SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
休養期間を終えたミネルバは、パナマを再び出航していた。
「あともうちょっとなんだ、もうちょっと!」
「はいはい。頑張りなさいよ」
シミュレーターで模擬戦をしていたらしいルナマリアとシンが出てくると、キラに向かって会釈をしてまた歩き出す。
キラも手を上げて応えると、入れ替わりにシミュレーターに入り込む。
座り込んだキラが開くのは、シミュレーター画面では無く内部のスコアと操作ログだ。
ミネルバに搬入されたインパルス、カオス、アビスの三機だったが、分離合体機能、変形と機動兵装ポッド、変形と潜水機能と変わった機体故に、誰がどれに乗る、と言うのも決まっていなかった。
性能を生かすという点から考えると、キラもフリーダムDから乗り換えてもいいのだが。
(フリーダムは、象徴だから。……あんまり乗り換えたくないよね)
ラクスが託してくれた、二人の関係の象徴であり、COMPASSという組織の象徴。
そういった存在だからこそ、わざわざ改造してまで運用しているのだ。
「シンも、そろそろ出してあげるべきだろうし……」
悩ましいところで、シンをいつ頃実戦配備するべきか、実のところ判断が付かない。
キラ自身がなし崩しで実戦に参加しているし、新人の部下を持つのも初めてだ。
どのぐらいの腕なら実戦に出して良い、というのがイマイチ分からない。
それらを勘案した結果、キラは部下達に三機の新型が追加されたシミュレーターの使用を指示していた。
シミュレーターのスコアと操作ログをキラが定期的に分析し、それをもって特性毎にパイロット割り当てをする。
あわせてレイとルナマリアのスコアとシンのスコアを比較することで、シンの技量を客観視する。
一挙両得の指示だった。
画面を開いたキラは、ログを確認していく。
まずはカオス。
(兵装ポッドは、ドラグーンほどではないとはいえ結局適性次第。……やっぱり、レイか)
技術進歩によって空間把握能力は必須ではなくなったとはいえ、当然あるに越したことはない。
視野が広くないシンはまさしく最悪で、誤射率が酷い。
ルナマリアは一見そこそこに見えるが、兵装ポッドをほとんど固定装備として扱っている。
そしてレイ。
兵装ポッドと自機を有機的に連携させ、空間を支配するかのような動き。
(クルーゼと同じ血、か)
かつて戦った、クルーゼの駆るプロヴィデンス。
キラとアスランの二人がかりであってもいいようにあしらわれ、捨て身で武器を壊すのがせいぜいだった。
そのクルーゼと同じ遺伝子を持つ以上、カオスがかみ合うのは必然だったのだろう。
「……だけど」
何を思ったかは分からないが、パナマ基地で行われたレイのピアノリサイタル。
キラもラクスとデートがてら見物に行った。
長髪を後ろで束ね、燕尾服を着たまさに貴公子然とした姿。
そこで彼の奏でた演奏は、
極めつけは、終盤でのことだ。
『──弟みたいな子が好きな曲で。ビデオでいいから見たいと、リクエストされてしまったので』
カメラを構えるシンを見ながらマイク越しにそう短く添え、レイが弾き語り始めたのは、なんと
本来なら陽気なあのメロディを、ノスタルジックなジャズバラードのようにゆったりと、ひどく優しく優美なアレンジで弾き始めた。
子守唄のように紡がれる歌声は、溶けてしまいそうなほどに温かい。
普段の隙のない姿からは想像もつかない、誰かを慈しむような静かな微笑み。
客席の女性陣が次々と崩れ落ち、本気で失神する騒ぎになったほどだ。
同じ遺伝子を持っていても、絶望に狂ったクルーゼと、レイは違う。
あの微笑みと歌声が、なによりの証拠だった。
楽しげなメロディーを思い出しながら、次に開くのはアビスだ。
「案外、みんな悪くないな……」
多数の火器と変形を備えたアビスは複雑な砲戦機に見られがちだが、実際は耐圧殻をかねる装甲と、変形時の推力を生かした一撃離脱がメインだ。
あえて言うなら一撃撃ったあとに、ついその場に残って追撃を加えようとするシンの悪癖は修正するべきだろうか。
そしてインパルス。
キラは少し楽しみにしていた。
かつて乗ったストライクにも似た、変則的な万能機。
それを彼らがどう扱うか。
操作ログを愉快げに見回していたキラが、一人のログに目をとめた。
「……これは」
その日は、不審な施設の痕跡を追う地道な調査任務だった。
新型機への機種転換はまだ検討段階であり、ルナマリアとレイは使い慣れたゲイツRで出撃している。
母艦であるミネルバを後方に待機させ、3機のモビルスーツは目立たぬように山の斜面を歩いていた。
捕虜から聞き出した情報によれば、この一帯の地下に設備が隠されているという。
事実、センサーは微弱な音響反応を捉えていたものの、施設は巧妙にカモフラージュされているらしく、こうなると自らの足で直接ゲートなどの出入り口を探し当てるしかなかった。
『……隊長。ちょっと、質問があるんですが』
「どうしたの? 何か気づいた?」
ルナマリアの少しばかり深刻そうな声色に、キラはモニターから目を離し、真剣に問い返す。
『あ、いえ、すみません。……今回の任務とは関係ないんですけど』
ゲイツRが慌てたように機体の手を振る仕草を見て、通信越しのレイが冷たく突き放した。
『今は任務中だぞ。私語は後にしろ』
「いや、いいよ。なんだい?」
キラが穏やかに水を向けると、ルナマリアは少し躊躇いながら口を開いた。
『……シンのことなんですが……彼、いつになったら実戦任務に出すんですか?』
「うーん、そろそろかな、とは思っているんだけど。どうしたの?」
首をひねるキラに、ルナマリアは下を向いて告げる。
『あいつ、元々一生懸命ではあったんですけど……ここ最近の腕の上がり方がちょっと異常で。正直、この数日に至ってはシミュレーターで負け越してるんです』
『……なに? お前が、か?』
ルナマリアの告白に、レイが思わずといった様子で驚きの声を漏らした。
士官学校の同期であり、ルナマリアの腕前をよく知るレイにとって、それは驚愕に値する内容だった。
「……そう。わかった、それじゃあ僕の方でもう一度確認して、次の任務からは──」
キラが頷き、そう応えようとした瞬間だった。
不意に、待機させていたミネルバの方角から、重い地響きが伝わってきた。
(なんだ……!?)
「ミネルバ、何かありましたか? ……ミネルバ、応答して!!」
レーダー網と敵の目を逃れるため、ミネルバはキラたちから離れた谷間に停留していた。
朝日のかかる山影が低空にとどまるミネルバに覆いかぶさり、メイリンを筆頭としたオペレーターたちは通信がないか耳を澄ましながらも、一息付いていた。
その巨体が、突如として僅かな衝撃に揺さぶられる。
メイリンがコンソールへ手を伸ばすよりも早く、左舷の主翼が急激に沈み込み、艦全体が大きく傾く。
「なっ……!?」
「きゃあっ!」
ブリッジのクルーたちがコンソールにすがりつく。
直後、けたたましいレッドアラートが鳴り響いた。
「状況報告!」
艦長席にしがみつくトダカが、鋭く声を張る。
「左舷の主翼部に多数の不審物! ……ワイヤーアンカーのようなものが、何本も絡みついています!」
「アンカーだと? たかがその程度のもので……」
多少の障害があったところで、システムが自動的に平衡を取ろうとメインエンジンで抗うはずだ。
メイリンの瞳がいくつものモニターを往復し、キーボードを叩き続ける。
しかし、システムがそれを受け付けない。
「レビテーター、出力低下! 高度を維持できません! ミネルバ、降下していきます!」
「え!? え、え、どういうコト!? 機関部、被弾したの!?」
副長のアーサーが狼狽して立ち上がる。
メイリンが必死の表情で首を振った。
「……物理的な損傷じゃありません。メインプログラムの
「ウイルスだと!?」
トダカが叫ぶのも無理はない。
ミネルバは軍事的プレゼンスの低下したプラントが、威信をかけて作り出した最新鋭艦。
多数のコーディネイター達が組み上げたコアシステムは、ナチュラルの作るそれとは比べ物にならないほどのセキュリティのハズだった。
「
轟音を立てて、ミネルバがその巨体を大地に沈める。
バチルスウェポンシステム。
かつて、ゲイツとザフトの次期主力機コンペを争った
ただ一点、
後にドラグーンシステムの礎になったそれは、世界の9割を占める量子コンピュータを無力化するという凶悪なもの。
その存在を知るプラント側は当然ミネルバにも対策を施してあったが、物理回線を介して防備の内部を突かれてしまえばどうしようもない。
地面に横たえることでようやく水平を取り戻した艦内で、トダカが声を張り上げた。
「MS隊を呼び戻せ!」
「ダメです、レーザー通信システムダウン!」
メイリンが悲鳴のような報告を上げる。
更に凶報は続く。
「ミネルバ周囲に熱源?! MS多数、型式不明!!」
主機を落とし、木々に姿を隠していたMSが姿を現していく。
実際のところ、ミネルバが
後にウィンダムと呼ばれる、ロゴスの開発した傑作機がミネルバを取り囲んでいた。
「くそっ?!」
フリーダムが空中を滑るように、ビームと実弾の雨を避ける。
実に10門もの砲口から放たれる激しい対空射撃を掻い潜り、反撃にライフルを連射するが、敵機の前方に展開した
「早くミネルバに戻らないといけないのに!!」
ミネルバとの通信が途絶するのと、地上の隠しゲートが開いてMSがキラ達を取り囲んだのは、ほとんど同時だった。
早々に銃口を向けてきた敵のMSに対し、空を飛べないゲイツRが退避するには敵を切り開くしか無い。
ミネルバへの救援か、部下の護衛か。
逡巡したキラの一瞬の隙を見計らうように襲いかかってきたのが、今目の前で立ち塞がるこの異形の可変機だ。
かつてオーブ近海戦でトールが戦ったという
そして、そのときキラが戦った
レイとルナマリアがなんとか自衛しながら後退するのを見極めて、ミネルバに戻ることを決断したキラだったが、相手が逃がしてくれない。
フリーダムがウイングバインダーを翻して加速しようとするが、変形した敵機が体当りするようにそれを押し留める。
核動力であった頃のフリーダムなら加速し続けて振り切れたかも知れないが、今のフリーダムDでは速度が乗る前に捉えられてしまう。
敵機の両足に設置された速射砲と両腕のガトリングによる弾幕をかいくぐる。
バッテリー機である以上、実体弾に依るVPS装甲のエネルギー消費も馬鹿にならない。
「退いてください! 僕は行かなきゃならないんだ!」
オープンチャンネルで懇願するように叫ぶキラだったが、帰ってきたのは冷え切った言葉だった。
『
肩の2門の
交差するようなその熱波をロールで躱しながら、フリーダムはサーベルを引き抜いて突撃する。
『後は同志達が
迎え撃つ敵機の額から放たれる、か細いビームは、しかし高収束がもたらす圧倒的な熱量で襲いかかる。
キラは咄嗟にシールドを突き出したが、ただの鉄板がレーザーカットされるように切り飛ばされた。
必死にウイングバインダーで慣性を殺し、急降下することで逃れる。
(アレだけの火力の投射、間違いなく相手のほうが先にバッテリーは尽きる。だけど……!)
キラからすれば、相手がどれだけの火砲を持っていようと、この程度の弾幕は回避に徹するのであれば充分避けられる。
そしてビームを連射する敵機の方が、バッテリーが先に尽きるのも間違いない。
それでもミネルバの状況が不明なことを考えれば、無理にでも退くか退けたい。
しかし逃げれば追いすがられ、攻めるにはビームを弾く力場とハリネズミのような弾幕が邪魔だ。
(どうする……?!)
側転しながらレール砲を放つと、敵機はPS装甲で弾きながら強引にスラスターで衝撃を押し殺す。
相手の技量と冷静な判断、万能の機体が、キラに対してすら充分な足止めとなっていた。
レイやルナマリアの援護があれば決め手になりそうなのだが、向こうも手一杯のようでその余裕がない。
「なんとか躱しながら先にレイたちを援護して、全員でこの敵機を仕留める……?」
時間はかかるが、堅実な一手が思い浮かぶ。
あるいは、そうこうする間に相手のバッテリーが尽きるかも知れない。
ミネルバの無事を祈り、歯噛みしながらも覚悟を決めた。
『どうした? 鬼ごっこはおしまいか? ……あの艦もそろそろ同志が掌握した頃だろう。
敵機は再び変形し、フリーダムへ飛び込みながらビームを連射してくる。
「くッ!」
側転しながら躱し、機体をまっすぐに下に向ける。
敵機もすぐにその背を追うが、キラは無理に抵抗するより味方の下に急ぐことを優先した。
──その瞬間、空気が弾けた。
『ッ?!』
敵が言葉を発するより早く、砲弾がその背を引き裂いた。
直撃した運動エネルギーが、一撃で敵機を爆散させる。
爆音がこだまする中、飄々とした声が通信越しにフリーダムへ響いた。
『まったく、偽物だ本物だと喧しいやつだ。そんなラベルで、中身が変わるわけでもないだろうに』
「……トール!!」
「ゴメン、待たせた。こっちは俺達で引き受けるから、お前はまずミネルバに戻りな」
『うん!!』
飛び出すフリーダムの背を見送って、すぐに使い慣れた71式電磁加農砲を背に仕舞い、両手に
下にいる2機のゲイツRにトールは通信をつなぐ。
「こちらCOMPASS特務小隊。任務帰還中にヤマト隊長より援護要請を受諾した。これより貴官らを援護する」
『助かります! けど、まずはミネルバに援護に!』
『我々は大丈夫です!』
汗を滴らせて母艦を心配する彼らにいくらかのシンパシーを感じながら、トールは口を開いた。
「大丈夫さ。ミネルバの状況は上空から見えた、まだ健在だ。キラが行ったし、何より──すぐに終わる」
2機の僚機が空中に
ゲイツRが2機で均衡していた状況に3機も増援が入れば、敵はすぐさま数を減らしていった。
『アレが大戦の英雄機、フリーダムとパイロットのキラ・ヤマトかー。私たちの機体は実質量産機、って聞いているけど動きがだいぶヤバかったね』
僚機の一人がライフルを撃ちながらも軽口を叩く。
「甘えんな。俺は適性上無理だけど、お前らは
特務小隊の機体は、3機全員が
フリーダムのフレームをベースに、可変機能とストライカーパック対応とステルス機能を追加したという盛りだくさんの機体だ。*3
理論上はフリーダムと同等の戦闘能力を発揮できる。
特殊なOSも絡んで、ただのナチュラルのトールとしては持て余してしまうが。
『ええー?! 無理言わないでくださいよ。……そういえば隊長も専用機持ったたんじゃないですか? どうして乗らないんです?』
大げさな反応と質問を返してくる部下に、トールは苦笑しながら答えた
「流石にバスターじゃ基礎設計が古いしなぁ。……第一、アイツじゃ超音速移動に限界があるから、補給ありきでもオーブ日帰りできないじゃん」
ふう、とため息を付きながら最後の一機を片付ける。
「俺はできるだけ家族と一緒にいたいの。だからこの特務小隊に居るんだ」
トールの飾らない、いっそ素直すぎる理由。
それに同意するように、もう一人の部下が通信越しに重々しく応えた。
『……家族を大事にすることは、大事なことかと』
『そういやケニーも、お母さんの面倒見ているんだっけ? 入院中って聞いたけど、体調どうなの?』
生真面目な相槌に、もう一機の僚機から茶化すような快活な声が割り込む。
『ケニーはやめろ、ヴァレンティーナ。……COMPASSの高給のお陰で、だいぶ良くなった。そろそろ退院できそうだ』
愛称で呼ばれたことに少しむっとした様子のケンだったが、その声の後半には、隠しきれない安堵の響きが混じっていた。
「よかったよなぁ……。さて、俺達もミネルバに向かうぞ。全機、巡航開始!」
『『了解!』』
3機のエクリプスが変形していく。
ただ、トールには苦笑いが浮かんでいた。
(……あの様子じゃ、全部片付いてるだろうけどな)
僚機が装備するのは高機動用の
地平線まで届くライジンストライカーのセンサーは、キラの援護に入る前にはミネルバの状況を掴んでいた。
フリーダムを全速で駆けさせ、ミネルバの状況を視界に収めたキラは、思わず絶句した。
既に戦闘音の無い戦場に、ゆっくりと降り立つ。
『……キラさん。遅いじゃないですか……俺、頑張りまし、たよ……』
斬艦刀を地面に突き立て、もたれかかるように立つインパルス。
褒めてもらうのを待ちわびる子供のように、疲れ切ったシンの言葉が響く。
その周囲には、
もはやミネルバの周囲に、動く敵の姿は一つもなかった。
作品タイトルを変えたほうがいいかな?
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現状のまま
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ガンダムSEED:Overcomers
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1部と2部で別作品にして完全に分ける