SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
「デュランダル議長が、撃たれた?!」
カガリの耳元でささやかれたその言葉に、カガリは秘書官の気遣いもむなしく立ち上がって叫んだ。
周囲に控えていた職員たちが反射的に視線を向けたが、
職員たちが慌ただしく退室し、扉が閉まる。
その音を待ってから、ミヤビは表情を真剣なものへ切り替えた。
カガリ本人は中立国同盟から追い出されたが、当然オーブそのものは未だ参加している。
そこから回ってきた速報は、大きなインパクトを持つものだった。
「どうやらファウンデーション王国残党は、あれだけ否定しても議長を味方と思っていたようで。議長が一通り情報を聞き出した後に支援を拒絶したところ、銃撃されたと」
補足を聞きながら、簡単にまとめられた情報に目を通す。
「……あの巨大MSが、地球への質量攻撃兵器……? さらにラウ・ル・クルーゼ だと……?」
トピックスは当然、地球への大量破壊を可能とするパニッシュメントの存在だ。
例のユニウスセブン落下の首謀者は残党側らしいが、それだけでも大騒ぎだった。
それが無尽蔵に繰り返されるとなれば、とても手が足りない。
そして、知るものは知っている、前大戦最終盤に現れた最狂の敵。
死んだはずのそれが、ずっと姿の見えなかった第三勢力の正体だという。
ギリ、と歯を噛み込んでからカガリは顔を上げた。
「……デュランダル議長の容体は?」
最優先でまとめられた資料にはそこまで書かれていないが、速報ベースなら、ミヤビの方がいくらか掴んでいるはずだった。
カガリの問いかけに、ミヤビが頷く。
「未だ集中治療室ですが峠は越えられたと。ギリギリ即死にはならなかったそうです。足止めに撒いた麻酔薬が幸いして、出血性ショックも免れたと」
コーディネイターの総本山であるアプリリウスでのことだったから、処置は最短で行われたらしい。
とはいえ意識は戻ってないらしく、脳のダメージはわからない。
「今のところは、だが……不幸中の幸いだな……」
はぁ、とため息をつく。
色々と言われるデュランダル議長だが、手腕は確かだ。
「しかし、そうなるとまた宇宙は荒れるな?」
頬杖をついて考え込む。
明らかになったパニッシュメントの性質からして、地球に落ちる水際の防備を固めることは必要だが、一方で根本を切らなければジリ貧だ。
外部からの補給もなしで大量破壊兵器を使えるというのは、デブリを探す手間があるとはいえ反則といって良い。
「それは仕方ないでしょう。オーブとしてはアメノミハシラを中核に、今まで以上に軌道上防衛に戦力を供出することになるかと」
「ま、それはそうするが……」
首を傾げるミヤビに、カガリも考え込む。
エヴィデンスの防衛軍に供出するために増産したムラサメは、本土防衛に使うには有り余っている。
これを宇宙に回すことには問題ない。
アメノミハシラを統括するサハク家もこのところはおとなしいし、手腕は確かだから任せてしまえば問題ない。
総じて、ウズミの許可と事務手続きだけで物事は進む。
(ならば……良いか)
所詮今のカガリは公的な立場がなく、ウズミの手足として方々の連絡・調整するぐらいのものだ。
もろもろの調整を行っていたフォローウインド作戦以降の混乱も一段落し、この情報で方向性も定まった。
カガリは、ばっと顔を上げる。
同じ五大氏族の姫同士として長い付き合いのミヤビも見当がついていた様子で、ウンザリとした表情をうかべていた。
「私も宇宙へ行く。段取りを頼んだぞ」
地球で手をこまねいているなんて、
カガリに対しても
というより、内政干渉するなと叫んで政庁に入り込んでしまえば、手出しのしようがない。
「……ハァ、やっぱりですか。仕事を私に押し付けて、自分は恋人に会いに行くって?」
「……別に、それがメインという訳じゃない。先ずはプラントの情勢を確認するだけだ」
からかいの言葉に、憮然とした表情で返す。
当然のことながら、国家元首が襲撃で瀕死ともなれば大惨事も大惨事。
オーブやユーラシア連邦の綱引きもあれば、プラント内部のパワーバランスも変わるだろう。
市民目線の空気感を掴もうと思えば、実際に行くに越したことはない。
一方で、治療に担ぎ込まれたというアスランとキラを見舞いたいのも事実ではあった。
搭乗するストライクルージュがフォローウインド作戦のさなかで撃破されたと聞いたときは、比喩でもなんでもなく生きた心地はしなかった。
相手が機体とアコードの性能でゴリ押しを選んだ、と判断した時点で機体を捨てて脱出を試みようとしたらしい。
結局間に合わなかったが、シートを外してコックピットを開放していた分、機体の爆発に吹き飛ばされる形でボロボロになりながらも生き延びたという。
カナードが拾ってくれなければ、宇宙の藻屑だった。
本来なら、何もかも投げ捨ててアスランとキラのもとに向かいたい気持ちもあった。
が、当のアスランから自分は大丈夫だから目の前の仕事をしておけ、と言われると仕方がない。
(そもそも、何が"俺が死んだらカガリが傷つくからな、死にはしないさ"だ!! 何様のつもりだ!!)
そう言いながら、胸元のハウメアの護り石を見せびらかしてくるのだ。
前大戦の決戦前、必ず帰ってくるという約束をさせるために渡したものではあるが、調子に乗りすぎである。
いつの間にか照れたように赤くなっているカガリを、ミヤビは半眼で眺めた。
「はいはい。プラント情勢の確認ですね。とても重要なお仕事です」
「ミヤビ!」
「分かっています」
ミヤビは端末を操作し、カガリが今回使う身分を呼び出した。
オーブとして
元よりキオウ家は、他国との文化交流とともに表裏の外交を統括する氏族。
ミヤビに頼むのは妥当な判断だった。
「……適当に外務官IDを付けておきます。あまり派手に動かないでくださいね」
フォローウインド作戦の後。
オルテュギア改は、補給と負傷者の治療のため、プラントの一角──医療技術に優れたフェブラリウス市を訪れていた。
キラとアスランも、一時は市内の病院へ運び込まれた。
だが、フォローウインド作戦から既に二十日近くが経っている。
全身打撲や肋骨の骨折も、プラントの先端医療と二人自身の回復力によって、日常動作に支障が出る段階は過ぎていた。
とはいえ、ユーラシア連邦軍の再編待ちでオルテュギア改も開店休業。
乗機も失われ、何もできない状況に焦りを覚えていたのだが。
カナードから語られた情報は、そんな鬱屈を吹き飛ばすものであった
「クルーゼ隊長……いや、クルーゼと戦うなら、あの空間認識をどうにかするしかない」
アスランが眉間に寄ったシワを指でほぐす。
「アコードの、"動く前に読む"とは似ているようで違う、"動きの起こりをつかむ"だからね……。まさか、もう一度戦うことになるなんて」
キラも深いため息を放つ。
来客にカナードが呼び出されて中座した後。
ブリーフィングルームに2人残ったキラとアスランは、ほんの数年前の死闘を思い出しながら頭を悩ませていた。
当時クルーゼが乗っていたプロヴィデンスと戦ったのは、キラが乗っていたフリーダムと、アスランが乗るテスタメントジャスティス。
特性の違いはあれど、トータルのスペックはほぼ同等。
それでも二人がかりで良いようにあしらわれ、四肢をまとめて失うような特攻を仕掛けても、手持ちの武器を壊すのがせいぜいだった。
打ち倒すことができたのは、
はっきり言って再現性は無い。
「そこに加えてドラグーンで操られる、本物か無人化も分からない
スペックについては、結局つかめていない。
だが、ファウンデーション王国が開発したブラックナイトスコードの性能は文字通り骨身にしみている。
その随伴機として作られたというからには、相応の性能であることは間違いない。
「……大変だけど、ゴメン。状況から見て、まず間違いなくフレイはクルーゼの手元に居る。……助けたいんだ」
息を詰め、歯を食いしばるようなキラの肩に、アスランが手を添える。
「何度も言わなくて良い。彼女だって被害者、救われるべきなんだ」
戦いに巻き込まれるべきで無いものが、巻き込まれる。
それは周囲の心を酷く傷つけるものだと、アスランはよく分かっている。
(そういうことが、起きない世界にしなきゃいけないんだ……)
アスランもまた押し黙る。
そこに、プシュ、という扉が開く音が響いた。
「……艦長の許可は得ている。邪魔するぞ」
そう言って肩で風を切って入ってきたのは、アスランにとっては見知った相手だった。
その後ろに、同じくよく知った顔。
さらに、アスランの知らない3人目。
隣ではキラが、銀髪の男の顔を見てわずかに目を細めていた。
何か引っかかったようだったが、それ以上の反応はない。
それを気に留める余裕もなく、アスランは大口を開けて叫んだ。
「イザーク?! ハイネまで?!」
その言葉を耳障りだとばかりに顔をしかめた後、イザークがゆっくりと口を開いた。
「……貴様が生きていたとは、とんと知らなかったぞ。アスラン・ザラ」
う、と表情をこわばらせるイザークを他所に、ハイネが軽く笑ってイザークの肩を叩いた。
「何度も言っているだろう? お前の知っているアスラン・ザラは、もう死んだ。ここに居るのはアスラン・キラ・ヒビキだぜ?」
「黙れ。貴様も同罪だ」
イザークの鋭い視線がハイネに突き刺さる。
「はいはい」
ハイネは慣れた調子で肩をすくめる。
元より事情を知っていたハイネがイザークに伝えたのだろう。
アスランの死亡偽造は、当然のことながらそこそこの機密だ。
ハイネは戦後に捕虜返還で帰還するときに事情を知っていたが、ずっとプラントでレジスタンス活動と政治に邁進していたイザークは知る機会がなかった。
「まったく……貴様はともかく、ディアッカやニコルも俺に知らせないとはどういう了見だ? 道理で墓参りを途中で切り上げようとするはずだ」
憤慨遣る方無い、とばかりのイザークにアスランは肩をすくめて答えた。
「仕方がないだろう、お前は政府側の人間だ。下手に知っているだけで利用されかねな──がッ?!」
もっともらしくNeed to knowを語るアスランに拳が飛ぶ。
肝臓に突き刺さったそれは結構な痛みで、状況を察したらしいキラがドン引きの表情でアスランを見る。
キラからすれば、戦友に生存を隠していたのがとても信じられないのだろう。
(そんな目で見るなよ……イザークとは、どうにもこうにも噛み合わないんだ)
嫌いでは無いが、どうにも仲良くなれない。
生きていると知れば、どうせ逃げたのか、なぜ黙っていたのか、真正面から責めてくる。
そして、その通りだった。
イザークはもう一度何か言いかけたが、深く息を吐いて一歩引いた。
「言いたいことは山ほどある。だが、今は後だ」
代わりに、片目にバイザーを付けた金髪の男が歩み出る。
「直接お会いするのは初めてですねキラ・クライン=ヤマト。アルバート・ハインラインです貴方のアイディアにはずいぶん助けられました」
息継ぎするのも惜しいと言わんばかりの早口に、キラは目を白黒させながら差し出された手を取った。
「どうも、はじめまして。……途中で抜けてしまって、申し訳ありません。サードステージの進捗はいかがですか?」
建国式典でのテロ以降、キラはフレイの捜索にかかりきりになってしまい、開発チームから事実上脱退した。
サードステージ、つまりはエヴィデンスのフラッグシップMSとなるべくCOMPASSとTERMINAL共同で開発されていた、新型の核動力機だ。
開発コンセプトは、共通のフレームと胴体を持つ高性能な母体MSを少数量産し、その頭部やバックパック・武装を運用別に特化させることで、機体数と性能を両立しようというもの。
話によれば、計画倒れになったグフというMSのアイディアを発展させたらしい。
キラの問いに答えたのは、ハインラインではなくハイネだった。
「そこから先は俺が。ハイネ・ヴェステンフルスだ。……キラ・クライン=ヤマト、アンタにもあっているんだぜ? ジャスティスに乗ってな」
あ、と大口を開けたのはキラだ。
前大戦でのジェネシスαを巡る戦いで相まみえたが、その後にも特に関わりはなかった。
言われてみれば、声に聞き覚えがある。
「サードステージは5機が完成している。俺がテストしたが、どれも良い機体だぜ。……本当は、先日議長を撃ったファウンデーション王国残党の相手に使いたかったんだが……」
ハイネはそこまで言って肩をすくめる。
「ユーラシア連邦に取り上げられることを警戒して、議長が開発資料ごと封印していてね。逃げ出すアイツラを見て警備用のジンでとりあえず追いかけようとはしたんが、あえなくちぎられちまった」
そんな言葉に、アスランが呆れたように「無茶をする……」と呟いた。
旧式も旧式のジンでは、誰が乗ったところでブラックナイトスコード相手には太刀打ちできない。
1秒も掛からずやられてしまうだろう。
「議長の意識不明を受けて、緊急対策委員長こと、そこのジュール議員サマに権限が渡った。今慌てて開封中だ」
横目でイザークに目配せするハイネをイザークが睨めつける。
「……押し付けられただけだ。相変わらず、どいつもこいつも責任を取ろうとしない」
「話の経緯からして……。その機体、俺達に渡してくれるのか?」
アスランの訝しげな問いに、イザークが鼻を鳴らして答える。
「ユーラシア連邦に渡す手筈だったミレニアムが、あっちの
そこで、イザークはキラとアスランを順に見た。
「良い腕の連中が遊んでいると、ハイネから聞いたのでな。……貴様たちも、高性能機の方が使い出があるだろう?」
イザークの問いかけに、キラとアスランは顔を見合わせてから頷いた。
ファウンデーション王国残党にしろ、クルーゼにしろ、尋常な敵ではない。
近代化改修されたストライクルージュでさえ、本気の相手には通用しなかった以上、可能な限り強力な機体が必要なのは明白だった。
「……あいにくと、相変わらずプラントには自由な軍権がない。動かそうと思えば中立国同盟の傘に入れるか、どこぞの馬鹿どもが勝手に使った形にするしかない。だが、勝手に作るならまだしも、こちらからユーラシアの連中に核動力機を渡すつもりはない」
途中で足抜けこそしたが、地球連合の一角であったユーラシア連邦に対する不信感は、プラント市民の中に根強く残っている。
現実的にはハイペリオン・ブレイブが存在する以上、感情論でしか無いのだが、その感情論が肝心なのだ。
「その当たりの帳尻をつけてくれるのであれば、こちらの意見は聞いてもらうが、機体も艦も貸し出してやって良い。どちらにせよ適当に泥をかぶってもらうには、国外の人間のほうが良いからな」
アスランはその言葉に息を呑んだ。
あけすけな取引では有るが、プラントにとって直接的な利点がある話でもない。
戦力を遊ばせずに役立てたいという義侠心と、プラントの立場を傷つけまいというギリギリの提案は、かつてのイザークとは結びつかないものだった。
「お前……変わったな?」
アスランの呆然とした一言に、イザークは再び鼻を鳴らした。
ニヤリとハイネが笑う。
「言っておくが、俺はパイロットとして乗り込ませてもらうぜ? テストと訓練ばっかりで、いい加減フラストレーションが溜まっているんだ」
ハインラインが言葉を継ぐ。
「現在調整済みの5機はそれぞれ近接迎撃仕様、高速格闘仕様、空間制圧仕様、広域殲滅仕様、強襲突撃仕様です。近接迎撃仕様つまりTYPE:IGNITEDはヴェステンフルス向けに調整してありますのでそれ以外の機体が対象となります。パイロットの人選もそちらにおまかせします」
ハインラインの言葉にキラは頷いたが、そこから再び首を傾げた。
「そういえば、サードステージの機体名称って決まったんですが?」
いつまでもサードステージと呼んでいては、
そんな素朴な問いに、ハイネが鷹揚と頷く。
「ああ。……案外方々で使われていて紛らわしいんじゃないか、って気もするが、議長がこれが良いってね」
そして、キザったらしくこう言った。
「ED2LF-01A──"ガンダム"だ」
「ガンダム……?」
キラの瞳が丸くなる。
地球連合のG兵器に端を発する、特徴的な頭部を持つMS。
それをキラはOS表示からガンダムと呼んでいたが、どうやらそれを正式名称として採用したらしい。
「ああ。だから俺の機体は、ガンダム・イグナイテッドってところだ。……心配しなくても、
含み笑いを漏らすハイネに、キラはゴクリと唾を飲み込んだ。
ガンダム・フリーダム。
わざわざ名前を継ぐということは、相応に似た機体であるのだろう。
ぶるりと震えた身体に、スピーカーからカナードの声が降り掛かった。
『フフフ……お前ら、ブリッジに来い。
その場にいた面々が首を傾げる。
だが、続いた声に、キラとアスランは同時に顔を上げた。
『カナード、からかうな! アスラン! キラ! とっとと顔を見せろ!』
ご感想・ご評価いただければ幸いです。
6時間後の0時過ぎに更新します。
オリ機体
ED2LF-01A:ガンダム
エヴィデンスの象徴となるべく、COMPASS・TERMINAL・オーブで共同開発された機体。
実際の建造はプラントで行われた。
型番としては一つだが、各機ごとに仕様が異なる。
全26機の建造が予定され、最低限の量産化を行うため、純粋なワンオフ機ではなく母体となるMSを改造する様な形で建造されている。
もっとも四肢やバックパック、
ガンダムという名称は、デュランダル議長が決めたものらしいが……?
・コックピットは全天周囲モニター仕様。
・関節は全てフェイズシフトフレームで構成。
・取り付け方法やサイズは各仕様ごとに異なるが、
・共通の装備として下記がある。
胸部:MGX-2235 カリドゥス複相ビーム砲(ストフリ・アビスと同じ)
頭部:MMI-GAU27D 31mm近接防御機関砲(ライフリと同じ)
左腕:MMI-X525 インフェクタス ビームシールド(ライフリと同じ)
右腕:パンツァーアイゼンA2(オリ。シールドブーメランの代わり)
アンカー内蔵の小型アンチビームシールドであり、ソードストライクのパンツァーアイゼンの発展型。
アンカー部にビームサーベルを内蔵しており、射出して突き刺す他に、腕に保持したままボックス型ビームサーベルとして使用することも可能。
近接装備:MA-FZ51 ヴェルシーナ ビームサーベルを二つ(ライフリと同じ)