SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

6 / 59
話数管理を見直しています。第3話(上)→2-1
OSや正規パイロットについては捏造設定ですのでご留意下さい。


 目覚める刃
2-1


CE71/1/27

 

補給を終えたアークエンジェルは、アルテミスを出港した。

 

ノート型端末を抱えたトールは、窓から遠ざかるアルテミスを見た。

悪夢の中では陥落したが、今はまた傘を展開している。

 

やはり実物を握るユーラシア連邦の立場が強く、直接の機体設計こそ大西洋連邦は渡さなかったものの、基本構造データやPS装甲、小型ビーム兵器等、かなりのデータが渡ったという。

そのうちユーラシア連邦でも、G兵器に相当するようなMSが開発されるに違いない。

 

それだけの対価を払っただけあり、アークエンジェルにはメビウス1機を筆頭に多数の部材と武器弾薬、いくらかの水と食料が搬入された。

もっぱら専守防衛のアルテミスに死蔵されていた分ということだが、今のアークエンジェルには慈雨に等しい。

一方で補充人員はなかった。アルテミス側の都合もあるが、大西洋連邦としてもユーラシア連邦のスパイを入れたくないのだろう。

 

出港後のルートについても決定された。

現在の地球連合で最速のアークエンジェルを、アルテミスまで迎えに行くというのはタイムロスが大きく、すでに存在を知られている以上、ザフトの大規模攻撃を招きかねない。

 

未だアルテミス近傍に潜伏しているらしいローラシア級を、デブリベルトを経由することで撒く。

アルテミス出航時もそうだが、ザフトも単鑑では無理はできない。

流れ弾ででも、艦が落ちれば終わりだからだ。

 

しかる後にデブリベルト内で第8艦隊の先遣隊と合流し、乗員・物資の補給を行う。

そのままデブリベルトを進み、L1付近で第8艦隊主力部隊と合流する。

大戦力が展開できず、探知も難しいデブリベルトをうまく活用する手だ。

 

トールはマリューを拝み倒して、これらの話を聞き出していた。

当然、ナタルが不在の隙を見繕ってである。

 

同じデブリベルトを通るのでも、必要に駆られて彷徨った悪夢とは真逆。

事前にランデブーポイントの設定ができ、物資の補給もできたから選べる手段である。

 

(このまま行けば、地球降下時の軌道戦も起きないはずだ……)

これだけの戦力が隠匿しながら足並みをそろえれば、ザフトとて手を出せる状況ではなく、戦闘が発生しない可能性は高い。

 

それでも、やれることはすべてやっておきたい。

トン、と窓際の手すりを叩いて、トールはキラの待つ格納庫に向かった。

 

 

 

ストライクのコックピットに座ったキラは、トールを手招きして呼び寄せた。

持ってきた端末をストライクに接続するように言われる。

 

(いいのかな、これ……)

逡巡するトールを他所に、キラはモニターを見つめたまま「一旦OSをロールバックして解析してみたんだ」と告げた。

 

「今のOSも、モルゲンレーテが作っただけあって、基準モーションを生成して最低限”動く”ようにはなっているんだ」

パラメータリストを見つめ、次々と切り替えていく。

トールの目は追いつかないが、キラにはハッキリ見えているようだ。

 

「でも、動いた結果崩れた機体バランスの制御ができてない。動作の遅れ系に対して基本システムはフィードフォワード系で組んであるけど、インナーループが要求する入力更新周期が、トールの……ナチュラルの応答速度を超えてしまっている」

 

言葉の洪水を聞きながら、トールは苦笑した。

早すぎるキラの頭を翻訳するのは、ゼミでも自分の役目だった。

 

「つまりナチュラルが操作しようとした場合、機体を動かした後のバランスを取ろうとする動き自体がワンテンポずれるから、振動系になっちゃうってことか」

 

「たぶんね。何も考えず歩こうとしたら千鳥足になるんじゃないかな」

とぼけた表情で頷くキラ。

 

「一番手っ取り早いのは、モーションパターンを増やして予定調和に動かすことだけど……」

キラは唇に指を当てる。しっくり来ていないようだ。

 

「全部そうしちゃったら、想定外の状況だと何も動かなくなるな。インナーループの中にサブルーチンを組み込めば、生成側で補えるかもしれない」

「じゃあ、武装切替や基本射撃は固定で、他はCPG呼び出しで自動生成……ありだね」

 

自然に言葉が交わされる。

戦場も責任も忘れて、ただ作業が楽しかった。

ふと、こんなに楽しんで良いのか、という罪悪感がよぎるが

頭をふって振り払う。

トールの目標は、幸せになることだ。

そこを違えるつもりはないし、二度と力不足を嘆くつもりもない。

そういうことだ。

 

「……ちなみにこれ、ストライクではどうしたの?」

「モーションパターンが少なすぎてまともに動かなかったから、ループ系を切って中央直結動作だね」

「うわぁ……正気の沙汰じゃないな、それ」

 

二人の笑い声が狭いコックピットに響く。

まるでつい先日まで、カレッジで一緒に研究していたときの様だった。

 

 

 

 

端末を抱えたトールはコソコソと格納庫を移動する。

ナタルに見つかればまた叱責だ。

既成事実にしてしまうには、先に成果が欲しい。

 

壁際を歩いていると、コの字型のシルエットが映る。

ムウの予備機として、新たに受領したメビウス(TS-MA2)だ。

(……そういえば、こいつもAMBACできるって話だったな。ナチュラル向け制御が入ってるはず)

 

スラスターを備えた可動肢で姿勢制御を行うMA。

そのシステムには、ナチュラルでも扱える運動制御のヒントがあるはずだ。

 

「キラ、こいつのデータも使えないかな」

「うん、急いで抜こう」

 

二人は無言で作業を進めた。

周囲に気づかれぬよう、息を殺して端末を繋ぎ、必要データだけを抜き取る。

 

マードックとすれ違いながら外に出た後、キラとトールは目を見合わせて小さく笑った。

 

 

 

サイやカズイも巻き込んで、自室で開発を行う。

今回は、アークエンジェルのブリッジクルーには誰もなっていない。

休憩時間のやりくりをするクルーには申し訳ないが、空いた時間と手持ち無沙汰な焦燥感を注ぎ込む。

 

OSの基幹部分に手を出したらキリがない。あくまでベースはそのままだ。

サブルーチンを追加して、自動化の割合を広げる。

処理が重たくなった分、シナプス融合の代謝速度を上げる。

圧倒的に不足している基礎モーションパターンは、ストライクの実戦データからトールが抜き出した。

メビウスの制御系からコピーした可動肢の連動制御をブロック化して埋め込み、神経接続の不足による応答速度低下を自動化で補う。

 

艦がデブリベルトに入り込んでローラシア級を振り切り、時折訪れるミリアリアやフレイに呆れられながらも4日。

たたき台だが、改善版の目処が立った。

 

 

 

 

 

 

 

モビルスーツOSをナチュラル向けに改善したので、バスターで試験させてほしい。

キラからそう言われた時、マリューの心は困惑に染まった。

 

まず元のOSの出来についてはマリューも知っている。

ハード側の試験で何度も起動はさせていたが、歩きはじめの赤子よろしく、おぼつかない足取りしか取れなかった。

それでも専門に訓練されたパイロットならなんとかなるという程度の認識だったのだが、パイロットの護衛を務めていたムウ曰く、単純にそういう話でもないらしい。

 

ナチュラルと一括りにしても、その能力の幅は驚くほど広い。

一つの能力に絞ればコーディネイターに匹敵、あるいは凌駕する人材はいる。

大西洋連邦という巨大な組織の中から、特に反射神経に優れた兵士を選抜し、彼らを訓練することで対応しようとしていたとのことで、結局生来の才能頼みが前提だったという。

ムウは選抜に落ちたらしい。

 

そんなわけで、修理の出来たバスターを戦力化しようとすれば、OSの改善が必要というのは事実だった。

 

一方でOSの改善といえば、多数の設計者が設備の整ったラボで期間を取って、というのが常識的な考えだ。

実際モルゲンレーテはそうして、それでも半年に渡る開発期間で十分なOSを組むことが出来なかった。

それを優秀とはいえ学生が、物資の滞る艦内で、ヘリオポリス出港から数えてすら1週間足らずの内に、という話だ。

にわかには信じがたい。

 

それでも、キラに同行してきたトールの「ストライクの実戦データがあったから自動化の目処が付いた。コレばかりは研究室ではムリ」という言葉はいくらかの説得力があった。

 

マリューと交代するはずだったナタルと、戦闘に備えて短いサイクルで寝起きするムウを捕まえて、士官達での会議を行うことにした。

 

 

テーブルの端には、試験計画立案書とストライクのログプリントが積み重なり、そこにキラが付けた手書きの注釈が飛び出していた。

バスターに改善版OSをインストールし、トールがアークエンジェル艦上及び周辺で射撃・機動を含めた動作試験を行う。

ストライクに乗ったキラが立会い、周辺警戒と異常が発生したときの対処を行う。

それがキラの提案した内容だった。

 

「キラ・ヤマト、トール・ケーニヒ……! アイツラまた勝手を……! コレは明確に軍規違反です! 法廷を開いて、彼らを拘束するべきです!」

「いいじゃないか。別に壊すわけでもないし、試すだけ試して見ようぜ」

事情を話した士官たちの反応は、ある程度予想通りだった。

 

「……少なくとも名目上、彼らは民間の技術者として艦に乗り込んでいます。扱いとしては軍がモルゲンレーテに依頼していた作業を引き継いだ形になるわ。責めるのはお門違いね。もちろん、機密保持の観点から対処は必要だけど……言ってしまえば、今更ね」

ため息をつきながらナタルへ返答する。

せめて事前に言ってくれればとは思うが、一応彼らは正規の立場で乗艦しているのだ。

勝手を咎めるのは難しい。

 

「まぁ硬いこと言うのは無しにしようぜ。合流の目処はついてるって言っても、ザフトはいつやってくるかもしれないし、戦力が増えるに越したことはない。どうせデブリベルトの中だ、バレることもないさ」

いつもの調子でムウは告げる。

実際、動き回っても外から発見されにくく、射撃標的や機動を図るための障害物が豊富にあるデブリベルトは、実機テストには最適な環境だ。

 

「ちなみにフラガ大尉。バスターのテストパイロットはお願い出来ますか? あるいは現状のクルーから見込みのあるものを探してもらうとか……」

マリューは当然の質問をムウに投げかける。

キラたちはトールをテストパイロットに考えているようだが、正規の軍人のほうが望ましい。

 

しかしムウは首を振った。

「俺が乗ったら、今度はゼロが浮いちまうだろ? あっちの方こそ俺しか乗れないしな……。クルーの方も、それやっちまうと今度は艦のほうが手が足りなくなる。整備員の方も、どうだか」

今の地球連合は、数で無理やりMSに対抗している。

パイロット確保の優先度が高く、そうでない人員は戦場に出すのが惜しいほど専門性の高い人員か、パイロット適性がないかだ。

 

「……それに、さっき格納庫でバッタリあった時にケーニヒに頼まれてメビウスのシミュレータするのを見てやったんだけどよ、なかなか筋が良いぜ。速成過程のパイロットぐらいの能力はあると思う」

そんなムウの爆弾発言に、ナタルがすごい形相で噛みつく。

マリューはため息をつきながら、それが落ち着くのを待った。

 

数分後、マリューはこう告げた。

「成功率が低いとしても、リターンは絶大だわ。ケーニヒ君が速成パイロットぐらいの腕だと言うなら、それがMSを運用できるようになるというのは、軍にとって機体そのものと同程度に重要なものと考えます。……ものは試しよ、やって見せてもらいましょう」

なんだか少しワクワクしてきた。

艦長なんて立場にいるが、元々マリューも技術士官なのである。

 

 

 




マリューさん、あの年で極秘計画の統括とか
相当優秀な技術者のはずなんですが…忘れられがち
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。