〈最終章突入〉SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
月面へ撒き散らされた砂塵の大半は、既に地表へ落ちていた。
そこかしこにあったはずのアンテナや格納ブロックは完全に埋もれ、近く寄っても真っ平らな平原にしか見えない。
「……ひどいな」
シンはそうつぶやくと、擦り傷のついたストライクダガーをゆっくりと月面まで降下させる。
機体をホバリングさせるスラスターに押され、
噴射を弱めれば、今度は開いた穴を埋めるように戻ってきた。
底なし沼か、蟻地獄か。
シンは思わずげんなりとした顔を見せたが、息を吐くと即席の
これから穴を掘っては周囲を押し固め、通信アンテナを掘り出す作業があるのだ。
スラスターをギリギリに調整して、月面に機体を押し当てる。
強ければ機体が埋まってしまうし、弱ければ踏ん張りが効かず作業できない。
「やりにくいな、もう……」
悪態を吐きながら、薄く地面を削っていった。
アークエンジェルが月にたどり着いたのは、救難信号を受け取ってから丸一日ほど経ってからのことだった。
数時間前からはミネルバや基地司令部と連絡がつくようになっていて、経緯と被害状況、その後の復旧状況が共有された。
しかし、プトレマイオス基地のゲートは砂と瓦礫に塞がれたまま。
アークエンジェルは入港もできない中、着任の手続きもそこそこに言い渡されたのは、月を起点とする監視網の復旧だった。
基地内部では未だ救出活動と破損箇所の応急修理が続いており、使える人間は片端からそちらへ吸い取られているらしい。
先ずは自前の機体を持つムウ達正規パイロットが、基地司令部からこの辺りに有るはず、と指定された箇所を掘り出した。
そして発掘された予備格納庫の機体に、シンやステラ達予備パイロットが土木作業員として乗り込んだ。
人手はいくらあっても足りないのだ。
月面に
勿論、閉鎖系である宇宙艦は、気密が保たれ物資が持つ分には、直ちに人命が損なわれるようなことは無い、というのが前提で後回しにされただけではあるが。
個々の人命より大事なものがある、という軍の理屈でもあった。
無心で砂を掘り続けるシンだったが、レーダーマップに
思わず目を見開くが、思考がまとまるより先に相手から通信が繋がれた。
『なんだ、もう作業しているじゃない……ちょっと、そこの人。このポイントの作業、私も言われたんだけど……って、シン?! 』
「……ルナ。久しぶり、ってほどでもないな。……インパルス、お前が乗っていたのか」
どうやらルナマリアは、通信画面をまともに見てすらいなかったらしい。
シンだと気づくまで僅かに間があり、瞳は充血して顔色も悪く、見るからに疲れ切っている。
シンは苦笑に、いくらかの心配を混ぜた。
折角なので、2人でダベりながら穴掘りを続けた。
多少効率は落ちるかも知れないが、別にサボっている訳では無い。
『──だから、アーサーが断りきれないせいなのよ!! いつまで経っても休めないのは!』
吠えるルナマリアに、「話を聞く限りは、まぁな……」と返す。
なんとあのアーサーが、ほとんど浮き砲台では有るが艦隊を率いて質量弾迎撃の指揮を取ったらしい。
そこまでの事情は聞いていなかったから、シンも驚いてしまった。
その後も責任を果たすべく、艦長席に座り続けていたというが、問題はその後だ。
そこら中から要請が飛び込み、そのたびにアーサーは断りきれず、ミネルバ隊へ新しい任務を割り振っていった。
レイに至っては、とうとう疲れ切って倒れてしまったという。
幸い、急激な症状の悪化ではなく、過労による一時的なものと診断され、今は医務室で少し休んでいるらしい。
大事はないと聞いても、安心できる話ではなかった。
『そりゃあ上の指示に従い、期待に応えるのは軍人の仕事よ? でも艦長なんだから、艦の乗員も守ってもらわないと!』
なおも吠え続けるルナマリアに、苦笑を浮かべながら頷く。
艦長は船の中にあって王様だが、組織の中ではただの中間管理職だ。
アーサー自身も休まず働いていたのだろうし、基地からの要請を断るのが難しいことも分かる。
それでもレイの事やルナマリアの姿を見れば、もう少し体を張って周囲の声を押し留めて欲しかったところではある。
しかし、わめきたてていたルナマリアの声のトーンが少しずつ沈む。
『……わかっているのよ。私たちがもっとうまく迎撃できていれば、基地の被害は押し留められたって。だけど……』
僅かにかすれの交じる言葉に、シンは眉をひそめる。
割り切りの得意なルナマリアらしくはない。
だが目の前に広がる惨状と、長く続いた緊張、そこへ疲労まで重なれば無理もなかった。
「ルナ。お前たちが止めなかったら、もっと酷いことになってただろ」
『……でも』
うつむくルナマリアに、シンは首を振った。
「無理すんな。疲れているんだよ」
そう言いながら、インパルスの方へストライクダガーの腕を伸ばす。
触れたところで装甲同士がぶつかるだけだったが、それでもルナマリアには言いたいことが伝わったらしい。
『……うん』
小さな返答に微笑み返して、作業に戻ろうとする。
そんな折だった。
『基地司令部より全軍に伝達。プラントより救援部隊が到着した。復旧作業員は120分後に作業を引き継げ。繰り返す──』
どうやら、話には聞いていたプラントからの応援がやってきたらしい。
地球で民間が被災地に入れば自己完結能力が問題になるが、孤独に宇宙を旅する船は当たり前に持っている要素だ。
ホッとするシンとは別に、画面の先のルナマリアは別の通信が来ていたようで、目を見開いている。
『え、メイリン、ホントなの? ……ミレニアム、話には聞いていたけど……』
そしてシンに笑いかけた。
『ねぇ、シン。……ヤマト隊長が来ているみたいよ』
「いやぁ、集まってもらって済まないねぇ。この度ミレニアムの艦長を正式に拝命した、アンドリュー・バルトフェルドだ。人の基地でしゃしゃり出るのも恐縮だが、進行役をさせてもらう」
朗らかに笑いかけながら周囲を見回す。
復旧作業をプラントからの救援が引き継ぎ、僅かな小休止の後。
ようやく手の空いた人員を集めていた。
プラント最高評議会の預かりだったミレニアムは、
強奪されて、ということにする案もあったのだが、核動力機を5機も積んでいる艦がそれというのは色々ややこしくなる。
とはいえ、そう都合よくプラントにオーブの人間が居るわけでもなく、乗員の顔ぶれとしては追悼船であったときと変わらない。
結果として艦長を続ける事になってしまったバルトフェルドだったが、オーブの軍籍を与えられた分、"民間人の暴走"を演じる必要もなくなったし、これまで付き合いのなかった人々と交流するのも悪くない。
この会議に集まった面々も、随分と雑多だった。
前大戦を外から眺めた中立国の一般人であり、戦後に志願した
前大戦の濁流を駆け抜け、COMPASS結成後も活躍した、
そして極め付きが、スポットライトの当たる舞台から突き落とされた
最後の2人の距離感に、僅かに笑みを深める。
(いやぁ、若いねぇ……)
会議の場であるというのに、彼らは指を絡めるようにして握った手を離さない。
もう二度と離れたくないと、言外に主張しているようだ。
もっとも、
流し目に気づいたアイシャがにこりと笑い、バルトフェルドは何食わぬ顔で正面へ向き直った。
「それでは、基地司令。まずは状況をまとめてもらってもよろしいかな?」
軽薄な様子を引っ込めたバルトフェルドが、通信越しに参加する基地司令に話しかけた。
再攻撃があった場合の即応体制込みで、他は一旦広いミレニアムに集まったが、今一番忙しい基地司令を自席から引っ張り出すほどには余裕がない。
『……了解した。まずは、事前条件から説明を』
かつてハルバートンの副官を務めた
アークエンジェル、ミネルバ、ミレニアム各艦の艦長にカナードを始めとする、オルテュギア改の面々、さらにラクスやキラ、カガリ。
これに加えて、その他の一般パイロットまで集まっているのが奇異に映っているのだろう。
(まぁ、必要なのはブレインストーミングだからねぇ)
頭の良い人間だけを集め、最適解を選ばせる。
それも一つの手ではある。
だが今必要なのは、既存の枠組みに収まった答えだけではなく、立場も経験も異なる人間から雑多な視点を集めること。
何より、ここにいるパイロットたちは、決まった方針を実際に遂行する当事者でもある。
少なくともミレニアムで会議する限り、バルトフェルドはこの形を変えるつもりはなかった。
地球から月、各ラグランジュポイントまで含めた地球圏のマップが表示される。
『もともと月には、相当数の戦力を集めていた。これはパニッシュメントの地球質量攻撃を危惧し、即応体制を取るためだ』
地球には大気圏がある。
それを超えて被害を与えられる大質量の場合、どんな手段であっても加速や移動には時間が掛かるハズだった。
それを監視網で発見し、月から艦隊を送り込むのが従来の構想。
大戦力を地球から打ち上げるのは、カグヤやポルタ・パナマといったマスドライバーが使われるが、どうしたってレールの冷却等の問題がつきまとい、連射というわけにはいかない。
五月雨式に軌道に上げていったとしても、宇宙空間での再集結・再編成に時間がかかる。
一方で月からなら、最初からきっちり編成を整えた大部隊を送れるし、なりふり構わず行けば地球まで2日足らずでたどり着ける。
「だが、その即応体制が崩れてしまった。そういうことですな?」
バルトフェルドの言葉に、ホフマンが頷く。
『月面で即応体制を取っていた艦艇の大部分が被害を受けた。最低限掘り出し、破損した推進器類を修復し……と考えれば、最低でも数週間は動けない。基地ドック内にあった艦は被害がないが、ゲートが埋まってしまっている。こちらも何日かはかかる』
沈痛な表情で首を振る。
ホフマンはいっそ冷徹な人物だが、だからこそ感情論で語らない。
『今この時点において、月は無力化された。……まとまった戦闘行動を取れる戦力は、君たちだけだ』
はっきりと告げられた言葉に、僅かな沈黙が降りる。
それを破ったのは、カガリだった。
「オーブを含め、地球側のマスドライバーはフル回転で艦隊を軌道へ上げようとしている。……だが、そもそもユーラシア連邦は、フォローウインド作戦で失った戦力を月へ補充したばかりだ。地上に余剰戦力はほとんど残っていない」
そう言って頭を掻く。
「オーブ以外で、まとまった部隊を上げる余裕があるのは、東アジア共和国くらいだろうな」
テロや小競り合いは続いていたとはいえ、前大戦が終わってから既に数年。
プラントの軍事主権が制限され、国家間の全面戦争が遠のく中、大国と呼ばれる国々を除けば、戦時中に膨れ上がった軍を維持する理由は乏しかった。
各国は広域のテロや局地紛争への対応をCOMPASSと中立国同盟へ委ね、旧式艦を退役させ、軍人と予算を復興や民需へ戻していた。
だからこそ、月の即応艦隊が失われた穴を、すぐに埋められるだけの予備戦力は残っていない。
「現時点で、軌道へ上がっている戦力は?」
マリューの問いかけに、カガリが携帯端末を取り出して画面を見つめる。
「オーブの部隊は、粗方もうアメノミハシラだ。東アジアも準備には入っていると聞いている……今のところの速報では、軌道上への配備は2日後といったところか」
「2日、か……」
マリューが僅かに眉をひそめる。
別に長いわけではなく、敵の行動に先んじていると思えば、むしろ悪くない。
問題は、所詮2日で配備できる程度の規模しか居ない、ということだ。
「プラントから戦力を出すことはできないのか?」
ムウが訊ねてくるが、バルトフェルドは静かに首を振った。
「パイロットは元ザフト兵が幾らでもいるんだがね……。相変わらずMSが足りん。軍権を制限されて、ジャンク屋に売り払われるかスクラップにするか、だったからね」
TERMINALが所有しているのはあくまで研究開発用であって、そう機体数が多いわけではない。
「今救援に来ている、工作艇や作業ポッドの類なら追加もなんとかなるさ。正面戦闘は厳しいが……」
それがプラントの限界だった。
「救援作業を引き継いでもらえるだけでも充分です。少なくとも、それでこちらの人員を休ませることができますから」
アーサーがほっと息を吐く。
会議の始まる直前にも、部下のパイロットたちから詰められていたから、胃も痛もうというものだ。
「……それじゃあ、ここからは敵の目的と、その対処についてだ」
状況分析が終わったところで、バルトフェルドはそう言って周囲を見回す。
そして、すぐにため息を吐いた。
「と言っても、目的はわかりきってるがな」
『月を無力化こそしたが、24時間以上経過した今になっても追撃はない。少なくとも、月を完全に潰すことが目的ではない』
ホフマンが唸るように告げると、その場の全員がうつむく。
「つまり、ここまでは下準備。……この次は、地球に対する本攻撃、ですわね」
ラクスの言葉は消去法に依るものだが、パニッシュメントの性質を考えればむしろ正当とも言えた。
「今集まっている情報からしても、クルーゼ達は、多くとも数人の小勢力だ。大戦力による飽和攻撃を避けようと月を攻撃したのは、自然だろうな」
カガリが顎に手を当てて考え込む。
しかし、ムウが首を振った。
「それだけじゃない。単純に地球を滅ぼしたいなら、奇襲的に攻撃する手だってあった。……あえて念入りに、そしてあからさまにプレッシャーを掛けようとしてきてやがる。奴は、俺達がどう対応するか、試そうとしているんだ」
苦々しく歪んだ表情を見る限り、単なる推測で口にしているわけではなかった。
「……であるならば。本攻撃は更にインパクトを重視するだろうな。そうであるならば、抵抗も難しい無数の細かいデブリと言うより──」
アスランのつぶやきに、ラクスが言葉を選ぶように口を開いた。
「恐怖の象徴となるような、一つの巨大な質量。そちらのほうが、クルーゼの目的に叶うでしょう」
「……だけど、コロニーや資源用の小惑星には、そこに住んでいる人自体が警戒網になるんじゃない? そんなすぐに動かせるもんじゃ……」
キラの指摘に、ホフマンが首を振る。
『相手はテロリストだぞ? 手段を選ばないのであれば──コロニーに毒ガスでも注入して、住民を排除することだってできる』
「な……?!」
あまりに悪辣な発想に、バルトフェルドも思わず声を上げた。
人の住む場所を武器とするために、中の人間をまとめて殺す。
まともな人間の発想とは思えない
言い出したホフマンすら、「可能性の話だ」とバツが悪そうに咳払いする。
「……そこまではしないでしょう」
顔色の悪いレイが自分に言い聞かせるように告げるが、バルトフェルドにも地球へ質量攻撃を仕掛ける相手が、コロニーの住民だけは殺さないとは思えなかった。
ムウがガシガシと頭を掻く。
「流石にそれはリスクがデカすぎないか? 第一、そこまでしなくたって良い」
そして周囲を見回す。
「L5のプラントと違って、L4宙域には民間が建設したコロニー群が多い。何かのきっかけで廃棄されたものでもあれば──」
警報が鳴り響いた。
会議室の照明が赤く切り替わり、壁面モニターの一角に、ブリッジからの緊急呼び出しが表示される。
バルトフェルドがオペレーターに尋ねるより早く、画面の先のホフマンがうなる。
『外縁係留部のネルソン級が、通信に応えず移動を開始……? まさか、火事場泥棒か?!』
月の救難信号をキャッチしたのは、たまさか見つけた宇宙海賊を皆殺しにして、小型の輸送船を奪った直後だった。
艦隊ではなく基地が救難信号を出すというのは、尋常なことではない。
これは、と考えて航路を変えた。
「まさか、ここまで綺麗に潰してくれるとはな」
輸送船のブリッジから、オルフェは眼下に広がる月面を見下ろした。
プトレマイオス基地の周囲には、推進器を損傷した艦、砂に埋もれた艦、外装を削られてセンサーを失った艦艇が無数に横たわり、その間を作業ポッドやMSが慌ただしく動き回っている。
基地周辺の監視設備は、未だ完全には復旧していない。
救援船や作業艇が次々と出入りし、被災した艦艇の識別信号も途切れがちとなっている今ならば、紛れ込むことは難しくなかった。
「……クルーゼも本格的に行動を起こすつもり、なんでしょうね」
背後のイングリッドの言葉に、顎を撫ぜる。
オルフェたちからしても、これが下準備ということはわかっていた。
以前戦ったときの時点で、クルーゼの手にはジグラートもあれば、少なくとも5機のジャッジメントもあった。
これだけ痛めつけられた基地を完全崩壊させるなどわけないはずで、放置している時点で目標は達している、ということだ。
「フン、勝手にさせておけば良い」
鼻を鳴らして嘲る。
クルーゼは自分たちからパニッシュメントを奪い、仲間を殺し、今なお好き勝手に動き続けている。
本来であれば、八つ裂きにしてやりたいところだ。
しかし道化として場をかき回す人物は、今のオルフェにとって悪いものではない。
奴が
この月の状況も好都合だった。
なにせ管制網は混乱したままで、物資は山ほどあるのだから。
実に良い補給場所だ。
「選んだ艦の状態は?」
イングリッドに問いかけると、ウインドウがポップアップする。
「ネルソン級。外部センサーの大半が破損し、破孔が空いて気密も破れていますが、機関部と主推進器、電装系は無事です。物資の輸送だけなら問題ありません」
「結構」
気密が破れているなら、中の乗員はノーマルスーツで逃げ出したか真空にさらされて死んだかだ。
中に残っていたところで、通信設備が生きているなら、とっくに救援を要請しているだろう。
つまりは誰も居ないか、通信が死んでいるか。
少なくとも内側から基地に気付かれることはない。
海賊から奪った輸送船に救援船団が使っている識別信号を偽装し、月の地平線すれすれから接近した後は、転がっている物資を一旦輸送船に積み込む。
カルラに乗って、オルフェも作業した。
センサー網がズタズタで、救援船団と作業機が大量に出入りしている。
この状況下では、よほど注意しての光学観測ぐらいしかバレる要素がない。
そして集めた物資を、時間をかけて繰り返しネルソン級に移し替えていく。
たとえ穴が開いていても、戦艦ともなれば
こうして物資をため込めば、シヴァの修理もかなう。
拾った
(……こそ泥の手際だな)
自嘲が漏れる。
しかし今は、臥薪嘗胆のときだ。
定められていたはずの
それを厭うつもりはなかった。
いずれ王として愚民を導く労力に比べれば、大したものではない。
プライドはいささか傷つくが。
積み込みを終えたネルソン級に、イングリッドが乗り移る。
彼女の腕なら、破損チェックをバイパスしてシステムを起動し、ネルソン級を自力で移動させられる。
仮に内部に多少の生き残りがいたところで、しっかり処理してくれるだろう。
動き出したネルソン級に、ようやく基地側は気付いたのか、問い合わせの信号が飛んでくる。
(愚鈍な……)
好都合ではあるのだが、あまりにも気づくのが遅すぎる。
嘲笑を通り越して苛ついてきた。
『……オルフェ。迎撃はどうする?』
応急修理されたシヴァから、シュラの通信が入る。
失われた装甲は別の機体から剥ぎ取った板で塞がれ、彼の愛機にしては見るに堪えない姿だったが、シュラ本人は全く気にしていない様子だった。
「ネルソン級が離脱するまでには幾らか時間がかかる。……ひと暴れと行こう、シュラ」
『了解した』
表情を変えないまま、シュラが輸送船から飛び出していく。
オルフェも輸送船の自動操縦をセットして、カルラに向かって行った。
「キラ・クライン=ヤマト、ガンダム・フリーダム。……出ます!!」
ミレニアムのカタパルトから、キラのフリーダムが飛び出す。
続けざまにアスランのジャスティス、ハイネのイグナイテッドも
他のパイロットは一旦置いてきていた。
それは会議していたのがミレニアムで、すぐに飛び出せるのがミレニアムの艦載機であった三機というのもあるし、混成部隊で出れば、機動力の差からかえって足並みが乱れる。
彼らは、
なにせ、エヴィデンスという国家の象徴となるべく作られた機体だ。
コストは文字通り度外視。
標準装備された光の翼の機動性と、全ての関節フレームにフェイズシフトを採用した運動性は従来の機体と隔絶しているが、その分ブラックナイトスコードにも対抗できるはずだった。
『あれがブラックナイトスコード、カルラとシヴァか。カルラとやらは、
ハイネの問いかけに、アスランが小さく頷く。
『そうだ。ビームは効かず、実弾も粗方弾き、高機動。乗っているパイロットも、ただでさえ腕がいいのに此方の心を読んでくる。……気を抜くなよ』
フォローウインド作戦で、ストライクルージュを容易く打ち破られてしまったアスランの言葉には、最大級の警戒が込められていた。
ストライクルージュに同乗していたキラも、全く同感だ。
見据えた白と黒のMS──黒い方はいささか傷ついているが──から共通チャンネルで言葉が飛んでくる。
『おや、生きていたか。アスラン・キラ・ヒビキ。……シュラ、相変わらずツメが甘いな?』
読心でこちらのパイロットを捉えたのだろう。
久しぶりに聞いたオルフェ・ラム・タオの声には、意外なほど余裕があった。
『……無様なものだな。ただ土を掘るだけとは』
眼下に広がる月面では、突然の事態に作業の手を止めた救援隊のMSや作業ポッドが、呆然とこちらを見上げていた。
オルフェは、そんな彼らを嗤っている。
『何をしに来た』
キラが何かを言うより早く、アスランが低い声で問い返す。
その言葉に、オルフェは嘲りを隠そうともせず答えてきた。
『何、民草から徴税しに来ただけさ』
レーダー上に表示されていたネルソン級の反応は、既に月の稜線の向こうへ消えようとしている。
基地周辺に集められていた物資も、相当量を持ち出されたのだろう。
「盗んだだけじゃないか……!」
キラの声が相手に届くより早く、黒の機体が動いた。
シヴァが空間を切り裂くように加速する。
狙いを見きったアスランが、『散開!』と大きく叫んだ。
三機が同時に別方向へ弾け飛び、その中心をシヴァのヒートソードが貫く。
刃の先がジャスティスを追って鋭く翻った。
『……どうやら、変わらず俺が狙われているようだな。俺が一機引き受ける』
「アスラン?!」
キラが戸惑いの声を上げるが、アスランは冷静だった。
『大丈夫だ。どうやら相手も、万全ではないようだからな』
アスランがそう告げながら、ジャスティスを月面から遠ざける方向へ走らせる。
その合間にも、キラとハイネは既にカルラを挟む位置へ動いていた。
『我々の支配を受け入れていれば、こうはならなかっただろうに』
ブラックナイトスコード・カルラが、悠然と両腕を広げる。
自分たちが基地を襲ったわけでもないのに、まるで眼下の惨状さえ支配に逆らった結果であるかのような口ぶりだった。
「そんな理屈!」
キラが吠えながら
『……ああ、ラクスの夫か』
ようやく存在に気づいたような声だった。
『あの女もご苦労なことだ。無知蒙昧な民に追いやられて、それでもまだ彼らのために働こうというのか?』
かつてラクスへ向けていたという熱は、少しも感じられない。
ただ価値を見誤った愚か者を評するような、乾いた嘲りがあるだけだった。
「みんな、自分で決めてここにいるんだ!」
フリーダムの肩から
フェムテク装甲にビームが効かないことは分かっている。
(それでも、装甲の隙間がある。武器を壊すだけでも良い……!)
四方へ散った
ヘファイストスの高初速ビームが亜光速で襲いかかるが、カルラは最小限の動きで射線を外しながら、月面近くへ進路を下げた。
その動きを見て、ハイネが加速する。
『道を借りるぜ、キラ!』
キラは反射的に照準をずらした。
弾幕に生まれた狭い回廊を、イグナイテッドが光の翼を瞬かせながら駆け抜けた。
『もらった!』
イグナイテッドの腕から、
伸びた鞭が、カルラの右脚へ絡みつこうと迫る。
オルフェの注意は
スレイヤーウィップの先端が装甲をかすめるが──カルラがふわりと間合いを外す。
『……なるほど、そこそこの機体ではあるようだ』
カルラの背後から、8機の
「ハイネ、離れて!」
『分かってる!』
ハイネがウィップを巻き戻しながら後退する。
両腕に備えた
一機を正面から捉える。
そう見えた瞬間、
別の二機が左右へ散り、ハイネの死角へ回り込む。
『チッ、素直に落ちろってんだよ!』
キラはフリーダムを割り込ませ、ビームシールドを展開する。
更にそのまま突っ込み、
しかしビームが接するより早く、カルラの
『フム……やれなくはないが』
オルフェの声と同時に、カルラが後退を始める。
『すでに目的は達している。撤退するぞ、シュラ』
遠くで、ジャスティスとシヴァが交錯する。
アスランのサーベルをヒートソードが弾き、シヴァがなおも食らいつこうとする。
『まだだ! こいつはここで──』
『また、見誤るつもりか?』
シヴァの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
その隙をアスランは逃さず、ジャスティスの蹴りで距離を開いた。
『……クソが!!』
吐き捨てる声を残し、シヴァもカルラの後を追う。
「逃がさない!」
キラはスロットルを叩き込んだ。
光の翼の爆発的な加速が、機体を一気に押し上げる。
アスランとハイネも続く。
だが、
ジリジリと離されていく。
「クソっ?!」
キラが悪態をついたとき、オルフェの声が再び届いた。
『さて、最後に一つ』
カルラが振り返る。
『……これが、王に逆らった罰というものだ』
背後に集結していた
狙いは追撃する三機ではない。
「基地を?!」
無数の砲口が、傷ついたプトレマイオス基地へ向く。
「やめろぉッ!!」
フリーダムを月面側へ急旋回させ、
ジャスティスとイグナイテッドも遅れることなく並び、三機の前面にビームシールドが展開された。
光が降り注ぐ。
カルラの
だが、相手は射線が定まるより早く軌道を変えた。
ビームシールドが塞ぐ範囲を避ける。
三機が次に動こうとする方向を先に読み、防御の重ならない隙間へ滑り込む。
「くっ……!」
一発がシールドの外側を抜けた。
基地の外壁に突き刺さり、月面の砂を吹き上げる。
続けて別のビームが、半ば埋もれた構造物の付け根を焼いた。
『まずいぞ! すでに傷ついているのに、これ以上攻撃を受けたら──!』
ハイネの声が響く。
主構造から崩れれば、表面の施設だけでは済まない。
埋もれた区画も、内部で救助を待つ人々も、そのまま押し潰される。
フリーダムのシールドを光が叩き、視界が白く染まる。
それでもキラは一歩も退ず──やがて、攻撃が途切れた。
舞い上がったレゴリスが、ゆっくりと地表へ降り積もる。
月に、静寂が戻ってきた。
次は8/14の12時前になります。
カルラのドラグーンとフリーダムの小型ドラグーンの書き分けができないせいでルビ多用です…。
オリ機体
ED2LF-01A/TYPE:FREEDOM=ガンダム・フリーダム
広域殲滅仕様。
・
・
ハイマットフルブーストの状態で、バラエーナが真後ろに向いて光の翼を出しているイメージ
・専用固定装備
腰部:MMI-M2020 ヴァイパー3 レールガン(ライフリと同じ)
肩部:GDU-A4X ファイアフライ 小型ドラグーンx4
・最大の特徴は、両腕に持ったヘファイストス ツインバスターライフル(W0のアレ)であり、高速の分離単射モードと高火力の連結照射モードを使い分けることができる。
ED2LF-01A/TYPE:JUSTICE=ガンダム・ジャスティス
高速格闘仕様。
・バックパックはデザイン的にはアカツキのオオワシ。
懸架式でMk-1 高エネルギービーム砲(イモジャと同じ)を搭載する。
・
・専用固定装備
RQM60F フラッシュエッジ2 ビームブーメラン(デスティニーの奴)✕4
両肩だけでなく両爪先にも装備する。
爪先側のものは簡易ドラグーン機能を活用することで、イージスのようにビームサーベルを展開したり、蹴った動きで分離させて飛ばすことも可能。
・手持ち火器はMA-M727A3 高エネルギービームライフル(ライフリ・イモジャと同じ)
ED2LF-01A/TYPE:IGNITED=ガンダム・イグナイテッド
近接迎撃仕様。
ガンダムの開発ベースとして使われた。
・
※原作のデスティニーガンダムと同型。
・専用固定装備
両腕:MA-M757 スレイヤーウィップ(グフイグナイテッドのやつ)およびM181SH ドラウプニル改 5連装ビームガン(グフイグナイテッドの強化型想定)
両肩:フラッシュエッジ2
バックパック:MMI-714 アロンダイトビームソードを2本懸架。※名無し砲はない。
・手持ち火器はMA-M727A3 高エネルギービームライフル(ライフリ・イモジャと同じ)