SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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第二部開始します。
やさいせいかつ


シンの選択:Overcome the Desire
Prologue


CE71/8/8

 

「……狂ったのか? ザラ議長は……」

アングラネット上に次々とアップされる地球の状況に、ギルバート・デュランダルは愕然と声を上げた。

 

最高評議会の締付けが強まり、まともな情報も得られぬ中、冷静な市民の多くは、ジャンク屋組合のアングラネットを使用していた。

ギルバートもその一人だ。

 

そんな中、アングラネットにもたらされたニュース。

ZAFTの新兵器、ガンマ線レーザー(ジェネシス)がワシントンへ攻撃。

死者は少なくとも数百万人。

地球を監視していた民間人の報告や、内部からのリークは、ZAFTが一線を越えてしまったことを示していた。

 

「地上のコーディネイターやナチュラルの事を、なんだと思っているのだ……!」

わずか6000万人しかいない、しかも全員がコーディネイター(調整済み)であるプラントの住人。

その遺伝子プール(遺伝的多様性)は非常に小さく、かつてギルバートを苦しめた第3世代の出生率の極端な低さは、その一端でしか無い。

ただでさえ人類は、トバカタストロフや出アフリカ(ボトルネック)の影響で、オランウータンにすら劣る遺伝子プールしか持たないというのに。

 

地上を焼く、しかもDNAの二重螺旋を物理的に断ち切るガンマ線を使って。

生存者が居たところで、その生殖細胞はもはや使い物にならない。

人類という種そのものの自殺行為だ。

ギルバートにとって、とても看過できるものではない。

 

地球側も反撃を試みるだろうが、とても間に合わないだろう。

だとするとプラント内部での動き。

(……クライン派は、ムリか)

反ザラ派と言えばクライン派だ。

出生率減少の現実に対して、親ナチュラルに転向したシーゲル・クラインの見識の高さは、ギルバートをして認めるところだった。

 

しかしそのシーゲルは既に亡く、片腕だったアイリーン・カナーバもいない。

娘のラクス・クラインは第三勢力(COMPASS)を立て干渉しようとしているが、結局外からは間に合わない。

中核を失ったクライン派の残党だけでは、ザラ議長の強権的な統制に対抗する力はない。

 

(私が立つしか、無いのか?)

かねてからの計画に向けて、ZAFT(政党)内でも相応の立場は手に入れている。

プラントのシステム上、立候補制ではなくAIによるピックアップと、そこからの選挙で60人議会(国会)、そして最高評議会と選ばれていくため、活動の実績がなければ箸にも棒にも掛からないのだ。

 

開戦によって停止されているものの、選挙が行われれば最高評議会議員の立場にも手が届く、と手応えを感じていた。

支援者をうまくまとめれば、一気に勢力を立ち上げられるだろう。

 

(……しかし)

自分の小型端末をにらみつける。

立ち上げたばかりの組織に実行力を持たせるには、まず人を呼び寄せられる相応の成果が必要だ。

ギルバートの頭脳をもってしても、その為にはZAFT内部の情報が必須。

 

人が集まった後ならともかく、初手はギルバートの手札から集めるしか無い。

そしてギルバートの持つ権限はあくまで文官(青服)のものであり、軍事情報に触れることは出来ない。

 

相応の軍事情報に触れられる指揮官(黒服・白服)で、彼が個人的に繋がれるのは二人だけ。

そしてその片方、虚無感を抱える彼(クルーゼ)が、この状況で協力してくれるとも思えない。

 

ギルバートは大きくため息をつき、目を閉じて天を仰ぎ見る。

そして、かつて毎日のようにつなげたコード(連絡先)を数年ぶりに叩いた。

 

 


 

 

「おはよう、ギルバート。……そろそろ起きなさい」

懐かしい夢を、愛おしい声が遮る。

柔らかな日差しにまぶたを瞬かせながら、ギルバートは目を覚ました。

耳元のアラームが甲高い音を立てていたが、全く気づかなかった。

 

「……おはよう、タリア。すまないね、手間を掛けさせて」

 

「構わないわ。昨日も遅くまで資料を確認していたのでしょう?」

ベッドから降りながら小さく頭を下げるギルバートに、タリアは笑みで答えた。

 

「いいのよ。どちらにせよ、今の私の仕事は、最高評議会議長の私設秘書だもの」

夢で見たあの頃から、既に2年近くたっていた。

当時、デュランダルの懇願によりレジスタンスの一員となり、停戦の直前までZAFT内部のスパイをしたタリアは、ともすれば直前戦った人員よりザラ派残党の怒りを買っていた。

 

当然、残党に触れる機会の多い軍部に置いておくわけにも行かない。

タリアを守るには、レジスタンスのリーダー、そして後には議長の身内として、多数の護衛が付く立場にするしかなかったのだ。

 

 

 

部屋で身支度を整えてからリビングに入る。

内縁関係(婚姻統制のため)とはいえ、部屋もベッドも別だ。

多感な時期の男の子がいると思えば、当然の処置である。

 

空になったプレートを見やりながら口を開く。

「……やはり、ウィリアムは先に行ってしまったか」

小さな落胆。

タリアは苦笑しながら返すだけだ。

「気にする必要はないわ。あの子なりに、あなたという人間を計りかねているだけよ。……さ、急ぎましょう」

 

出されたトーストをかじる。

香ばしい匂いが、ギルバートの脳をどんどん覚醒させていく。

 

(意識を切り替えよう。……今日は、一仕事だからな)

 

 

ギルバートの爆弾発言が飛び出したのは、中立国同盟やCOMPASSが集う定例会議、その終了間際だった。

「ブルーコスモスに支配された大西洋連邦は、すでにCOMPASSの制裁対象であると、私は考えます」

 

モニター越しに歓談を繰り広げていた人々の声が、一瞬にして静まる。

そして唖然と口を開けたまま、まるで化け物を見たかのような表情でデュランダルを見つめた。

 

ただ独り、生身で同じ会議場にいた桃色の美女──ラクス・クライン=ヤマトが、先程までの柔らかい笑顔をすっと捨てて、真顔でデュランダルを睥睨する。

隣に立つタリアが、僅かに震える。

 

「……議長。まさか、とは思いますが。再び戦争を始めようとされている、わけではないですわね?」

僅かに震えて聞こえるそれに、ギルバートは両手を小さく上げて降参のポーズを取る。

 

「とんでもない。……なによりプラントには、今軍事力が無いのですから」

それは貴方が一番ご存知でしょう、と続ける。

 

パトリック・ザラの狂気、ジェネシスのワシントン照射。

デュランダルをリーダーとしたレジスタンスはそれの再発射を阻止したが、それでも400万人を簡単に虐殺したというのは許されるわけがない。

あくまで間接要因であり、地上のパワーバランスも絡んだ末のエイプリルフールクライシス(数億の被害)とは訳が違うのだ。

 

停戦交渉の結果、プラントは独立承認こそ得られたものの、今後10年にわたって軍事主権を剥奪。

プラントの自衛については、COMPASSの傘下に新たに開設されたTERMINAL(ターミナル)──Transitional Evaluation, Research(軍備制限のための), and Military Integration Network for Armament Limitation(暫定評価・研究・軍事統合機構)が担う事となった。

旧ZAFT兵は思想チェック後の転属を許可されているが、開発した技術や兵器はCOMPASSに上納され、MS配備は厳しく制限される。

事実上の進駐軍(GHQ)であり、本来猛烈な反発を招くだろうその決定がプラント市民に受け入れられたのは、そのトップがシーゲル・クラインの娘であり圧倒的カリスマを持つラクスだからだ。

 

ギルバートは嘆くように目を閉じて首を振る。

「私とて、決して無用な争いを望んでいるわけではありません。……ただ、軍権を持たない身からすると、今の大西洋連邦に対しては、いささか不安が残るのですよ。そこはご理解いただきたい」

 

ジェネシスによって政府中枢を焼かれた大西洋連邦は、一旦は軍部クーデターなどを通して立ち直るかに見えた。

しかし、様々な巨大企業の集合体であり、ジョージ・グレン以前から続く結社であるロゴスが、己の権益を確保しようと介入したことで事態は泥沼化した。

具体的には、ファントムペインと呼ばれる私兵集団の投入や、彼らがスポンサーを務めるブルーコスモスによる大衆扇動である。

 

だが、その結果として引き起こされたのは、国家機能の完全な崩壊だった。

事態が修復不可能な無政府状態に陥ったと悟るや否や、ロゴスを構成する冷徹な起業家たちの多くは素早く手のひらを返した。

自らの()()()()による損失と責任の火の粉から逃れるため、ブルーコスモスとの関係を即座に切り捨てて表舞台から姿を消したのだ。

 

反面、ブルーコスモスと深く結びつきすぎていた一派は、退路を絶たれたことでかえって先鋭化してしまった。

今や彼らはブルーコスモスと完全に一体化し、名目上の政府が実行力を失った大西洋連邦を、莫大な資金と暴力によって実効支配している。

かつての政府は完全に名ばかりとなって、まともに統制できているのはブリテン諸島だけだ。

軍事権を持たず、政治的にも敵対関係にあるプラントは、先鋭化した彼らが民衆の不満を逸らし、自分たちの求心力を保つための極めて都合のいい標的となっているのだ。

 

ラクスが小さく息を吐く。

「……議長の危惧は、理解いたします。彼らの不穏な動きを、これ以上放置することもできないでしょう。……では、大西洋連邦の不審な軍事施設への()()()()を行えるよう、政治的圧力を掛ける、というのはどうでしょうか? あくまでテロリストなどに対する、一時的な非対称戦。……その方向で検討しても?」

ラクスの言葉に、モニタで通じる各国の要人達が顔を見合わせる。

小さく頷くものも居た。

彼らにしても、今の大西洋連邦の状態は不安なのだ。

 

「ええ、感謝します。可能であれば、TERMINALの人員と装備も使っていただきたい。……我々も貢献したいのです」

ギルバートは口元に微かな笑みを浮かべ、大きく頭を下げた。

 

 

 


 

シン・アスカは、自宅の洗面台で鏡を睨めつける。

右から。

左から。

正面から。

 

飛び出す前髪を、なんとか押さえつける。

真新しいCOMPASSの制服(オーブ軍服の色違い)の襟元を引っ張り、少しでもシワを伸ばす。

超高倍率のCOMPASS入隊試験をくぐり抜け、オーブ軍共同の1年近い新兵訓練期間をなんとかやり過ごし、今日からはようやくCOMPASSに配属だ。

 

「そんなにしても、もう変わらないよ―」

妹のマユがクスクスと笑いながらシンを押しのけ、歯ブラシを取ろうとする。

 

「るっせーな! 今日は……あの、あのキラ三佐に会えるんだぞ!!」

シンは弾かれたように振り返り、真っ赤になって大声を張り上げた。

 

「COMPASSのヤマト隊長でしょ? ニュースでよく見るけど、そんなにすごい人なの?」

 

「すごいなんてもんじゃないだろ! ジェネシスを止めて、このオーブを……世界を救った大英雄なんだぞ!」

首を傾げるマユにまくしたてる。

テレビの向こう側で見た、あの純白のモビルスーツの雄姿が焼き付いている。

もしもあの時、戦争がオーブ本土にまで及んでいたら。

もしも、あの英雄たちがZAFTの最終兵器を止めてくれていなかったら。

 

自分たち家族の穏やかな生活など、とっくに理不尽な炎に焼かれて消え去っていたかもしれない。

だからこそシンは彼に強烈な憧れを抱き、志願を決めたのだ。

 

「わかったわかった。……邪魔だからあっち行って」

シンの態度に呆れたようにマユは手を振り、洗面台の前を占拠して歯を磨き出す。

 

シンはため息を付くとリビングへ戻った。

「全く、シンったら……。お仕事なのに、まるで子供の頃にヒーローショーに行ったときみたいな顔しているわよ」

母が笑いながら差し出すお茶を束ねた2本指を振って感謝を告げると、行儀悪く口に含んでクチュクチュとうがいしながら飲み込む。

 

「ま、男なんていくつになってもヒーローが好きなもんだ。……だが、忘れるなよシン。お前はヒーローじゃないんだ。無理だけはしてくれるなよ」

笑いながら途中で切り替えて、父は真剣な表情で手を伸ばし、シンの肩を掴む。

幼い頃力強さの象徴だった父の手も、今となってはシンの手と変わらない大きさだ。

 

「分かってるって。でも、できる限りのことはやってみるよ」

反対に父の肩をバンバン叩くと、父は苦笑しながら手を離した。

 

シンの小型端末がアラームを吐き出す。

「おっと。そろそろいかないと。……シン・アスカ、行って参ります」

両親の前でようやく身についてきた敬礼を見せると、二人はコロコロと笑いだした。

洗面台から出てきたマユの肩を叩き、「なによぅ」と言われる文句を聞き流して玄関へ駆け込む。

 

シンの目には、未来が輝いて見えた。

 

 

 

 

そして午後には曇った。

 

あのラクス・クラインがビデオ中継で祝辞を述べる入隊式(『理性と矜持を持ち、自らの意思でもって戦いましょう』とのことだ)をガチガチに緊張しながら終え、事前の配属先通知通りにキラ・クライン=ヤマト三佐と面会(握手してもらった手は震えていなかっただろうか)。

その後、雲の上を歩くような心地で、彼の手引きでブリーフィングルームへ向かったのだが。

 

「今年から始まる任務は、プラントの人たちとも合同なんだ。僕も初めて会うけど、優秀な人たちらしいよ」

 

朗らかに告げるキラに、シンも小さく頷く。

ニュースでも見た内容だ。

 

無政府状態でテロリストが跳梁跋扈する大西洋連邦領土において、COMPASSが強行査察を行い、テロリストを鎮圧していくという。

そして旧ザラ派との内戦も落ち着いたプラントからも、少数ながら若手がCOMPASSに合流するという話だ。

 

パシュッと音を立てて扉が開くと、肩口で金髪を切りそろえた少年と、赤毛ショートの少女がいた。

シンと変わらないか、少し上の年頃だろうか。

 

二人は隙も無くこちらを見据え、敬礼を崩さない。

キラが柔らかく話しかけた。

「こんにちは。キラ・クライン=ヤマトCOMPASS三佐です。こちらは新規入隊のシン・アスカCOMPASS准尉」

 

「シン・アスカです! 宜しくお願いします」

促されて敬礼をしながら声を張り上げる。

 

金髪の少年はシンを胡乱げに見つめた後、居住まいを正して告げる。

「レイ・ザ・バレルTERMINAL三尉相当官です。貴官の指揮下に入ります」

その声色にキラが僅かに顔をしかめたが、誰も気づかなかった。

 

続いて赤毛の少女が溌剌と声を上げる。

「ルナマリア・ホークTERMINAL三尉相当官です! どうかよろしくお願いいたします」

 

若くして風格をまとう二人に、シンは気圧されてしまう。

(……上手くやっていけるかな?)

 

その疑念は、まもなく証明された。

任務の概略説明後、キラがひどく真剣な表情で「……事務処理があるから」といって中座してからと言うもの、二人はシンをじろじろと見てくる。

やがて、レイが呆れたように口を開く。

 

「……COMPASSは精鋭部隊と聞いていたが。なぜ()()()()()()が居る?」

既にザラ派との内戦をくぐり抜けたレイからすれば、ほとんど素人のようなモノだ。

 

「本当よねぇ。悪いけど、足だけは引っ張らないで欲しいんだけど?」

ルナマリアが小首を傾げ、やれやれといった様子で腕を組む。

あくまで傘下組織であるTERMINALから、COMPASSへの出向を許された彼女たちは、今後のプラント国防の要として期待されているエリートだ。

そう自負するルナマリアにとっても、新規入隊のお守りをさせられるのは正直勘弁だった。

 

腕を組んで強調されたルナマリアのスタイルに、一瞬目を奪われかけたシンだったが、そのあまりにもな態度にカチンときて、思わず吐き捨てるように言い返した。

「うるせぇ。学徒動員しなきゃいけないZAFTと違って、オーブは中々実戦に出してくれないんだよ!」

 

「ZAFTじゃないわ! TERMINALよ!」

「学徒動員でも無いな。我々は成人だし、志願して戦っている」

喧々囂々の口論が始まる。

 

シンの前途は、多難なようだった。




第二部書くか悩むな→とりあえず復習にTHE EDGE読み返す→そういや外伝のDESIREって読んだこと無かったな→電書で買ってぼろ泣き→ノリでプロット作成。
こういう経緯なのでシン主人公です。
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