをぶつけるように、フリーダムの
しかしプロヴィデンスは、最小限のスラスターで自機のベクトルをずらしながら、AMBACでくるりと回って簡単に避けた。
たしかに今、戦争終結への道筋が浮かんでいるのは、ジェネシスが撃たれたからだ。
殺される恐怖は大西洋連邦内のクーデターを呼び、殺す恐怖はプラントのレジスタンスに繋がった。
それは、否定のしようがない一面の真実だ。
「何の理屈だそれは! そんなものは、ただ恐怖の奴隷になっているだけだ!」
フリーダムの砲線の死角を縫うように、テスタメントジャスティスがリフターを吹かして飛び出す。
応戦するようにいくつかの
アスランはそのビームを波乗りするように乗り越えて、そのままプロヴィデンスの頭上に回った。
「あえて強力な敵を作り、その恐怖を煽って民衆の自由と意思を差し出させる……!
急降下しながらサーベルを突き出す。
プロヴィデンスは一瞬向き直るように上を向くと──
『それは否定しないがねッ!』
ひらりと身を翻す。
プロヴィデンスの巨体にブラインドされていた
「くっ……!」
無理やり軌道を変えたが、右腕がコンボウェポンとともに吹き飛ぶ。
「アスラン!」
援護しようとフリーダムが猛烈な推力で急接近し、プロヴィデンスへ向けてサーベルを振るう。
しかしプロヴィデンスの動きは常軌を逸していた。
アスランの右腕を吹き飛ばしたのと同時、プロヴィデンスは左手の複合防盾でフリーダムの刃を強引に打ち払う。
そして、既に構えられていた右肩の大型ビームライフルをゼロ距離発射。
咄嗟に突き出したフリーダムのシールドが限界を迎え、左腕ごと光の中へ消えた。
『しかし、人類の積み重ねてきた血の業を思えば、すべての者が同じ立場に堕ちる、それ自体が奇跡なのだよ!』
クルーゼが心底愉快そうに嘲笑う。
貧富の差も、立場の違いも、コーディネイターとナチュラルすらも関係なく、同じ恐怖の奴隷となるという
プロヴィデンスを中心に、
キラとアスランが共に機体をロールさせながら逃れる。
(駄目だ、まずはあの独立砲台をやらないと……!)
通信を繋いだままのキラからアスランへ、アイコンタクト。
アスランは小さく頷く。
『人はどんな状況であっても、優越をつけたがる。他者より強く、他者より先へ、他者より上へ──!』
二人の思惑など透けて見えるとばかりに、クルーゼの言葉が戦場に響く。
テスタメントジャスティスが一気に切り込もうと再び突っ込んでいくと、いくつもの独立砲台がそちらを向く。
それがビームを放つ瞬間、マルチロックを使用したフリーダムの砲口が前を向いた。
『しかし真の絶望に抗うためには、生存本能という最大のエゴを通すには、それを飲み込んで手を携え合うしか無い!』
「うわぁ?!」「なにッ!?」
キラが引き金を引いた瞬間、フリーダムの背後から忍び寄った
姿勢を崩したフリーダムの砲撃は、狙いを外すどころかテスタメントジャスティスに向かっていった。
「ゴメン!」「構わない、撃て!」
その声と共に、フリーダムは加速。
独立砲台の乏しい推力では、同時に加速する2機について行けない。
分離したリフターに飛び乗ったアスランは、向かってきたビームライフルをリフターから跳ね飛んで回避。
そのままリフターを突っ込ませる。
フリーダムも側転で弾幕を躱しながら、プラズマ砲とライフルを連射。
そしてテスタメントジャスティスは敵機の頭上からライフル。
逃れようも無い、3方向からの十字砲火。
『これが真実だ。団結や助け合いと言った綺麗事は、真の絶望の下でしか輝くことはない!!』
プロヴィデンスは、機体をくるくると回転させながら頭部機関砲、複合防盾のビーム、右手のライフルをまとめて連射。
リフターのビーム砲塔を沈黙させ、飛び込んできたリフターを豪快に蹴り上げる。
「ぐっ」
蹴り上げられたリフターがテスタメントジャスティスに激突し、共に跳ね飛ばされる。
『だから私が、絶望をもたらそうと言うのだ!!』
一方のプロヴィデンスは、複合防盾から大型サーベルを展開してフリーダムへ襲いかかる。
振り払われる刃をなんとか避けたはずだったが、先回りした独立砲塔がフリーダムの右足を奪った。
「そんなことッ……何のために?!」
キラの悲痛な叫びに、プロヴィデンスの動きがピタリと止まる。
『──何のため、というのはいささか即物的だな。人は必要だから行動を起こす、それだけでない』
動きを止めたプロヴィデンスの背中に、独立砲台が
しかし両腕から放たれるビームが、キラとアスランに攻撃を許さない。
『
距離が開いたところで、アークエンジェルから援護射撃。
大量のミサイルが吹き出し、
「そんな……個人の興味のために、ジェネシスを?」
アスランに、戦闘とは別の戦慄が走る。
クルーゼは、少なくともアスランにとっては悪い上官では無かった。
むしろ好き勝手する隊員達の手綱を握ってまとめ上げ、見事に導いた。
その人物が、これほどの狂気を宿していたとは。
『なんだアスラン、個人の意思を否定するのか? 先程まで専政を否定していた君らしくもない!』
プロヴィデンスはゴットフリートをスッと避けると、自機を囲う籠の様に独立砲台からビームを展開。
ミサイルはそれを破ることもできず、次々と爆炎を散らしていった。
『未だプラントにも、地球にも、愚か者は居る! ジェネシスのデータを流出させれば、その者達の恐怖故に新たなジェネシスは必ず建造される!』
自機の回りにビームを張り巡らしたまま、煙を払ってプロヴィデンスが突進してくる。
連携を取るべく、合流しようとしていたフリーダムとテスタメントジャスティスの間に割り込み、2機を再び散開させると、傲然とこちらを向き直った。
『……心配せずとも、その
両手を開いて胸を張るプロヴィデンスの元から、再び独立砲台が次々と飛翔する。
「そんなこと、させやしない!」
キラとアスランが、それぞれ自分に向かってくる砲台を迎撃しようとライフルを連射する。
しかし、その引き金が不意に固まった。
独立砲台の巧みな配置が、互いの射線上に2機を向かい合わせ、
慌てて機能をOFFにするが、無抵抗の瞬間が発生した。
放たれたビームが、フリーダムとテスタメントジャスティスのライフルを同時に爆散させる。
『しかし重ねて言うが、これは人類にとって利点のある話でもあるのだ。私が天敵として君臨することで、ナチュラルとコーディネイターの絶滅戦争が起きることは無い。……かつて
アークエンジェルから先ほど放たれたミサイルの一部が、大回りをしながらプロヴィデンスに向かってくる。
普通であれば、少なくとも虚を突かれるはずの奇襲。
しかしプロヴィデンスは、同時に放たれたゴットフリートを見もせずにギリギリ躱すと、その光で自らに向かうミサイルを焼き払った。
「……フハハッ! 私が、究極の平和の導き手というわけだ!!」
自らの
デブリの一欠片も、先程視界の外でストライクの残骸からムウが脱出したことも、全てを。
「……だが、天敵に対して勝ちの目が現れてしまえば、それは成り立たない」
プラントに対して勝ちが見えたがゆえに、直前まで血を流し合った
恐怖のくびきが弱まれば、人はまたすぐさま争いを始める。
(……それではつまらない。そんなモノは、もう見飽きた)
ドラグーンの包囲網に追い回される二機を見下ろしながら、仮面の下で酷薄な笑みを深める。
「だから、君たちはもう……死んでいい!!」
未だ戦場の遙か彼方の、バスターニンバス。
L5を飛び出してからメビウスを使い潰し、数十分かけて減速。
排熱ごとメビウスを投げ捨てて停止した頃には、ヤキン・ドゥーエから10万kmの彼方だった。
そこから機体のスラスターで折り返しの加速、後は数時間かけて等速運動でゆっくりとアークエンジェルと合流するだけ。
実際のところ、単身で直接地球に戻るのも手間は大して変わらないのだが、キラを置き去りにするつもりはなかった。
トールは仲間の無事を祈りながら、キリキリ痛む腹を撫でる。
そんな中、バスターの肩に付けられた超長距離センサーがヤキン・ドゥーエの周りを、芥子粒より小さく飛び回るMS達を捉えた。
「……あれは?」
アークエンジェルのブリッジの扉が、異音を立てながらも開く。
中途半端に開いて止まった扉を、男性の腕が無理矢理開いた。
戦場に介入できるタイミングが無いか、必死にモニターを見つめていたマリューが思わずそちらを向く。
「……ッ?! ムウ!!」
立ち上がり、駆け寄ってくるマリューをムウは片腕で抱き留めた。
もう片腕は頭を抑え、眉は大きくしかめられている。
戦闘の混乱の中、大破したストライクを捨てて
「……心配すんなって。俺は不可能を可能にする男さ。……しかしクルーゼの野郎、
ムウの悪態に、マリューは僅かに首をかしげる。
軍人達は相手にしていなかったが、先ほどまでオープンチャンネルでくり広げられた長広舌のことだろうか。
(まったく、まさかこんな風になるとは……)
一方脳裏に直接響く悪意に、ムウは顔をしかめたままだ。
戦域全体に広がる、クルーゼの
それは余人にとっては何の影響も及ぼさない、ただのイメージだ。
しかし、
クルーゼの憎悪や諦念、それを超越した興奮と使命感もムウに届いている。
(……だが、だからこそ)
ムウはマリューから腕を離し、真剣な表情で告げる。
「マリュー、いや艦長。俺にローエングリンのトリガーをくれ」
『よく粘るな! ……そうか、君が
嘲笑う声を聞き流しながら、キラは意識を集中する。
(……相手の対応は常識では考えられないレベル。意表を突く、それしか無い)
そうなると、独立砲台を狙うにはパターンが足りない。
狙うは本体。
フリーダムは既に右脚と左腕、ライフルを失っている。
幾度となく盾となったウイングバインダーも穴だらけで、慣性制御は期待できない。
テスタメントジャスティスも同様にライフルと、右腕。
更にリフターのビーム砲もへし折れており、遠距離攻撃能力はないも同然だ。
「……行くぞ」
アスランの脳裏で何かが弾ける。
テスタメントジャスティスは分離させたリフターの背に乗り、最大推力でプロヴィデンスへと突進する。
無数の
そしてプロヴィデンスに肉薄する寸前で、足元のリフターだけをパージして射出した。
「単調だなッ!」
だが、クルーゼはは最小限の挙動で機体を滑らせ、特攻してきたリフターをあっさりと躱す。
それでもテスタメントジャスティスは、慣性のままに間合いに飛び込み、残された左腕でビームサーベルを薙ぎ払った。
しかし、空間認識能力の頂点に立つクルーゼにはそれすらも見切り、刃は空を切る。
その瞬間。
『いっけぇぇっ!!』
背後から猛追してきたフリーダムが、
「なにッ?!」
クルーゼは何も、攻撃の意思を読み取っているわけではない。
空間認識で、敵の射線を拾っているだけだ。
である以上、同一射線上の
常識的にプロヴィデンスを狙うと考えていた思考に、僅かな戸惑いが生じる。
『ォォオオッ!』
レールガンに背中を押されることで想定外の加速を見せた左腕が、再びサーベルを振るう。
プロヴィデンスの右腕ごと、大型ビームライフルが爆散する。
「小賢しい!」
だが、代償は大きかった。
懐に入り込み、完全に隙だらけとなったところに、背後に回っていたドラグーン。
貫通して自らに当るのを嫌った末、斜めに打ち下ろされたビームがテスタメントジャスティスの両脚を根本から吹き飛ばした。
『まだだッ!』
先程のプロヴィデンスが避けた
大きく弧を描き、自動制御でテスタメントジャスティスのもとに帰ろうとしたそれに、フリーダムが力付くでしがみつく。
設計上想定すらされていない動きは、しかし二つのスラスターの力で爆発的な加速をもたらす。
予想外の加速と、早すぎるが故の対処時間の無さ。
それでも避けようとするクルーゼの認識に、ほとんど残骸のテスタメントジャスティスが放ったビームブーメランが飛び込む。
「ええいッ?!」
無理に避けようとしては、コックピットにブーメランが来る。
やむなくシールドを構えて、フリーダムの方を迎え撃とうとする。
『これで!!』
そこにサーベルではなく、ゼロ距離でプラズマ砲を放たれる。
プロヴィデンスの複合防盾が、耐えきれずに爆発を起こす。
一方で
残ったリフターがプロヴィデンスを押し飛ばしたが、いくつものドラグーンを瞬かせて破壊した。
怒涛の攻撃の末に残ったのは、左脚だけのフリーダムと、左腕だけのテスタメントジャスティス。
そして少し離れて、両手の武装を失いはしたものの機体もドラグーンも無事なプロヴィデンスだった。
クルーゼは、思わずため息を付いた。
「よくやったよ、君たちは……」
まさしく人類の
さしものクルーゼも認めざるを得ない。
「……だが、これで終局だ」
ドラグーンが、死に体の二機の下へ向かう。
戦闘は、終わろうとしていた。
トールはバスターニンバスを加速させていた。
ここでバッテリーを消費しては、余裕も使い果たして減速できなくなり、宇宙を彷徨いかねない。
しかし、それでもスロットルを押す腕を緩めなかった。
(問題は距離じゃない、速度だ)
未だヤキン・ドゥーエは500kmは先。
加速しただけで、すぐたどり着けるわけではない。
バッテリーを消費した分、戦闘も現実的ではない。
しかし、機体を加速させてレールガンの初速へ上乗せすれば。
ビームと違い、実弾は早々宇宙で減衰などしない。
どれだけ離れていても、狙いさえあっていれば必ず当たる。
唾をのみこむと、渇いた喉がかすかに痛んだ。
「……ッ!?」
隈無く広げられた空間認識が、己のテリトリーに突然現れた質量に警鐘を鳴らす。
プロヴィデンスはドラグーンへの攻撃指令を放棄し、強引にスラスターを暴発させて機体を仰け反らせた。
ビームすら容易く避けるクルーゼだが、それは空間認識内にある銃口の位置から逆算しているからだ。
外から現れた物質は、認識した瞬間から避け始めるしか無い。
閃光の如き砲弾がプロヴィデンスの胸部装甲を掠り、沸騰させながら虚空へ抜けていく。
ダメージこそ無いものの、クルーゼの精神に一瞬の空白を生み出した。
──全方位に撒き散らされていた
「……今だ!!」
アークエンジェルのブリッジで、ムウが叫ぶ。
脳を直接揺らしていた
ムウは一切の躊躇いなく、ローエングリンのトリガーを強く押し込んだ。
展開され続けていた巨大な砲身──クルーゼは撃てないと勘違いしたかもしれない。
だが実際は、撃っても避けられると踏んで、極限まで隙を見計らっていた。
この場でムウだけが、クルーゼの隙が見せ掛けか本物か分かっていた。
瞬時に光が溢れ出す。
モニター越しにプロヴィデンスへ迫る破壊の光を見つめながら、ムウの脳裏に古い記憶が蘇っていた。
自分によく似た、金髪の子供。
大嫌いだった父親が、ある日突然連れてきた少年。
アレは自分の異母弟だろうか。
だとしたら、口うるさい親父の期待をアイツに押し付けて、自分は自由になれるかもしれない。
子供心に、そんな無責任で小さな期待を抱いた覚えがある。
「……ようやく思い出したよ。俺たち、子供の頃に会っていたんだな」
コンソールから手を離し、ムウは誰に聞こえるわけでもない呟きを小さくこぼした。
「だが、コレでようやく縁切れだ──ラウ・ラ・フラガ」
核動力機のPS装甲だろうが、
白い装甲がほどけて小さな泡に覆われ──次の瞬間、核爆発を引き起こした。
宇宙の虚空には、何の影も残っては居なかった。
我ながら戦闘シーンにどれだけ文字数を…流石にテンポ悪いなぁ。
もったいないから残すけども