〈最終章突入〉SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
かつて、禁断の聖域と呼ばれたコロニーがあった。
並行して宇宙ビジネスが活発化する中で建設されたそのコロニーには、G.A.R.M. R&D社を筆頭とした多数の遺伝子研究機関がラボを開設し、当時も禁止されていたコーディネイターの研究や遺伝子デザインが公然と行われていた。
さらに研究資金を得るためと称して、人権を無視するような研究も度々行われていたという。
CE55年には、ブルーコスモスのテロによって多数の死傷者を出すこともあった。
その後も運用は続けられたが、CE68年に発生したバイオハザードによって閉鎖。
大量のガンマ線による滅菌活動が行われたが、人が戻ることもなくL4宙域に漂っている。
そのコロニーの名を、"メンデル"。
人の営みが絶えたはずのコロニー内部に、生産機械の駆動音が鳴り響いていた。
ラインに載せられた中古の
コックピットが潰され、内部にコンピューターが詰め込まれる。
頭部は丸ごと取り替えられ、鶏冠のようなセンサーアレイのみ流用されて再び取り付けられる。
ジャンク屋市場にダブついている旧式のジンを再戦力化するための機体であり、当初は外部からの指示に従って動く
だが後に、フラッシュシステムへの対応機能が組み込まれている。
「……これが、280機目。定数が揃った」
クルーゼはキーボードから手を離し、薄く笑いながら眉間を揉む。
生産ラインそのものは、アウラを殺害した直後、ファウンデーション王国の施設からまとめて宇宙へ打ち上げておいたものだ。
その後に暴露報道を行い、アウラとの連絡が途絶えたオルフェたちが本国へ戻ろうとしてくるまで、およそ一か月。
クルーゼは彼らからパニッシュメントを奪って宇宙へ脱出すると、あらかじめ打ち上げていた設備を回収し、メンデルへ運び込んだ。
移設作業には、
だが今、製造設備への指示を出せる人間は、自分一人しかいない。
高度な
機体ごとの劣化や差異に合わせ、どうしても人間が調整指示を出す必要があった。
(
ここまで地道に積み上げてきた自分の几帳面さに、思わず笑いが漏れる。
クルーゼがメンデルを拠点としたのは、アコードの存在が当時のCOMPASSに露見した直後だった。
シュラがCOMPASSの工作員と交戦したという情報がファウンデーション王国へ入った時点で、クルーゼは一つの可能性に思い至った。
案の定、シュラの足取りを追ったCOMPASSは、メンデルの再捜査を行った。
クルーゼはそれを外から眺め、捜査が終了するのを待ってから内部へ入り込んだ。
メンデルの調査で得られた情報から、捜査の焦点はいずれ、かつてアウラと親交のあったギルバートへ向かう。
調査済みの廃棄コロニーは優先順位を落とし、監視の目から外れていく。
それも想定の範囲内だった。
アウラ達の目が届かない拠点を欲していたクルーゼは、これ幸いとメンデルへ手を入れていった。
途中からはアズラエルを匿いもした。
凍結を解除されたアズラエルの表向きの資金には、当然ながら厳しい監視がついていた。
だが、アズラエル個人が抱えていた裏の資金にまで、そう簡単に捜査の手は届かない。
あとは本人から
その資金を使って生産ラインを整え、闇ルートで素体になるジンを購入し、目立たぬよう少しずつ運び込み、奪ったパニッシュメントや7機のジャッジメントの整備を行い、メンデルにフレアモーターを設置した。
そう、フレアモーターだ。*2
太陽フレアによる太陽風とそこに付随する磁気嵐を、巨大な電磁石によって受け止め、太陽系全体を巨大なモーターに見立てる推進装置。
これは後になって追加した。
太陽風は地球圏全体に大きな被害を及ぼすから、その日時や位置はプラントで詳細に計算され、世界中に共有されている。
メンデルを拠点として、着々と
それほど巨大な太陽フレアが起きるのであれば、
もっとも、
狙い澄まして地球への落下軌道に乗せることは、極めて困難だった。
だが、そのためにパニッシュメントが使える。
(今頃は、回廊ができているはずだ……)
にやりと笑う。
彼の指示を受けたフレイは、地球を取り巻くデブリ帯から、月や地球へ向けて質量弾を撃ち出している。
そのすべてが、無差別に選ばれた弾体というわけではない。
メンデルが地球へ向かう際、その進路を塞ぐ障害物。
それをあらかじめ排除することも、質量弾攻撃の目的だった。
フレアモーターによってメンデルを動かし、安定軌道から外す。
地球の重力に引かれた進路がデブリ帯へ差しかかった時点で、パニッシュメントと合流。
さらにパニッシュメントによって軌道を調整し、障害物を取り除いたデブリ帯の回廊を通して、地球へ落とす。
完全なコロニー1基が地球に落ちればどうなるか。
数百億tという質量が地球へ自由落下すれば、断熱圧縮による破損や空気抵抗による減速を差し引いても膨大なエネルギーが発生する。
大陸は削り取られ、海水面は10mも変位する。
ライフラインの断絶と、その後の混乱まで含めれば、エイプリルフール・クライシスにおける十億人という犠牲すら、軽く超える被害が出るだろう。*3
クルーゼはその地獄絵図を想像して、陶然と呟いた。
「今度は、何を見せてくれるのかな?」
人類に向かって、空が落ちてくる。
その絶望に際して、人類は何を見せるのか。
互いを踏みつけ、責任を押しつけ合い、滅びへ向かうのか。
それとも。
とはいえ、クルーゼ自身がメンデルと運命を共にするつもりはない。
まだまだ、試行は続けるつもりだった。
それが運命であれ、世界そのものの意思であれ。
その答えを見届けるまで、終わるつもりはない。
ブラックナイトスコードの襲来から、一夜明けて。
ミレニアムの格納庫に並ぶ、
一機は、背中から左右へ大きな翼を伸ばしている。
両肩に見えるビームブーメランは、ソードインパルスの物の後継機種だろうか。
バックパックには大型ビームソードと長射程砲が左右に懸架され、両手の掌にも銃口が覗いている。
もう一機は、背びれのように縦に幾列にも端末の並んだホルダがついている。
(あれ、ドラグーンか……?)
搭載された端末の数を見ただけで、扱いの難しさが伝わってきた。
シンはもう一度、翼を持つ機体へ視線を移した。
「これを……俺に?」
思わずこぼれた声に、隣に立つキラが小さく頷いた。
「うん。強襲突撃仕様の、ガンダム・デスティニー。元々は、インパルス用のシルエットモジュールから発展した機体なんだ」
フォース、ブラスト、ソードの各シルエットを統合した、いわば全部乗せの"デスティニーシルエット”。
しかし元より分離合体仕様のバッテリー機であるインパルスでは、フレームの剛性も足りなければ出力も足りない。
結果的にペーパープランに終わったが、そのコンセプトをガンダムに適用したのがこの機体だった。
「インパルスを一番使い込んでいるのはシン、君だ。以前の君は、何でもできる機体だと迷ってしまう、と言っていたけど……今なら」
新兵だったシンは、万能機の運用で咄嗟の判断に迷いが出ることを嫌った。
だからシミュレーターで、ストライクでパックを切り替えながら戦うという手段を見出し、実際のインパルスの運用につなげた。
けれどそこから、シンはインパルスに乗って戦い続けた。
「だから、この機体を任せるならシンしかいないと思った」
キラが、真っ直ぐにシンを見つめる。
自分の積み重ねてきたものが認められた。
その喜びと、託されたものの
「……了解しました。ガンダム・デスティニー、受領いたします」
背筋の入った敬礼を返す。
(俺はもう、新兵じゃない。……背負ってみせるさ)
キラはシンの様子に頷くと、隣で機体を見上げていたレイへ視線を移した。
「もう一機が、ガンダム・レジェンド。こちらは、レイに任せたい」
「ドラグーンの数が、尋常ではありませんね」
レイが淡々と口にした。
「背部の小型ドラグーンが20機。両手の手持ち武器も、ドラグーンとして操作することができる。空間制圧を目的に設計された機体だよ」
キラは苦笑しながら説明を続ける。
「動かすだけなら、僕やムウさんにもできると思う。でも、あれだけの数を同時に使って、機体の性能を全部引き出せるかというと……難しい。でもレイの空間認識能力の高さなら、使いこなせると思う」
レイは、すぐには答えなかった。
金色の瞳が、無数のドラグーンを背負った機体へ向けられている。
その表情から、何を考えているのかは読み取れない。
やがて静かに息を吐き、キラへ向き直った。
「了解しました。ガンダム・レジェンド、確かに預かります」
レイの向けた敬礼に、キラが頷く。
「お願いするよ。二人とも」
その言葉を受け、シンは改めてデスティニーを見上げた。
「まずは機体の感触を確かめてみて」と言われ、シンはデスティニーのコックピットに乗り込んだ。
レイは先に、ドラグーン用の量子信号登録が有るらしい。
インパルスと違い、全天周囲モニターが機体の全方位を囲んでいる。
操作系そのものに極端な違いはないが、スイッチの配置も表示される項目も、細部は別物だ。
「まずは、起動だけっと……」
主電源を入れる。
ブゥンという駆動音とともにコックピットへ光が灯った。
シンはフッと笑いを漏らした。
Gunnery
United
Nuclear-
Deuterion
Advanced
Maneuver
SYSTEM
G.U.N.D.A.M.
単語こそ異なるが、インパルス等と同じアクロニム。
(これだから、ガンダム?)
しかし地球連合系のOSも同じアクロニムだと言うし、わざわざ機体名にするというのは今更感があった。
だが再び画面が瞬くと、シンは思わず身を乗り出した。
「……なんだ、これ?」
表れた言葉の意味を頭の中で繰り返そうとした、その瞬間。
格納庫へ、ビーッという短い警報音が鳴り響いた。
『全搭乗員へ通達! 緊急事態発生! 各員、直ちに指定区画へ移動してください!』
機体の前のキラから叫び声が届く。
「シン、試験は中止! すぐに降りてきて!」
「了解!」
返事をしながら、シンはシステムを慌てて停止する。
なぜだか、先程の画面が目に焼き付いていた。
警報の内容は、L4の廃棄コロニー"メンデル"が、異常な軌道変化を見せたとのことだった。
しかし折悪く強烈な太陽風が地球圏を襲っており、月基地での光学観測とローカルでの分析には問題ないが、地球との通信が使い物にならない状況だった。
だからシン達がブリーフィングルームに呼び出されたのは、通信が回復して情報がまとまった2時間後のことだった。
再び
「結論から言おう。メンデルが地球へ落とされようとしている」
開口一番、バルトフェルドがズームされた光学画像を指し示した。
シリンダー型のコロニーを、いびつな突起が取り巻いている。
「こいつはフレアモーター。太陽風を推進力に変える特殊機材だ。何者かがこれをメンデルに設置し、ラグランジュポイントから押し出した」
「何者かって言っても、選択肢が無いだろ。……クルーゼだ」
ムウがため息を付きながら宙域図を見る。
ちょっと前まで月に居たファウンデーション王国残党が、この短時間で行動を起こすには、メンデルは遠すぎる。
火事場泥棒をするほど貧窮していたのだから尚更だ。
前回の会議直前、機密開示によってシンも知るところになった、パニッシュメントを手中に収めたテロリストにして、前大戦の
隣のレイがいくらか身じろぎする。
『現時点での軌道そのものは、地球の重力に引かれて接近こそするものの、衝突することはない。フレアモーターは、そう都合よく調整できるものではないからな。だが……』
L4と地球を宙域図に、赤い実線が引かれる。
そこに、
デブリ帯でメンデルと交差するその線は、地球に向かって引かれている。
『先ほど中立国同盟安全保障理事会から連絡が届いた。シンクタンクの分析に拠れば、最接近のタイミングでパニッシュメントが干渉すれば、地球への落下軌道に遷移する』
ホフマンはそこまで言って、言い淀むように咳払いをした。
『ゴホン。……コロニー1基ほどの質量が地球へ自由落下した場合の被害想定は、死者20億人以上。これは二次被害を除いて、とのことだ』
「……20億……?」
ラクスが呆然と目を見開く。
誰もが同じだった。
シンも、想像すらできない被害想定を前に、言葉を失うしかなかった。
20億という数字が、あまりにも大きすぎる。
想像すらできない、世界の一部が消失するという事実。
しかしホフマンは、事実は仕方がないとばかりに言葉を続ける。
『その場合の落着予想時刻は、軌道変化から起算して72時間ほど、今から70時間後だ。また、デブリ帯に到着し、軌道変化を行う最適タイミングは、今から50時間後。ここがタイムリミットになる。……後2日だ』
ゴクリと唾を飲み込む。
丸2日あると見るか、2日しか無いと見るか。
確かなことは、今すぐ月を飛び立っても、移動に1日はかかるということだ。
『軌道変化を察知した周辺のパトロール艦隊が、メンデルの直接監視を行おうと接近したが──消息を絶った』
ホフマンが、途切れ途切れに残された交戦記録を表示する。
乱れる映像に、幾つもの光点が交じる。
異なる方向から一斉に迫るMSの反応。
複数の編隊が艦隊の進路を塞ぎ、退路を断ち、包囲するように動いていた。
『記録から、メンデル周辺には相当数のMSが配備され、統制された防衛網を形成しているものと推定される』
「あの無人機か」
アスランが低い声で呟いた。
画像ではジンに見えるが、違う機影も見える。
機密開示されたジャッジメントか、それとも別の機体か。
「何れにしても、相手の準備は万端、ってことだな。……ずっと大人しかったのは、この準備のためか」
ヒルダが呆れたようにつぶやく。
重い沈黙の中、バルトフェルドが大きく息を吐く。
「これではっきりしたのは、少数部隊を順番に送り込んでも、防衛網を抜けられないということだ」
アスランが宙域図を睨んだまま頷く。
「月を先に叩いた目的も、やはり大勢力による飽和攻撃を成立させないためと考えるのが自然だな」
考え込んでいたディアッカが眉を吊り上げる。
「
カガリが頭に手を当てながら呻く。
「地球から打ち上げられる戦力を可能な限り集め、月と各ラグランジュポイントの部隊を糾合し、一斉にメンデルへ攻撃を掛ける。……それしかないだろう」
『……問題は、それだけではない』
ホフマンはそう言って、宙域図をクローズアップする。
『現在も地球には、パニッシュメントから射出されたと思われる質量弾が、射点を変えながら断続的に降り注いでいる。大半は小型だ。軌道防衛部隊の艦砲で事前に破砕しておけば、大気圏内で燃え尽きる。だが、迎撃艦隊をメンデルへ動かせば、それも難しくなる』
カナードが額へ手を当て、天を仰いだ。
「……
メンデルが落ちれば、地球は滅亡に匹敵する被害を受ける。
それを防ぐ可能性を少しでも高めるならば、使える戦力をすべてメンデルへ投入しなければならない。
一方でそうすれば、今も落下している質量弾への対処は手薄になる。
時間をずらして補うことも難しい。
艦隊の移動だけではなく、決戦へ向けた補給と整備にも時間が必要だ。
「大を防ぐために、小を見逃すのか。……軍について回る問題とは言え──なんとか助けたいのだけれど」
マリューが目を伏せ、胸の前で指を組む。
「それでも、選ぶしかありません。小官は、何よりもメンデルへの対処を優先すべきと考えます。落下を阻止できなければ、現在の質量弾とは比較にならない被害が発生します」
ナタルは地球へ伸びる軌道線を見つめたまま、淡々と口にした。
「だけどそれじゃあ、地球への被害は出る……! 少しでも良い、軌道防衛に戦力を残せませんか?」
キラがうめくように問いかけると、ラクスも小さく首を振った。
「一発ごとの被害が小さかったとしても、断続的に続けば、救助が滞り、被害が広がっていきます。座視するべきではありません」
『気持ちは理解する』
ホフマンが、苦々しく眉間へ皺を寄せた。
『だが、現実として戦力が足りない。月の部隊は、動ける艦を集めるだけでも時間が掛かる。地球から打ち上げられる艦艇にも限りがある。両方へ充分な戦力を割り振ることは不可能だ』
ムウがため息交じりに口を開く。
「俺だって、落ちてくる物を見ながら無視しろなんて言いたくはない。だが、メンデルを止める方へ半端な戦力を送るわけにはいかないんだ」
そして、つぶやくように続けた。
「……相手は、
キラの手が、さらに強く握られた。
ムウの言葉を最後に、会議室へ重苦しい沈黙が降りたが 、やがて再び小さな議論が始まった。
地球から出せる艦艇の数。
月で修復可能な艦の選別。
メンデルへの到着時間。
シンは、卓上に投影された青い地球を見つめた。
会議に参加こそさせてもらっているが、戦術的・戦略的な視点までは今のシンには把握しきれない。
参加者達にその気持ちがないのは分かっているが、なんだか蚊帳の外に置かれた様な気がした。
そしてそれが、堪らなく嫌だった。
(俺は、また──流されるだけなのか?)
ふと思った。
それは、自分だけの想いなのかと。
先ほど見た起動画面の文字列が、残像のように脳裏をよぎる。
「……あの」
声を出したが、議論に埋もれて誰にも届かなかった。
今度は腹に力を入れ、声を張り上げる。
「すみません!」
重なっていた声が止まり、会議室中の視線がシンへ集まった。
「シン?」
キラが不思議そうに名前を呼ぶ。
まとまらない考えのままに、それでも口を開いた。
「義勇兵を募るのは、どうですか?」
数秒の沈黙があった。
『義勇兵だと?』
ホフマンが聞き返す。
口にしてから、違ったかもしれないと思った。
だが、他に上手い言葉が見つからない。
「はい。軍じゃない人達にも、協力を頼めないでしょうか」
シンの言葉に、ヒルダが険しい目を向ける。
「素人を戦場へ入れるつもりか? 練度も分からない連中を前線へ放り込めば、敵と戦う前に味方同士で潰し合うことになるよ」
「……そうかも知れません。だけど、地球が滅ぶかも知れないって瀬戸際に、軍隊だけで何とかしようって。……なにか、違いませんか?」
冷や汗を感じながら、言葉を並べていく。
「戦えないからって、何もできないわけじゃないじゃないですか。現に今、月の復旧作業は民間の救助隊に引き継いでいる」
アスランが卓上の宙域図へ目を向ける。
「つまり、戦力そのものを増やすのではなく、軍が抱えている仕事を分けるということか」
シンが顔を向けると、アスランは地球へ向かう質量弾の予測軌道を拡大した。
「メンデルの防衛網を突破する正面戦力は、軍が担うしかない。だが、現在軍が担当している仕事のすべてに、戦艦や戦闘用MSが必要なわけではない」
質量弾は、すべてを火力で破壊する必要はない。
工作機械で破砕するのでも、牽引して軌道を変えるのでも良い。
バルトフェルドが顎を撫でた。
「……なるほどな。正規軍の数だけを数える必要はない、か」
カナードが片眉を上げた。
「その手の作業なら、ジャンク屋か。デブリ帯には連中の拠点がいくつもある。廃棄物の破砕や曳航なら本職だ」
その言葉に、シンは「そうです、そうです!」と勢いよく頷く。
そして再び口を開いた。
「メンデルが落ちれば、自分の住んでいる場所も、家族も、全部なくなるかもしれない」
まさしく絶望的な状況だ。
けれど今のままでは、ほとんどの人はそれに抗うこともできない。
「自分の知らないところで起きて、決まったことに巻き込まれて。何をすれば良いかも分からなくて。……結局、誰かに任せて、ゆだねて」
誰かに任せることが悪いわけではない。
自分にできないことまで、無理に抱える必要はない。
けれど。
「待っているだけは嫌だって。できることはやるんだって。……そんな人だって、居ると思うんです」
ステラ達は言っていた。
人任せにするのではなく、自分たちで選ぶのだと。
「でも、押しつけたくもないんです。できるからやれって命令されたって、やりたくないものはやりたくない。……その心も、否定したくない」
あの月夜に、キラの本当は戦いたくないという言葉を受け入れたように。
「……だから、募ると?」
ラクスの言葉が、沈黙の中に鈴のように響いた。
「はい。……やりたいって人が、素直に手を上げられるように」
誰もが、その言葉に考え込むようにうつむいた。
そして、カガリが口を開いた。
「どれほど応じるかは分からない。だが、呼びかけるだけならできる」
宙域図に浮かぶ無数の軌道施設を見渡す。
「オーブから、各国へ協力要請を出す。国家だけではない。宇宙関連企業や、民間の輸送組合にも回そう」
「プラントには、わたくしから呼びかけます。今のわたくしの言葉が、どれほど届くかは分かりません。ですが、それでも伝えるべきです」
ラクスが静かに続けた。
「ジャンク屋には、俺からも回しておこう。……あと、ひとつ」
カナードはそう言うと、牙を向くような笑みを見せた。
「どうせ民間に声をかけるなら──武装したジャンク屋、傭兵、軍需企業のテストチーム。こいつらを使わないのは勿体ない。指揮系統に組み込むのは難しいが、ピンポイントの戦力としては十分役に立つ」
「……彼らを金で雇い、戦いに駆り立てると?」
僅かに眉根を寄せたラクスに、カナードはカラカラと笑って答えた。
「おたくらは知らないかも知れないが。こういうときに放っておいても首を突っ込んできそうな奴らは、案外多い。雇われたって口実を準備してやるだけだ」
ナタルが引き絞るように眉根を寄せる。
「情報統制、指揮系統、担当宙域、退避経路。すべてが異なる民間相手に体制を構築するのは、非常に困難と考えます」
そう言ってから、ハァと深くため息を付く。
「……それでも、実施を検討する価値はあります」
「そうよ、ナタル。今は非常時よ。相応の覚悟を決めましょう」
苦笑しながらマリューがナタルの肩に手を添える。
ムウが小さく息を吐く。
「ま、どれだけ集まるかも分からない。下手をすれば、呼びかけたところで誰も来ないぞ」
「それでも、呼びかけないよりはいいです」
シンの即答に、ムウはその顔をしばらく見つめた後、僅かに口元を緩めた。
「ま、そうだな。来るか来ないかを決めるのは、そいつら自身だ」
アークエンジェル、ミネルバ、ミレニアム、オルテュギア改、そして無理やり月から抽出した数隻。
即席の艦隊は、義勇兵──というよりかは民間協力隊を募る通信を飛ばしつつ、メンデルの地球最接近ポイントを目指して移動を始めることになった。
レジェンドを受領したレイだったが、機体に習熟するには時間が足りない。
結果として、移動する艦隊に並走しながら、実機を用いた模擬戦をすることになった。
チームワークを優先して再び小隊を組むことになったルナマリアに、デスティニーとレジェンドの動きを学ばせる必要もあったからだ。
「レジェンドの特徴は何と言っても大量のドラグーンです。更に両手のロング・ドラグーンはビーム砲とマイクロミサイルポッドと大型ビームソードを兼用したかつてのミーティアの簡易版でありこちらも名前の通り量子通信で操ることができます。全武装の同時ドライブは適性に優れる貴方であっても脳に多大な負担がかかり推奨しません」
技術士官だというハインラインの言葉は、息継ぎの間すら無いもので、いくら発音がしっかりしていても聞きづらい。
それでも、レイはその内容を頭に入れて頷いた。
「……はい」
案内を受けて、ゆっくりと機体に足を向ける。
同じ
死んだと思っていた彼が生きていて、地球を滅ぼそうとしている。
現実感の無いその情報は、まだ咀嚼できていない。
けれど、地球が被害を受けるのは──ブルーコスモスのラボから助け出した子どもたちが傷つくのは、嫌だった。
(……だから、やるしか無い)
レジェンドの足元まで歩み寄ると、
先ずはデスティニーとインパルスが模擬戦を行うことになっていた。
当然ビームを演習出力に抑えた、コンピューターによるダメージ判定に依るものだ。
その間レイは、ドラグーンを動かして感触を確かめる。
「よおレイ! お互い新しい機体だ。しっかり身体に覚えさせようぜ!」
ニヤリとしながら親指を立てるシンに、「ああ」と短く返す。
そのまま機体に乗り込もうとして、ふと足を止めた。
「……なぁ、シン。先程の会議、何故あの様な提案をした──いや、できた? お前はあまり、言葉にするのは得意ではなかったと思うが」
素朴な問いに、「何だよそれ……」とシンがぼやく。
顎に手を当てて少し考えたシンが、口を開いた。
「ガンダムの起動メッセージ。……アレを見て、どういう意味なんだろって考えてたからかも。その分、するするって言葉にできたっていうか」
「ガンダムの、起動メッセージ?」
何の意味かわからず首を傾げるレイに、シンが取り繕うように言った。
「多分機体名の由来なんだけど。ちょっとした言葉が出るんだ。機体名を決めたのはプラントのデュランダル議長って言うから、その人が仕込んだのかも」
その言葉に目を見開くレイに、シンは「それじゃ、また後でな!」とコックピットに飛び上がっていく。
僅かな逡巡の後、レイもレジェンドのコックピットに飛び乗った。
開放感のある全天周囲モニターに囲まれて、ひと息吸い込んだ後。
レイは起動スイッチを押した。
ブゥンという駆動音とともにコックピットへ光が灯る。
Gunnery
United
Nuclear-
Deuterion
Advanced
Maneuver
SYSTEM
G.U.N.D.A.M.
カオスと大差ない画面にレイは眉根を寄せたが、画面は更に変わっていく。
G.U.N.D.A.M.の文字列が画面の中央に寄り、他の文字が掻き消える。
そして、こう表示された。
Guided Unity,
Never Deterred,
Advancing as Mankind.
"導かれた人々、不屈の意志、人類の前進”
「ギル……?」
思わず声が漏れる。
それは、答えなのか、祈りなのか。
ギルバートをよく知るレイにとっても、それはわからなかった。
次は12時間後の0時過ぎになります。
オリ機体
ED2LF-01A/TYPE:DETINY=ガンダム・デスティニー
パイロット:シン・アスカ
強襲突撃仕様。
基本的には原作デスティニーガンダム(ZGMF-X42S )と同様の仕様。
だたしED2LF-01A共通仕様との兼ね合いで、ビームシールドは左腕のみである。
また、背部装備は原作の後継機種想定。
・専用固定装備
両手:MMI-X340 パルマフィオキーナ 掌部ビーム砲
両肩:フラッシュエッジ2
バックパック(右):MMI-800 アスカロンビームソード
バックパック(左):M2004QX ネームレス高エネルギー長射程ビーム砲
ED2LF-01A/TYPE:LEGEND=ガンダム・レジェンド
パイロット:レイ・ザ・バレル
空間制圧仕様。
・ドラグーンの扱いに特化した機体である。
・
(前から見る分にはアクエリオンのソーラーウイング)
・ドラグーンホルダは背びれの様に背中に縦4列並んでおり、各列に5機の小型ドラグーが設置されている。
1撃1撃はこの時代の標準的なビームに劣るが、計20機の飽和攻撃が可能。
・専用固定装備
バックパック:GDU-A4X ファイアフライ 小型ドラグーン✕20
手持ち武器:カオスの機動兵装ポッドの後継であるGDU-A10 ロング・ドラグーン。マイクロミサイルポッドと高出力ビーム砲、大型ビームソードを内蔵し、名前の通りドラグーンとしても使用可能。かつてのミーティアの簡易版でも有る。