SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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本人に騙すつもりがなければ騙せる。


1-5

「……これを」

サングラスをした青年が指さしたのは、しなびたリンゴだった。

他に店に並ぶのは、カビかけたパンぐらいなものだった。

 

「……はいよ。30アースダラーね」

シワだらけの老店主がトゲの生えた声で示した値段に、青年は思わず顔をしかめる。

「……高いな」

 

差し出された紙幣を嫌そうに受け取り、老店主は吐き捨てる。

「流通の死んだこの街じゃ、大安売りなぐらいさ。安くほしけりゃ、こんな紙じゃなくて何かしら現物を持ってくるんだね。……兄さん、他所の人だろ?」

 

「ああ……」

そう頷きながら青年はリンゴをかじるが、甘みどころか酸味もない。

ぱさついた味に渋い顔になる。

 

「悪いことは言わない、とっとと出ていきな。……この街はもう終わりだよ」

その声とともに、2軒先の店が突如爆発する。

道行く数少ない人はその音に一瞬足を止めるが、すぐにそそくさと歩みだす。

それでも青年の視線は、粉塵の向こうでライフルを下ろすMSの姿を正確に捉えていた。

 

三機ほど並んだダガーが、発砲した機体を称えるように肩を叩き合っている。

どうやら退屈しのぎの的当てでもしているらしい。

 

「……あんたは出ていかないのか?」

問いかける青年に、老店主はようやく表情を緩めて首を振った。

「出ていったところで、どうするんだね? 今の大西洋連邦でやっていけるのは、金持ちか、()()を持っているやつだけだ。……まったく、かつての大国が、どうしてこうなっちまったんだかね。つくづくパトリック・ザラが憎いよ」

 

諦めたような笑みに、男は無表情でその目を見ていただけだった。

老店主はおや、と眉をひそめる。

たとえどんな相手でも盛り上がる、鉄板の話題だと言うのに。

 

「……ありがとう」

そう言って青年は、手を払って店を後にした。

老店主はそれを見送ったあと、()()()どもにメールを送った。

青年の身なりは悪くなかった。

多少はキックバックがあるだろう。

 

 

青年がポケットに入れた端末を手探りで操作しながら足早に進むと、大通りに瓦礫が散乱しているのを見てため息を付いた。

周囲をキョロキョロと見回すと、路地に入り込む。

 

角を一つ曲がったところで、身なりの悪い男たちに囲まれる。

「へっ、悪いが……」

ニヤつきながら拳銃を向けてきた男が、悠長に口上を述べる時間はなかった。

地を這うような低い姿勢で踏み込んでいた青年は、瞬きする間に懐へ潜り込むと、速度の乗った拳を躊躇いなく男の金的へ叩き込む。

「ぐぁあ?!」

 

呻く相手が腰を落とすと、その腕を捻り上げ、銃を奪う。

うずくまる男の身体をそのまま弾除けにして引き金を引いた。

 

乾いた破裂音が路地に連続して響く。

「あああ?!」

足を撃たれた男達も蹲っていく。

 

仕上げに銃底で弾除けにしていた相手のこめかみを小突いて気絶させると、青年は銃を放り投げて何事もなかったように歩き出す。

 

 

迂回路をたどり、大通りに差し掛かったところだった。

大通りの逆光に、一人の男が立っている。

サングラスの青年と、年頃は変わらないだろうか。

 

「お前がCOMPASSの工作員。そしてヒビキ博士の最高傑作(スーパーコーディネイター)……」

逆光の男が、見下ろすように静かに告げる。

「アスラン・キラ・ヒビキか?」

 

青年──アスランは歩みを止め、サングラスの奥で鋭く目を細めた。

「……だとしたら、どうする?」

 

光に慣れた目は、既に相手を捉えている。

ゆっくりとした動きは、しかし欠片の隙も無い。

僅かに身構えるアスランだったが、銀髪の青年は鼻を鳴らした。

 

「……そう()()()。俺はブルーコスモスではない」

 

「……何?」

にわかにアスランの心中に疑問が湧く。

 

目の前の青年は腰に手を当てて嘲笑うように口を開いた。

「よく考えたものだ。あえてヒビキの名を明らかにして街を転々とし、噛みついてきたブルーコスモスとの間に諍いを起こす。そうすればCOMPASSの本隊が介入する口実になる。……自分の能力に絶対の自信がなければ出来ない作戦だ」

 

青年の言葉通り、アスランが従事する任務は、火消し役ではなく火付け役。

本来であれば、ミネルバの様な軍事組織が動けば、ブルーコスモスの様な非正規組織は地に隠れながら水面下で動くものだ。

 

しかしそこに、ヒビキの名を継ぐものが現れれば。

スーパーコーディネイターは、長年に渡ってブルーコスモスの最優先標的の一つだった。

思想で動く相手だからこそ、この挑発によく引っかかる。

自分で潰せる規模ならそうしてしまえばいいし、大きい炎が上がるのであれば、それを消すためとしてCOMPASSのの戦力が動ける。

 

「重ねて聞こう。お前がスーパーコーディネイター、キラ・ヒビキか?」

三白眼を見開いてこちらを睨めつける青年に、アスランは鼻で笑った。

 

「さてな。俺をそう呼ぶ奴は多いし、この名前は大事な人がつけてくれた俺自身の名前だ」

 

構えを取る。

「お前がそう思うんなら、そうなんじゃないか?」

 

「……」

銀髪の青年は、自分を真正面に睨むアスランを値踏みするように見つめた。

やがて、ひどく満足そうに口角を上げる。

 

「……フン、そう急ぐな」

青年は構えを解き、アスランから一歩退いた。

「騙りであれば首を置いていかせようと思ったが……その揺るぎのなさ、本物と見て間違いなさそうだな」

 

銀髪の青年の影が大通りに少しずつ消えていく。

 

「先ずはお手並み拝見、というだけだ。……望み通り、ブルーコスモスには情報を流しておいた。存分に戦うといい。俺にその力を見せてみろ」

そう語りながら、青年は一息に飛び去った。

建物の上を跳ねながら走っていくのが、僅かに見えた。

 

 

(……何者だ?)

アスランの役目までは冷静に分析すればわかるだろうが、まるで心でも読んでいるようにこちらの動きを察知していた。

運動能力からしてコーディネイターではあるのだろうが。

 

思考に浸ろうとするアスランだったが、地響きが連続する。

どうやら青年が言う通り、ブルーコスモスには盛大に言いふらしてくれたらしい。

好都合ではある。

 

再びポケットの中の端末を操作すると、甲高いスラスター音を立てながら近くまで来ていたアスランの乗機が上空でホバリングする。

 

バッテリー駆動の平たい筐体、2門のビーム砲塔。

投げられもしないはずのビームブーメラン。

アスラン専用のMA(戦闘機)、ファトゥム11。

懐から出したワイヤーガンを空中の機体に打ち込むと、アスランの身体が宙に持ち上げられていった。

 

「さて……追いかけてきてくれるか?」

原型となったファトゥム00から増設されたコックピットに座り、操縦桿を握る。

アスランはキラのように、見ず知らずの誰にでも優しくなれる性質ではない。

大事にするのはあくまで見知った人間だけで、それ以外は割とどうでも良い。

(……父と、変わらないな)

自嘲が漏れる。

泥をかぶるのは、そんな冷たい自分だけでいい。

だからといって、無関係な民間人を巻き込むつもりもないが。

 

ファトゥムを街の外に走らせると、幸い追っ手がかかった。

エールストライカーを装備したダガー5機が、地面を跳ねながら追ってくる。

やろうと思えばファトゥムの推力なら軽くちぎれるが、それをしても意味がない。

 

ポツリと呟く。

「……これぐらいなら、俺一人でやれるか」

街を歩いてもチンピラに絡まれただけだ。

さらに持ち出してくる戦力がダガー数機であれば、わざわざ味方を呼びつけるまでもない。

 

「アスラン・キラ・ヒビキ。状況を開始する」

自分に言い聞かせるように、名前を口にする。

胸元で静かに揺れる桜色のお守り(ハウメアの護り石)をそっと握り込むと、自身の選んだ道への迷いが消え、冷たい闘志が湧き上がってきた。

 

ファトゥムを敵に向かわせ、ビームを降らせるが、距離があるだけあって流石に避けられる。

反撃に放たれるビームだが、平たく前面投影面積の低いこの機体に早々当たるものではない。

 

アスランはそのままスロットルを全開へ。

万全(核動力)のフリーダムすら上回る推力が、小さく軽いファトゥムを爆発的に加速させる。

まごつくような敵機の間を駆け抜けると、機首を起こしてエアブレーキ(コブラ)

馬鹿げたマイナスGはアスランの身体に降りかかるが、小揺るぎもしない。

機体を立てたままビーム砲塔を回転させて、一機のエールストライカーにビームを直撃させる。

 

敵も正規軍上がりなのか、即座にスラスターを投棄。

爆発の余波を綺麗に避ける。

「……そこそこやるか。だが、好都合だ」

 

アスランがコンソールを操作すると、ファトゥムの機首が僅かに折りたたまれ、接続用のコネクタが露出する。

そしてエールを投棄した敵機へ、一方的にガイドビーム。

敵が逡巡するより早く、その背に張り付く。

 

かつてエンジェルストライク(ジェネシス破壊)作戦において、アスランの乗機となったテスタメントジャスティス。

それは大破したジャスティス(ZGMF-X09A)のリフターや武装を、ストライカーパックに仕立ててテスタメント(ZGMF-X12A)に接続したものだった。

 

ファトゥム11は同様に、ストライカーパックとして装備できる機能を有している。

とはいえ敵機に接続したところで、本来なら意味がない。

しかしこの機体には、それを有効活用するシステムが搭載されていた。

「リジェネレイトシステム、強制リンゲージ。対象、GAT-01A1」

 

テスタメントジャスティスがヤキン・ドゥーエで交戦したリジェネレイト(ZGMF-X11A)

その特徴は、バックパック側が本体であり、コネクタで接続した先を一方的に操れるというもの。

実際アスランは、コアユニットが接続したミーティアユニットと交戦してひどい目に遭った。

その技術を開発データから再現して搭載したのが、ファトゥム11の型番の由来だ。

 

取り憑かれたダガーの全身がガタガタ震えたかと思うと、すっと止まる。

そして遠巻きに見守る、味方のはずのダガーへライフルを向けた。

通信はつなげていないが、恐らく言い争いでもしているのだろう。

どの機体も足を止めている。

「……悪いな」

 

狙い違わず、無防備な機体のコックピットをうがつ。

1機、2機。

そこまでしたところで、敵も覚悟を決めたようにライフルを撃ってくる。

シールドで受け止めながらも、スラスターを全開。

 

エールを遙かに上回る加速力で突っ込むと、引き抜いたサーベルを一閃。

崩れ落ちる敵機の後ろで、背を向けて逃げ出す最後の一機。

その背に無慈悲にライフルを連射した。

 

「さて……。あとはコイツだけか」

仕上げにジャックした機体からファトゥムにエネルギーを吸い出せば、無力化と補給が完了だ。

その後に機体の残存バッテリーをオーバーロードさせて自爆させてしまえば良い。

拠点無しで放浪するアスランが機体に補給するには、こうしてしまうのが手っ取り早いのだ。

 

息を吐こうとしたアスランだったが、瞬間その目が鋭く尖る。

不意に機体を跳躍させると、その足跡をビームが焼いた。

 

『まったく、余りに弱すぎて腕前を見ることもできないな。これだから劣等種は』

空から飛び込んできたのは、見知らぬ漆黒の機体だった。

 

「お前は……!」

つい先ほど聞いたばかりの声。

あの銀髪の青年だ。

 

『このブラックナイト・プロトは、装甲も推進装置もまだ一般品だが……フレームは一級品だ。──お前の本気を見せてもらおう!』

 

ビームクローを展開させて突っ込んでくる。

「くそっ! なんだコイツは?!」

 

寸前で横に躱して蹴りを放つが、スッとかがんで避けられる。

そこから地に手を着いての足払い、アスランはジャンプして避ける。

 

着地しながらサーベルを振るうと、その腕を狙うようにビームクロー。

とっさに地面を蹴り、躓くように尻餅をつく事で躱す。

そこに再び放たれた蹴りを、ファトゥムのスラスターを全力噴射させ空中に飛上がることで避ける。

 

そのまま上昇を続け、空からライフルを撃ち下ろすが簡単に避けられる。

クローを構えて空中へ追ってきた敵機に、サーベルを突き出しながら下を向いて急降下。

お互いが紙一重で避けた結果、それぞれの腰のフロントアーマーが表面を焦がした。

 

『まさか俺にこうも簡単に付いてくるとは……さすがスーパーコーディネイターだ』

着地したアスランに、上空から傲岸に言い捨てる敵機。

アスランも通信を繋いで口を開く。

「ブルーコスモスでは無いと言ったな。なぜ俺を襲う?」

 

『情報を聞き出すつもりか、勤勉だな。だが、生憎とそこまで迂闊では無い。……フ、そうだな。お前の考えどおり、問答に応えている時点で充分迂闊かもしれん』

せせら笑うような声。

アスランの中でどんどん疑念が大きくなる。

 

(面と向かった相手の顔色、いっそ心音から感情を読み取るという工作員はまだ聞いたことはあるが……。そういうレベルじゃ無い。コイツ、俺の思考を読んでいる?)

眉をつり上げて思考を深めるアスラン。

そこに敵機が再びビームクローを突きつける。

 

『思考の早さも流石だな』

急降下しながらクローを突き出す相手に、反射で一歩バックステップ。

続いて嵐のように突き出される両腕を、観の目で拾いながら無意識でかいくぐる。

不意にアスランが蹴りを突き出すと、敵機は大きく飛び退いた。

 

「なるほど、考えなければいいわけだな?」

挑発するように声を延ばして言い捨てる。

 

『……反射だけで、ここまで避けるとはな。我々の失敗作とはいえ、さすがヒビキ博士の成果だ。……さぁ、俺をもっと楽しませてみせろ!』

 

再び飛びかかってくる敵機。

振るわれたビームクローをかがんで避け、足払い。

跳躍して避けた敵機に、立ち上がる勢いを乗せたサーベルの切り上げ。

 

敵機はそれを身を翻して避けると、それを予備動作とした回し蹴り。

それを右腕で食い止めると、衝撃を逃がすようにアスランも体を翻して回し蹴り。

それを敵機が腕ではじくと、再び2機の間に距離が空いた。

 

「ふぅー」

思わず息を吐く。

反射で回避し、そこから後の先の攻撃につなげる立ち回り。

どうやら効果はあるようだが、問題があった。

(……チッ。やはりテロリストの整備ではこんなモノか)

 

思考を介さずとも、向こうも気づいているだろう。

蹴りを受け止めた右腕がプラプラと揺れている。

 

そもそも関節が多く、複雑な動きを行うMSは入念な整備が必要だ。

アスランがファトゥム11を使って敵機を奪って活動しているのは、単独任務ではMSを持ち込んだところでまともに整備などできないと言うのもある。

 

『……なるほど。機体性能で勝利するのは些か不満もあるが。……だが、勝つことこそが俺の存在する意味だ!!』

 

敵機の胸部がカパリと開いたかと思えば、無数のニードルが飛び出す。

「っ?!」

空間を埋め尽くすような攻撃に、流石のアスランも避けきれない。

ダガーの節々に針が突き刺さり、ズタボロの機体が動きを止める。

 

「……潮時か」

接続先のダガーのバイタル見れば、とうにパイロットは気絶しているようだ。

アスランはダガーのバッテリーをオーバーロードさせる処置を行うと、ファトゥムを切り離した。

 

『な……?!』

敵から驚愕の声が届くが、まともに取り合わない。

アスランには、生きてやらねばいけないことがまだまだあるのだ。

戦闘狂の戯れ言に付き合う義理も無い。

 

「申し訳ないが、こっちは仕事の途中なんだ。お遊びはまた今度にしてくれ」

ダガーが自爆するのに合わせて、ファトゥムを全速で加速させる。

パワーウェイトレシオ(推力比)で言えば、単独での大気圏離脱も悠々こなせるファトゥムが単独で加速すれば、追いつけるMSなど無い。

 

爆炎が敵機を飲み込むのを後ろ目で見ながら、アスランの思考は報告書の内容に飛んでいた。




ここまでが一章です。
Breakは破壊じゃなくて小休止の方のつもりでした。

作品タイトルを変えたほうがいいかな?

  • 現状のまま
  • ガンダムSEED:Overcomers
  • 1部と2部で別作品にして完全に分ける
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