とあるTRPG探索者達が行くfor BlueArchive 作:矢守龍
ナギサ「ふぅ……」
ナギサは薄暗い部屋で、ティーテーブルに備え付けた椅子へ腰掛け、紅茶を飲み下していた
場所は本校舎より少しに離れた位置にある特別棟であり、ティーパーティーのみが知る緊急避難用のセーフハウス。そして、ここに入れるのは選ばれた者のみ……
ナギサ「もう、こんな時間ですか……」
テーブルの上に置かれた小さな懐中時計を見つめ、呟く
今宵……全てが決まる。
エデン条約を前にした最終調整日程、今日の試験を以て補習授業部の面々は退学となり、自身は調印式まで雲隠れ
一番の障害たるシャーレの先生やシャーレにいる大人でカケルもこれで何もできなくなる。私の…勝ちだ、そうナギサは確信していた……
あんな手まで使ったんだ……負けるわけがない、それに心残りはもうない……もし、ナギサにあるとすれば……
ナギサ「ごめんなさい、ヒフミさん……全ては、平和のため…なのです」
自分とよく話をしてくれた、仲良くしてくれた相手……ヒフミのことだった……
突如、部屋に響くノック音。こんな時間に誰が……と思ったが、使いの物だろうと判断し一言
ナギサ「……紅茶でしたらもう結構です」
そう言って追い返そうとする、しかしそんなナギサの言葉を無視し、中へ入ってくるものが一人……
「――ふふっ、残念ながら紅茶はありません……あるのは、クッキーとちんすこうぐらいです♡」
トリニティ総合学園の制服、それを少しばかりいじった専用の衣服はそれが誰であるかを容易く理解させた
ナギサ「浦和…ハナコ……さん?」
ハナコ「あら、随分と不安そうなお顔ですが……あぁ、それもそうですよね、正義実現委員会が殆ど傍に居ない現状、不安に思う事は正常です、ナギサさん」
ナギサ「ど、どうして、あなたが此処に……」
ナギサがそう聞くとハナコは笑みを浮かべ言う
ハナコ「それはこのセーフハウスをどうやって知ったのか、という意味ですか?それとも、私が何故此処に居るのか、という問いかけでしょうか?ふふっ♡」
ナギサ「そうです…一体、どうやって」
ハナコ「前者であれば、簡単な話です、私は全てのセーフハウスを把握しているからですよ、合計八十七個、そのローテーションテーブルさえも、ね?」
ナギサ「……ッ!」
その一言でナギサは凍りつく……自身が安全だと思っていた場所はたった一人の人物によって見破られてたのだと……
ハナコ「変則的な運用も凡そ把握しています、例えば……今の様に警備が少なく、単独及び少数の護衛のみで身を隠す際は、この秘密の屋根裏部屋に隠れるという事も♡」
その情報はティーパーティーとその供回りしか知らない情報である筈だった。誰が情報を流したのかは知らないが…とにかく今は人を呼ぼうと動くが……
「――動くな」
ナギサ「っ!」
しかし、その手が先生を抱き起すより早く、声が響く。いつの間に入ってきていたのか……自分の背後にいたのは一人の生徒
ナギサ「白洲、アズサ……っ!」
アズサ「………」
ハナコ「あぁ、勿論ここまでの間に警護の方々は全員片付けさせていただきました。だからこそ、こうやって堂々と来たわけですが」
ナギサ「まさか……裏切り者は一人では無く…二人……!?」
それを聞いたハナコは少し残念そうに答える
ハナコ「……あらあら、察しが悪いみたいですね。私もアズサちゃんも、ただの駒に過ぎませんよ。指揮官は別にいます」
ナギサ「それは一体―」
誰だ、そう言いかけた所で…あることに気づいたナギサは、一つの質問を彼女達に問いかける……
ナギサ「…先生とカケルさん……先生とカケルは…何処に?」
ハナコ「…おや、気になりますか?」
ナギサは声を荒げて聞く
ナギサ「…………もしや―先生も、先生やカケルさんも!貴方達と同じ!」
ハナコ「それならご安心を……二人は私たちとはなんの関係もありません」
ナギサ「ならば、ならば何故ここにいないのですか!? あの二人ならば、裏切り者の貴方達を逃すわけが──」
ハナコ「カケルさんは現在……」
「重症を負い、ベットの上で眠ってます……」
「………は?」
重傷……誰が――カケルさんが? ありえない、そんなわけがない、そんな言葉がナギサの脳に流れ続ける。そんな様子を見ながら、ハナコはふふふっ…と笑う
ハナコ「嘘ではありませんよ?―アズサちゃん」
アズサ「了解」
ナギサ「なに…っっ!」
アズサ「動くなと、言ったはずだ」
アズサはナギサを椅子に縛りつけ、そのまま脅すように銃を向ける。ナギサはギリっと歯を食いしばる
ナギサ「……そんなわけがありません、あの……あの方がそこまでの傷を負うはずがありません!!あの方は!!」
ハナコ「強い……ですか?―ふふっ、なんとも傲慢…浅はか…ですねぇ」
ナギサ「なんですって?」
ハナコ「その質問に答える前に……一つ、私からも聞きたいことがあります」
ナギサ「この後に及んで何を…!」
ハナコ「補習授業部の件ですよ、果たして此処までやる必要はあったかと思いまして」
そのハナコの言葉に、ナギサは分かり易く顔を顰めた。その言葉の意図するところを理解したからだ。
ハナコ「ナギサさんの立場からすれば色々と思い含む事もあるでしょう、その事自体は否定しません――しかし、シャーレまで動員して、その上ゲヘナ自治区やアビドス自治区にまで手を伸ばし、少々度が過ぎてはいませんか?」
ナギサ「………」
ハナコ「私とアズサちゃんに関しては分かります、普段の行動や言動から訝しむのは当然です……ですが、ヒフミちゃんやコハルちゃんに対しては、あんまりではありませんか」
ナギサ「それは――」
口を開き、云い淀む。人を信じることができず、人を怪しむことしかできなかったこんな自分でも……ヒフミ、彼女だけは信頼でき…さまざまな話をしたりした。彼女だけは、ナギサとしっかり話をしてくれた……けれど
ナギサ「っ、確かに、お二人には……特に、ヒフミさんには申し訳ない事をしました、そして――先生とカケルさんにも」
ハナコ「…なら」
ハナコが聞こうとした瞬間ナギサが続けて言う
ナギサ「彼女との間柄だけは守れたらと、そう思っていました……しかし、後悔はしておりません」
ナギサ「…ほう?」
ナギサ「すべては、トリニティの平穏を守る為に──!」
「……そうですか……ふ……ふふ―ふふふっ♡」
それを聞き、大いに笑うハナコ。それに対し何を笑っていると怒鳴りそうなるナギサ……するとハナコは自分の端末を取り出す……
ハナコ「大義のための犠牲……それは二人も入っているのですね?」
ナギサ「……それは」
ハナコ「私たちを……嘘だらけのトリニティを守ろうとした、そこに住む生徒達を支えようとした―このキヴォトスに来た……私達で違って銃弾一発でも死ぬかもしれない二人もその犠牲と?」
ナギサ「……そう…です。たとえ……例えどんな人だとしても――私とは違った、善人であったとしても!!」
ナギサの覚悟、それが揺らぐことも、その信念が曲がることもなかった…それが正義だと、確信している……
だからこそ、ハナコは腹立たしかった……
ハナコ「そうですか……そうですか――ふざけるんじゃありませんよ」
ナギサ「っ」
ハナコ「ああごめんなさい、つい言葉が………所でナギサさん、先ほど……カケルさんはどうなったか?と聞きましたね?」
ナギサ「ええ…そうです!カケルさんの身に、一体何が!!」
アズサ「―何がだと…?…本当に心当たりがないのか……まいったな」
ナギサ「心当たり…?」
ナギサが疑問に思っているとハナコが口を開く……
「──試験会場への襲撃」
ナギサ「っ!?」
ハナコ「あの時に……カケルさん酷い重傷を負いました」
ハナコがそう言って端末を操作する、ナギサはありえないと心の中で言い続けた……なぜなら、モニタリングでカケル達の様子を見たと時、カケルはピンピンしていた……はずなのだから
ナギサ「ありえません………だって、カケルさんはそこまで重症じゃなかったはずでは……」
ハナコ「カケルさんは私達を守る為に盾となってくれました……その時に怪我を負ったのです」
ナギサ「で、ですが……しっかりと合宿所へ帰っていたはずでは……」
ハナコ「カケルさんはずっと無茶していたんですよ……本当はかなりの重症を負っていたはずなのに隠してたんですよ……」
ナギサ「――――」
ハナコ「ナギサさん……モニタリングは、ちゃんと目を通していたのですか?―――
安心し切って…ちゃんと見ていなかったのではありませんか?」
ナギサはあの爆破が起きた後、小型ドローンや監視カメラなどで補習授業部の様子に目を光らせていた―けれどその時のナギサはかなり追い詰められていた
どんな手も使うとは言った……けれど、襲撃を指示をした後、急な罪悪感に襲われ、思わずその映像から目を離していたのだ
ナギサは、襲撃が成功し、試験会場がボロボロになり、全員不合格になっただけを確認して、そのほかのことには目を通していなかった……
ナギサ「―あの…時……カケル……さんは」
アズサ「体を動かせるほどには回復……いや、違うな。回復していたふりをしていた。部屋に戻るなりカケルさんは倒れ……今もなお、意識はない」
ハナコ「身体中には複数の銃傷、外傷もひどく…さらには出血もひどいものでした」
ナギサ「な、何故その時に、救護騎士団の方へ『行けるとでもお思いで?』…っ」
ハナコ「カケルさんもおっしゃっていました、外部に漏れるのはまずいから……ここで治療を行うと」
ナギサ「で、ですが!先生やあの二人の大人の助けがあれば大丈夫な──」
「ふざけるのも大概にしないさい、桐藤ナギサ」
冷たい声、周りの空気が全て凍ったような…そんな雰囲気が突如として発生する。それを言い放ったのは他でもないハナコ
ハナコ「あの人は貴方が思っている以上に優しい人なんです……ゲヘナの爆破の時もたった一人でやり合い、アビドスのときも……先生もそれをわかっていてもなお、あなたと同じ様に救護騎士団のことを言いました……ですが、そうしたら試験が受けれなくなるといって断りました……本当に優しすぎるんです……」
ナギサ「それ…は」
ハナコ「貴方は甘い……考えが甘すぎるんです。カケルさんもそうですが、守ろうとした生徒に―殺されかけた先生がどんな気持ちだったか……考えたことがあるのですか?」
ハナコ「答えなさい!!」
ナギサ「っ!」
アズサ(………怖い、ものすごく怖い……こんな会話は計画には無かったはず……だからこれは、ハナコの本当の気持ち…か)
銃を向けながら、ハナコの声に押されてしまっているアズサ、しかしハナコの言葉にも共感はできた――信じていたものに殺されかけた、心に傷を負うには十分なこと……
ハナコ「……話さないのなら私にも考えがあります……入ってきてください」
その一言で一人ドアを乱暴に開けて入ってくる……
ナギサ「っ!矢守リュウさん!?」
リュウ「よぉ……てめぇがカケルをやったやつか?」
リュウが部屋に入った瞬間、ナギサは今まで感じたことのない威圧感を感じる……
ナギサ自身、今最も会いたくない人物でもある……
リュウ「今から言う質問に答えろ……いいな、桐藤ナギサ」
ナギサ「……っ!」
リュウ「あいつがあんたに対して言ったことがあるらしいじゃねぇか?言ってみろ……」
ナギサ「っ…そ、それは……!?」
ナギサは思い出した……カケルが自身に言伝言で言ってきた一言を………
【"関係ない二人"には手を出さない様に……やった、容赦はしない】
ナギサは間接的ではあるが、手を出してしまった……
リュウ「アビドスのあの一件……カケルがそう言ったそうなのに巻き込んだな?」
ナギサ「で、ですがそれは貴方が勝手に「あ?」……っなんでも……ないです」
リュウの威圧で黙ってしまうナギサ
「ちょっと待ってよ……それはこっちにも関係あるんだから?」
ナギサ「雨井マミカさんまで……」
開けっ放しのドアから更にマミカまで出てくる始末……
マミカ「まぁ、リュウさんの質問が終わったなら次は私ね……ねぇ、はっきり答えて……カケルさんの怪我……どんぐらいの認識なの?」
ナギサ「っ…そ、それは……」
ナギサは言葉に詰まってしまい、答えられないでいると……
マミカ「ふーん?それぐらいの認識なんだ?大したことないね」
ナギサ「っ……」
マミカ「知らないなら見せてあげるよ……ほら?しっかり見なよ?」
ナギサ「っ!!」
マミカがホログラムで投影した画像には……
血染めの包帯を止血帯よろしく全身にきつく巻き付け、その隙間から複数のチューブとケーブルを生やし、まるでファラオのミイラのような出で立ちになってしまった……
言い換えれば、掲載誌繋がりの剣劇少年漫画に登場するどこぞの剣客を思わせるような、かなり大きめな銃傷と挫傷を受けて治療されているカケルの姿だった……
リュウ「良かったじゃないか?しっかり容態をしれて?」
ナギサ「ひっ……」
ナギサが目を背けようとすると……
リュウ「おいおい?しっかり見ろよ?」
マミカ「そうだよ!知りたかった真実が目の前にあるじゃん?」
リュウがナギサの頭を掴み、無理矢理にでも見せにいき、マミカもホログラムをナギサの前にやる……
リュウ「この状態見てもあいつが命をかけて導こうとした未来を……テメェは踏みにじろうのしてんのか?」
ナギサ「ぁ…ぁ…ぁ……」
マミカ「もう、二度と声をきけないかもしれない……大切な私の仲間が二度と………」
ナギサ「……ぃ、や、ぃゃ!――わだ、じはぁ!ぞんなぁづもりじゃ……!!」」
リュウ「こんなことを誰がね?」
マミカ「そうね……誰が……あぁ、目の前にいるじゃん……」
リュウ「あ、そうだったな」
二人は目が全く笑わずに答える………
「「そうだよね?桐藤ナギサ」」
限界だった、カケルをここまでやったのはカイザーPMCによる襲撃、けれどそれを指示し計画を立てたのは自分。
自分がカケルをこんな目に遭わしたのだ――その罪の知識が、どっと押し寄せ、唇がプルプルと震え出す……
そんなナギサに、ハナコは追い打ちをかける
ハナコ「けれど……貴方にとってこれは気にしない、必要なことなんですよね?」
ナギサ「―ぇ?」
ハナコ「え?って……何故そんな反応をするのですか?…これはナギサさんがだーーいすきな――革命を為すに必要な犠牲、大義の前の小義……でしょう?」
そう、平和のためには犠牲が必要……そう言ったのは他でもないナギサ
その犠牲が……他でもないカケルだった、ただそれだけだ。ハナコはそう言っている……
ハナコ「結果的に、貴方は私たちの答案用紙を燃やせて……退学させることが容易くなった。貴方にとっては……最高なことでしょう?」
ナギサ「―ち……ちが……わたし…は」
ハナコ「違う?何が違うのですか?……いえ、もういいでしょう。何を聞いても同じでしょうし」
ハナコがそういった後、心が壊れかかっているナギサにリュウが近づくと……
リュウ「最後に……あいつが気絶する前に言った伝言を言ってやる」
ナギサ「でん…ごん?」
リュウはナギサの耳元に近づきで告げる……
「約束守れそうにない…すまない…とね」
「ーあ」
恨み言でも無く、自分を貶す言葉でもない……自分に対する謝罪。こんなことをした自分に対して、そんな言葉を残した…………その事実を知ったナギサは
「―ぁ…ぁぁ」
ナギサの心には
「ァァァア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"」
大きなヒビが入った………
ナギサは大きく泣き叫ぶ………
ハナコ「あ、あとヒフミちゃんからの伝言も言い忘れてました♡」
ナギサ「え?」
ハナコ「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』」
信じていた人にもナギサは裏切られる……
そして、追撃は止まない………
リュウとマミカがナギサの前に来ると告げる……
リュウ「俺は……あんたを許さない……」
マミカ「私も同じ……」
二人は冷酷にも告げる……
リュウ「俺はあんたを……」
マミカ「あなたを………」
ナギサ「や、やめ…」
ナギサはその一言を一切聞きたくないし……信じたくなかった……
「「生徒だとは思わない」」
ナギサ「あっ……」
カケルの仲間二人にも生徒として一切見られない……そう告げられる……
その一言でナギサはプツン……と意識が途切れ、その場に倒れるのをリュウが支える……
ハナコ「………ふぅ……ふふっ――スッキリしましたね……」
リュウ「あぁ、だけど流石にやりすぎたか?」
ハナコ「いいえ?あれぐらいしないと無理ですよ、カケルさん」
ハナコがそう言うと、ノイズが現れ、リュウの姿がカケルの姿へと変わり、マミカはノイズと共に消えていった………
ハナコの立てた計画はとても単純……シンプルに、ナギサのメンタルをぶっ壊してやろうと言うもの
ナギサは先生を殺しかけた、そのことを自覚させなければ……とハナコは思っており、カケルが重症によって寝たきりになったという嘘を作ったのだ……
アズサ「だが、あの二人は物凄くリアルだったぞ……」
カケル「あぁ、まさかあの時の発明が役立つなんてな……」
そう、カケルが提案したのはミレニアムタワー襲撃時にマミカとリュウがノアから逃げる際に使っていた3Dプロジェクターだった……*1
プロジェクターなので触れば普通はバレてしまうが、カケルにリュウの姿を投影させてきぐるみみたいな状態にした為、リュウだけなら触っても感触があるのだ……
カケル「とりあえず、ナギサはベッドにやっとけば……OK」
アズサ「後はアリウスだけ……」
ハナコ「えぇ、本当の裏切り者にも情報がいくでしょうね……」
カケル「あぁ、予想がただしければあいつが本当の裏切り者だな」
カケル「さぁ、もうひと踏ん張りだ!」
あとがき
はい、原作で出てくるナギサの心ぶっ殺すシーンをようやくかけたぁ……
いやぁ、こう見ると原作よりも理不尽かつ本気で心折りにいってますねw
ちなみに補足ですが、カケルが重症でベッドで寝てる中、先生はどうしてるのか?とありますが……ハナコならカケルの重症の事実が受け入れられず、ひきこもってしまったとか言うんでしょうねw
さて、長くなりましたがラストスパート頑張っていきます!