SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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1部ほどに時系列組んでいないですが、想定的にCE73年7月ミネルバ出港、1章が3か月間想定、2章が3か月間想定で、この話終了時でCE73年の年末ぐらいのハズです。
原作だとアーモリーワンがCE73/10なんで、ふつうに考えてロドニア位かな。
…種運命と自由、下手したら半年ぐらいしか離れてない…?


2-7

コンコンと重厚な木製のドアを叩く。

「……どうした?」

余裕がないのがアリアリとわかる素っ気ないドア越しの声に、トレイを抱えたアスランは苦笑した。

 

「根を詰めすぎだ。お茶と夜食を持ってきたから、一緒に食べよう。……機密書類は隠せよ?」

「……ああ、分かった」

いくらか待ってから扉を開く。

 

部屋に入ると、隈を浮かべたカガリが、じっと端末を睨めつけている。

傍らにはガラス製のケトルが置かれていたが、中にあったコーヒーはすっかり飲み干された様子で底にわずかに残るだけだ。

 

アスランが呆れ顔を浮かべる。

「まったく。眠気覚ましになるからとコーヒーばかり飲むと胃を壊すぞ? ついでにいうと、夜中だからこそしっかり水分を取らないと脱水症状になる」

 

「お前は私の母親か?」

普段なら怒鳴る勢いの反論にも力がない。

若さに任せた3徹目ともなれば、こうもなろう。

 

オーブに突如襲いかかった高高度核爆発によるEMPと、巨大なMAとの戦闘。

奇跡的に戦闘による人的被害はかなり押さえられたが、皆無とはいかない。

 

何よりEMPによる民間インフラ破壊が重大だった。

各地の変電所が火を吹き、送電網は壊滅。

通信設備も大きな被害を受け、当初の諸外国への救援要請は古式よろしく紙の書簡をムラサメが送り届けるという力技だった。

今は国家首席であるウズミが直々に各国を行脚して協力を取り付けに周っている。

 

オーブの危機を聞きつけたアスランが、文字通り全てを放り投げてファトゥム11で帰国したのは、そんな最中だった。

今はカガリの負担を少しでも抑えようと、秘書のような立ち回りをしている。

 

「……甘いな。それに、スッとする」

アスランの入れたお茶に口をつけて、カガリは少し驚いた表情になった。

 

「モロッコ式だ。ミントを加えた緑茶に、しっかり砂糖を入れている。エネルギー補給になるぞ」

生真面目に頷いたアスランに、カガリは疲れた笑みを浮かべて、皿に置かれた皺だらけのドライフルーツをつまんだ。

「それで本体の夜食がデーツ(ナツメヤシ)か? 砂糖取りすぎじゃないか?」

ねっとりとしたデーツは、キャラメルや干し柿に例えられる甘さだ。

 

「本場の組み合わせだぞ? それにしっかり糖分を取らなきゃ、頭も回らないさ。……まだ作業するんだろう?」

心配げに問いかけるアスランに、カガリが「ああ……」と漏らしながら頷く。

「国内のことは、まだいい。指示さえ出せば、氏族で分担して実務は回る。……ただ、ブルーコスモスへの対処と、アコードへの対策がな。シャトルで移動中のラクスから、草案は回ってきたが」

カガリがお茶を啜った。

 

「あれは確かに頭が痛いな。……特に(工作員)は」

EMPによってオーブが沈黙する中、ブルーコスモス盟主 ロード・ジブリールの名前での犯行声明が世界中にばら撒かれた。

 

**********************************

このメッセージが公開されたとき、私はもうこの世にいないだろう。

愛する同胞たちよ。

世界は今、平和という美名に隠された、COMPASSとそれを操るオーブによる独裁の危機にある。

彼らは武力で我々ナチュラルの自由を奪い、世界を隷属させようとしている。

誰かが、この欺瞞を打ち砕かねばならなかった。

故に私は、禁じられた核の力を振るってでも病巣たるオーブを討つ。

……母なる大地を焼く罪の重さに、私の心は血の涙を流している。

だからこそ、私はこの大罪の責任を、自身の死をもって贖おう。

同胞たちよ、私の死を悲しむな。

偽りの平和を打ち砕き、自由をその手に掴み取るために、立ち上がれ。

すべては青き清浄なる世界のために。

**********************************

 

「……ロード・ジブリールのプロファイルを見ている身としては、噴飯ものだがな」

アスランがぼやく。

コレでは、まるで信念を持った殉教者だ。

実際には能力はともかく、性格としては癇癪持ちの小物と言うほか無いというのに。

 

「だが、民衆は見たいものを見て、聞きたい言葉を聞く。……内心、COMPASSの締め付けを嫌っていたものも多いのだろう」

カガリが深く深いため息をついた。

オーブが物理的に反論を封じられる中、このメッセージに国際世論は盛り上がった。

ロード・ジブリールのブルーコスモス盟主という立場だけが語られ、それだけの立場の人間が命を賭したのだから、というバイアスの元、真実のメッセージとして受け入れられた。

 

通報といった市民のCOMPASSへの協力が弱まり、反対に追い詰められていた筈のブルーコスモスは活性化した。

「力で押し返そうとすれば、余計に反発を招く……。終わらないな、戦いは」

カガリは僅かに涙をこぼしていた。

 

COMPASSの正当性に疑義をもたれている以上、強硬的な締め付けは逆効果にしかならない。

ようやく終わりが見え始めていたブルーコスモスとの戦いが後退するのは、目に見えていた。

 

「元々思想犯だ。完全に消し去る事なんて出来ない。刈っては増え、刈っては増え……その繰り返しだ。だからカガリ──泣くな。お前は出来る限りのことをしている」

アスランがカガリの肩に手を添えると、カガリは慌てたように振り払う。

 

「そんなことわかっているさ! 私は諦めない。何度でも根気よく抗うだけだ。これは、あくびだあくび!」

わざとらしく、大きなあくびを何度もする。

 

アスランは苦笑を浮かべながらも頷いた。

「ああ、そうだな。頑張れ、カガリ。……アコードの方は、まず俺が対処するさ」

スっと目線を鋭くする。

 

占拠されていたアドゥカーフ社の設備は、オーブへのICBM発射発射の数時間後には機密保持用の自爆装置で破壊された。

オーブの状況を注視するため前線を下げていたアークエンジェル隊も、それに合わせて撤退せざるを得なかった。

表面上は、ロード・ジブリールの自決ということにされている。

──だが、実際は違う。

 

あまりにも鮮やかに行われた工廠の占拠と、護衛を排除してのNJCの奪取。

そしてユーラシア連邦は公式に認めていないが、自爆の直前で不自然に崩れた工廠の包囲網。

起こるはずのない失態の連続は、偶然ではありえない。

 

その答えは、プラントに居たラクスからもたらされた。

「アコード……。超能力を持つ、コーディネイターを越えた新人種、か。デュランダル議長も、とんでもないものに関わっていたんだな?」

降参するように両手を上げて首を振るカガリに、アスランも同意せざるを得なかった。

 

「読心や精神操作、テレパシーに透視まで。完全に小説の世界だからな。それはラクスも裏取りに慎重になるさ」

発端はアスランが正体不明の、心を読むような敵と戦ったことだった。

そのレポートが各地を回り、捜査がディランダル議長にたどり着き、そして議長は「共に研究したのは過去のことなのですが」と前置きしたうえでアコードという存在について語ったという。

その話はラクスが手元に置いて確認を進めていたそうだが、信憑性を考えれば当然だろう。

 

結果的にその情報の有無が今回の事件に関わったのは事実だが、知っていたところで何か出来ていたかというと、怪しいところだ。

 

アスランが顎に手を当てて眉をひそめる。

「状況からして、ロード・ジブリールの資金とアドゥカーフ社のデータベース、そしてNJCが渡ったのは間違い無い」

資金とNJCは、何かを起こすには充分な材料だ。

そこにアドゥカーフ社が創設以来蓄えた、素材やパーツの蓄積データが有れば、面倒な試作や実機テストを省いてモデルベース設計*1を行ってMSなりを作ることができる。

 

「奴らの目的は絞りきれないが……奴らが行動を起こす前に、アウラとやらを見つけてやるさ」

首魁と目されるアウラという女は、見た目の年頃は11~12歳の年齢詐欺。

苗字はともかく、名前は恐らく変えていないという。

もっとデュランダル議長が情報を持っていればよかったのだが、この数年は議長本人も忙しく金銭のやり取り程度で没交渉だった、と言われれば受け入れるしか無かった。

 

カガリがフフ、と小さく笑う。

「頼むぞ、アスラン。……会えないのは……寂しいけど……お前が居るから、私は……」

口を開きながらも、少しづつ身体を傾げていったカガリの言葉が途切れる。

転げ落ちそうな身体を、アスランがさっと立ち上がって支えた。

カガリの言葉に高まった胸の鼓動を、深呼吸して落ち着かせる。

 

(やれやれ……。ようやく眠ったか)

別に、睡眠薬を盛ったとかではない。

疲労困憊し空腹のところに、あれだけの糖分をぶち込めば血糖値の急上昇とそこからの急降下(血糖値スパイク)で意識が落ちるのは自然な生理現象だ。

(言っても聞かないからな、カガリは。……いつも、一生懸命だから)

疲れで効率が下がる、体を壊すと言っても、自分ができる限界を踏み込んででも頑張ってしまう。

心配する身としては、これぐらいの手筈は許してもらいたいところだ。

 

カガリの身体をそっとソファに横たえ、アスランはカガリの手助けとなるようデータを整理するために端末に向かい合った。

機密を含む情報に、勝手に触れようとする自分に内心呆れながら。

 


 

宇宙から降下したラクス、ユーラシア連邦から帰還したハルバートン、さらにウズミまで。

復興作業の始まったばかりのオーブにおいて、貴重なはずの彼らの予定に急遽割り込んでまで、そのビデオ会談はセッティングされた。

 

「……定刻だ」

カガリはそう言うと、ネット上にセットされた会議室へのアクセスを行った。

端末のつながる大型モニタとカメラを睨みつける。

 

接続中の文字が数秒踊った後、モニタには金髪の男が座っていた、

『やぁ、これはこれは皆さんお揃いで。本日は大事なお時間を割いていただき、ありがとうございます。……私のために、ネ』

言葉とは裏腹に、その男はどう見てもこちらを嘲っていた。

 

ハルバートンが、苦虫を噛み潰したという言葉すら足りないほど表情を歪めて口を開いた。

「一体、今更何の用だ。──ムルタ・アズラエル」

 

「お前の戦争犯罪人認定は外れていない。自首してくると言うなら、少しは話を聞いてやってもいいが」

ウズミも怒りの表情を隠さない。

 

かつてのブルーコスモスの盟主。

プラントと地球連合の戦いの引き金を引いた一人。

地球連合を私物化し、ハルバートンを追いやった男。

それを告発したCOMPASSやオーブに、牙を剥いた事もあった。

 

戦争犯罪人として追われながらも、ジェネシス照射と共に身を隠し、その地位をロード・ジブリールに奪われた男が、今更何をしようというのか。

寄せられた会談要請に応えながらも、部屋に集う者の心は疑念に満ちていた。

 

『何の用と言われてもね。……当然、ビジネスの話です』

余裕の表情を崩さず、アズラエルは顎に手を当てる。

 

『ジブリールのあのメッセージ……いやはや、大変ですネ。今頃、あんな言葉に騙されるバカの対応に、随分と苦慮されているんじゃないですか? ……下手に武力も使えない』

ペラペラと喋るアズラエルに、話を聞く側は押し黙ったままだ。

余計な情報を与えない為というのも有るが、図星というのも事実だった。

この男、性格は悪いが頭は悪くないのだ。

それでもラクスが鋭い視線を向けながら口を開いた。

 

「……それで? 仮にそうだとしましょう。今の貴方がその答えを知って、何ができるというわけでもないのでは?」

冷たいトーンの言葉に、アズラエルはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

 

『ところが、案外そうでもない。盟主の座を奪われたとはいえ、元来ブルーコスモスの母体はアズラエル財団です。僭主たるジブリールが居たときならともかく、今なら私の口出しが通る』

アズラエルの顔に、僅かな苛つきが浮かぶ。

主義主張に似通ったところはあるが、同族嫌悪なのかロード・ジブリールとの関係は良くなかったとのレポートが有る。

さらに自分が身を隠していたとはいえ、なし崩しで地位も奪われたとなれば当然だろう。

 

『コーディネイターとの戦争に反対する、穏健派を盟主に据え、ブルーコスモスの勢いを抑える。かわりに、私の戦争犯罪人認定を外す。……そうでどうでしょう?』

 

「なっ……?!」

予想外の提案と、余りの厚かましさにハルバートンが絶句する。

他の面々も同様だった。

 

アズラエルは飄々とした表情のまま続けた。

『ハッキリ言ってブルーコスモスの中でも、今すぐコーディネイターを滅ぼせ、ていうのは少数派だったんですよ。少なくとも戦争前まではね。……今は、コーディネイターというよりプラントを恨んでいるものが多いですが』

 

「……だが、お前はその、今すぐ滅ぼせと煽っていた側だろう」

怒りと不審を込めたウズミの言葉に、『ええ、個人的な感情としては今でもそうですがねぇ』と悪びれもせず答えた。

 

『M&Aと同じですよ。あの時は、私にできるだけの名分と、手段があったから手を出しただけです。ですが、今は割に合わない。であればサッサと手を引くのがビジネスというものです』

 

さも残念そうに肩をすくめるアズラエルに、カガリは思わず絶句した。

(こんな……こんな人間がいていいのか?!)

その程度の考えで、どれほどの犠牲が出たのか。

それを後悔もしていない。

 

『アナタたちとしても、過激派の残党にバラバラに行動されるより、一塊になって穏健派と過激派で内輪揉めしているぐらい方がよっぽど楽でしょう。……悪い取引じゃないと思いますが? ()()()()()は私も耳にしています。業腹ではありますが、世界が安定すれば一気に進むでしょう?』

ハルバートンは奥歯を噛みしめる。

ゲリラ化した思想犯など、相手にするのは一番嫌な類なのは確かだ。

旧世紀において、宗教系のテロ組織がどれだけしつこく暴れていたかを考えれば当然だろう。

一方で、過激派と穏健派が内ゲバでもしてくれれば、対抗する側として楽なのも事実。

純軍事的に見れば、恩恵は計り知れない。

 

アズラエルの提案に思い悩むような表情を浮かべ、カガリは前を向いた。

「確かにメリットは大きい。……しかし、断らせてもらおう」

小さく首を振る。

 

「我々は既に、戦い続ける覚悟を決めている。そして、お前という男を野放しにするほうがよほど恐ろしい。──良いですね? お父様」

 

「無論だ」

ウズミが重々しく頷く。

「理念なきままに目の前の利益を追えば、必ずしっぺ返しを食らう。……貴様の提案になど乗らんよ」

カメラに向かって吐き捨てると、アズラエルはやれやれと首をすくめた。

 

『それで綺麗事にこだわると? ……ま、政治家は体面が必要と言うのは理解はしますがね』

画面の先で指を一本立てる。

 

『では、対価を変えましょう。アズラエル財団の口座凍結解除、これでどうですか? さすがの私も、裏の資金だけで事業を回すのはホネでしてね』

アズラエルの戦争犯罪人指定に伴って、世界各地にあった口座は次々と凍結された。

一時はロゴスの代表にも上り詰めたその財力は、国家予算規模と言って良い。

未だに裏に隠されている財産も膨大なのだろうが、当然ながら表の資金はケタが違う。

 

「その金で、再び戦争を煽ろうというのですか?」

たまらずラクスが声を荒らげた。

 

『イエイエ。そんな事をしても、始まる前にあなた達が潰す。そうでしょ? そんな無駄金は使いませんよ』

呆れたように片眉を釣り上げて、指を振る。

 

『ロゴスの他の連中が逃げ出した今、荒廃した大西洋連邦は正しくブルーオーシャンだ。その復興に初期から食い込めば、戦時に匹敵する利益が出る。そんなビジネスを見逃すのはね、苦痛で仕方ないんですよ』

アズラエルは、まるで明日の株価を予想する勤勉な実業家のような、どこまでも軽やかな口調で言い放った。

その言葉は、コーディネイター根絶という思想では無く、アズラエル財団という経済界の怪物を解き放とうという実利だけに根ざしていた。

 

ウズミが眉をひそめる。

「そんな言葉を信じろと?」

 

『信じる? 滅相もない。信じる必要なんてどこにもありません』

アズラエルは心底おかしそうに、画面越しに肩をすくめて両手を上げた。

 

『表の資金を、表の復興事業に流し込むだけです。使い道が不安なら、どうぞ堂々と監査のメスを入れればいい。綺麗に資金を動かす名目なら、いくらでも立つでしょう?』

復興に対して資金を供出させるというのは、戦後処理としてまま有る形だ。

一方で、裁判で賠償が決まらない限り、体裁上は債権(借金)として扱われ、返済が必要となる。

一種のマネーロンダリングと言って良い。

 

「……ふざけるな! 資金が必要なら、正当な手続きで貴様の財団を解体し、接収してしまえば良いだけだ!」

『強がりはやめたほうが良いですよ? 手続きが正当なものであればあるほど、時間を無駄に食う。だいたい、解体が直ぐにできるなら、大戦直後にとっくにしている。……そうでしょう?』

咆える様に口をひらいたカガリの言葉を、アズラエルは鼻で笑って押し留めた。

 

戦争犯罪人個人の資産であればまだしも、法律上は別人格として扱われる財団法人だ。

資本主義と法治主義という絶対のルールの下では、国家権力といえどおいそれと介入はできない。

ステークホルダー(利害関係者)との間で、どれだけの手続きと裁判を繰り返すことになるか。

 

そしてオーブ本国の復興を優先しなければならない今現在、オーブには資金が足りず、ユーラシア連邦のひも付きの投資は、どう考えても後々の火種(ユーラシア連邦の超大国化)になる。

プラントの資金は、()()使()()()()()()()()()()()

復興が始まったばかりで一番資金の必要なタイミングである大西洋連邦を、立ち枯れさせないためと思えば、アズラエル財団の資産を回せることは慈雨に等しい。

 

『ブルーコスモスの穏健派を台頭させれば、現地の治安も安定する。資金が投入されれば現地の飢餓といった問題も解決される。──そうなれば人道主義を掲げるあなた方も満足し、私は正当な利益を得る。完璧なWin-Winだと思いませんか?』

話を聞いていた皆が押し黙った。

カガリ達の反対する理由が、次々と潰されていく。

 

『それでも私を関わらせたくないって言うなら、捕まえればいいじゃないですか。……できるなら、とは言いますがね』

自分のことだと言うのに、せせら笑う様に告げる。

 

『問題はもはや、感情論しか残っていないのでは? そんなちっぽけなもののために、今この瞬間の犠牲を飲み込む……と。まさか、そんなことはいわないですよね? あなた方は、既にたかが一国の首長や将軍じゃない。世界全体を治める立場なんですから。……オトナなら、わかるでしょ?』

 

 

 

 


 

交渉成立(ディール)ですね。細かいところは継続してのやり取りとしましょう。……それでは、また」

ビデオ会談を閉じて、何重にも迂回した秘匿回線を閉じる。

交渉を終えて、アズラエルもフゥ、と息を吐いた。

 

「上首尾に終わって、大変喜ばしいですな」

アズラエルはくるりと椅子を回し、部屋の隅から歩み寄った青年に向かい合う。

 

「手札はすべてこちらにありましたから、当然と言って良い。……奴らもまさか、私がこんなところにいるとは思わないでしょう」

ニヤリと笑う。

この青年が完璧な隠れ家を提供してこなければ、アズラエルも挑発じみた交渉はできず、未だ各地を転々と逃げ回っていただろう。

男の提供したこの住処は、内心非常に腹立たしいものではあったが、使えるものは使うという観点に立てば、これほど完璧な目眩ましは無い。

 

「しかし、キミがコーディネイターの中に紛れて情報収集してくれていたのはわかりましたが……こんな場所の情報は、どこで手に入れたんです?」

アズラエルが罠を張った、アラスカの地。

ザフトの極秘作戦であるオペレーション・スピットブレイクの情報提供者が何者であったかは、当時はわからなかった。

数年ぶりにその連絡先から連絡があり、予想を超えた正体に初めて面会した時は思わず取り乱してしまったが、遺伝子検査をすれば味方であることはわかった。

むしろ周囲に騙し通した実力は、コーディネイター共の良い面の皮だとせせら笑いが浮かんだほどだ。

 

「……少々、伝手がありまして。お役に立てたなら幸いです」

クルーゼは胸元に手を当てて深く深く頭を下げ、胸元のカメラを隠した。

 

 

*1
パーツや素材単位の実測データを使用して、試作機を省略してシミュレーション上で設計開発を行う手法。




これで2章は終わりです。





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