SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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長くなりすぎて分割した関係で短いです。


2-5

そのメッセージを開封した瞬間、オーブ最高司令部の管制官は言葉を失った。

しかし鍛え抜かれたプロ根性が、凍りついた喉から半ば自動的に声を上げた。

 

「アークエンジェルより緊急連絡!! 占拠されていた工廠から大型MA搭載HLVとICBMが発射!! ICBMの弾着予想地点──オーブ本国!!」

 

「バカなッ?!」

アークエンジェルからの報告を待ちわびる形で司令部詰めていたカガリは、目を見開いて叫ぶ、

周囲の軍人たちも思わず言葉を失い、息を呑んだ。

 

しかし、そこにズガンッという音が響く。

カガリが、己の額を指揮卓へ叩きつけたのだ。

(……バカな、なんて思考停止は要らない。国民のために、できることを!!)

 

「オーブ全土に緊急避難発令!! 時間がない、強固な建物への屋内避難を優先させろ!! あわせて全軍にスクランブル!! 何としても起爆前に撃ち落とせ!!」

額から血を滴らせながら、カガリが鬼気迫る表情で叫ぶ。

下された明確な指示に、動きを止めていた軍人たちが再起動する。

全員が慌ただしく動き始めた。

 


 

シンたちミネルバ隊は、緊急指令にあわせて既に出撃していた。

もとよりアークエンジェルの後詰として出港を準備していたため、即応体制を取ることが出来たのだ。

オノゴロ島の上空に展開し、何が起きても行動できるようにスタンバイする。

 

『既に特務小隊(エクリプス隊)が上空で迎撃準備を整えている。僕らの目的は、彼らが撃ち漏らした場合のバックアップだ。……過度に緊張する必要はないけれど、集中は切らさないように』

キラの落ち着いた声に、しかしシンは緊張を緩めることが出来ない。

 

(オーブに何かあれば……みんなが……)

震える指をねじ伏せる様に操縦桿を握り込む。

両親も、妹も、数少ない友人たちも。

シンを構成する多くが途切れてしまう。

胸が締め付けられるように痛み、バクバクと音を立てる。

 

「そんな事、絶対にさせやしない……!」

思わず声を漏らしたシンを、通信を繋いだままのルナマリアがたしなめる。

 

『一人で何でもかんでも背負わなきゃ、みたいな声出さないの。皆が協力すれば、きっと大丈夫よ!! ……ね、隊長?』

 

『あ、ああ……。そうだね』

少し戸惑うような声を上げて、キラが同意する。

 

シンも小さく「分かった……」と口にしながら息を吐く。

肩に力が入っていては全力は出せない、それはコーディネイターだろうが変わらない。

意識をフラットに保とうとしながら、地上を見つめる。

 

夕闇の島々には煌々と照明が照らされ、防災スピーカーが悲鳴のように避難を促す。

距離から考えれば、ICBMの発射から着弾までは30分程度。

後僅かだ。

 

そこに、突如強制コードで通信が撒き散らされる。

 

『エクリプスより全軍へ!! 軌道が違う、これは高高度────』

言葉がプツリと途切れる。

オーブの空に、緑や紫の美しい光が舞う。

赤道直下には似つかわしくないオーロラだった。

 

「……?」

瞬きの間ほど見とれたシンだったが、すぐに異常に気づく。

声を発したらしきエクリプスとの通信が途切れ、ノイズすら聞こえない。

同時に地上の光は一瞬にして掻き消え、防災スピーカーも沈黙していた。

 

『まさか……。オーブコントロール?! 応答してください!!』

キラの声に合わせて、シンも様々なチャンネルに繋いでみるが、何も応答がない。

真下にいるミネルバとさえすらも。

 

『これって、高高度核爆発(H.A.N.E)……?!』

ルナマリアの驚愕の声が、僅かなノイズとともに響いた。

 

高高度核爆発(High Altitude Nuclear Explosion)

地上100kmの宇宙との境目で核爆弾を起爆させると、放たれたガンマ線が希薄な空気と衝突して電子が飛び回り、地球の磁場と干渉して膨大なEMP(電磁パルス)を撒き散らす。

それは前大戦でZAFTが使用したグングニール(EMP兵器)ほど強力ではないが、反面その範囲は半径1000kmにのぼり、国家を丸ごと一つ沈黙させる。

軍用回線だろうがその例外はなく、どれほどの防備を施そうがケーブルそのものがアンテナとなって、接続される機械を軒並み破壊していく。

むしろ、携帯端末といった無線で使用する機器のほうが影響が少ない。

 

そしてNJの電波障害の影響を軽減するため、現代の軍設備は有線回線に偏重していた。

オーブの管制網は、完全に沈黙している。

ミネルバの様な艦も通信設備に影響を受けているだろうし、空間に漂ったままのプラズマが電波を吸収してしまうから、広域通信もそうそう通じない。

 

『面と向かっての短距離直接通信なら、何とか大丈夫そうだね。……一度ミネルバに下りて、接触回線で』

「隊長! 空からっ?!」

 

方針を指示しようとするキラの言葉を、シンが遮る。

インパルスが指さした先の空から、装甲を赤熱させて巨大なMAが3機、バカげたサイズのスラスターを吹かしながら降下してきた。

 

フォビドゥンによく似た、しかし数倍にも大きい円盤状の装甲。

その円周から、360度に渡って無差別にプラズマが放たれる(ネフェルテム503)

それを構成する20の砲門はわずかに角度を変えながら薙ぎ払われ、突然の管制停止に戸惑うオーブ防空部隊のムラサメを次々と焼却する。

 

『ICBMと同時に打ち上げられたっていう、MA……? 宇宙に上がって、そのまま再突入してきたのか?!』

キラの戸惑うような声が、次第に戦慄の色を帯びていく。

全高はMSの倍ほどだろうか。

辛くも初撃のプラズマを躱したムラサメがビームを放つが、帯電した空気が枝毛のようにビームを拡散させる。

更に陽電子リフレクターと思わしき領域が展開して吹き飛ばす。

 

そしてMAがいよいよ着地しようとしたころ、円盤部上部に搭載された砲身が動き出した。

それ自体が30mに達しようかという巨大な砲身が、地を這う蟻を見下ろすように、徐々に下を向いていく。

 

シンの額に汗が吹き出す。

手足が凍りついたようにこわばり、感覚を失った。

まさか……おい、やめてくれよ…………やめろ、やめろ、やめろおォォォ?!!!」

『シン?!』

その4つの砲身(アウフプラール・ドライツェーン)が実家のある居住区に向けられようとしているのを気付いて、シンはルナマリアの制止も聞かずにスロットルを全開に叩き込んだ。

フォースインパルスが爆発的に加速していく。

 

敵は1機だけではない。

重低音を立てて建物を踏み潰しながら、正三角形の配置でオノゴロに上陸した3機のMA。

それぞれの巨大の砲身を少しずつ傾け、地表に向けようとしている。

 

その砲身に見合った威力があるとすれば、如何ばかりか。

もはや想像すらできない。

シンの中で、思考がクリアになっていく。

──何かが、弾けた気がした。

 

熱を持った巨大な砲身が大気を軋ませ、莫大な電力が粒子に込められていくのがわかる。

ヤケクソのようにライフルを放つが、EMPの余波で帯電した空気に阻まれて、射程は本来の半分程度。

とても届かない。

 

クリアになった思考が、残酷な真実を告げる。

もう、間に合わない。

あの巨大な砲身から放たれる熱線は、チリ一つ残さず蒸発させるだろう。

シンの産まれた街も、育った家も、家族も、全て。

 

「ああぁぁぁあああ??!!!!」

色を失ったシンの瞳から、絶望と怒りの入り混じった涙が溢れ出す。

必死に伸ばした、インパルスの腕の先。

MAが構えた砲身の奥に、きらびやかで無慈悲な光が灯ったのが見えた。

 

 

 

 

 

──瞬間、流星のような光が瞬く。

貫かれた巨大な砲身が、己の内に抱えた熱によってドロリと溶け、隣の砲身を巻き込んで爆発した。

 


 

「二度と……そう、二度と。俺の故郷を、奪わせてたまるもんか。──そのための力だ」

油断なく71式電磁加農砲(レールガン)を構えながら、トールはつぶやく。

隣では同じ様に、ヴァレンティーナとケンもレールガンを構えていた。

エクリプス3機で同時に射撃し、フェイズシフトも貫く特殊弾頭(ビームサーベル付)で同じく3機のMAのビーム砲を見事に撃ち貫いたのだ。

 

帯電した大気はビームを大幅に減衰させるが、レールガンならそれでも届く。

核弾頭破壊用に、自分だけではなく部下にもレールガンを持たせて居たのが幸いした形だ。

 

スコープを覗き込んでトリガーを握るトールの脳裏に、かつての記憶が広がる。

あの日(CE71/1/25)、故郷のヘリオポリスが攻撃され、崩壊することをトールは知っていた。

だと言うのに、己の力が足りない故にそれを見過ごすしかなかった。

 

その無力感と後悔は、今もトールの胸の中で深い傷跡を残している。

何よりオノゴロには、妻と息子、そして産まれたばかりの娘もいるのだ。

絶対に、何があっても喪うわけにはいかない。

 

「……核弾頭を迎撃できなかったのは、無能の誹りを受けざるを得ないが。少しでも被害を防ぐぞ」

『『……了解!!』』

歯を食いしばるように告げたトールに、二人も力強く頷く。

ケンの唯一人の家族である母親も、ヴァレンティーナが苦楽を共にしたハーフコーディネイターの仲間も、オノゴロに居るはずだった。

守るべきもののために戦う彼らに、迷いはない。

 


 

外灯の消えた夕闇の街を、3つの人影が疾走していく。

簡素な部屋着を纏った3人だったが、その足取りは慄くほどに速い。

 

「本当にいいのか? こんな事して。抑留期間が増えちまうような気もするが」

スティングの言葉に、アウルが怒鳴るように反論する。

 

「仕方ないだろ?! 今ここ(オーブ)には()()()が居るんだぞ?!」

「……ま、今の状況は()みたいなもんだ。失くしてしまうには、惜しいよな」

スティングも苦笑で返した。

「久しぶりに会えたのに、施設の皆が()()()()()のは嫌だもん。やっちゃおう」

ステラが前を向いたまま、真剣な表情で告げる。

 

オーブによって拘束と治療を受けている彼ら(エクステンデッド)だったが、残る治療の大部分は分泌系や循環系などの肉体に関することだった。

当然と言えば当然の話で、精神を安定させ記憶を調整する()()()()は、逆に使えば洗脳の解除にも効果的なのだ。

辛い記憶を自己認識から切り離し、他人事のように少しずつ受け入れさせるというアプローチによって、彼らの精神は劇的に安定を取り戻しつつあった。

 

そうして洗脳を解かれ、メンタルも一旦はそれなりに安定した三人は、未だ変わらぬ身体能力を生かして抑留施設を脱走していた。

本来なら居る監視の人間も、厳重な電子ロックも、今の状況ではザルだ。

電子機器の破壊され、人々が閉じこもった静かな街に繰り出し、戦う手段を探していた。

 

そんな行動に打って出たのは、アウルがひときわ懐き、母と呼んでいた研究員と再会したことも一因だった。

ロドニアのラボ摘発時に逮捕されていたその研究員は、後悔から生体CPUの治療に従事していたのだ。

そしてもう一人、ステラもかつて無いほど高いモチベーションを持っていた。

「いっぱい活躍して、ステラの王子様にも褒めてもらわなきゃ!!」

ステラの表情がニヘラと緩む。

 

ステラをコワイところから連れ出してくれた()()()は、オーブに到着してからも優しかった。

重要参考人であるステラ達に面会はまだ許されていないが、数日おきには綺麗なお花や美味しいお菓子を差し入れてくれて、『大丈夫か? がんばれ』という手紙も送ってくれたのだ。

 

手紙にはシン・アスカと署名され、間に挟まれる監視員は、その差出人がステラを助けてくれたパイロットだと教えてくれた。

「王子様ねぇ……。歳も顔も知らないんだろ? なんで王子様なんだ?」

呆れたような表情を浮かべるスティングに、ステラは頬をふくらませる。

 

「ダンスに誘ってもらったもん!! 可哀想な女の子にそうしてくれるのは王子様だって、私知ってる!」

戦場でMSごと抱きとめられ命を救われたあの瞬間を、ステラはダンスに誘われた、と認識して大切に胸に抱いていた。

「自分で可哀想な女の子って、よく言うぜ……。否定はしないけどよ」

 

「おしゃべりはいい加減にしろよ?! ……ここだ!」

走りながらも器用に肩をすくめるスティングに文句を言って、アウルは急ブレーキを掛けて立ち止まる。

 

高い塀に背を当てて、腕を前に差し出す。

「そらよッと」「えいッ」

跳ね飛ばすように動く腕を足場にして、スティングとステラが塀の上に跳ね跳ぶ。

「行くよッ」

アウルは塀から離れて助走をつけ、高々と跳躍。

伸ばした腕を、塀に跨ったスティングが掴んで引き上げた。

 

塀の内側は、COMPASSの地上拠点の一つ。

将来的な攻撃目標の一つとして覚え込まされてたいたそこに、三人は侵入した。

抑留施設と同じで、本来は厳重な警備が敷かれていたはずだが、今は静まり返っている。

上空では、MS達が巨大MAに襲いかかっては追い払われる光景が繰り返されていた。

 

目星をつけて格納庫に入り込み、僅かな非常灯が光る内部を見渡す。

「俺等が使えそうな機体は……あ、あれ連合系じゃねえか?!」

スティングが喜色を浮かべて、広い屋内を走り出す。

オーブの機体よりは、連合系の機体のほうが慣れているに違いなかった。

 

居並ぶM1アストレイやムラサメを通り過ぎ、一番奥に置かれた機体へ。

「同型機が二つに……。こりゃ可変機か?」

スティングが首を傾げる脇を、アウルとステラが走り抜けていく。

 

「それじゃ僕、コッチね!」

「ステラはこれ!」

跳躍して同型機に飛びつく二人に、スティングがやれやれとため息を付いた。

「しかたねーな……」

文句を言いつつも口角を上げ、スティングも可変機へ取り付く。

 

それぞれが機体に入り込み、起動スイッチを入れる。

モニターに文字が踊った。

 

General

Unilateral

Neuro-Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

 

「えーと、こいつの名前は……? よし。アウル・ニーダ、オオトリストライク、出るよ!!」

「……ストライクルージュ・IWSP? 名前似てる、嬉しい!! ──ステラ・ルーシェ、行くよ!!」

「オレはコイツか。スティング・オークレー、バスターニンバス。行くぜ!!」

 

格納庫の天井を吹き飛ばして、3つの影が夜空に踊った。

 

 




「シンはステラの王子様なの!」
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