SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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バトル的には期待はずれかもしれません。
申し訳ない。


2-6

『邪魔なんだよぅ、お前。──瞬殺ッ!!』

「くッ?!」

巨体の両手が、猫騙しするように距離を縮める。

違うのは、その手の甲と十指の先からビームが放たれ、インパルスが挟まれそうになっているところだ。

 

「オオぉ!!」

相手のビームは減衰してなおこちらを焼き切る火力を持つが、流石に射程が縮んでいる。

あえて一直線に加速し、両手の隙間に入り込む様にしながらサーベルを引き抜く。

 

『残念でしたぁ?!』

胸元の複列位相エネルギー砲(スーパースキュラ)に光が宿る。

「ダメかッ?!」

慌てて機体を一気に上昇。

縦に薙ぎ払われたビームが、薄い雲を引き裂いた。

 

シンは今、キラやルナマリアとも離れて大型MAの相手をしていた。

本来なら、小隊で協力して各個撃破するほうがよほど良い。

だが、今はそうせざるを得ない理由があった。

 

『──ダメだ。今のオーブの防空隊じゃ、こいつらを抑えきれない』

上空からの攻撃によって、MAのビーム砲が破壊されたのを、安堵のままに呆然と見ていたシンに、追いついてきたキラが告げたのはそんな言葉だった。

 

指揮系統の崩壊した現在、味方のムラサメが有効に動けていないのだ。

EMPの影響が継続し、レーダーが完全に無効化され通信も短距離通信しか使えない。

そして闇が迫り、一方でビームが瞬く中では目視も困難。

この状況では、折角のムラサメのMA形態は有効に機能しない。

 

MS形態のムラサメは自力飛行可能とはいえ、格闘能力は程々。

そしてEMPの影響でビームは減衰が酷く、敵機の指先から放たれるような高出力のものでなければ効果がない。

ミサイルを放っても、フェイズシフトに阻まれるだけ。

 

今も周囲にムラサメはいるのだが、大型MAの砲撃を掻い潜れず、遠巻きに射撃をしているだけ。

それでもバッテリーの消耗にはつながるのだろうが、相手は巨体ゆえに凄まじい容量を持っているようで、堪えた様子がない。

 

この状況で市街地の被害を抑える為、ミネルバ隊の3機がそれぞれの大型MAの注意を引く囮をするようにキラから指示が下っていた。

 

「大体、何なんだよコイツは……!」

乾いた涙で皮膚が突っ張るのを感じながら、シンがごちる。

エクリプス隊の上空からの攻撃により、円盤装甲をズタボロにされた敵機。

巨大な砲身だけでなく、最初に放たれた360度攻撃ももはやできないようだ。

これなら、と思っていれば、腰を半回転させて円盤装甲を持ち上げ、なんとMSと同様の人型に変形した。

臨機応変に動くその四肢は、こちらの攻勢を阻んでいた。

 

(早く片付けないといけないのに……!!)

シンが囮になっているからこそ、市街地への被害は押さえられている。

遠方を見ても大きな炎は上がっていないから、キラとルナマリアもうまくやっているのだろう。

 

しかしこちらは普通のバッテリー機、どうしてもバッテリーの消耗がつきまとう。

先ほどまで共に攻撃してくれていた、エクリプス隊の一機も『補給したらすぐ戻る!』と言い残して一時撤退した。

あのレールガンは強力だが、消費も相応に激しいらしい。

 

インパルスならミネルバが動ければ充電もできるのだが、キラが降下して聞いてきたところに拠れば、地上との伝送ケーブル経由でEMPが入り込み、電装系がズタボロだという。

デュートリオンビームも起動できないらしい。

 

『ホラホラ、どうした?!』

くねらせるように放たれる十指のビームを避けながら、粘着質な言葉にいい加減シンもカチンと来た。

スピーカーを()()全開にする。

 

「ウルサイんだよお前?! わざわざスピーカーで喋るな!! 構ってちゃんかよお前は?!」

 

話すつもりがあるのかと、最初こそシンもスピーカーから話しかけようとしたのだが、ワケのわからない叫びか、粘着質な言葉を垂らすだけ。

そもそも最初の砲撃寸前の絶望から始まって、シンの胸中は未だ揺れているのだ。

 

『仕方ないだろ? 神経を直結されちゃったから、喋ろうとしたらそのままスピーカーから出ちゃうんだよ。……ほうら、撃滅!!』

僅かに諦念を滲ませた声とともに、頭部の200mmエネルギー砲(ツォーンMk2)が嘆きを漏らすように放たれる。

 

半ば無意識にそれを回避しながら、シンの口から「……は?」という息が漏れた。

だが、MAからは哄笑が漏れるだけだ。

 

『フハハハハ! どうせもう今更だ! 僕は今、とんでもなく自由だ!! それでいい、それでいいんだ!!』

生体CPUの末路。

そんな言葉がシンの脳裏に浮かび、故郷を蹂躙する敵への怒りが一瞬だけ途切れ、集中が緩んだ。

左手のビームを反射だけで避けた結果、右手に掴み取られてしまう。

 

「?! しまった!!」

『ヘタクソ! 終わりだよ!!』

左手の甲がビームが放ったまま迫ってくる。

インパルスは両腕ごと完全に拘束され、身動ぎ一つ出来ない。

 

「クソッ?! こんなところで!!」

諦めずにスロットルを叩き込み、スラスターの推力と熱で無理やり振りほどこうとする。

しかし、全くパワーが足りない。

 

(マユ……! キラさん……!!)

家族を守ることも、尊敬する英雄に誓った決意も果たせないのか。

歯噛みするシンの耳に、スピーカー越しの叫び声が届いた。

 

『ダメぇー!!!』

言葉とともに着弾したレールガンの衝撃が、MAの手を振りほどく。

シンは間髪入れずに抜け出した。

 

そして声の主をカメラに収める。

「アレは……ストライクルージュか?」

キラの予備機として登録されていた機体だ。

フリーダムの前に乗っていた愛機を、パワーエクステンダーのテストヘッドとして再建したものだと聞いている。

今はCOMPASSの倉庫に眠っていたはずだったが、誰かが持ち出したらしい。

 

『もうッ!! ステラの王子様に、ひどいことしないで!』

ルージュと合流するようにMAと距離を取る。

憤懣やる方ないとばかりに漏らされた声色に、シンはハッとする。

「レイダーのパイロットの子?! でもなんで?」

声に聞き覚えは有るが、そもそも未だ勾留中の筈だ。

 

『王子様!! 今度はステラが助けに来たよ! 褒めて!!』

「あ、ああ。ありがとう、助かった」

なぜ王子様と呼ばれるのかシンには皆目見当がつかなかったが、とりあえず助けられたのは確かだ。

素直に感謝を告げると、『やった!!』という笑い声が帰ってきた。

 

一方で、MAの側も思い悩むように足を止めていた。

『……思い出した、ぼんやりステラじゃねーか。なんでそっち居んの? スティングやアウルは?』

先程までの哄笑がウソのように、落ち着いた声で問いかけてくる。

『……誰? なんでスティングとアウルの事、知っているの?』

戸惑いの声がストライクルージュから漏れる。

 

『クロトだよ、クロト・ブエル。……ハッ、そっか。お前らは記憶消しちゃうんだったな』

『聞いた事があるような、無いような……?』

から笑いの混じる声と、困惑の声。

(研究所での、知り合いだったとか?)

そういうこともあるかも知れない。

 

MAの落ち着いた様子を見て、シンも改めて声を上げる。

「なぁ、アンタ。オーブを撃とうしたアンタのこと、許すつもりはないけど。……生体CPUの技術は接収されて、治療方法もある。投降すれば──」

 

呼びかけをするシンの言葉を、鬱屈した怒りの声が遮った。

『……今更だって、言っただろうが!!』

スーパースキュラが再び光を放ち、空間を薙ぎ払った。

 


 

『こんな事、もうやめろ!!』

「そんなことは知らないね! やられる方が悪いだろう?!」

 

トリコロールの機体(フォースインパルス)に、鉤爪のように右手のビームを振るいながら、その逃げる先にツォーンMk2を放つ。

『クソッ!!』

飛び退く敵機を、左手のビームで追撃しようとする。

『させない!!』

ステラの乗る赤い機体(ストライクルージュ)がレールガンを放ち、左手を跳ね飛ばして妨害する。

 

「邪魔なんだよ、ステラ!!」

『ぐッ?!』

そのステラの機体を右拳で殴り飛ばし、更にバックパックのミサイルの爆炎で押しやる。

 

『オオオォ!!』

体勢を立て直したトリコロールの機体(フォースインパルス)が、デストロイの天頂方向からライフルを放つ。

EMPの余波が減衰させるが、流石に水中ほどではない。

距離が近ければダメージも負う。

「ムダだね!!」

頭部に上を向かせ、ツォーンMk2で迎撃する。

敵はそれをロールして躱しながら、サーベルを引き抜き突進してくる。

 

「ミエミエなんだよ!!」

それを()()()で跳ね飛ばし、そのままイーゲルシュテルンで追撃する。

「……おっとぉ?!」

 

こちらの視界が塞がったと考えたのだろう。

蚊帳の外だった可変機(ムラサメ)がMA形態のまま加速し、ぶつかろうとしてくる。

それを右の肘打ちで叩き落とし、更に踏み潰す。

硬い音を立てながらフレームがへし折れ、バッテリーが爆発する光が上がった。

 

「ザコは黙ってろよ、バーカ」

デストロイを自分の身体のように動かしながら、クロトは嘲笑う。

 

デストロイの巨体を操ろうと思えば、高い空間認識能力と常軌を逸した反応速度が必要だ。

そうでなければ、懐に入ってきた敵に易易とやられてしまうだろう。

しかし空間認識能力を持つ人間は限られるし、大きな四肢はどれだけ反射神経が高くとも反応が鈍い。

操縦桿を操作する時間すら無駄だ。

 

そんな中で考案されたのが、ジェネシス照射に伴う混乱で運用に必要な薬品(γ-グリフェプタン)が不足し、冷凍保存されていたクロト達の利用だった。

ブーステッドマン(旧世代の生体CPU)は脳にマイクロチップを埋め込んでおり、それによって脳の処理速度を上げている。

それを一歩進め、脳から直接ケーブルを引き出し、外部のコンピュータへ接続する。

脳の処理を機体側の大型コンピュータに明け渡すことで、空間認識が必要ないほど処理を早め、インターフェースを省略することで反応速度を早める。

 

クロトの頭からは、何本ものケーブルが伸び、頭蓋骨に空けられた18の穴から脳にねじ込まれていた。

身体感覚は機体のセンサーと同期し、自身の肉体はもはや四肢すら動かせない。

反対にカメラの画像は目で見るように、指先は自分の手を動かすように操ることができる。

 

何より爽快なのは、小さなマイクロチップではなくメモリの大きい大型コンピュータが処理することで、ずっと頭の中に残っていたモヤが吹き払われたことだ。

 

「ホラホラ、どうしたんだ? あんまり相手してくれなかったら、また街を焼いちゃうぞ?」

『クソッ?!』

クロトの挑発に、距離を保ちながら牽制していたトリコロールの機体(フォースインパルス)がサーベルを構えて再び飛び込んでくる。

『ステラも!!』

赤い機体(ストライクルージュ)もタイミングを合わせ、左右からの挟撃。

「甘いね!」

腕を組むように両手のビームを左右に振り分け、迎撃する。

2機は飛び退いて避けた。

 

「……残念! 妨害にスコアが足りませんでしたァ!! 攻撃開始ィ!!」

再び胸元のスーパースキュラに光が宿る。

その射線は、飛び回る敵機でなく街へ向いていた。

 

『ッ!! やめろォ!!』

トリコロールの機体(フォースインパルス)の機体が突っ込んでくるが、もう間に合わない。

クロトは、唯一機体と同期しない表情をニヤリとさせる。

 

その胸元(スーパースキュラ)に、砲弾がめり込んだ。

「なッ?!」

また誘爆してはかなわない。

慌ててエネルギーの供給を切る。

 

いつの間にか現れたフライトウイングに腹ばいになった機体(バスターニンバス)が、レールガン(71式電磁加農砲)を向けていた。

それだけではない。

高速で飛翔する機体(オオトリストライク)が至近距離でビームランチャーを放ってくる。

右手が吹き飛ばされた。

ツォーンMk2を向けて迎撃しようとするが、飛び込んできた青い機体(アビス)が減衰してなお強力なビーム(カリドゥス)を放ち、頭部を吹き飛ばす。

 

「このヤロウ!!」

苛立ちを込めて左手を振るおうと思えば、『ええいっ』とステラの赤い機体(ストライクルージュ)がサーベルで両断する。

 

『今度こそ!!』

トリコロールの機体(フォースインパルス)が駆け抜け、サーベルで左足を切り払われた。

切断こそされないものの、自重を支えきれず姿勢が崩れる。

 

「おおおォォ!!」

スラスターで機体を無理やり持ち上げ、もはや他にできることもなくスーパースキュラにエネルギーをつぎ込む。

破損した砲口がバチバチと音を立て、小さな爆発が連続する。

それすら気にせず砲口を街へ向けた。

 

そして、翼を持った機体(フリーダム)がデストロイの胴体を貫いた。

『……ごめん』

 

スーパースキュラが完全に沈黙し、デストロイの機体が傾いでいく。

血塗れの肉体の痛みすら感じす、クロトは力なく笑った。

 

「ハ、ハハ。……やっぱりダメかぁ」

どちらにせよ、鉄砲玉として送り込まれ、身体にも無茶な改造をされたクロト達に未来はない。

そんな事は、もうわかっていたのだ。

 

集まった敵の数からして、同じくデストロイに組み込まれていたオルガとシャニもやられているのだろう。

 

血の塊を吐き出しながら、クロトはわずかに微笑んだ。

「……なぁ、ステラ。いや、スティングとアウルも、もしかしているのかな。……お前らは、自由に生きろよ」

それきり、クロトの意識は闇に沈んだ。

ようやく訪れた自由()に、まどろむように。

 

 


 

 

ズズンッ、と地響きを立てて、巨大なMAが地に伏せた。

その巨躯からもうもうと黒煙が上がる中、ボロボロになったオノゴロ島の街並みを星明かりが僅かに照らす。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

地面に膝をついたフォースインパルスのコクピットを開け放ち、シンは操縦桿に突っ伏すようにして、荒い息を吐き出していた。

新鮮な空気と慣れ親しんだ潮の香りが、極限の集中を続けていた身体をわずかに弛緩させる。

 

バッテリーのインジケーターは、とうの昔にレッドゾーンに割り込んでいた。

もし、増援があと僅かに遅れていたら。

そう思うと、背筋に冷たい汗が流れる。

 

そこにバタンッという音がして、思わずビクつく。

恐る恐るとコックピットの外を見れば、金髪の少女が機体に取り付いて、ピョコンとこちらを覗き込んでいる。

直に見たのはアイスランドでストレッチャーの上で暴れる姿以来だったが、見覚えがあった。

 

「……王子様?」

ふわふわと首をかしげる少女に、プッと笑いを漏らす。

「王子様かどうかは、わからないけど。……さっきは助かった、お陰で街も無事だ」

微笑みを浮かべて感謝を告げるが、相手は借りてきた猫のように遠巻きに警戒している。

 

「……えっと。オレはシン、シン・アスカ。……花は、喜んでもらえたかな?」

警戒を解くように名乗りを上げる。

レイに見守るようお願いされたこともあり、彼らの不遇の慰めになればと、シンは施設に預ける形で度々差し入れや手紙を送っていた。

 

星明かりに照らされた彼女は、それこそ花を咲かしたようにパァっと笑みを浮かべた。

「私、ステラ! ステラ・ルーシェ!」

「うわッ?!」

飛び込んできた少女を、慌てて抱きとめる。

 

(……アイツ、この子に自由に生きてって、そう言ってたな)

MAのパイロットが、最後に遺した言葉を思い返す。

相手はオーブを破壊しようとする敵だった。

だが、その想いの全てを否定することはないだろう。

 

少女の温もりを感じながら、シンはそんな事を思った。

遠くさざ波の音が、微かに響いた気がした。

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