SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
『拾ってくれー?!』
『トール!!』
通信機から響くトールの悲鳴と、キラの歓声。
遠距離狙撃の弾着からいくらか遅れて、猛烈な逆噴射の光を放ちながらバスターニンバスが戦域へと飛び込んできた。
残されたバッテリーを使い果たし、限界ギリギリの急減速でヤキン・ドゥーエの宙域に滑り込んできたバスターを、満身創痍のフリーダムが寄り添うように体を押し当てて受け止め、自らのスラスターを吹かして完全に停止させる。
その様子を眺めながら、アスランは大きく息を吐いた。
288、まで打ったテンキーをキャンセルしてしまう。
(全く、約束を破る羽目になるところだった……)
こちらの動きを全てつかんでいた敵と、満身創痍の自機。
もはやこれまでと、予兆無しでできる
ああなってしまえば、最早生き残ることはできないだろう。
(クルーゼ隊長……)
僅かに沸き上がった憐憫の情を、首を振って追い払う。
狂ったとしか言えないクルーゼは、介錯するしか無かった。
そうする間にも全体チャンネルがつながれ、状況が共有される。
ドミニオンを質量弾としたジェネシス破壊。
その後のアークエンジェル強行揚陸と防衛。
リジェネレイトの襲撃と撃破。
レジスタンスと協力してのヤキン・ドゥーエ制圧。
そしてプロヴィデンスの凶行とその終焉。
奇跡的に擱座したMSのパイロット達も命は無事で、救出活動が行われるという。
ニコルの声を聞いて、アスランも安堵に胸を押さえた。
残る問題は、ただ一点。
『でも、パトリック・ザラはどこに……?』
マリューの上げた声に、アスランは重苦しく答えた。
「……心当たりがあります」
レジスタンスにより戒厳令が敷かれ、静まりかえったアプリリウス、その一角。
どれだけ足を潜めても、病院の床は固く音を立てた。
後続の仲間を手を上げて押しとどめ、アスランは扉を開いた。
チャキ、と拳銃を構える。
「……父上」
静まりかえった病室には、以前まで絶え間なく響いていた心電図の電子音も無い。
残っていたのは、血だまりに沈む白衣の人物と、銃を持ったまま椅子にうなだれる父。
そしてもはや生命を停止し、無数のチューブから解放された母の亡骸だった。
「……アスランか」
パトリックが僅かに首を傾ける。
アスランは銃を構えたまま、血だまりに目を向ける。
「……医者まで撃ったのですね」
「そこの愚か者が、レノアがもう目覚めぬ等とほざくからだ」
パトリックの言葉はひどく震えていた。
彼がヤキン・ドゥーエを放棄してまでここへ向かった理由。
それは戦略でも保身でもない。
ただ、愛する妻が死んだという報せに耐えきれず、全てを置いて駆けつけてきただけだったのだ。
「地上のナチュラルどもを消し去れば、レノアは再び微笑んでくれる。──なぜそれがわからんのだ!!」
怒鳴り立てるパトリックの姿に、アスランの心に怒りと悲しみが押し寄せる。
意識を閉ざした母が、それでも帰って来れたことは、家族にとって祝福になるはずだった。
だが、父にとっては呪いとなってしまった。
ギリ、と歯を食いしばる。
「……そんな妄執のために、ジェネシスを撃ったのですか?! 母上がそんなことを望むはずが無い、あなたにだって分かったはずだ!!」
「先に撃ったのはナチュラルだ! レノアだって復讐を望んだはずだ!」
アスランの叫びに、下を向いたままパトリックが言い返す。
(……もう、ムリか)
既にパトリックの心は壊れており、どんな言葉も通じない。
すべてが手遅れになる前に、アスランが止めるべきだったのだ。
家族としての甘さが、この狂気をここまで育ててしまった。
「……パトリック・ザラ。ヤキン・ドゥーエは制圧され、ザフトは停戦を選択しました。最早あなたにできることは無い。……戦争犯罪人として、あなたを拘束します」
冷たくそう告げた直後。
血走った目のパトリックが振り向き、アスランへ銃を向けた。
三点バーストで発射された銃弾がアスランの胸へ向かう。
「ぐっ……!」
痛みをこらえながら、アスランは銃を向ける。
ここでパトリックを殺してしまえば、プラントの罪と責任を背負う者がいなくなる。
死んで楽になることなど、許されない。
手にむけて銃を放つと、「くっ!」とパトリックが銃を取り落とした。
銃声に後続が突入してくる中、アスランは意識を失った。
CE71/8/31
アスラン・ザラ。
のちの戦争犯罪人パトリック・ザラの息子として産まれ、ザフト士官学校を首席で卒業した才子。
地球連合のG兵器奪取など成果を上げるも、独裁色を深める父に諫言したことから、緑服へ降格される。
降格後も地球戦線で活躍し、防衛隊としてザフトの地球脱出を成功させ、最終的にCOMPASSへ志願。
ヤキン・ドゥーエ制圧においても、重要戦力として作戦を支えた。
戦闘終了後、父パトリック・ザラの説得・拘束に向かったところ、逆上したパトリックに撃たれ死去した。
享年15歳。
「……少し、盛りすぎじゃ無いか?」
所々事実と異なる。
呆れたようにレポートを眺めていたアスランに、カガリが「良いんだよ!」と断言した。
「下手にパトリックに従っていたことにして、残党に担がれでもしたら大変だろ? 徹頭徹尾対立しておいた方がウケがいい」
カガリが腰に当てて胸を張る。
「どうせ、アスラン・ザラは死んだんだからな!」
銃撃によってアスランは気を失ったが、その最大要因は疲労だった。
銃弾そのものは、ノーマルスーツの対弾性に加えて
パトリック拘束後の政治的配慮の末、アスランはその場で死んだことになった。
今オーブでカガリの前に座っているのは、まだ誰でも無い誰かだ。
「……こんな風に生きて、良いのかな、とも思うが」
父を止められなかった責任をとるべきでは無いか。
そう苦渋の表情を見せるアスランの頭を、カガリの両拳が挟んでぐりぐりする。
「いいんだよ! 証人保護プログラムとか、昔からよくある話だ。罪は、パトリック本人に背負ってもらえば良い」
拘束されたパトリックは黙秘を続けているが、誰しもが
形式上開かれている裁判が終われば、直ぐに刑が執行されるだろう。
そのことを思うと、再び思い悩んでしまうアスランを余所に、カガリが口をひねる。
「新しい名前を考えないとな。アスラン、っていうのはつい呼んじゃうから、情報が繋がらないように別の情報を混ぜて煙幕にしたいところだ。……そうだ、こんなのはどうだ?!」
最近
告げられた名前に、アスランは目を見開くと、思わず苦笑してしまった。
CE71/10/1
オーブの海風が、白い花束を揺らしていた。
暫定的に設置された献花台には、多くはないが少なくもない人々が訪れていた。
遠く離れたオーブとワシントンであっても、相応の数の関係者がいる。
400万人という犠牲者は、そういうものだった。
「フレイが死んだなんて……まだ信じられないよ」
久しぶりに会ったサイの言葉が、キラの胸に刺さった。
ジェネシスにより、400万人の命が失われたワシントン。
地球連合とプラントの停戦が発効され、放射線も落ち着き、MS等を用いた遺体回収などが行われようとしたが──あまりに凄惨な光景に、パイロット達のPTSDが頻発。
数年にわたって封印されることとなった。
はじけ飛んだ人体と、溶けた建物。
ガンマ線によって中途半端に殺菌された環境と、夏の日差し。
それらが組み合わさった状況は、まさしく地獄絵図だったという。
結果的に各国で献花台を用意し、
かつてのアークエンジェル学生組が日時をそろえて集まったのは、オーブでの献花台が設置されたその日だった。
「……フレイも、オーブに降りとけば良かったんだ」
「カズイ、やめなさいよ……ッ」
カズイの悪気のない、しかし無神経な言葉を、嗚咽混じりのミリアリアが遮った。
フレイと最も親しかったのは婚約者だったサイだが、次いで仲が良かったのはサークル仲間のミリアリアだった。
大きなお腹を抱えて震えるミリアリアの肩を、トールがそっと抱く。
トールが知っていたのは、周りを傷つけながら自らも傷ついていく不安定な姿と、童女のような笑みで素直に感謝を告げる姿。
トールが死んだ世界で、フレイがどんな旅路をたどったか。
それは最早分からない。
それでも慕っていた父と共に逝けたことが、だからといって慰めになるとも思えなかった。
「……フレイ」
花を手向けたまま、立ち上がることのできないサイの後ろ姿。
それを見ながら、キラもまた心の傷を押さえた。
そこまで親しくなったわけでは無い。
それでも平和なヘリオポリスで、かすかな慕情を抱いていた相手だった。
彼女の父を救って満面の笑みで感謝されたときは、自分の力にも意味がある、そう信じることができた。
無くなったわけでは無い、しかし失われてしまったもの。
それに思いをはせて、キラは鈍色の空を見上げた。
CE72/4/17
「トール、そろそろ行くよ!」
「はぁーい」
ミリアリアの声に生返事で返しながらも、トールは
まだ足の裏が柔らかく、肉球じみていて気持ちいいのだ。
ちなみにミリアリアは、頬をプニプニする方が好きらしい。
「ごめんなぁ、パパとママは今日は大事な用事があるから……。おばあちゃんと仲良くしてなぁ?」
足をつかんだまま困り顔を浮かべるトールを、マグニ本人は「なんだこいつ」と言わんばかりに半眼でにらんでくる。
(……大物だ)
一年ぶりに見た悪夢に、ささくれ立った心が落ち着いていく。
既に大きく乖離し、二度と重なることはないだろうとは言え、
いい加減にして欲しいところだ。
見る方も困ってしまう。
「トール!!」
「はぁーい!!」
再び上がったミリアリアの怒声に、さすがに諦めて足を離す。
マグニの頭をひと撫でして、玄関へ向かった。
式場に着くと、既に知り合いは粗方来ていた。
カガリとともに主役と話してくるというミリアリアを見送る。
受付をしているラクスの元マネージャーに声をかけて、招待状を差し出した。
サインをする中、二人組に声をかけられた。
「トールじゃないか。……何だ、今日はマグニを連れていないのか?」
「アスランか。いや、流石に泣き出したりしたらコトだからな」
キョロキョロと周囲を見回すアスランに、苦笑しながら答える。
「残念ですねぇ……。帰りに顔を見に行ってもいいですか?」
見ている側が可哀想なくらいの表情を見せるニコルに、「大丈夫だよ」と小さく笑う。
生まれついてのオーブ国民、ということになっているアスランと、騙されたとはいえNJCをパトリック・ザラに渡してしまったユーリの息子であるニコル。
二人はオーブに身を寄せて、COMPASSに所属しながらも落ち着いた生活を始めていた。
キラとの縁もあって頻繁に会うようになっていた二人とは、トールも少しずつ友人関係を築いていた。
先月になって正式に結ばれたプラントと地球連合の休戦協定や、今後の中立国同盟・オーブの立ち位置。
そんな雑談をしながらも、トールはふと思う。
最後に凶行に走ったプロヴィデンスのパイロット、ラウ・ル・クルーゼ。
彼は『絶望があってこそ、団結という人の光が生まれる』と主張していたという。
バカバカしい話で、団結なんてそんな大したものではない。
赤の他人と協力なんて、確かにそう出来ないだろう。
だが、家族や仲間、友人といった親しい人の友人であれば、あるいはそのさらに友人であれば。
拗れることもあるだろうが、ひととき協力するぐらいはわけない話だ。
そういう
(……ま、ヘリオポリスをわざと壊すようなクズ野郎だ。友達も居なかったんだろうな)
人は、己の知っていることしか知らないのだから。
「トール、そろそろだよ」
ミリアリアの声に手を上げて応える。
集まっていたアスランやニコルも、事前の取り決め通りの位置に座る。
やがて扉が閉められ──合図とともに再び開いた。
トールの視線の先で、しずしずとキラとラクスが進む。
やがてステンドグラスから優しい光が降り注ぐ中、司祭の前に並んだ。
司祭が口を開く。
「今日、ここに婚儀を報告し、またハウメアの許しを得んと、この祭壇の前に進みたる者の名は、キラ・ヤマト。そしてラクス・クラインか?」
「はい」「はい」
二人はお互いの顔を見合わせると、照れたように微笑んだ。
これにて完結です。
自分語りで恐縮ですが、自分が小説を書くのは15年ぶりぐらい、その頃も1万字書いて力尽きるを2,3回とかでしたので、こんなに書くことになるとは思いませんでした。
元々、今日日はAIが書いてくれるというのでプロットだけ真面目に書いて後はぶん投げようとしたんですが……あんまりな出来にキレて自分で書くことにしました。
それでも最序盤はAIに校正させたので若干AI臭いですね。
どっかで改稿したいところです。
お目汚し大変失礼いたしました。
ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。