SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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フォローウインド(落下阻止)作戦は、一応の成功を見た。

地球に向かっていたユニウスセブンは再度軌道を変更し、100年は地球に近づかない軌道に乗った。

後々にでも多少の調整を行えばL5(プラント)への帰還すら可能なその軌道は、多分に政治的配慮を含んで事前に検討された通りだ。

 

一方で、ユーラシア連邦の宇宙部隊は、()の乱入に因って全体の3割に達する被害を受けた。

被害を受けたユーラシア連邦部隊の代わりに、追悼船から出撃したプラントの部隊が動く一幕もあったという。

 

軍としての体裁こそ保ったものの、こう易々と被害を受けては"世界の警察"を張るには不足している、それが各国の見方だった。

ユーラシア連邦を中核として構築されかけた地球圏を取り巻くパワーバランスは再び混沌とし、各国は未だ詳細の見えぬ敵からの自衛、という方針だけをまとめた。

 

となれば、戦力を遊ばせておく意味も理由もない。

封印されていたミネルバとアークエンジェルが戦線に復帰するのも、ごく自然の成り行きだった。

 

 

シンがそのことを知ったのは、西日の差し込む実家のリビングでのことだった。

「あれ、これお兄ちゃんが乗っていたっていう船じゃない?」

マユの言葉に、「え?」と戸惑いの声を上げてテレビを見やれば、大写しになった見慣れた艦の姿。

 

『オノゴロ島に係留されていたCOMPASS所属艦、アークエンジェルとミネルバについて、カガリ様の後任となった中立国同盟安全保障理事会議長より──』

『先行するミネルバは、TERMINAL所属員、並びにCOMPASS所属のプラント出身者を中核とし、外部からの影響力を排除──』

呆然と食い入るように見つめた画面が伝えるところによれば、ミネルバはプラントに一時返却され、TERMINALの所属艦として地球軌道の防衛にあたるという。

 

それはプラント側の誠意を示すための行動であり、ラクス(後ろ盾)のいない今、便利に使い潰せる戦力として実務に当たらせたいという中立国同盟(トップ)の思惑が透けて見えた。

仲立ちする責任者も居ないTERMINALは、逆に抗弁すらできず手足として従うしか無いのだ。

 

「ミネルバが、出る……?」

当然の事ながら、組織上()()()()()()()()シンには連絡も来ていない。

 

呆然としているうちにも、ニュースは次々と移っていく。

太陽活動が極端に活発になる見通しだとか、軌道災害への対処体制が見直されているだとか。

 

そんな内容もほとんど頭に入らないまま、シンは口を開けて画面を見つめていた。

 

その隣で、マユがポツリともらす。

「またメイリンちゃんたち、戦場に出るのかな……?」

 

その言葉に、シンの首筋が冷えた。

「……ちょっと、出てくる!!」

 

シンはそう言い放つと、「え?! 今から行くの?」と慌てるマユを置き去りにして足早に家を出た。

今からなら、まだ面会時間に間に合うはずだ。

 

 

 

「そりゃそうでしょ。私たちだって、いつまでも無駄飯を食べるつもりなんてないもの」

通い慣れた抑留施設、という名の宿舎。

守衛がいて入所の手続きがあることだって、軍の宿舎であれば取り立てておかしなものではない。

とはいえ、内部の人間に外出許可が下りることはないが。

その中の歓談室に飛び込んだシンを、守衛から呼び出し(面会希望)されて苦笑で迎え入れたのはルナマリアだった。

 

「シン、あなただって中継で見てたでしょ? ユーラシアは作戦に成功したものの大損害を受けた。MAを主力にしていた分、再建には余計に時間がかかるわ」

 

「もちろん。・・・・・・ザムザザーだって、ユークリッドとかいう機体だって、デカいもんな」

関節が多く、非常に複雑な構造であるMSの建造は手間がかかるが、その分高度に自動化されている。

ラインが動き出しさえすれば、物資の続く限り量産が可能だ。

だからこそ、ごく少数のエース用機体と大量の量産機、そしてその合間を埋めるための量産機のマイナーチェンジが溢れかえる。

 

一方で、ザムザザーといった大型MAは、サイズや装備、果ては価格面の制約で、台数が限られる。

その存在は艦艇に近く、よほどの強権でも振るわれない限り、ラインを立てての量産は困難だ。

 

「そして私たちの手は今空いている。私たちが保護されていた理由であるデュランダル議長のスキャンダルも、ユニウスセブンの影響で報道から吹き飛んだわ。・・・・・・できることをしたいの」

ルナマリアが僅かに下を向く。

 

「ルナ・・・・・・」

ルナマリアだって、シンと同じ鬱屈を抱えていたはずだ。

そこに出番が来れば、これ幸いと走り出すだろう。

シンだってそうする。

 

「ま、止めるとしたら私よりもレイよね。ほら、どう見ても顔色悪いでしょ?」

眉を潜めて部屋の入口を指さすルナマリア。

その先には、しかつめらしい表情のレイが立っていた。

 

金髪は去年より細く、薄く輝いて見える。

顔色も良いとは言えない。

それでも背筋は伸び、視線は静かだった。

 

「……来ていたのか。ちょうど良かったな。我々も明後日には出発だ」

その言葉に、シンは目を見開き、背後のルナマリアを見やる。

軍務である以上、詳細の日付まで明らかにされてはいなかったのだ。

 

 

ルナマリアも、やれやれとばかりに両手を上げて首を振る。

「急な話よねぇ。これまで(冷遇)との温度差で、風邪を引きそうだわ。……でも、必要とされるのは、嫌いじゃない」

不敵に笑うルナマリアの表情は、いっそ妬ましいほどに格好良かった。

ふるふると首を振って、改めてレイに視線を向ける。

 

「そんなこと言ったって、レイの体はまだ治ってないんだろ? 大丈夫なのかよ?!」

入退院を繰り返していたレイを、シンが何度見舞ったことか。

 

「医療官の許可は得ている。問題ない」

「嘘つけ」

即座に返すと、レイの眉がわずかに動いた。

 

「嘘ではない。薬で数値は安定している。少なくとも、艦内勤務とMS搭乗に支障が出るほどではない」

 

「そういう言い方がもう駄目なんだよ!」

怒鳴り声を上げたシンを、ため息をついたルナマリアが小突く。

 

「うるさいわよ。守衛さんを呼び出すつもり?」

多少の配慮はあれど、形式上監視はつく。

中で騒ぎが起きれば、銃を構えた兵士が飛び込んで来てもおかしくない。

 

シンはピクリと体を動かすと、改めて抑えた声で問いかけた。

「支障が出るほどじゃないって、つまり無理すれば行けるってことだろ」

 

「軍務とは、概ねそういうものだ」

レイの淡々とした言葉にイライラが募る。

 

「ふざけるなよ」

「ふざけてはいない」

 

そこでレイはわずかに口角を上げた。

「確かに体にガタは来ている。だが、俺はまだ終わるつもりはない」

皮肉げな笑みは、よく浮かべていたものに近しいが、そこには常ならぬ熱量があった。

 

「どこぞの()()どもがギルの計画に泥を塗ってくれた。そのケリは、俺がつけてやりたい。……そう思ってしまったんだ」

シンは「ギル……?」と小さく首を傾げたが、レイは細かく語るつもりはなさそうだった。

 

「それに、せっかく助けた命を失わせたくはない。地球を守れるなら、力を貸したい」

それが、アークエンジェルに同行して救出した子どもたちを指すことは明確だった。

そう言われてしまうと、シンも言葉に詰まる。

 

「だから、まだ働くさ。病室でじっと毛布をかぶっているよりは、その方がいい」

 

 

 

その後もいくらか言葉を交わしたが、レイもルナマリアも任務に逆らうつもりはないようだった。

 

自分も一緒に行動できるなら、勢いのままに飛び込めばよかった。

友に危うさがあるなら、自分が隣で手助けすればよかった。

だが今のシンは、一人蚊帳の外に置かれている。

 

「……俺は、どうすればいいんだよ」

 

泣き言じみた言葉を吐いて、シンは椅子の上でうなだれた。

レイが、わずかに目を細める。

 

「……前にも似たことがあったな」

 

「え?」

シンが顔を上げるより早く、ルナマリアが苦笑しながら隣に腰を下ろした。

 

「どうしたいの?」

肩が触れそうな距離で小さくされた問いに、シンが「え?」と思わず息を漏らす。

 

「どうすればいいかじゃなくて。アンタはどうしたいの?」

問い返され、シンは言葉に詰まった。

 

どうしたいか。

そんなものは、決まっている。

 

「……行きたいさ。みんな宇宙に行ってるんだ。キラさんだって。……俺だけ、ここで待ってるなんて嫌だ」

声を絞り出して再びうつむく。

 

「置いて行かれるのが嫌だって?」

「茶化すなよ……」

ルナマリアの軽口にも、力なく返すことしかできない。

 

「……私たちは呼ばれたから行く。アンタは呼ばれてない。だったら、同じようには動けない」

ルナマリアの言葉に頷いて、続きを促す。

 

所詮シンは一介のパイロットだ。

一人でなにかできるわけでもないし、仮に起こしたところで後ろ盾もなければただのテロまがいだ。

家族やステラたちにも迷惑をかけることになる。

 

「自分の手でどうにもできないなら、できそうな人に素直に頭を下げる。……誰かさんが最初にやったわね?」

クスリとルナマリアが笑みをこぼす。

シンの脳裏にも、あの時のことが徐々に浮かび上がってきた。

 

ミネルバに乗り組んだ初日。

放り込まれた書類の処理がどうにも追いつかず、シンはまだギクシャクしていたルナマリアとレイに頭を下げた。

それは上官であるキラに迷惑をかけたくない、期待を裏切りたくないというのが原因ではあったが。

思えば、あれが"ミネルバ隊"の最初の共同作業だった。

 

「……いいのかな? そんなことして」

呆然と口を開いたシンの背を、ルナマリアの手がはたいた。

 

「駄目で元々、でしょ? 駄目だったとしても、そこで腐らないコト! 諦めずに頑張る。それがアンタのいいところなんだから」

 

優しげに揺れる瞳に、シンの目線が止まる。

いくらかして、ルナマリアが怪訝そうに首を傾げた。

「……何よ」

 

「いや。……ありがとう、やってみる!」

 

 


 

 

旅立つレイとルナマリア、さらにメイリンやアーサーといったミネルバで顔を合わせていた面々を急いで激励し手回り、面会時間を少々超えたことを守衛に詫びて退出した、翌々日。

 

カグヤ(マスドライバー)から飛び出すミネルバを、港の区画外から見送る。

 

かつて自分が乗っていた艦。

キラの背中を追い、ルナと口喧嘩をし、レイと肩を並べて出撃した場所。

ミネルバが加速し、最初は少しずつ、途中からは一気に離れていく。

 

首が真上を向くまで見送って、そのまま歩き出した。

足を向ける先は、幾度か向かった()()()()()だ。

 

 

海岸と山林に絶妙に囲まれたそこは、地上2階建ての豪奢な邸宅。

地下1階には()()のためのスタジオが設えられおり、最新の通信カラオケも置かれていて、以前にはそこを親睦会の場としてキラが貸してくれたのだ。

 

ミネルバのパイロット組にメイリン、更にステラ達三人も加わってのカラオケ大会は大いに盛り上がった。

誰も彼も歌いこんだ持ち歌を持ち込んだが、特にステラとメイリンは今すぐにでも歌手デビューできそうな巧さだった。

 

(別格だったのはルナだったけどな……)

クスリと笑う。

レパートリーの多さも尋常ではなかったし、声も澄んだハイトーンで耳に心地よい。

まだ10代後半だが、有名な作曲家でもバックに付けば、すぐにでもメジャーデビューできるのではないか。

シンのそんな問いかけも、差し入れを持ってきてくれたプロの歌手が太鼓判を押してくれた。

 

つまり、キラの奥方──ラクス・クライン₌ヤマトのことだ。

 

 

呼び鈴を鳴らすと、しっかりと装備を整えた警備員が二人組みで迎えに出てきた。

昨日の時点で、遊びに来たときにもらったプライベート回線からアポイントを取っていたのだ。

恐れ多くてとてもコールする日が来るとは思っていなかったが、何が幸いするかわからない。

今のシンにとっては、唯一自分の本音をぶつけられるホットライン。

 

通されたリビングは、記憶より少し暗く感じた。

 

照明が落とされているわけではなく、カーテンも開いている。

それでも、世界から切り離されたように音が少なかった。

 

 

薄い色のワンピースにカーディガンを羽織ったラクスが、静かにソファに腰掛けている。

整った容貌も「お久しぶりですわね、シン。お元気でしたか?」と問いかける柔らかな声色も、美しさを保っている。

 

「……お久しぶりです、ラクス様」

そう返しながらも、シンは戸惑いを隠せない。

 

(キラさんがいなくて、世間にも叩かれて、大変だったハズなんだけど……)

それなのに、目の前の彼女からは疲れも痛ましさも見えない。

すべてが薙ぎ払われた後の静寂のように。

 

「どうぞ、おかけになって」

差し出された言葉に、「いえ、このままで」と固辞すると、踵を合わせて背筋を伸ばし、そのまま大きく頭を下げた。

 

「ご心痛の中、申し訳ありません。けど、どうしてもお願いしたいことがあるんです」

透明な視線が、つむじに突き刺さるのを感じる。

構わず言葉をつづけた。

 

「俺を、宇宙で戦わせてもらえませんか」

部屋の空気が止まった気がした。

返事はない。

 

シンは頭を下げたまま、慌てて言葉を継いだ。

「地球で待っているだけなのは──何もできないのが嫌なんです。だから俺に、機体と、戦う名分をください」

 

わずかに空気が揺らいだ後、ラクスが口を開いた。

「……シン。ひとつ、確かめさせてください。あなたは、戦いたいのですか?」

責める空気もない、静かな問いかけ。

 

頭を下げたまま「いえ、そうじゃありません」と小さく首を振った。

ルナマリアにどうしたいかを問いかけられたから、家に帰ってからも改めて考えた。

 

宇宙に行きたいのはいい、だがそこで自分は何を成したいのか。

それは、停滞していたこの数か月で考えていたのと同じことでもあった。

 

「でも、誰かに戦うことを押し付けたくない。俺が戦うことで誰かが救われるなら、平和につながるなら、そうしたい」

戦いたくない(キラ)が戦わせられるより、自分が。

それがシンが月夜に建てた誓いで、そこから始まったのだ。

 

「役割分担だと思うんです。……自分で言うのもなんですが、俺には戦う力があります。誰かのために戦う意志があります。そのためなら割り切れる程度には鈍感です。……だから、戦います。戦わせてください」

シンはそこまで言って、ようやく頭を上げた。

 

ラクスは一度だけ息を詰め、背もたれに身を沈めた。

「……貴方はそれで良いのでしょうね。貴方は」

かの歌姫の喉から放たれたとは思えないほど重く、押し殺された声に、今度はシンのほうが身を引いた。

 

「戦場に出れば、人は傷つきます。命が喪われることだってある」

「それは……分かっています」

 

「本当に?」

声が少しだけ鋭くなった。

 

シンは息を詰める。

ラクスは視線を落とし、しかし言葉を止めなかった。

 

「貴方がいなければ辛いと。貴方がいない明日など意味がないと。そう思う人たちのことは、考えましたか?」

それはマユと両親のことで、ルナマリアやレイ達のことで、ステラ達のことであることは、シンにもわかった。

 

「俺だって、易々とやられるつもりはありません! 危ないときもあるでしょうけど、仲間と協力すれば──」

 

「キラは、死にかけました」

遮った声は、大きくはなかった。

だが、その一言で、シンは動けなくなった。

 

「……キラさんが?」

信じられなかった。

 

英雄としての名声に傷がついたとはいえ、その技量に疑いの余地はない。

MSに乗ったキラが死にかけるなんて、想像もつかなかった。

 

「フォローウインド作戦に、キラも参加していました。ファウンデーション残党の足止めに入り、機体に同乗していたアスランと共に、敵機に斬り捨てられたそうです」

ゴクリと無意識に唾を飲み込む。

 

「直前で脱出できたのは、とっさの判断の功を奏しただけだと。回収後に、生存の報告だけは届きました。けれど、爆発の余波で負傷もしていたと」

 

ラクスの瞳から、輝く雫が滴り落ちる。

「離れるのも、辛かったけれど。……けれど、どこかで思っていました。キラなら大丈夫だと。あの人が負けるはずはないと。戦いが終われば、必ず私のもとに帰ってくると。──戦場に絶対など、あるはずもないのに」

シンは何も言えなかった。

 

ラクスの言葉は、シンに向けられている。

けれど、本当に言いたい相手は別にいるのだろう。

 

「貴方は、貴方の明日を願う人を傷つけてでも。本当に、戦うのですか?」

 

シンはうつむいて考え込む。

機械式時計のチチチチチと刻む音が、やけに大きく響いて聞こえた。

 

戦うとは、結局どういうことなのか。

誰かを守るために前に出ること。

同時に、自分を待っている人を不安にさせること。

敵を傷つけること。

自分も傷つくかもしれないこと。

 

その全部を、都合よく消すことはできない。

 

「……戦うって、結局誰かを傷つけることなんだと、俺は知っています。敵にだって大事な人はいるし、それでも戦うんだって」

だから、敵であってもできるだけ傷つけずに止められるようにと願った。

 

「正直、家族や友人に心配をかけているとは思います。けれどやっぱり、それでも守りたいものがあります。誰もが、明日を自由に考えられる世界がいい。遊びに行く予定を立てたり、帰ってくる人を待ったり、そういうことが当たり前にできる世界がいい」

シンが望んでいるのは、そんなありがちな願いだ。

あの炎の星夜に、デストロイのパイロット(クロト)が願ったように。

 

「死にに行くつもりはありません。俺がいなくなったら傷つく人がいるなら、帰ってくることも俺の責任です」

シンは突き刺す視線に真正面から続けた。

 

 

「だから、こう答えます。……覚悟はあります。俺は、戦います」

そう言い切って、拳を握りしめる。

 

 

 

 

 

立ったまま前を向くシンを、腰掛けたままのラクスが見上げる。

長い沈黙だった。

 

やがて、ラクスが目元に指を添え、零れた涙をぬぐった。

「……ごめんなさい」

ぽつりとラクスは言葉を漏らした。

 

「今の問いは、本当は貴方に向けるべきものではありませんでしたね」

その声音には、乾いた疲れが滲んでいた。

嵐が過ぎ去った後の荒涼とした光景を、呆然と見定めるような。

 

 

ラクスはしばらく視線を落とし、それから端末を手に取った。

「……アークエンジェルの出港には、まだ時間がかかります。あれは地球の船ですから、プラントの人間で固めたミネルバと違って人員の調整に手間取っているんです」

そこで一度、指が止まる。

 

「役職も何もないこの身ですが、話を聞いてくださる方はまだいます。……機体までは難しいと思いますが、予備パイロットとして名簿に加えていただく形なら、まだ道はあるかと」

 

「本当ですか?!」

思わず声が出た。

予備パイロットとはいえ、体制を立て直している最中だ。

一度出てさえしまえば、最初は難しくても補給のタイミングで機体を手に入れられる見込みはあった。

 

ラクスは小さく頷く。

「ただし、シン。貴方は、私の許しを得たから戦うのではありません。貴方が選んだのです」

その言葉は、背中を押すというより、シン自身に重さを預け返すものだった。

 

シンは背筋を伸ばして頷いた。

「はい」

 

ラクスは、淡く──力なく微笑んだ。

「ならば、その選択を忘れないでください」

 

「……有難うございます!!」

シンはもう一度、深く頭を下げた。

 


 

詳細は軍から正規に通達が行く、そう去っていくシンに告げた後。

ラクスは行儀悪くもソファに転がって、天井を眺めた。

 

世界に、再び脅威が迫っている。

これまでであれば、なんとか立ち向かおうとしただろう。

 

けれど今、少なくとも表向きには、人々はラクスにもキラにも大きな役割を期待していない。

むしろ、多少の軋轢こそあれ、それぞれが力を出し合い、自ら困難に向かい合おうとしている様に見えた。

導き手の存在など、もはや不要だと言わんばかりに。

 

下手に動けば、ようやく訪れたその()()な状況が崩れてしまうかも知れない。

キラにすら話せなかった内心は、そんなものだった。

 

動きたいと願ったキラの背中を押して、その後は立ち止まっていた。

キラは、ラクスが傷ついて足を止めたと思っていたかも知れないが、実際は真逆なのだ。

 

そうして何もかも決めきれずに立ち止まっていたら、キラが傷ついてしまった。

 

(……よくも被害者面で、シンに問いかけられたものですわね)

自己嫌悪が胸を苛む。

お互い支え合うことを約束したのに。

自分はいつも、全力で後押ししてもらっていたのに。

 

なりふり構わず、何ならアコードの力を使ってでも、ストライクルージュ以上の機体を用意しようと足掻いていれば。

そんな仮定すら思い浮かぶ。

 

 

「キラに、謝らないと……」

ポツリと漏らす。

もっと本音で話せばよかったのだ。

 

優しいキラは許してくれるだろう。

それがわかっているズルい自分が居るが、そうしなければ何も進まない。

そうして、二人でもう一度話し合うのだ。

これから、()()()()()は何なのかを。

 

キラはまだ宇宙だ。

回収してくれたカナードが戦力になるキラを手放してくれるとも思わないから、ラクスが宇宙へ行く必要がある。

ラクスには未だ監視がついていて、そう簡単には宇宙に上がれないが──丁度良い()()()のアテはあった。

 

 

 

 




カラオケ大会は3-2で一言だけ言及しています。
元は閑話にする予定でしたが、声優ネタにしかならないのでカットしました。

ご感想・ご評価いただければ幸いです。
明日は18時過ぎに更新します。
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