〈最終章突入〉SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
『
バルトフェルドの声が響いたが、実際のところアスランたちは既にMSに乗り込んでいた。
月での戦力抽出に4時間。
訓練と休息を並行しながら、移動に28時間。
デブリ帯外縁で、地球から五月雨式にやって来た艦隊と合流し、補給と再編成を行うのに8時間。
合わせて40時間──残るは、10時間だけだ。
コンディションレッド発令と同時に集結位置から発進し、メンデルとランデブーするのにおよそ2時間。
この間に妨害があったなら、キラ、アスラン、ハイネの3人が対応することになっていた。
なにより優先されるのはメンデルの破壊、そしてそのための
作戦に投入される戦力の、ほぼすべてを叩き込むためには、仮に妨害があったところでMSを出撃させるわけにはいかない。
時間の浪費にMSの喪失、だけでなく戦闘後の補給の時間すら惜しい。
だがガンダムであれば、長時間の戦闘にも耐えられる。
多少艦隊から引き離されたところで、
メンデルの攻略に、大駒である3機のガンダムを欠く影響は小さくないが、何十機ものMSを無傷で通すための布石と思えば致し方ない。
今回の作戦では、何よりも数が必要なのだ。
『彼ら、来るかな?』
キラのつぶやきに、アスランが通信越しに答えた。
「なんとも言えないな。今、奴らが何を望んでいるのかわからない」
話題になったのはファウンデーション王国残党のことだ。
『……クルーゼと敵対したところで、こちらに下ってくれればよかったんだけど』
キラの声には、いくらか残念そうな響きが混じっていた。
アスランは小さく首を振る。
「ムリだろうな。あいつらは余りにも傲慢過ぎる」
建国式典でマッチポンプのテロを引き起こした時点で、完全に見過ごすことはできない。
彼らの選民志向が明らかになったことで、民衆もそうそう許容することはなかっただろう。
それでも銃を置いて事情を話せば、少なくとも話し合う余地くらいはあったはずだ。
だが彼らは、最初から他人と肩を並べるという発想そのものを持っていない。
独力で問題を解決しようとして、ユニウスセブン落下を引き起こし、デュランダル議長を撃ち、月を襲撃した。
その彼らが、この状況で何を狙ってくるのか。
『もう始まるんだ。理屈は後でいいだろ? 俺らがやるのは、明日の朝日を持って行く、それだけでいいのさ』
キラに投げかけられたハイネの軽口も、間違っていない。
ことここに至っては、目の前の状況を一つずつ打破していくしか無い。
『MS隊に通達。艦長より指示がありました。念のため先行して出撃し、艦隊前方の警戒に当たってほしいとのことです』
それから、1時間ほど。
四十隻を超える艦隊は、予定軌道を崩すことなくメンデルとのランデブー地点へ向かっていた。
(何も起きないなら、それが一番良いが……)
アスランがレーダーマップを睨んでいると、突然アビーの鋭い声が響いた。
『右前方、高熱源体! 来ます!!』
「クソッ!!」
アスランはとっさにビームシールドを展開して射線を切ろうとしたが、大小40隻を越える艦隊のどこに飛んでくるかなど、分かるはずもない。
飛んできた砲撃は、ミネルバを襲うものだった。
とはいえ見る限り射程はギリギリ、ラミネート装甲が赤熱することもない。
(……
目を細めたアスランに、アビーの報告が届く。
『発射源を確認! 熱紋照合──奪取されたネルソン級です!!』
短く舌打ちをした後、共通回線で呼びかけた。
「……随分なご挨拶だな」
レーダーに、新たな反応が二つ。
ブラックナイトスコード・カルラ、そしてシヴァ。
『ふん』
共通回線から、オルフェの声が流れてきた。
『クルーゼの行動に乗るなど、腹立たしいことこの上ないが……この腐りきった世界を壊し、正すためには、メンデルを落とすというのも効率が良いのも事実だ』
機嫌の悪さを隠そうともしない言葉だったが、世界を壊すという言葉にアスランは眉根を寄せる。
「そのために、俺たちを邪魔しに来たというわけか」
『理解が早くて、助かる』
せせら笑うかのような声とともに、カルラが
そして、シヴァが爆発的な加速を見せつけながら飛び出してきた。
「ええい!」
ライフルを連射して押し留めようとするが、シヴァは装甲に任せて気にせず突っ込んでくる。
「相変わらず、無茶苦茶だな……!」
シヴァの
鍔迫り合いの格好で押さえ込まれ、僅かに戸惑う。
サーベルとシールドで押さえ合う経験はいくらでもあるが、武器同士で行うのは初めてのはずだった。
その合間にも、カパリとシヴァの胸部が開く。
「!!」
その武装は、一度目にしていた。
とっさにスラスターを吹かして機体を縦回転。
更に足で、蹴るというより押しのけるようにシヴァを突き放し、その正面から逃れた。
無数のニードルが虚空を引き裂いた。
しかし、
(カルラはッ?!)
周囲を見回すと、カルラが位置取りを変えていた。
「不味い……!」
機体を飛び込ませようとする、アスランより早く。
巨大な光の柱が戦場に飛び込んできた。
ゴクリとつばを飲み込む。
目立つ光の翼を閉じ、
全天周囲モニターに統合されたマルチロックオンシステムを、ただ一機の白いMSに合わせた。
電子音が響き、ロックオンカーソルが赤く変わる。
引き金を引くと同時、物理的な反動を殆ど生まないはずのビームが、機体を後ろに吹き飛ばそうとする。
ウイングバインダーが大きくしなり、負荷に耐えかねた関節が金色に輝く。
MSの全長の、更に倍もある光の柱が、カルラの姿を飲み込む。
それでも敵機はすぐさま逃れようと機体を動かしていく。
機体の手首をひねって向きを変え、光を押し当て続ける。
カメラの先では、これほどのビームですら薄紫の反応光を発するフェムテク装甲が防いでいる。
それでも限度はあるはずだったし、装甲が充分でない関節や武装なら、より早く音を上げるだろう。
(無力化さえしてしまえば……!)
そう願うキラの視界に、飛び込んできた
目を逸らすようにして、なおもトリガーを引き続けたが、ウイングバインダーがビームを受けて傾く。
「くそっ!!」
僅かにズレた光柱からカルラが逃れ、キラは悪態をついた。
読心があってもなお意識の外側にある、長距離からの狙撃。
かつてのクルーゼとの戦いで契機となったトールの一撃の模倣であったが、そううまくはいかないようだった。
諦めて光の翼を最大展開。
「ごめん、遅くなった!」
『キラ!』『かまわねぇ、よ!』
見れば、ハイネのイグナイテッドも駆けつけていたようだった。
ジャスティスはシヴァが次々と繰り出す刃を必死に躱し、イグナイテッドはカルラにあしらわれながらも食らいついている。
──だが、いささかイグナイテッドの分が悪い。
『……チィ!!』
オルフェの舌打ちが通信に乗る。
今まさにイグナイテッドに斬りかかろうとしていたカルラがシールドを展開して防ぎ、『助かったぜ!』と言いながらハイネが体勢を立て直す。
『……これで、数の上ではこちらが上だな?』
アスランの皮肉げな言葉に、オルフェが鼻を鳴らす。
『フン、月でのことを忘れたと見える。……そうでなくとも、此方の手は未だある』
ミレニアムから悲鳴が飛んできた。
『ネルソン級接近中! 更にMSが発進しています!』
レーダーマップに機影が増えると、アスランが叫びを上げた。
『MSは……
現れた六機ほどの機体から
どうやら奪ったMSを、無人化でもして運用しているらしい。
あるいはフラッシュシステムか。
ネルソン級もまた主砲を何度も撃ってきた。
(旧式とはいえ、ランチャーダガーの火力は脅威だ。……すぐに落とさないと!!)
キラは再び両手のライフルを構えたが、ようやく追いついてきた
『シュラ、コイツラの足を止めるぞ。……剣と言うならば、持ち主に従え』
オルフェが言い放つと、シヴァは軽く肩をすくめるような動きを見せる。
──そして、真正面からフリーダムに突っ込んできた。
『どうした、俺じゃないのか?!』
アスランの罵るような言葉を他所に、なおもシヴァは動きを止めない。
「く……!」
くるりとロールして突き出されたヒートサーベルを躱す。
そこからシヴァの背後に回ってライフルを構え──ようとしたとこでシヴァから飛んできた光芒に慌てて飛び退く。
「わざわざ増設したのか?!」
これまでは、シヴァの遠距離装備はニードルぐらいのはずだが、奪った資材で追加したのだろう。
シヴァの肩に、アグニが回転砲塔となって増設されているのが見えた。
『勝たねば意味がない……よくよく身にしみている』
冷えた言葉に舌打ちで返し、なおも撃たれるビームを躱していく。
その間にも、ランチャーダガーは艦隊へ砲撃を続けていた。
アスランが一機へ向かおうとするが、その進路を
ハイネが別の一機を狙えば、シヴァが横合いから飛び込んでくる。
その隙に、残ったダガーがまた艦隊へ撃つ。
(……そういうことか!)
誰か一人を狙えば、別の誰かが邪魔をする。
シュラがこちらの隊形を崩し、
そしてカルラ自身も、三機の相手だけに専念してはいない。
(敵は最初から、ムリにこちらを倒そうとしていない……!)
踏み込むリスクを負わずに艦隊だけを削っていく、合理的な判断。
「これならどうだ!」
フリーダムから4機のドラグーンを射出。
シヴァに牽制をかけながら、フリーダムはカルラの背を追う。
『……フン』
しかしシヴァはそれがどうした、とばかりに再び突っ込んでくる。
ドラグーンで関節を狙うが、シヴァはわずかに身じろぎして狙いを外し、フェムテク装甲で弾いていく。
「こんな……?!」
振るわれたサーベルをビームシールドで受けると、シヴァがスラスターを全開にして押し込んでくる。
光の翼を瞬かせて抗うと、イグナイテッドが腕を振りかぶりながら突っ込んできた。
『脚を止めるだなんて、愚の骨頂だぜ!!』
勢いをつけて振り出された右手首から、スレイヤーウィップが伸びる。
それがシヴァの手首に向かうが、シヴァのヒートサーベルで鞭を切り裂こうとする。
ハイネが慌てて巻き戻すと同時、キラも必死に間合いを整える。
「このままじゃ、艦隊が……?!」
カルラとそれに付き従うランチャーダガーは、艦隊に次々とビームを浴びせていく。
今はアスランがヒットアンドアウェイを繰り返して意識を引きつけ、決定打こそ防いでいるが──今味方のネルソン級が一つ、爆煙を上げた。
キラは歯を食いしばる。
(なんとか、こちらに気を引かないと……!)
3機でまともに立ち向かうのも難しいが、先ずは艦隊の被害を抑えて先行させることが優先だ。
そうでなければ、地球が滅ぶ。
──頭の中で、何かが弾けた。
シヴァの攻撃を必死に躱しながらも、ランチャーダガーをロックオン。
そして
両手のライフルに
しかしそれも、引き金を引くと同時にランチャーダガーが一気に散開したことで躱される。
「クソッ! どうすれば?!」
あまりにも速い回避行動は、どうせまた読心によるものだろう。
キラにもアタリはつくが、対処方法が見当たらない。
クリアになった視界の先で、シヴァがジャスティスに突っ込んでいき、すれ違いざまに蹴りをぶつけ合っている。
ハイネは両腕のビーム砲で弾幕を形成し、ランチャーダガーの足を止めたが、飛んできた
キラは機体をグルグルとロールさせながら、胸部のビーム砲をカルラに。
避けたところに両手のライフルを放つが、これもシールドに弾かれてしまう。
MSの後ろをついてきたネルソン級が、なおも主砲を撃ち続ける。
アークエンジェルが隙間を這い出るように前に出てきて、僚艦の盾になる。
放たれたローエングリンがネルソン級の腹を抉った。
思わず快哉の声を上げそうになるが、逆にランチャーダガーの集中砲撃を受け、白い巨体が徐々に赤熱していく。
「このままじゃ、アークエンジェルが?!」
悲鳴を上げながらも意識を集中する。
(少しでも良い、彼らの動きに隙があれば……!!)
敵は見事に連携して互いの穴を埋め合っている。
ならば、無理やりにでも隙を作るしか無い。
同じ事を考えたのだろう。
アスランが声を上げた。
『身内を殺したクルーゼの計画に乗って、随分と楽しそうじゃないか! 自分たちだけでは、何もできないのか?』
侮蔑を込めた声に、オルフェの舌打ちが返ってきた。
それでも紡がれた言葉は、余裕を滲ませたものだった。
『ふん、使えるものがあれば使う、それが王の器というものだ。……なんなら貴様も我が軍門に降るか? スーパーコーディネイター、アスラン・キラ・ヒビキ』
『誰が!!』
アスランの怒声が通信に響く。
ジャスティスから
キラも援護射撃をするが、カルラの連射してきたライフルにあわてて飛びのく。
そのカルラにハイネが
シヴァもまたシールドを掲げてジャスティスに体当たり。
お互いに弾き飛ばされていた。
(だめだ、何を言っても……!)
オルフェは不愉快さを隠そうともしない。
それでも自分の方が上だと思っており、アスランの挑発すら劣った人間が吠えているだけだと切り捨てている。
飛んできた
両手のライフルでカルラとシヴァを同時に狙って放つが、どちらもひらりと避けられた。
此方の抵抗は十分な効果を発揮しているが、艦隊への攻撃を優先するオルフェを心変わりさせるほどでもない。
そしてアコード相手に、考えた時点で攻撃は読まれる。
(……だったら、攻めるべきは心だ)
キラ、アスラン、ハイネの通信ウインドウは開いたままだ。
アスランも共通回線でオルフェたちと繋いだまま。
そして今、キラもまた共通回線に繋いだ。
『そういえば……君たちはずっと、勘違いしていたんだったね』
突然共通回線に割り込んできた声に、オルフェは眉をひそめた。
(キラ・ヤマト……!)
ラクスの付属物であり、以前は英雄と呼ばれていた男。
カルラとランチャーダガーは、艦隊へ攻撃を続けている。
この三機の存在は目障りではあるが、今のところは対処できる程度でしかない。
このまま艦隊へ損害を与え続ければ良い。
メンデルへの到達を遅らせ、飽和攻撃に必要な戦力を削る。
敵の三機を撃破する必要すらない、こちらが勝つための合理的な戦いだ。
とくに前大戦の英雄艦として名高いアークエンジェルを落とせば、相手の士気にも問題が出るだろう。
『ユーレン・ヒビキの息子。スーパーコーディネイターとして生まれた、キラ・ヒビキ──それは僕だよ』
続けられた言葉に、オルフェの指が、ピクリと操縦桿の上で震えた。
「……何?」
それはアスラン・キラ・ヒビキの存在によって否定されたはずだったが。
『アスランが、敵を釣るのにちょうどいいからって
『おい、俺は正真正銘アスラン・キラ・ヒビキだぞ? ……ほんの数年前からではあるが』
嘲笑を織り交ぜたやり取りに、オルフェの喉に熱いものが込み上げた。
今、心を読んでみれば分かる。
ブルーコスモス残党を刺激するために、
それに自分たちは、まんまと騙されていたのだと。
『……バカな?!!!』
最初に騙され、そうとも気付かずオルフェ達の
ギリ、とオルフェの歯が軋んだ。
ヒビキの研究を超えるべく生み出されたアコードが、肝心の比較対象すら見誤っていた。
しかも、その誤認を当人たちに利用され続けていたというのだ。
「……それが、どうしたというのだ」
かすれそうな声を奮い立て、思念では混乱しているシュラに檄を飛ばす。
まだ戦況は変わっていない。
目の前の男が誰であろうと、オルフェ達の優位まで覆ったわけではない。
切りかかってくる
「僕は
「……ッ!」
僅かにずれた照準を、すぐさま修正する。
しかしアークエンジェルが不自然なまでに器用な動きを見せて躱すと、熱線は主翼の一部を焦がすに留まった。
(……この男が)
自分へ与えられるはずだった伴侶を奪い、最初に運命を狂わせた男。
その男がヒビキの最高傑作だった。
まるで、アウラの研究も、オルフェへ与えられた運命も、全てまとめてヒビキの成果に踏みにじられたような。
「オルフェ、挑発よ。……艦隊への攻撃を続けるべきだわ」
後部座席から、心配げなイングリッドの声が届いた。
「分かっている!」
思いのほか強い声が出た。
だがイングリッドは何も返さず、ランチャーダガーへ指示を送り続ける。
六機の砲口が再び艦隊へ揃い、アグニの光が放たれた。
彼女の言う通りだ。
その程度のことは分かっている。
こんな安い挑発に乗るほど、自分は愚かではない。
「それでも、僕とラクスの結論としては……アコードって、そんなに大したものじゃないよね」
『……なんだと?』
今度こそ、カルラの照準が大きく揺れた。
回避運動を取るアークエンジェルにはカスリもしない。
負け惜しみならば笑い飛ばせる。
自分より優れた存在を前にして、認めることができず強がっているだけならば、憐れんでやることもできた。
だが、伝わってくる思念に虚偽はない。
『貴様……!』
唸るように声を上げる。
キラはアコードの能力を知っている。
身体能力も、反応速度も、心を操る力も、自分より上回るものがあると理解している。
その上で、それが無意味なものであると確信している。
『現に二対一とはいえ、シヴァのパイロットはアスランとハイネ──
『黙れぇッ!!』
シュラの怒声が通信を震わせた。
シヴァがジャスティスへ斬りかかる。
荒々しく振り下ろされたヒートソードをアスランが受け流し、その横からイグナイテッドの斬艦刀が迫った。
シュラは機体を翻して避けたが、二機を振り切るには至らない。
『別に馬鹿にしているわけじゃないよ? 僕だって、あの二人を同時に相手にしたら勝てないと思うから』
飄々とした声に、オルフェの中で怒りが湧き上がる。
『弱者である貴様と、我々を同列に語るな!』
放たれたビームを、
『最高のコーディネイターも、アコードも。その程度の存在だよ』
自明なことを論ずるだけ、とばかりに力も込めずに断定する言葉。
アコードは人を超えた優良種だ。
優れた能力を持つからこそ、愚かな人類を導く資格と使命がある。
自分たちはそのために作られ、世界の頂点へ立つことを運命づけられている。
アウラにそう教えられた。
だが世界は自分たちを拒んだ。
ラクスにも、デュランダルにも否定された。
そして今、ヒビキの成果にしてラクスに選ばれた男が。
『我々は違う! 貴様のような出来損ないとは違うのだ!』
そのうち幾つかは、つい先ほどまで艦隊を追っていたものだった。
しかし
『……だったら、試してみれば?』
(……挑発だ! こんなものは!!)
こちらの意識を艦隊から引き離し、自分の機体へ集中させる。
そして引き受けている間に、艦隊をメンデルへ向かわせるつもりなのだ。
見え透いた時間稼ぎ、見え透いた挑発。
分かっていてもあふれる怒りに、食いしばった歯がギリギリと震える。
ここで無視をすればいい。
優位を保ったまま艦隊への攻撃を続ければ、メンデルへの攻撃は遠からず失敗する。
そして
(……それでも!!)
ここでその挑発を背に受けることは、とてもできそうになかった。
「……イングリッド」
オルフェは前を向いたまま、その名を呼んだ。
わずかな沈黙が下りる。
やがて、後部座席から小さく息を吐く音が聞こえた。
「分かったわ」
ランチャーダガーの動きが変わった。
艦隊へ向いていた六機が一斉に反転し、
その中央では、シュラが吠えながらアスラン・キラ・ヒビキと名乗っていた男の
「……貴方は、貴方の思うがままに」
オルフェは大きく頷く。
いつだってイングリッドは、オルフェの味方だ。
オルフェは操縦桿を握り直し、カルラをフリーダムへ正対させた。
「よかろう、キラ・ヒビキ!! ──貴様が何者であろうと、我々アコードの前では劣等種に過ぎないと、証明してやる!」
艦隊は、もう目に入っていなかった。
「フゥー……。流石に息が詰まるな」
トールはポツリとぼやく。
襲いかかっていたファウンデーション王国の機体を、キラ達が足止めとなることで封じた。
艦隊は
戦闘管制に拠れば、キラたちはゆっくりと此方の後ろを追ってメンデルに近づいてきているらしい。
ただしそれは、敵機を倒したからというわけではなく、抵抗しながらも徐々に押し込まれていく形。
トールも通信で聞いたキラの挑発は、一定の効果を発揮したらしく、艦隊はある程度の距離を取ることに成功した。
しかし徐々に相手も落ち着きを取り戻したらしく、キラたちの相手をしながらもメンデルに近づいて来ている。
(……結局奴らには、それぐらいには余裕があるってことだろうな)
ここにファウンデーション王国残党がやってくれば、余計に戦線は混乱して
たった三人で、少しでも敵の足を鈍らせようとしているキラたちのことも心配だった。
それでも
(……実際、人の心配をするほどの余裕もないしな)
ひたすらに前を向いてエクリプスを飛ばす。
とは言えカタパルトの加速を生かし、スラスターを殆ど吹かないサイレントランだ。
進路調整さえしてしまえば、他に何かを調整するわけでもない。
というのに、額には冷や汗が滲む。
『……隊長。バッテリー、持ちますかね?』
ヴァレンティーナの不安げな一言に首を振った。
「
トール達の小隊は、いつも使っている
そしてミラージュコロイドステルスを展開し、敵も味方も置き去りにしてメンデルに接近している。
「むしろ問題は、クルーゼの空間認識だ。普通ならドラグーンの使い手でも、スラスターを吹いていなければステルスを見破ることは相当困難なはずだが……」
ミラージュコロイドステルスは、光学でもレーダーにも映らない。
外に残る痕跡、宇宙で言えばスラスターが吹き出した熱や粒子で掴むしか無い。
そのハズでは有るが、不安は拭えなかった。
『隊長は、クルーゼと相まみえたことが有ると聞いていますが』
ケンの質問にため息を漏らす。
「真正面からやり合ったことは一度もない。ヤキン・ドゥーエでも、俺は一度遠距離から狙撃しただけだ。……奴が本当にヤバくなったのは、その後からだと聞いているしな」
それきり口をつぐむ。
誰も言葉を発することがなく時間だけが過ぎる。
モニタに映るメンデルの姿が、徐々に大きくなっていく。
(目標射程まで……あと100)
じっと画面を見つめていると──何かが、弾けた。
「ッ、各機散開!!」
飛来物の気配を感じて、慌てて指示を出す。
何も言わずに従ったヴァレンティーナとケンの間を、ドラグーンのビームが撃ち貫いた。
カメラに黒い機影が映る。
(あれが……!)
デュランダル議長がファウンデーション王国残党から聞き出したという、
トールは舌打ちして再び指示を出した。
「各機、フェイズシフト起動!
ジャッジメントから放たれるビームマシンガンを躱しながら、メンデルに向けて一気に加速。
初速を乗せて2発のMk5核弾頭ミサイルを吐き出した。
そしてミサイルを狙おうというジャッジメントの攻撃を、ビームシールドを掲げて必死に遮断する。
ヴァレンティーナもケンも同様だ。
──しかし、メンデルから飛来したジンの改修機らしき機体が、次々と体当たりでミサイルに突っ込む。
宇宙に6つの白い光が咲いた。
トールは深くため息を吐いた。
「はぁー……仕方ないな。まぁ良い、敵にこういう脅威もあると思わせれば充分だ。……また次がある、尻をまくって逃げるぞ!!」
軌道災害への対処強化のため、山程準備されていたNJCと核ミサイル。
その威力を見せつけたことは、結果的にクルーゼの
なにせ一発当たればそこで終わりなのだから、クルーゼ側も完全な防衛網を築くことに留意せざるを得ない。
戦いは、始まったばかりだ。
大変申し訳ないですが筆が止まりました。
後3、4話なんですが…。
できたらまた投稿します。