SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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評価くださった方、ありがとうございました。
なんとか頑張りますので、引き続き感想・評価よろしくお願いいたします。

完全閑話ですので、メインストーリーは進みません。
人によってはキャラ崩壊と感じると思いますので、苦手な方は飛ばしてください。



閑話:コッテコテのお家訪問

「へぇー。ここがシンの育った家なのね」

そこそこに大きい一軒家を見上げて、ルナマリアは感嘆の声を上げた。

玄関先にはいくつかの鉢植えが並び、そこに電動自転車が並ぶ。

車庫には、多少汚れの残るファミリーカーが残っていた。

 

シンはその光景を見て、安堵のため息を付いた。

 

「よ、良かった……。車空いてる」

両腕どころか背中まで、限界まで抱え込まされた荷物がズルリとずれる。

 

「ごめんね? シン」

メイリンが申し訳なさそうに背中の荷物を支えた。

 

ミネルバがオーブに戻り、与えられた幾度目かの休養日。

ルナマリア、メイリンの姉妹はそれまでと同じように、案内人としてシンを駆り出していた。

今日に関して言えば、大型ショッピングモールへ連れ出され、ひたすら店を案内させられた形だ。

なお女性向けの店の情報は母と(マユ)から聞き出したものだが、「もしかしてデート?!」と目を輝かせて問い返してきた。

シンは断固として否定したが。

大体、ホーク姉妹2人相手なのだから、デートも何も無い。

 

そこで買い込まれた雑貨、服、ルナマリアのトレーニング用具、メイリンの可愛らしいコンピュータ小物に至るまで、シンが専属の荷物持ちを務めることになっていた。

ルナマリアいわく、借りを返すのは当然ということだ。

 

当然持ちきれず、シンは宅配やタクシーを勧めたのだが、話の流れでシンの自宅が近いというのを漏らしていたのが悪かった。

勿体ないの一言で、シンが自宅の車で運ぶ事になったのである。

ショッピングモールが混んでいるから車を横付けするのが大変、という反論は、では歩いて持って行けという逆効果をもたらした。

途中で父あたりが車を使っていたらと冷や汗をかいたが、どうやらその事態は回避されたらしい。

 

シンが両手の荷物をドサリと地面に起き、車の鍵を借りようと静脈認証で自宅の扉を開ける。

その玄関先で、ばったりとマユと顔を突き合わせた。

 

「あれ? お兄ちゃんどうしたの? 今日はお出かけだから来ないって言ってなかった?」

「いや、ちょっと車借りようと思って……」

怪訝そうなマユに、シンが気まずそうに頭をかく。

そこに背後からルナマリアの声が飛んできた。

 

「コラ! 適当に置かないでよ?! 荷物、崩れちゃってるじゃない」

 

「ゴメンナサイね!」

シンがイラつき気味に振り返って怒鳴る。

そのやりとりに、マユがひょっこりと玄関の外を覗き込む。

そして目を見開いて家の中に叫んだ。

 

「おかーさん! お兄ちゃんが女の子連れてるーっ?!」

 

 

 

カチャ、と音を立ててカップがホーク姉妹の前に置かれる。

「ごめんなさいね。無理に引き止めてしまって。ご予定は大丈夫でしたか?」

 

申し訳なさそうに小首をかしげるシンの母に、ルナマリアは居住まいを正して会釈し、横に首を振った。

「ありがとうございます、今日は別に。……あとは帰るだけでしたから。ね、メイリン?」

「ありがとうございまーす。そうそう、こちらこそ突然お邪魔しちゃって」

メイリンも恐縮したようにペコリと頭を下げる。

 

玄関先で騒いでいたところを、マユとその声に反応したシンの母親によって、あれよあれよという間にリビングへ連行されてしまったのだ。

シンはそれぞれを軽く紹介して、今は車のキーをウォールポケットから取り出し、荷物を詰め込みに行っている。

ついでとばかりに、自分の私物もミネルバまで持っていくそうだ。

配属当初は遠慮して持ち込まなかった本が、自室に大量に残っているという。

 

「ねぇねぇ、どっちがお兄ちゃんの彼女なの?!」

テーブルから身を乗り出し、瞳をキラキラ輝かせるマユに、ルナマリアが苦笑しながら答える。

「さっきシンが言ったとおりよ。ただの同僚、彼女なんかじゃないわ」

 

期待外れの答えに、マユが不満げに口をとがらせる

「えー? でも休日に一緒にデートしていたんでしょ?」

不躾な言葉に母がマユの袖を引きながら「ちょっと!」と小声で注意するが、こたえた様子はない。

 

ルナマリアが顔の前でひらひらと手を降った。

「違う違う。私が同じ小隊、えーと、チームでね。先輩として散々、山ほど迷惑かけられているから、その借りを返してもらっているだけ」

少しばかりトゲのある言い回しに、メイリンが「ちょっと、お姉ちゃん!」と肘でつつくと、ルナマリアが慌てたように「あ、少し言い過ぎたかも知れません。ええ」と言葉を濁した。

 

しかし、シンの母は責めるどころか、ひどく心配そうな顔で問いかけてきた。

「その、ご迷惑おかけして、本当に申し訳ございません。……あの子は、軍でちゃんとやれていますでしょうか? シンったら昔から思い込みが激しくて、目の前のことばかりに集中して周りが見えなくなるものですから」

 

(……流石に、よく分かっているわね)

シンの性格を一言で示す言葉に、ルナマリアも内心で大きく頷いた。

不審に思われない程度に思考をまとめて、真剣な表情で口を開く。

 

「正直、目の前のことばっかり考えて、突っ込んで、無茶気味なのは否定できません。……私も散々尻拭いをさせられています」

アイスランドでレイダーを捕縛するときも、大分フォローをさせられた。

後に聞いたエクステンデッドの境遇を考えれば、結果的には良いことをしたとは思うが。

 

ルナマリアの率直な言葉に、シンの母は悲痛な表情を浮かべて俯いてしまう。

すかさず、ルナマリアは柔らかく微笑んでその言葉を続けた。

「でも、無茶を無理や無謀にしないように、必死に努力しています。どんなに格好悪くても、挫けずに頑張り続けて……。実際に戦闘でも、本当の意味で危ない目にあったことはないんです」

あの過酷な初戦でも、後からガンカメラの映像を確認させてもらったが、彼が致命的な隙を晒した場面は一度もなかった。

その後の幾多の戦闘でもシールドを破壊されることこそ多々あるが、機体にまともな被弾を許したのはこの間のカラミティによる道連れじみた攻撃ぐらいだ。

それも、空中戦では致命傷にならない脚部だけ。

 

何故そんな事ができたか。

何度もつきあわされたルナマリアには、当然分かっている。

自分の無力を恥じて、愚直に訓練を続けたからだ。

シミュレーターのログには、シン一人だけ他の10倍近い操作時間が積み重なっている。

 

「シンのそういうところ、本当に凄いと思います。だから、心配しないでください……危なっかしいところは、私がちゃんとフォローしておきます。……先輩、ですから」

照れた笑みを浮かべるルナマリアに、シンの母はほっと息を吐いた。

 

それを横から見ていたマユは、身を乗り出してメイリンに問いかけた。

「……どうなの? 実際?」

「うーん、わからないけど……相性、悪くはないんじゃないかな。お姉ちゃん世話焼きだし」

 

 


 

「ゴメン、待たせた! 持っていく本選んでいたら、つい……ってオイ?!」

シンが数十分ぶりにリビングに入ると、テーブルに茶菓子を広げてくっちゃべるホーク姉妹は、完全にくつろいでいた。

 

「それでね、メイリンさん。こういうふうになっていて……」

「うわー!! 綺麗! 行ってみたい!!」

端末をテーブルにおいて、穴場の観光スポットを案内しているらしい、シンの母とメイリンの平和な会話はまあいい。

 

問題なのは──

『ぼくがにんじゃね。ほら、ぶんしんのじゅつ!!』

「ぷふふ! シン、かわいー。なにこれ、女の子みたい!」

「でしょー!! お兄ちゃんって、ほんと可愛いんだよ!」

幼い頃のシンのホームビデオを、大写しのテレビでルナマリアに見せているらしきマユの姿だった。

 

「何やってるんだよ?! ていうか何で持っているんだよ?! それマユが小さい頃のだろ?!」

真っ赤になって慌てるシンにマユが今さら気づいたようで、入口を向く。

 

「あ、お兄ちゃん。遅いよー、皆ずーっと待ってたんだよ? この動画は家のデータストレージに入ってたやつ。……だって、お兄ちゃんと離れて、私も寂しかったんだよ? 動画探しても仕方ないじゃない?」

 

「んなッ?!」

口元をニンマリとさせたマユに、シンは言葉に詰まる。

そもそもこの兄妹は、シスコン・ブラコン気味なのだ。

実際のところ、シン自身も家族の動画データを端末にDLしており、ミネルバでの任務の合間に自室で見返しては精神の安定を図っていたりする。

 

「……だからって、それをルナに見せる必要ないだろ?!」

なんとか絞り出した反論に、今度はルナがニンマリと口を開く。

 

「あら、いいじゃない。同じ部隊の仲間同士の、大切な相互理解よ。……とっても可愛いわよ、シンちゃん?」

ニヤニヤとからかうようなルナマリアの口ぶりに、シンは両手をわなわなと震わせて下を向いた。

やがて呪うようなおどろおどろしい声を響かせた。

 

「……マユがそのつもりなら、俺にも考えがあるぞ」

背を翻して、ドタドタと階段を登る。

本の貸し借り等もするため、勝手知ったる妹の部屋の扉を勢いよく開け放つ。

そして本棚に飾られたピンクのそれをひっつかむと、再び階段をせわしなく下りた。

 

再びリビングに入ると、怪訝そうにシンを見つめるマユにそれを突きつける。

「……はっ?!」

どうやら気づいたようだが、もう遅い。

シンがコーディネイターらしい素早い動きで操作すると、少し舌足らずな可愛らしい声が響く。

 

『マユでーす! でもごめんなさい、いまマユはお話できません! あとで連絡しますので、お名前を発信音の後に……』

 

「ミ、ぎゃ?!」

自分のことを名前で呼ぶ幼さに、マユが身悶えする。

なまじそれ以外の口調がいっぱしに丁寧故に、可愛らしさと痛々しさが際立つ。

かつてマユが両親に買ってもらった小型端末と、その留守番メッセージだ。

マユは非常に気に入っていて、機種を変えた今でもインテリアとして飾っていた。

 

「やーめーてぇーッ! それは若さ故の過ちなのーッ?!」

多感な時期のマユが一人称を改めたのは必然の成長だったが、ほんの数年前のこと故にダメージはシンより遥かに大きい。

半泣きでシンにすがりつき、ポカポカと叩くマユ。

 

そのやり取りに、ルナマリアはお腹を抱えて笑っていた。

 


 

「間に合うかなぁ……。あぁ!! 前の車とっとと行けよ!」

夕闇が迫る海岸沿いの道路で、ハンドルを握るシンが声を荒げる。

 

当たり前だが、休養日だからといって任務中の軍人が無断外泊して良い訳がない。

実家がオーブにあるとはいえ、シンも住んでいるのは港に置かれたミネルバ艦内のままだ。

車を実家に戻すのは最悪明日以降でもよいが、門限前には艦に戻る必要があった。

 

「ゴメンね、思ったより話しすぎたわ」

流石に悪いと思ったのか、助手席のルナマリアが片手を立ててウインクする。

運転中のシンはそれを横目でチラリと見てから、視線を正面に戻した。

「……ウチの家族が引き止めたんだからいいよ。それに、その……ありがとう」

バツが悪そうに小声で話すシンに、ルナマリアが首をかしげる。

 

「なにかしたっけ?」

キョトンとしたルナマリアに、シンは頬をかきながら口を開いた。

「俺の危なっかしいところ、フォローしてくれるって、母さんに言ってただろ? ……廊下で、聞こえちゃったんだ」

シンだって、()()()であるホーク姉妹を無駄に待たせるつもりはなかった。

最初は最小限の荷物だけにするつもりで、それが一段落したところでリビングに入ろうとしたら、ルナマリアの言葉が聞こえたのだ。

気恥ずかしさに、部屋に戻って積み込み作業を再開したシンを誰が責められようか。

 

「な……?! 聞いていたならそう言いなさいよ?!」

「だから、今言ってるだろ?」

顔を真っ赤にして騒ぎ立てるルナマリアを、シンがからかうように笑い飛ばす。

ルナマリアは「ぐぐぐ……」と唸りながら押し黙った。

実際、直後に入ってこられるとルナマリアも余計に混乱してしまっただろう。

 

「COMPASSに志願したことで、やっぱり心配させちゃってたから。ルナがああ言ってくれてよかった。……どうか今後も頼むよ」

前を見たまま小さく頭を下げるシンに、ルナマリアは鼻を鳴らした。

「フンッ、仕方がないわね。……代わりに借りはしっかり返しなさいよ」

 

「いくらでも返すよ。今日だってちゃんと荷物持ちしただろ? 大変だったんだぜ?」

呆れたようにぼやくシンに、ルナマリアは肩をすくめた。

 

「そんなの当たり前よ。せめてチョットお高いレストランで奢るぐらいしなさい」

「えー? そりゃCOMPASSは給料いいけど、俺の危険手当の支給まだなんだぜ? ルナとメイリンの2人分はキツイって」

シンが困ったように眉をひそめる。

基本給部分は毎月口座に振り込まれていくが、実戦手当や危険手当は小隊長の査定ありきの四半期ごとの支給なのだ。

シンが正規パイロットとして実戦に出始めて、まだ3か月足らず。

まとまった額の支給はこれからである。

 

「……ま、面倒の大半は私が見ているわけだし。お金が厳しいなら私だけでもいいわよ」

ルナマリアはシートに深く寄りかかり、目を閉じて悠然と腕を組む。

 

シンはいくらか黙った後、ハンドルの上で指を泳がせながら小さな声で答えた。

「……それって、デートってことか?」

照れた様な声色に、ルナマリアは跳ね起きるように慌てて反論した。

 

「は、はぁッ?! そんなわけ無いじゃない! 私のタイプは年上の、落ち着いててお互い高め合えるような人よ!!」

耳まで真っ赤にしてまくし立てるルナマリアに、カラカラとシンが笑う。

「はいはい、わかりましたよ」

 

「アンタ、本当に分かってる?!」

なおも言い募るルナマリアだったが、ふと気づいて後部座席を覗き込む。

ニヤニヤと喜色満面の笑みを浮かべたメイリンが、身を隠すように屈めながらこちらを見つめていた。

 

「……あ、お気になさらず」

 

「……?!?!!!」

ポツリとした言葉に、ルナマリアはもはや言葉を発することも出来なかった。

 

ちなみに門限には間に合わなかったので、3人共々反省文を書かされた。

 




ドラマCDノリ
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