とあるTRPG探索者達が行くfor BlueArchive 作:矢守龍
合宿所
ヒフミ「はぁ、ふぅ……!な、何とか、戻って来る事が出来ましたね……!」
ハナコ「えぇ……」
室内へと戻ってきた補習授業部は、全員が疲労感を滲ませて深い息を吐き出した。アビドスに行くまでに使った車がカイザーによって破壊されていたが、ホシノ達の手助けによりなんとか帰ることが出来た
"今度、ホシノにはお礼言わないと……"
カケル「あぁ、借りができちまったな……イテテ……」
ハナコ「アズサちゃんは念の為、引き続き周囲の警戒をお願いします」
カケル「……分かった」
合宿所へと戻って来たにも関わらずハナコは張り詰めた空気を放ったまま、そう告げる。アズサは頷き、愛銃を構えながら合宿所入り口に立った
ヒフミ「け、警戒って、ハナコちゃん、此処はトリニティの合宿所で――」
ハナコ「――申し訳ありませんが」
そんな困惑するヒフミの声を掻き消すように、ハナコは強い口調で断じた
ハナコ「あの様な手段を用いて来た時点で、私はこの合宿所ですら安全ではないと考えています――元々此処は、ティーパーティーの用意した場所ですから」
ヒフミ「それは……そうですけれど」
カケル「ハナコの言う通りだ……トリニティ内でやって来る事は少ないとは思うが、ゼロとは言えない」
アズサ「ヒフミ、カケルさんの云う通りだ。此処はもう、無条件で安心できる場所じゃない」
ヒフミ「っ……」
今日の朝まで、皆が安心して暮らせる暖かい寮であったが、今やそんな雰囲気ではなく、冷たく、まるで監獄のような状況
コハル「ね、ねぇ…それよりも―本当に……本当にティーパーティーの偉い人たちが私達を退学させようとしているのなら、もうどうしようもないんじゃ……? 知恵を寄せ合ったところで、何をしたって、そんなの、もう……」
ハナコ「一応、一週間後の第三次特別学力試験が私達の最後のチャンスとなりますが……」
"あんな手を使ってくる事を考えると、とてもマトモに試験を受けさせてくれるとは思えないね"
どんな手を使ってでも補修授業部を退学へと持っていく、例えどんな犠牲を払ってでも……ティーパーティーは、ナギサは、その覚悟を決めている……
そんな相手が真っ当に、ちゃんと試験を受けさせてくれるだろうか?
いや、必ず妨害してくるだろう……
我慢ならなくなったコハルが、遂に声を上げた
コハル「そっ、そもそも!どうしてこんな事になっているの!?何で、退学にならなくちゃいけない訳……!?それにカケルさんが攻撃されるなんて、おかしいじゃない!!」
「トリニティの裏切り者とか、意味わかんない……!私達、疑われるような事なんて何もしていないのに!それに、それにさ、私達だけならまだ良いよ!?だって、痛いだけで済むもん……!でも、カケルさんは下手をしたら死んじゃう所だったのよ!?いくら先生がとんでもなく強くて、死ななかったとしても……後遺症とか、ありえるでしょ?――賢い人なのに、そんなこともわからないの!?」
そう言って泣き叫ぶように声を荒げ、歯を食い縛るコハル、理不尽な力によって自分達の努力が無駄になり、自身の大切な仲間達が傷付く……そんなことが許せなかったのだ
コハル「何なの、何で、こんな……っ!た、退学になったら、正義実現委員会にも戻れなくなっちゃう…わ、わたし達、なにも、こんな、こんな事される様な事なんて、何も……うぅ……っ!」
アズサ「……立場を考えると、この事を抗議しても暖簾に腕押しだろう」
ハナコ「えぇ、恐らくは――真面に取り合って貰えるとは思えません」
"なら、正攻法で試験を突破するしかないね……"
ヒフミ「しかし正攻法で、九十点以上を取れるようになんて可能なのでしょうか?しかも試験範囲は三倍で、一週間以内に――」
ハナコ「……時間も手も足りない…ですね」
コハル「ぐずっ……!無理、絶対無理よ……せっかくここまで頑張ったのに、これ以上なんて……!」
コハルは絶望し、泣き続ける。尊敬する先輩の応援に応えるため、自分に頑張って勉強を教えてくれる仲間たちのため、コハルはずっと頑張ってきた。
苦手なことに向き合い続け、血の滲むような努力をし、絶対に諦めない、やめないと心に決めてきた……だが今回の件と、退学という言葉を聞き、心が折れてしまった……
カケル「コハル……」
コハル「カケルさん?」
カケルは優しい口調で話しかけ……
カケル「いい事を教えてやる……頑張れとは俺は言わないが……」
「諦めたら、一緒に頑張ってきた友を裏切る事になるぞ」
コハル「で、でも……」
カケル「心配すんな、お前には頼もしい友人がいるんだから」
カケルの一言で、全員の凍りついた空気が一気に柔らかくなった……
ヒフミ「そうですよ!まだ終わっていません!」
アズサ「あぁ、まだ試験は一回残ってる」
ハナコ「まだ、挽回できるチャンスはありますよ」
コハル「そ、そうだよね……」
"うん、カケルさんが言うならそうだよ……私はアビドスやミレニアムでいろんな子たちを見てきたから分かるよ"
"信じていけば、奇跡は起きるんだから"
先生がそう言いうとコハルは目元を拭くと……
コハル「そうだよね、もう一回試験は残ってるもの!」
それを聞いた全員が笑顔になる……
"今日はもう休もうか、みんなもう疲れてるし――うん、明日はちょっと遅めに授業を始めよう"
コハル「……ずびっ、う、うん」
カケル「あぁ、全員ゆっくり休もうな」
その後、それぞれが疲労を回復させる為にゆっくり休みその日は終えた……
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次の日から、全員が必死になって勉強をしていた………
模擬試験の平均点が大幅に上がっており、平均点87、89、91と上がっていった
1日、また1日と、時間が流れていき…ついに、第二次特別学力試験から六日後の夜を迎えた補修授業部一同……
ヒフミ「……ついに明日、ですね」
ハナコ「はい……」
アズサ「………」
第二次特別学力試験で起きたあの事件から、この一週間彼女達は出来得る限りの事はして来ており、食事、睡眠、トイレなど、それ以外の時間はすべて勉強に費やして来たと言って良いほど、彼女達は頑張ってきた
コハル「ま、まさか、また急に色々変わったりしないよね?」
ヒフミ「はい、今のところは……おそらく」
ハナコ「そうですね、試験範囲は以前の通り、合格ラインも変わらず九十点以上、場所はトリニティ第十九分館、第三十二教室、本館からは離れていますが、そこまで遠くはありません」
ハナコ「時間は、午前九時から………むしろ気になる点と云えば、昨日から本館が不自然な位静かな事です、人気がピタッと無くなってしまったようで」
"それは不気味だね……"
そう呟き、ヒフミは目を伏せる。校舎から離れているこの寮では、トリニティ全体の動きを掴むことが出来ない。ここは完全に孤立している
ハナコ「……念の為、今晩も私の方で掲示板をずっと見ておきます」
ヒフミ「は、ハナコちゃんも寝た方が……」
ハナコ「ふふっ、私は大丈夫です……私にはこれくらいしか出来ませんし……」
ヒフミ「そ、そんな事ありません! ハナコちゃんが凄く丁寧に勉強を教えてくれたおかげで、私もアズサちゃんもコハルちゃんも、すっごく成績が上がって……!」
ハナコ「それは、皆さんが頑張ったからですよ……」
そんな会話をしているとヒフミがとあることを言う
ヒフミ「後は明日の試験……ボーダーは九十点、正直、かなり厳しいと言わざるを得ませんが、問題が簡単だったら、きっと……!」
コハル「っ、そ、そんな都合の良い事が起きる訳ない! 私はまだまだ深夜まで勉強するから!これを使って」
と、コハルが取したものを……
カケル「はい、ぼっしゅー」
コハル「えぇ!?」
ヒフミ「コハルちゃん、気持ちは分かりますが、今日はもう明日に備えてゆっくり休んだ方が……」
ハナコ「そうですよ、コハルちゃんが頑張ったのは皆知っています、大丈夫です、きっと合格出来ます」
コハル「う、うぅ……っ!」
アズサ「それに休むのも戦略の内だ、コハル」
ハナコ「えぇ――そしてそれは、アズサちゃんも同じですよ?」
アズサ「……うん、今日くらいはゆっくり休もうと思う」
カケル「俺からしたら、毎日しっかり寝てほしかったがな……毎日トラップの撤去大変なんだよ……」
カケルがそう言い、場が笑いに包まれる……
明日、全てが決まる。その緊張感からかコハルは不安で不安で仕方なかった、しかしここで徹夜をして、明日の試験に支障をきたしてしまったら……それこそ全て終わり
ヒフミ「――いよいよ明日、私達の運命が決まるんですね……」
アズサ「もし――いや、縁起の悪い事は言わないでおこう、必ず合格してみせる」
コハル「すびっ……! わ、私も……! 絶対に負けない、負けてなんて、やらないんだからっ!」
"うん、私がついてるからみんな頑張って!"
カケル「あぁ、自身と仲間を信じていけ」
ハナコ「そうですね、その意気です、コハルちゃん――泣いても笑ってもあと一回……全力を尽くしましょう」
やれる事は全てやった、後は自分と仲間を信じて試験を受けるだけだ。
皆がそう決意を表している中、一人
アズサ「…………………………」
カケル(……何か、あるな)
アズサだけは、何やら曇っている顔をしていたのをカケルは見逃さなかった……
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カケルは皆と解散した後、アズサの後をつけていた……
ある程度まで行くと、アズサは誰かと会っていた……
カケル(ここからじゃ聞こえないな…ならこいつで)
カケルはヘッドホンを付け、メガホンみたいなものをアズサのいる方向に向け、耳を済ませてよく聞いた……
カケルがやろうとしているのは
「――アズサ、日程が変わった」
アズサ「………?」
カケル(アズサに誰か連絡いるのか!?)
カケルはその事に驚きつつも会話を聞く……
「明日の午前中だ、約束の場所で命令を待て」
アズサ「――は」
カケル(なるほど、何かやるつもりだったんだな……)
アズサ「ま、待ってサオリ、明日は……」
「何か問題が?」
カケル(サオリ?それがリーダーか?)
アズサ「……まだ準備が出来ていない、計画よりも日程を早めるのは、リスクが大きすぎる」
「お前の言葉にも、一理ある、計画を前倒しにするリスクは確かに少なくない」
アズサ「な、なら……!」
「――だが、明日の決行は既に確定事項だ、計画を前倒しにするリスクよりも、この機を逃すデメリットの方が大きいと判断した、準備が出来ていないのならば出来ている範囲で構わない……最低限、動ける準備はしておけ」
アズサ「………っ」
「明日になれば全てが変わる、私達アリウスにも、このトリニティにも、不可逆の大きな変化が起きる事になる」
「トリニティのティーパーティー、そのホスト――桐藤ナギサのヘイローを破壊する……その為にお前は此処に居るんだ」
アズサ「……………っ」
カケル「…ッ!」
カケルはそれを聞き、驚く……明日、桐藤ナギサを殺すという内容を聞いてしまった……
アズサ「……分かっている」
だが、カケルはそれだけじゃない……
「あぁ、お前の実力は信頼しているよ、上手くやれ――百合園セイアと同じ様にな」
アズサ「――了解」
そう、リュウから教えてもらった百合園セイアの死についてもアズサはかかわっていたのだ……
カケル(とりあえず俺は一回引こう……)
カケルはヘッドホンを外し、バレないようにコッソリとたちさっていった……
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部屋に戻ったカケルは寝れずにいた……
カケル(アズサが裏切り者なのは早い段階でわかっていた……だが、他にも黒幕がいたのは予想外だった……さて、これからどうすれば……)
そんな事を考えながら、机の上にあるココアを一口飲むと……
ヒフミ「こ、こんばんは先生……まだ、起きていらっしゃいましたか?」
カケル「ヒフミに……ハナコやコハルに先生まで、どうした?」
ハナコ「ふふっ、私も来ちゃいました♡」
アズサ「ヒフミ、何しているの……?」
コハル「ふ、二人とも…」
全員が夜中にカケルの部屋に訪れ、カケルは思わず聞いてしまう…
ヒフミ「わ、私はその……緊張で…」
コハル「私は部屋に誰もいないから、気になって付いてきたの」
と、二人は言う中ハナコが口を開く……
ハナコ「……実は先程、シスターフッドの方々と少し会って来たんです、色々と調べたい事がありまして……」
カケル「調べたい事?」
ハナコ「はい、明日、私達が試験を受ける予定の第十九分館についてなのですが……」
コハル「まさかまた変更?」
ハナコ「いえ…場所は変わっておりませんが――」
ハナコはどこか言い辛そうに言葉を続けた
ハナコ「この後、第十九分館には大規模な正義実現委員会の派遣が決定されていて、建物全体を隔離するとの事でした」
コハル「か、隔離!?」
ヒフミ「しかも正義実現委員会……が?」
ハナコ「はい、エデン条約に必要な重要書類を保護する――という名目でティーパーティーから要請があり、建物全体を正義実現委員会として守る厳戒態勢に入ったとか」
コハル「な、なにそれ……」
ハナコ「それから、どうやら本館の方にも戒厳令が出ている様です、昨日から妙に静かだったのは、このせいみたいですね」
ヒフミ「か、戒厳令……? そんなの、初めて聞きました……」
ハナコ「恐らく、誰一人あの建物への出入りは許されません――エデン条約が締結されるまで、ずっと」
カケル「試験を受けたいなら、正義実現委員会を敵に回わせという事か……」
コハル「そ、そんな……!わ、私がハスミ先輩に事情を説明して……!」
ハナコ「……いや、それはやめた方が良いでしょう、ナギサさんはハスミさんに裏側の理由を知らせていないでしょうし……」
ハナコ「それにハスミさんが私達を助ければ、それはティーパーティーに対する明確な離反行為と取られかねない、その場合、ハスミさんも正義実現委員会を追放されてしまう可能性があります」
コハル「なっ、う、ぁ――うぅ……そ、そんな……!」
ハナコ「全く――第二次特別学力試験の時も思いましたが、どうやらナギサさんは、本気で私達を退学させようとしているようですね」
コハル「ど、どうして、そこまで……」
カケル「……」
平和のため、自ら選んだ夢のため、大義のため、もうナギサは止まらなかった。たとえこの方法が、ナギサの目指す平和とかけ離れてしまっても……関係ない、ただ……全てはエデンのために……
「――私のせいだ」
不意に声が響く……
補習授業部は、声の響いた方向へと顔を向ける。アズサが、いつの間にか部屋に入ってきていた……
ヒフミ「あ、アズサちゃん! どこに行っていたんですか……!?」
ヒフミがそう言う中、カケルがとある事を聞く……
カケル「アズサ、何か言いたいことがあるんだろう……皆に隠していることを……」
アズサ「……カケルさんの言う通りだ、皆、先生も、聞いて欲しい――話したい事が、あるんだ」
ヒフミ「アズサちゃん……?」
コハル「アズサ、ど、どうしたの……? 具合でも、悪いの?」
アズサは愛銃を持っている手が震えていて、顔色も完全に悪くなっていた。ヒフミとコハル心配になり、ハナコは近づき、アズサの目線に合わせてしゃがむ……
ハナコ「アズサちゃん、何があったか……話してくれない?」
アズサ『――ずっと、隠していた事があった』
「わ……――わたし、は……」
アズサは声を震わせながら言う……
「ティーパーティーの、ナギサが探している、トリニティの裏切者は……」
「私なんだ……」