SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
引っ張っても仕方ないのでサクサク進めます。
3-1
久方ぶりに地球に降りたギルバートは、広い議場の中心で今まさに熱弁を振るおうとするカガリをじっと見つめていた。
『……コーディネイターが迫害されるのを、大多数のナチュラルは座して見ていた。法を犯したのだから自業自得だと』
生まれたコーディネイターに直接石を投げる者はそれでも限られていたが、見ないふりをして背後で笑う者はそれより遙かに多かった。
『コーディネイターは、努力するナチュラルを嗤った。どれだけ頑張ってもコーディネイターにはかなわないのに、無駄な努力をしてと』
生まれ持って与えられた才能は、迫害の中にあって多数のコーディネイターを特権意識の持ち主へと育てた。
コーディネイターはナチュラルを馬鹿にし、自らの能力を誇示した。
『互いの意識の断絶はエスカレートし、ナチュラルはコーディネイターを遠い宇宙へと押しやり、コーディネイターはナチュラルとの関わりを断ち切ろうとした』
迫害を畏れたコーディネイターは次々と宇宙のプラントへと旅立ち、独立を叫んだ。
ナチュラルはプラントにコーディネイターを押し込め、臭いものに蓋をしようとした。
『そして、ナチュラルはコーディネイターを宇宙の化け物と憎み、コーディネイターは野蛮なナチュラルと蔑んだ。……その結果が、地球連合とプラントの大戦だ』
カガリはしばし、黙祷を捧げるように下を向いた。
そして再び上げられた目元には、強い意志が籠もっている。
『しかし、我々は同じ人類だ。地球に現れた、ただ一種のホモサピエンスという兄弟だ』
片手に拳を握り、胸に当てる。
『お互いを憎み、蔑み、わかり合えないことなど、人類史でいくらでもあった繰り返しでしか無い。それこそが、我々が一つの種であることを示す証左だ』
かつてパトリック・ザラが語った、知性ある新人類など居ない。
それはその言葉を放った当人が証明した、疑いのない事実だった。
『だと言うのに、なぜあの大戦はお互いの絶滅を目指すまでとなったのか』
カガリは議場に累々と並ぶ各国の首脳を見渡す。
『……それは、長い距離を隔て、関わりを持たなかった故に、相手を同じ種だと忘れてしまったからだ。かつてアメリカ先住民を追いやった、ヨーロッパ人のように』
これも人類史が残す汚点だ。
その姿が現在に重なる。
『見ないふりをした。迫害を恐れた。だから距離をとった。……しかし我々に本当に必要だったのは、軋轢を恐れず、お互いに歩み寄ろうという覚悟だったのでは無いか』
バン、と音をたててカガリは両手をマイクの置かれた壇にたたき付ける。
身を乗り出すようにして、力強く言葉を吐いた。
『約束の地などという、都合の良い存在はない。何度でもやり直し、抗い、向かい続けるしか無い』
周囲に向けられる瞳は、炎を宿したように決意を告げている。
『故に私はこの提案をする。ナチュラルとコーディネイターが、遠く離れた異物では無く、口うるさい、しかし関わりを断てない隣人となるように』
『地上へのコーディネイター国家の建国と、それに伴うコーディネイターの地球帰還事業。……ご賛同いただける方は、どうかご起立願いたい』
ギルバートは勢いよく立ち上がる。
ウズミ・ナラ・アスハも。
ユーラシア連邦を構成する各国や、ようやく復興に着手し始めた大西洋連邦も。
オーブが攻撃を受けてから、既に半年。
ブルーコスモスの盟主に、これまでとは違う穏健派が就任したこともあって、いくらか落ち着きを取り戻し始めた世界。
少しずつ動いていたこの動議は、疾うの昔に根回し済みだった。
それでも力強く演説を行ったカガリに感銘を受けたものは多い様子で、自然と拍手が湧き上がる。
ギルバートも笑みを浮かべて両手を叩き、照れるようにそこら中に頭を下げるカガリを称えた。
(……流石、と言う他無いな)
カガリの実の親が何者か、わずかとはいえ職場を共にしたギルバートは当然気付いている。
ナチュラルながら最高の遺伝子デザイナーと称えられたユーレン・ヒビキと、同じくナチュラルながらメンデルでの仕事を任されたヴィア・ヒビキ。
憎しみ渦巻くこのコズミック・イラを人類史の観点から紐解く智謀と、根気強くそれを解決しようとする熱意は、ユーレン・ヒビキから継いだものだろう。
カガリの考えに、ロジックの破綻はない。
遺伝子学者として、ナチュラルとコーディネイターに種と言えるほどの差がないことは断言できる。
そして社会学・心理学からも、頻繁に接点を持つことが、関係の破綻回避に有効であることに疑いの余地はない。
言い換えれば、1つの大戦を100の小競り合いに分けることで、被害を抑えようとしているともいえる。
(だが、カガリ姫。アナタが賢く強い故に……わからない、気付かない。人間は、それほど強い生き物ではない)
微笑みを口元に残したまま、すっと目が尖る。
糠に釘、のれんに腕押し。
無駄な努力を示す言葉は、過去のどんな言語においても複数存在する。
──凡百の人は、終わりの見えないことに向かい合い続けることは出来ない。
まさしく、先程語られたナチュラルの鬱屈の一端だ。
だからこそ諦めずに努力を続け、成果にたどり着いた人間を、人は偉人と称えるのだ。
カガリの先ほどの言葉は、人類全てに叡智を授けると言うに等しい。
カガリが壇を離れ、ギルバードはコーディネイターの未来を祝福に来た要人たちと握手を交わしていく。
祝福の声に応えて抱擁を交わす。
別段、この方策はデスティニープランと競合するものではない。
方法論と社会システムの話なのだから、同時に実施しても何も問題はない。
(……むしろ、その方が良いのではないか?)
強く尊い意志を持って導く人間と、分担と協働で社会を動かす人間が両立したならば──。
(いや、指導者の能力不足や、思想の間違いがあれば、泥沼へ向かう。やはりデスティニープランこそが最善の道だ)
そう思い直す。
しかし忙しなく挨拶を交わし続けながらも、考えが脳裏でぐるぐると動き続けていた。
「ちょっと、ラクス……」
困り気なキラの言葉を無視して、体を擦り付ける。
デスクに座って作業に励んでいたキラの視線は、膝に乗ったラクスによって遮られていた。
デスクの端では、トリィとブルーが毛づくろいするように戯れている。
「久しぶりの完全休日なんですもの……。もっと構ってくれても、良いのではないですか?」
甘えた声で、耳に口元を寄せる。
「それとも──
「そんな事したって、ラクスはもう満足しないでしょ?」
妖しい微笑みにも、キラは苦笑するばかりだ。
「……それは、そうなんですけれどね」
そのうち、ラクスも苦笑を浮かべて肩をすくめる。
決して売り渡すことの出来ない、心からの
それに思う存分浸ったラクスは、言葉で操った態度などには満足できない。
(だいたい、キラが悪いのです)
デュランダル議長からアコードという存在を聞いたときは、流石に驚いた。
他ならぬ自分自身も同じだと言われれば、余計に。
一方で納得もあった。
父を暗殺され、思い詰めていた自分が
自然な能力ではなく、そのように作られたと言われるならば、それも妥当な話だ。
だが、自分がコーディネイターからすら外れた存在である事を、親しい人に知られるのは恐ろしかった。
結果的に念入りな裏取りを優先して、報告が遅れたことは明確な失敗だ。
地球に降りて以降、直接会っての謝罪をして回ったが、カガリに対しては自分がアコードであった事も語った。
実直な彼女は戸惑いを見せたが、それでも受け入れてくれた。
最大の問題は、
覚悟を決めてすがりつき、自身の出自とこれまで能力を何度も使った事、そしてそれを隠していたことを懺悔したラクスに、キラはこうのたまった。
「……そうなんだ。それじゃあ僕ら、生まれる前に会っていたのかな?」
確かに、キラとラクスの誕生日は三ヶ月違い。
ラクスもメンデルで生まれたとなれば、その生育期間は重なる。
そしてキラ自身が、
だからといって、そんな答えはないのではないか。
(まったく、キラはどこまで私をドツボに落とそうというのでしょう)
後から聞けば、ラクスに気を遣っていた部分も有ったそうだが。
こうして度々に
「……これは、設計の資料ですか?」
目の前の、キラの仕事用端末をのぞき込む。
わざわざ自宅に専用回線を引いて高度に暗号化されたそれは、通常夫婦とはいえ他の人間が見て良いものでは無い。
が、なにせラクスの方が組織のトップ層なので、そのあたりはスルーだ。
「そうそう。プラントのハインライン設計局の人とやり取りしてて。フリーダムDやセカンドステージの実戦結果を踏まえた、
キラがラクスを抱き抱えて椅子を半回転させ、半身でモニタを覗く。
「セカンドステージの分離合体や変形機能は、便利ではあるけど複雑すぎる。パイロットの技量もそうだけど、機体構成に無理があるから……シルエットシステムのインパルスでさえ、実際の拡張性が乏しい。難しいところだよね。次世代では、初心に帰って基礎スペックを突き詰めた共通フレームに、機体ごとのコンセプトを持たせて──」
楽しげに語るキラの胸に、ラクスはピタリと頬をくっつける。
(……本当はキラも、戦うよりこうやってものを作る方が好きですのに……)
キラは確かに、何でもできる。
だが、優しすぎる性根は戦いに向いていない。
そんな事は分かっているのに、ラクスは彼を戦場に追いやっている。
COMPASSが平和を保つのに、"平和の歌姫ラクス・クライン"と、"英雄キラ・ヤマト"の二つの重しが欠かせないからだ。
口さがない者には、二人の夫婦関係が平和の象徴としての形式的なものだと言うものすらいる。
オーブと大洋州連邦の間に、長大な橋を築き、その合間に駅として複数のギガフロートを建築する。
それが今現在建設が進む、新国家の国土だ。*1
コロニー群としてのプラントは残るが、新国家の運営がうまく行けば、将来的には純粋な宇宙製造拠点としてファクトリーと名を改めることになっている。
接触をコントロールし、一方で陸路でも繋ぐことで、関係を絶たないようにする。
今のキラ達ミネルバ隊は、アークエンジェル隊と交代しながらその建設の警護に当たっていた。
大規模でこそ無いが、テロの標的としてMSが襲いかかってくることも多い。
(新国家の理念が成れば、大戦は起きないかも知れない。けれど、小競り合いが無くなるわけでは無い……)
その状況下で、キラとラクスの二人が戦いから逃れることはできないだろう。
本当はラクスも、二人で穏やかに暮らしたいだけなのに。
けれどそんな弱音は、カガリにすら言うことができなかった。
かつて交わした言葉のように、手段は選び、納得もしている。
しかし雁字搦めの宿命が、未だ二人を自由にしてくれなかった。
「ええぃ! ギルバートは何を考えておるんじゃ?!」
豪奢な装飾が施された玉座の間。
幼い外見に不相応な毒々しい威厳を纏ったアウラ・マハ・ハイバルは、扇を肘掛けに叩きつけた。
少し離れたところでは、彼女の
盟友であるデュランダルがプラントの最高評議会議長に就任し、いよいよここからデスティニープランが始まる。
そう胸の内を高めていたアウラは、肩透かしを食らっていた。
いつまで経ってもギルバートはそれらしい行動を起こさず、唯々諾々と中立国同盟とやらに従っている。
プラントで巨大AIセンター建造の報が出回ったことは、デスティニープランにとって恐らく進展なのだが、アウラに対して報告が来ない。
どころかそれ以降は連絡が途切れてしまい、そろそろ1年になる。
プラント最高評議会議員の任期は3年、そして議長は通常1年で他の議員へ交代とされている。
レジスタンスとして停戦協議に参加し、
そんな特殊な経緯だった故に特例で3年間の議長任期が認められているそうだが、それも残り1年を切った。
おそらく次回の選挙があっても最高評議会議員にはなれるだろうが、議長になれるか、そして通常通りの1年の任期で力を振るえるかは不透明だ。
デスティニープラン発効という大事を成すのに、残された時間はあまりに少ない。
(恐らくは、ラクスの監視を掻い潜れんのじゃろうが……)
ギリ、と奥歯を食いしばる。
自らの生み出したアコードの中でも、統治能力においてオルフェと双璧をなすのがラクスである。
今は本来のパ―トナーであるオルフェを差し置いて、キラ・ヤマトなどという英雄に持ち上げられた男と組んでいる。
名前を聞いてもしやヒビキの息子か、と危うく激昂しかけたのだが、シュラの調べに拠ればヒビキの息子は別にいて、ラクスの手下をしているようだ。
そこについては、自らの成果がヒビキの成果を足蹴にしているという点で快いものであったが。
人々に愛され、道を示す。
ラクスが
世界を正さねばならないというのに、
鬱屈した怒りが、アウラを苛んでいた。
「……陛下。只今戻りました」
毛足の長い絨毯に足音を飲み込ませ、静かに歩み寄ってきた男が膝をついた。
その頭上から、アウラは怒声を浴びせる。
「クルーゼッ! お主どこに行っておった?! また
ロード・ジブリールから資金を奪い、さらにその手下をテコにしてアドゥカーフ社のデータを手に入れる。
そこから派生した、目障りなCOMPASSの本拠であるオーブへの攻撃が失敗したことは残念だったが、最低限の目標は達成した。
一方で、ロード・ジブリールがMA設計用のテストパイロットとして玩具をよこしていた。
クルーゼは同病相憐れむなのかソレを気にかけていたが、アウラにとっては目障りなペットのような存在だ。
答えに窮したのか、黙したまま下を向くクルーゼに歩み寄り、手の扇を頭に叩きつける。
あまつさえ先端を向け、グサグサと刺すように何度も押し込んだ。
「ヒビキの失敗作中の失敗作であるお主を、救ってやったのが誰か、もう忘れたか?!」
数年前、自分を治せる人間を探して放浪している、と目の前に現れたクルーゼを、アウラはわざわざ治療してやった。
「私は、ユーレン・ヒビキなどという才能足らずの愚物の失敗作。テロメアの短いクローンなのです」
普通ならさっさと処分するところだったが、ヒビキの失敗の尻拭いをするという暗い優越感が、アウラを久方ぶりにアンチエイジング薬に向き合わせていた。
なぜだかギルバートが執拗に再研究を迫ってきたので、材料だけはあったのだ。
とはいえ憎しみの籠もる研究を真面目にするつもりもなく、片手間に調合しただけなのだが、それを投与したことでクルーゼの容態は劇的に改善した。
以来は、ナチュラルを相手せざるを得ないときの下人のように扱っている。
「……無論、世界でただ一人の神。慈悲深き創造主、アウラ陛下でございます」
クルーゼが両膝を付き、絨毯の上に頭を擦り付けた。
その頭をアウラは踏みつける。
「ならば役に立ってみせよ! それとも失敗作風情にはソレすら出来ぬか?!」
ぐいぐいと絨毯に頭を押し付けると、くぐもった声が帰ってきた。
「……既に陛下は、充分な資金と力を蓄えておいでです」
その声に眉をひそめたアウラは、ようやく足を外す。
クルーゼがその秀麗な顔に擦り傷をつけながら顔を上げた。
「議長は賢明な方ですが、いささか慎重が過ぎる。せっかく陛下がこれほどの力を揃えられたというのに、世間の顔色を伺うばかり。……これでは、いつまで経っても世界はアウラ・マハ・ハイバルという真の主の名を知ることはないでしょう。──かくなる上は、陛下が御自ら表舞台に立たれるべきかと」
アウラの眉がぴくりと動く。
クルーゼの言葉は、彼女の肥大した自己顕示欲の最も敏感な場所に触れた。
「母上、それは……」
オルフェの制止の声を、扇の先を突きつけることで押し留める。
アウラは、口元を歪めて言い放った。
「……続けよ」
Destinyの初期案だとデュランダルとカガリの思想対立だったとどこかでみた覚えがあります。
ギガフロートについては一部終了時の感想からいただきました。
ネタバレですがオルフェは即座に振られます。