SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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CE71/1/25

 

ザフトの赤服、ディアッカ・エルスマンはいらだちを抑えながらキーボードを叩いていた。

連合から奪取したMSの解析だ。

同じ作業に没頭する整備員が何人もいる。

タタタタタという素早い打鍵音だけが部屋に響く。

 

少人数でコロニーに潜入し、連合の機密である新型MSを3機も奪取。

これだけ言えば赫々たる戦果だろう。

中立を謳うコロニーに被害は出たが、連合に協力した以上は所詮自業自得だ。

 

 

しかし目的通りの成果を上げられたのはアスランだけだ。

 

 

ラスティは戦死。

イザークとニコル、ディアッカは、ロックされて動きもしない機体のコクピットに座っただけだった。

 

(カッコ悪いぜ、まったく。……もう少しうまくやれりゃ、ミゲルも戻れたかもしれねぇのに)

 

目の前の奪取対象は3機、こちらのジンは2機。

ディアッカが一度乗り込んだ機体は固定装備が重く、運び出しは後回しになった。

結局、奪取した2機を運び出すのに同乗してコロニーを脱出。

その後、3機目を回収しに戻ったミゲルとマシューは未帰還。

 

 

結局、あれは連合に取り返されたに違いない。

ディアッカもタダで乗り捨てたわけでは無い。

ハンドグレネードとピアノ線を使った古典的なブービートラップを仕掛けておいた。

それに間抜けなナチュラルが引っかかるさまを思えば、いくらかマシだった。

 

パシュ、と音をたてて扉が開いた。

注意を削がれていたディアッカはそちらを向く。

彼らの隊長、<仮面の男>ラウ・ル・クルーゼだ。

 

 

「ディアッカ、少し良いか。……もう一度攻撃を仕掛けたいと思う。ジンでついてきてくれるか?」

 

 

一も二もなく、ディアッカは快諾した。

名誉挽回の機会だ。

 


 

 

トールたちがアークエンジェルに乗艦すると、一悶着起きた。

MAのパイロット、ムウ・ラ・フラガの質問に、キラがコーディネイターだと認めた瞬間、数人の兵士が銃を向けてきたのだ。

コーディネーターであることを確認するのはまだいいとして、だから銃を向けるというのはトールには相変わらず理解できない。

まさか、コーディネイターはすべて悪の手先だとでも思っているのだろうか。

 

 

キラをかばい、兵士と睨み合うトール。

しかし、事態は思わぬところで動いた。

 

ストライクの隣においてあったバスターから、突然ボンッと言う炸裂音が響く。

「うわぁ?!」

その場にいた全員が思わず視線を向けると、直立したバスターのコクピットからツナギを着た整備員が落ちてくる。

 

 

「危ないっ!!」

脇目も振らず駆け出したキラが、ギリギリで整備員の身体を受け止めた。

膝をついてシュルシュルと音を立てながら回転し、衝撃を逃がす。

 

「大丈夫ですか?!」

 

「あ、ああ……。ありがとう」

心配そうに問いかけるキラと、ゆっくり立ち上がる整備員。

 

どうやらバスターのコクピットを開いた瞬間、何かが爆発したようだ。

 

トレーラーにはリフトが付いていて立ち上がらせるまでは自動でおこなう為、まだバスターには誰も触れていなかった。

本来はチェックぐらいするべきだが、こちらの騒動に気を取られた整備員が不用意に開けてしまったのであろう。

 

トールは冷たい目で兵士たちを見る。

「これでもキラのこと、疑います?」

銃を向けていた全員が気まずそうに目をそらす。

 

奇妙な沈黙が続く中、マリューが咳払いをした。

 

「ンンっ! ……どうやらザフトがブービートラップを仕掛けていたようね。一度は奪われかけた機体、警戒が足らなかったわ。……マードック軍曹! バスターは大丈夫そう?」

 

マリューの声掛けに、浅黒の整備員コジロー・マードックは手際よくコクピットに上がり、身体は入れないようにして見聞する。

 

「うーむ……破損は少ないですが、一部は交換が必要です。それより先にトラップが他にないか確認したりもありますんで……。4,5時間は欲しいところです」

 

鎮痛な面持ちでマリューは頷く。

「……そう、わかったわ。コロニー周辺にはまだザフトがいることが想定されます。各員、余計な騒ぎを起こさないよう、お願いします」

 

突然艦長という大役を背負うことになったマリューの口調はなかなか安定しない。

居心地が悪そうに大声で告げた。

 

「あと、フラガ大尉。大尉の零式(メビウス・ゼロ)は?」

マリューは視線を他人事のようにとぼけるムウへ向ける。

先程の騒ぎは彼の質問がきっかけなのだが、全く悪びれる様子がない。

 

「ガンバレルを全部壊されちまったからな。そこらのパイロット相手なら時間稼ぎはできると思うが、またラウ・ル・クルーゼが来たら相手するのは無理だぜ」

 

突然会話に出てきた名前に戸惑う。

<仮面の男>ラウ・ル・クルーゼ。

名にし負うザフトのエースパイロットの一人だ。

 

「間違いない、さっきのシグーはラウ・ル・クルーゼだ。アイツはしつこいぞ。こんなところでのんびりしている暇は、ないと思うがね」

ムウの言葉は、次第に鋭くなっていった。

 

 

 

ムウの警句に、マリューは慌ててアークエンジェル出港準備を急ぐよう伝えた。

モルゲンレーテからストライクとバスターのパーツ、汎用部品、更に水や食料と言った物資まで持ち出すらしい。

 

 

一方、民間協力者という名目の学生たちは、二段ベッドが向かい合う狭苦しいアークエンジェルの一室に集められ、はっきり言えば軟禁されていた。

 

「あれってさ、窃盗になんないの?」

 

「まぁ、後から精算するんだろ。ヘリオポリスの修繕費だって、ザフトか地球連合が払ってくれなきゃ困るぜ。こっちは巻き込まれたんだしさ」

 

カズイの素朴な疑問にサイが答える。

キラは二段ベットの上で仮眠を取り、他の4人はベッドの下側に座って話をしていた。

 

「……もしこのまま、ヘリオポリスが壊れたりしたらさ」

トールは固く手を握りながら話し出す。

ミリアリアの手を握りたくて仕方なかった。

けれど、その温もりを掴んでしまえば、もう二度と離せなくなる気がして怖かった。

 

「このままこの船に乗せてもらって連合の拠点や地球まで送ってもらうのと、シャトル出してもらってここで救助を待つの、どっちがいい?」

 

頭の中でこれまでのシミュレーションをなぞる。

トールに力はなかったが、10年以上の準備期間はあった。

だから当然、いくつかのプランがある。

 

A:事前に避難する。

だが「夢で見たから」などと言って説得できるのは、積み重ねのある両親ぐらいだ。

 

B:キラの力を頼り、アークエンジェルに乗り込む。

軌道戦を回避して早々に地上に降りれれば、それ以上戦いに巻き込まれることはない。

ハルバートン提督からの除隊届を、誰も破らないようにすればいい。

 

C:キラの力でザフトを追い払い、その後は救助を待つ。

今日のことは、念の為匿名でアングラネットにも流してある。

オーブの部隊やジャンク屋が回収に来てくれれば、生き残るには十分だ。

 

 

トール自身はプランBのつもりだった。

一度キラの力を振るってしまえば、アークエンジェルがキラを手放すとは思えない。

そうなれば誰かは人質として残ることになる。

それは、キラを巻き込んだ自分がなるべきだった。

 

だが、ミリアリアや友人たちまで付き合う必要はない。

プランC、この場で救助を待つ方向でもかまわない。

 

キラには話せない。

キラはもう巻き込まれてしまっている。

だから、キラが眠っているこの時に問いかけた。

 

 

「えー……。ここで降ろされてもなぁ? そりゃオーブは助けてくれるだろうけど」

「これだけでかい船なんだ、ザフトだってすぐには落とせないだろ? いよいよヤバかったら脱出させてもらえればいいんじゃないか?」

カズイとサイは消極的にアークエンジェルに残るよう考えているようだ。

 

「……トールはさ。どうするつもりなの?」

ミリアリアの問いかけに、一瞬キラを見やる。

「俺は……。色々関わっちゃったし、残るかな」

 

ミリアリアが照れながらもニッコリと笑う。

「……だったら私も残るよ! トール、健やかなるときも、病めるときも、って言うじゃない」

その声は、震えているのに不思議と明るかった。

 

思わすミリアリアを抱きしめ、抵抗を無視してキスをする。

カズイとサイの囃し立てる声なんて、耳に入らなかった。

(俺って、幸せすぎるかもしれない)

 

 

そして、甲高い警報が部屋を揺らす。

『コロニー内に侵入する機影を確認! シグー、ジン、X303(イージス)です!!』

 

 

 

警報がなる少し前、すでにブリッジでは戦闘態勢に入っていた。

電波干渉やNジャマーが通信を大きく制限し、いつザフトが襲ってくるともしれない。

 

「マードック軍曹、零式(メビウス・ゼロ)やバスターは?!」

 

『バスターは駄目です! ゼロもまだ……! ゼロはガンバレルのアライメント整えないと飛べないんです!』

マードックの返答にマリューは唇を噛む。

 

「何としてでも動かせるようにして! ……フラガ大尉、やはりストライクで出られませんか? 今のOSが難しくても、バスターのデータを使えばロールバックは直ぐにできます」

通信を切ってムウに向き直る。

問いかけると、ムウは歯噛みしながら答えた。

 

「何度でも言うが、今のOSじゃ扱いきれないし、もとのOSじゃ歩くのが関の山だ。狙いをつけることすら難しい。並の相手ならともかく、今回は……」

繰り返すように喋るムウの脳裏に閃光が走る。

間違いない、奴がもう来ている。

 

「やっぱり来やがった!! 俺はゼロで待機する、準備ができたらすぐ出撃するんで、それまで坊主になんとかしてもらえ!!」

慌てて走り出すムウにマリューはついていけない。

「坊主……?」と眉をひそめる

 

「キラだよ!! なんとか戦ってもらうよう拝み倒せ!!」

そう聞いたマリューは目をギュッととじると、学生たちの部屋へ走り出した。

 

 

 

 

(またこれに乗ることになるのか……)

マリューの「あなたにしかできない」という懇願が耳に残る。

友人たちの不安そうな顔を思うと、その言葉に逃げ道はなかった。

キラはため息混じりにストライクのコクピットへと腰を落とした。

 

(なし崩しに正規パイロットにされそうだ……。今は仕方ないとは思うけど)

しかも今回、イージスが出てきているという、

炎で囲まれた工場での情景が浮かぶ。

(アスラン……。本当にキミなのか?)

 

ハッチの外へ、ストライクはためらいながら飛び出した。

 

 

 

スラスターを吹かせてコロニー上空でバランスを取る。

(ヘリオポリスを傷つけるわけには行かない……)

システム側に干渉して、ビームライフルへのエネルギーラインを絞る。

射程は短くなるが仕方ない。

 

ザフトが見えた。

 

先程のシグー、ジンが2機。

そして、イージスだ。

 

各機はアークエンジェルを包囲するようにコロニー内を回遊する。

2機のジンからの対艦ミサイルが放たれた。

 

一部はアークエンジェルの防空網に防がれるが、残りはアークエンジェルを傷つけるか、ヘリオポリスを傷つけるか。

 

「やめろぉ!」

 

ビームライフルを連射しながらへ近づくと、ジンの1機が片手のミサイルを放り出し、背中から取り出した長大な銃身に持ち替えるのが見える。

 

反射的に機体をロールすると、すぐ近くを熱線が通り過ぎた。

「ッ?! ビームか!」

 

サイズに比して熱量は小さいようだが、PS装甲では防げないビーム砲(特火重粒子砲)は厄介だ。

 

続けて放たれたミサイルをイーゲルシュテルンで撃ち落とす。

 

どうやらシグーも2本のビーム砲を持っているようだ。

ジンは両手にミサイルを持ったのが1機、それぞれにミサイルとビーム砲を持ったのが1機。

そしてライフルを持つイージス。

 

焦りながらキラはライフルを連射し、ミサイルを撃ち落とす。

アークエンジェルは必死に躱すが、次第に追い詰められていく。

従来艦と違い、ラミネート装甲はビームに対して高い防御性を持つ。

これほど船体が持つのはザフトにとっても予想外だろうが、ジリ貧なのは変わらない。

 

コロニーにも流れ弾が次々と爆炎を起こし、シャフトが一本、また一本とちぎれ飛ぶ。

(どうやったって手が足りない! フラガ大尉が出てくるまで持ちこたえられるか……?)

 

不安が頭をもたげ、ストライクの動きが鈍る。

そこに真紅の機影が迫り、加速そのままタックルを仕掛けてくる。

思わず姿勢を崩して吹き飛ばされた。

 

機体の振動にグルグルと脳が揺さぶられ、集中が途切れる。

『キラ! キラ・ヤマト!』

強い語調の言葉に、幼い頃の思い出が懐かしく蘇る。

キラのどんくささに、こうやって叱られることも多かった。

だが、叱った後は必ず手助けしてくれた。

彼はそんな、面倒見が良くて優しい少年だったのだ。

 

「アスラン……アスラン・ザラ!」

 

『やはりキラか! なぜお前がそんなものに乗っている?!』

 

「それは……。僕だって、望んで戦ってるわけじゃない! でも!」

(友達を守らなきゃいけないんだ)

そう言葉を続けようとした瞬間、背後からビームが迫る。

なんとか避けるが、その熱線はヘリオポリスのセンターシャフトを抉った。

 

「……! 駄目だ!!」

ヘリオポリスを守るためには、自分に砲火を集める必要がある。

イージスを置き去りにして、キラは敵機に向かって正確にライフルを連射しながら、スラスターを吹かし、大きく輪を描く。

 

 

ストライクの動きにつられたジンの1機が、両手のミサイルをまとめてストライクに叩きつける。

PS装甲を頼りにその中心を突っ切り、爆炎を煙幕代わりにジンに接近、ビームサーベルで両断する。

 

やっと1機、と僅かに気を緩めた瞬間、背後から気配。

スラスターを全開で吹かし、そのまま機体を前転させる。

上下鏡合わせのように、現れたシグーと向かい合った。

 

『キミの動き、素晴らしいな』

シグーから、いっそ穏やかな口調でオープン通信がかかってきた。

どこか楽しげな響きに背筋が凍る。

赤いモノアイが、無機質な興味を示しているように感じた。

 

『反応と判断の極地。よもやナチュラルではあるまいが、コーディネーターだとしても信じがたい。もしかするとキミは……おっと』

シグーが、ひょいと砲撃を避ける。

 

『またせたな、坊主!! ……クルーゼ、お前との付き合いもこれまでだ!』

現れたメビウス・ゼロは4つのガンバレルを展開し、間断なくシグーへ弾幕を浴びせる。

キラはハッとしてスラスターを逆噴射させ、同じくライフルを連射した。

 

軽やかにかわすシグーだが、流石にこれを防ぎきれない。

かすったガンバレルが姿勢を崩し、ビームが右肩のスラスターを貫いた。

 

後少し。

そう思ったキラを嘲笑うように、シグーは両手に持ったビーム砲をヘリオポリスのメインシャフトへ向け発射する。

 

「何を?!」

キラの思考が追いつかないその瞬間に、着弾。

 

メインシャフトがメキメキと断末魔を上げてネジ切れる。

自らの力に耐えきれず、地表ブロックが次々と剥がれ落ちる。

対流がうずまき、キラの叫び声すら虚空に消えた。

 

 

 

 

コツン、とした衝撃が走り、キラは朦朧とした意識から覚醒した。

眼の前には救命ポッドが浮遊しているが、スラスターが壊れたのかコントロールが効かないようだ。

思わず優しく抱きとめる。

 

『……坊主、おい坊主!! ストライク、聞こえるか?!』

 

「あ……。はい」

 

通信機からムウの声が聞こえる。すぐ近くにいるようだ。

まだフワフワとした意識のまま、キラは答えた。

 

『とっととズラかるぞ。逃したのは残念だが、指揮官のクルーゼがあの状態じゃザフトはすぐに出れない筈だ。今のうちに距離を稼げば、追いつかれる前にアルテミスに逃げ込める。……たく、追い詰められたからってわざとコロニーを破壊するなんて、マジでクズだなアイツ』

 

(わざと……壊した……?)

キラは周囲を眺める。

 

へしゃげた家や、形を保ったままのビルが地表ブロックごと宇宙に浮かぶ。

その隙間に日常を過ごしたカレッジが見えて、キラは静かに嗚咽をこぼした。

 

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