Fate/You Died.   作:助兵衛

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第11話 修羅場

 誠は言葉を失っていた。

 

 火の無い灰──セイバーの正体。その来歴は、この世界のどんな英雄譚にも属さない“異物”だった。神話にも歴史にも記録されていない、しかし確かに世界を救った英雄。

 

 だが、誠が本当に衝撃を受けたのは、そこではなかった。

 

 隣に座る黒野理央──彼女の覚悟の方だった。

 

 セイバーの真名開示は致命的な弱点を晒す行為だ。普通なら到底あり得ない。しかし理央は、それを迷いもせず命じた。自分を信じろと──その言葉を証明するために。

 

 なぜ、ここまでして──自分を守ろうとする? 

 

 理央の視線は揺らがない。冷たいようでいて、そこに宿る意志は強く、誰よりも熱かった。

 

 誠は静かに息を吐いた。

 

「……分かった」

 

 理央の瞳がわずかに細められる。

 

「俺には魔術の知識も訓練もない。ただ巻き込まれて、よく分からないまま戦って……それで、簡単に逃げようとしてた。でも──」

 

 誠は左の甲に刻まれた令呪を見る。

 

「──命が懸かってるっていうなら、ちゃんと向き合う。だからその……黒野の提案を、受けるよ」

 

 理央は短く息を吐き、わずかに口元を緩めた。

 

「ありがとう、灰原君。これで──ようやくスタートラインに立てるわ」

 

 セイバーも静かに頷く。

 

「共に進もう」

 

 その流れの中で、誠はふと隣に立つバーサーカーへ視線を向けた。

 

 自分だけが説明を受けて、自分だけが守られるような立場になる──それはフェアじゃない。

 

「なあ、バーサーカー」

 

 赤い獣眼がこちらを向いた。

 

「その……セイバーがここまでしてくれたんだ。だったら、俺たちも──真名や来歴を──」

 

「──お断りいたします」

 

 返ってきたのは即答だった。

 

 席に座る誠でさえも身を引くほどの圧。バーサーカーは一歩も引かず、赤い光を宿した瞳で誠を見下ろした。

 

「セイバーが真名を開示したのは信用を得る為、我々が明かす必要はありません」

 

 そう言ったバーサーカーの声は、ひどく静かで、ひどく遠かった。

 

 理央はそのやりとりを見届け、口を開いた。

 

「いいのよ灰原君。バーサーカーの言う通り、開示は信用を得る為、貴方が自分の手札を明かす必要はないわ」

 

「……」

 

 誠はまだ何か言いたかったが──やめた。

 

 理央は手を軽く上げる。

 

「──ここまでにしておきましょう。続きはまた後で」

 

 その瞬間、重かった空気がわずかに緩む。だが油断はできない。会話は終わっても、この場の緊張感はまだ消えてはいない。そんな空気のまま、扉が二度ノックされ──数名の使用人が静かに入室した。

 

 銀食器、ワインボトル、熱を逃がさぬよう蓋をされた大皿。上質な食事が次々とテーブルへ並べられていく。

 

 肉の香り、ハーブの刺激、スープの湯気──豊かな香りが食堂に満ちる。しかし、この卓につく者たちからは誰一人として気安い会話は漏れなかった。

 

「お食事をどうぞ。……遠慮せず」

 

 理央が促す。誠はナイフとフォークを取り、ぎこちなく肉を切る。視線の端でセイバーは静かにスープを口に運び、バーサーカーは無言のまま誠の背後に控えていた。

 

 ややして──不意に理央が口を開く。

 

「灰原君」

 

 誠はわずかに身構える。先ほどの会議の続きを予感して。

 

「君は──どんな魔術を使えるの?」

 

「……っ」

 

 問いはあくまで淡々としていた。だがそこには純粋な確認以上の意味があった。これは戦力の把握。この聖杯戦争において──誠の「生存可能性」を測る質問だ。

 

「それと──灰原家の先代から、何か継承は? 工房、魔術礼装、家系の魔術式……

 

 誠は──ナイフを止めた。

 

 食堂の空気が、ほんの少しだけ重さを増す。

 

「……何も知らない」

 

 理央はまばたきすらせずに黙って聞く。

 

「俺は、物心つく前に両親を亡くした。魔術なんて……今日まで存在すら知らなかった」

 

 沈黙。

 

 理央は表情をほとんど動かさずに、ただ誠を見つめた。そして──短く問う。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「──そう」

 

 理央はそれ以上追及しなかった。

 

 疑っているのか、納得したのか──どちらでもない。あくまで事実を整理した、という顔だった。

 

 誠は逆に拍子抜けする。

 

「……それだけか?」

 

「確認しただけよ。貴方の教育や魔術訓練に関しては、この黒野家で改めて整えるしかないわね」

 

 言い切るその声音には、もう逡巡はない。

 

 この状況を把握した──そして切り捨てる気はない。

 

 それが理央の返答だった。

 

 食事は静かに続いていく。

 

 銀器の触れ合う小さな音だけが、整った空間に淡く響いていた。

 

 静かな食事は、言葉少なに進んでいった。

 

 やがて皿が下げられ、最後に紅茶が運ばれる頃には、壁にかかった大時計の針は夜の深い時刻を指していた。

 

 理央はカップを置くと、誠を見た。

 

「……今日はここまでにしましょう」

 

「え?」

 

「明日は平日。学校がある以上、表向きの日常は維持しなければならないわ。どれほど聖杯戦争が危険でも、社会的な足場を失うのは愚策よ」

 

 言われてみれば当然のことだが、今日一日があまりに濃密だったせいで、誠は完全に忘れていた。

 

 学校──そんなもの、本当に行けるのか? 

 

 しかし理央は平然としている。

 

「安心して。下準備はこちらで整える。灰原君は休んで、明日に備えて」

 

 それは命令ではなく──ちゃんとした気遣いだった。

 

 誠は小さく息を吐いた。

 

「……分かった」

 

 理央が軽く指を鳴らすと、数名の使用人が音もなく現れた。

 

「灰原様、どうぞお部屋へご案内いたします」

 

 席を立つ誠に、セイバーが一礼し、バーサーカーが無言で後ろにつく。理央は椅子に座ったまま、静かに言った。

 

「休みなさい、灰原君。──黒野家は、あなたを守る」

 

「……わかった、ありがとう黒野」

 

 客室に戻ると、先ほどと同じ静寂が迎えた。広い部屋、整えられた備品、ぬくもりを残した照明。

 

「──私はここを使います」

 

 バーサーカーは奥の付帯室を指差した。

 

「ああ。じゃあ俺はシャワーだけ浴びて寝るよ」

 

「……マスター」

 

 バーサーカーがわずかに振り返り、誠を見た。

 

「あまり考えすぎぬように。明日へ支障が出ます」

 

 それは彼女なりの気遣いだったのかもしれない。

 

「……努力するよ」

 

 誠は苦く笑って浴室へ向かった。

 

 温かいシャワーが身体を打つと、ようやく緊張が少しずつ剥がれ落ちていく。だが──頭の中は整理しようにもまとまらない。

 

 魔術。聖杯戦争。黒野家。灰原の名。令呪。セイバー。バーサーカー。

 

 考えれば考えるほど混乱は増すばかりだった。

 

 それでも──

 

 ──俺は、ここで戦うと決めた。

 

 眠気は湧かないはずだった。なのに──バスルームから出て、大きすぎるベッドに身を沈めた瞬間。

 

 ──落ちた。

 

 まるで電源を断たれたように、意識は崩れ落ちた。

 

 これほど深い眠りは、もう何年も記憶にない。

 

 明日、自分がどうなるのかも考える暇はなく──

 

 誠は、深い眠りの底へ沈んでいった。

 

 

 

 

 

 ──

 

 翌朝。

 

 目を覚ました誠は、しばらく天井を見つめたまま現実を受け入れられずにいた。

 

 ここ数日の出来事が、濃密すぎて頭に残りすぎている。けれど腕を持ち上げれば──手の甲に刻まれた令呪が事実を突きつける。

 

 重い吐息を一つ落とし、誠は身支度を始めた。制服は黒野家が用意した新品。鏡の中の自分は、昨日までとは別人のように整って見えた。

 

 ノックの音がして、一ノ瀬が姿を見せる。

 

「朝食のお時間です、灰原様」

 

「……あ、はい。すぐいきます」

 

 ダイニングで簡潔な朝食を済ませると、玄関ホールにはすでに理央が待っていた。

 

 黒のブレザーに灰色のスカート、整えられた黒髪──同じ制服のはずなのに、理央はあまりにも完璧だった。

 

「おはよう、灰原君」

 

「……おはよう」

 

 短い挨拶の後、誠は周囲を見回す。

 

「セイバーとバーサーカーは?」

 

「外にいるわ。車を回してある」

 

 関の扉が開かれ、冷たい朝の空気と共に黒塗りの車が見えた。艶のある黒は黒野邸の門と同じ威圧を帯びている。

 

 運転席には昨日同様、セイバーがいた。

 

 黒い手袋をはめ、無表情でハンドルを握っている。似合いすぎて怖い。

 

 助手席にはバーサーカー。窓の外を見つめ、無言のまま微動だにしない。

 

「……サーヴァントって免許、取れるんだ」

 

 理央が後部座席のドアを開ける。

 

「戸籍くらいならうちで何とかなるわ。バーサーカー用の物も手配しているから、もう少し待っていてね。さ、乗って」

 

「あ、ああ」

 

 黒いシートは深く沈み込み、座り心地が異常に良い。理央も隣に腰を下ろした。

 

 ドアが閉まった途端、セイバーが静かにエンジンを回す。

 

 音は驚くほど静かで、まるで獣が目を覚ます前の低い呼吸のようだった。

 

「出発します」

 

 セイバーの低い声と同時に、車は滑るように走り出した。

 

 走り出してしばらく、車内には沈黙が続いた。理央はタブレットに視線を落とし、何かを確認している。バーサーカーは窓の外から視線を戻さない。セイバーは微動だにしない。

 

 誠は思わず窓の外を眺めた。黒野邸の敷地は広大で、並木道を抜けるだけで数分を要する。門を抜け、ようやく一般道路へと出る。

 

 日常の景色が近づくにつれ、誠は奇妙な感覚に襲われた。

 

「灰原君。どんな状況でも、“普段通り”を保つことが最も強い戦略よ。日常は盾になる」

 

「……わかった……出来るかな」

 

 短く答えるしかできなかった。

 

 異常と日常が、奇妙に混ざり始めた朝だった。

 

 登校時間帯。校門前の通りは、まだ朝靄を含んだ光で満たされていた。

 通学路を行き交う生徒たちの中に、一台の黒塗りの車がゆっくりと滑り込む。

 エンジン音は低く、艶やかな車体が朝日に鈍く反射する。

 

 セイバーがハンドルを握り、慎重に速度を落とす。

 助手席のバーサーカーは、無表情のまま窓の外を眺めていた。

 

「……ここまででいいわ、セイバー」

 

 理央の指示に、セイバーは静かに頷く。

 

「了解しました。停車します」

 

 車が校門脇に止まると、バーサーカーがわずかに息を吐いた。

 その吐息には、ほとんど聞き取れないほどの不満が滲む。

 

「……ふぅ」

 

 小さく呟くと、彼女の身体が淡く光を帯び──やがて、空気に溶けるように姿を消した。

 霊体化。

 完全な消失ではなく、誠には確かにその気配がわずかに感じ取れた。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 外の空気は冷たく澄んでいる。

 理央も降り立ち、スカートの裾を整えると、何事もないように校門へ歩き出した。

 

 そして──その瞬間。

 

 通学中の生徒たちのざわめきが、一斉に爆発した。

 

「……え、黒野理央?」

「後ろにいたの、灰原じゃね? なんで一緒に……?」

「え、まさか付き合ってるとか!?」

 

 数秒で噂は校門前を埋め尽くした。

 誠は冷や汗をかきながら、理央の後を追う。

 

「……黒野、これ、かなり目立ってるんだけど」

 

「慣れて」

 

 理央は表情一つ変えず、まっすぐ校舎へ向かう。

 その背中には、堂々とした気品と威圧が混ざり合っていた。

 まるで、彼女にとって人の視線など“風”に過ぎないかのように。

 

 車が滑るように離れていく。

 誠はその黒い車体を見送りながら、深くため息をついた。

 

「行きましょう」

 

 理央が静かに言い、二人は校舎の中へと入っていった。

 廊下の視線、ひそひそと交わされる声──そのすべてが、誠の肌に刺さるように集まる。

 

 だが理央は、それらを一切意に介さず歩き続けた。

 その歩みはまるで、戦場に向かう騎士のそれのように、揺るぎなかった。

 

 教室の前に立つと、中からざわめきが漏れてくるのがはっきり聞こえた。

 

「……マジで黒野理央が来てるって」

「後ろにいたの灰原じゃね?」

 

 誠はドアノブに手をかける前に、そっと隣の理央を見た。

 

「なあ黒野……本当にこのまま入るのか?」

 

「当然でしょう?」

 

 理央は微動だにしない。

 

 ──ガラッ。

 

 扉を開けた瞬間、教室のざわつきは一段階跳ね上がる。

 

 空気の密度が急激に変わり、まるで教室そのものが呼吸を止めたみたいになった。

 

 その中心を、理央は一切の動揺を見せずに歩く。まっすぐ自分の席へ──窓際の一番後ろへ。誰もが視線を吸い寄せられる少女。噂でしかなかった存在は、今こうして現実味を持ってその場にいた。

 

 そして──理央が教室全体を静かに一瞥しただけで。

 

 ──教室は、一瞬で静まり返った。

 

 まるで冷水を浴びせられたように声が消え、誰一人として動けなくなる。

 その支配感は、教師ですら持ち得ない圧力だった。

 

 誠はそんな空気の渦の中を歩きながら、内心で悪態をつく。

 

 それでも彼は席に着くしかなかった。

 黒野理央と並ぶ席──不可視の爆弾の隣に座るようなものだ。

 

 数分後、担任が入ってきてホームルームが始まり、空気はようやく表面上だけ日常に戻った。だがその静けさは表面を張った薄氷のようなもので──クラス全員の意識が一点に集中しているのが痛いほど分かった。

 

 ──仕方のない事だ。

 

 昨日まで都市伝説だった存在が突然クラスに現れ、その隣にクラスメイトが座っているのだから。

 

 数時間目の授業が始まっても、誠はまともに集中できなかった。

 黒板の文字は視界に入ってくるのに、内容が全然頭に入らない。

 

「──灰原氏……灰原氏」

 

 振り返らずに分かる。声だけで分かる。

 この、どこかだらしなく、しかし妙に図太い声。

 

「……紫村か」

 

 後ろの席の紫村は、体重100キロ近い巨体を椅子に預け、机を前に傾けながら目をギラギラさせていた。

 丸い頬と厚い首、乱れた髪──どう見ても典型的なオタク気質の男だが、誠にとっては気の置けない友人のひとりだった。

 

「灰原氏……ガチで黒野理央と登校してきたのですか? は? え? いや意味わからんのだが」

 

 紫村は息を潜めつつ、それでも興奮を抑えきれない声で続ける。

 

「黒野家といえば町の裏ボス、政治家とか企業とか裏社会とか、いろいろ黒い話ありますな……なんか儀式とかやってるって話もあるし、異能者集団って説もあって、結構信憑性──」

 

「お前、声小さいようで全然小さくないからな」

 

「おっと、スマンスマン。しかし、灰原氏、黒野女史とどんなご関係で?」

 

 紫村の目は真剣だった。

 誠は──答えるわけにはいかない事を理解しながら、どう返すべきか迷う。

 

 紫村という男はただのオタクに見えて、実は妙に洞察力が鋭い。

 下手な嘘は通じない。

 

 誠は短く息を吐き、ようやく答えた。

 

「……後で話すよ。放課後な」

 

 その言葉に紫村はにやりと笑った。

 

「あーはいはい、そういうやつですな。了解。そういう話、嫌いじゃねぇぜ」

 

 そして小声で付け加える。

 

「……気をつけるんですぞ、灰原氏」

 

 誠は一瞬だけ紫村の方を振り返った。

 

 紫村は──こちらを真っ直ぐ見ていた。冗談ではなく、本気の目で。

 

 胃が重くなる言葉だった。

 だがそれ以上の会話はできなかった。教師の視線が飛んできたからだ。

 

「そこ、後ろ二人。授業中だ」

 

 誠と紫村は慌てて前を向く。

 

 午前中の授業が終わるチャイムが鳴ると同時に、教室の空気が一気に弛緩した。

 どこからともなく弁当箱の開く音、購買へ駆け出す足音、雑談の波。

 けれど、その中心──誠の席の周囲だけは、微妙な緊張が残っていた。

 

 隣の黒野理央が、静かにカバンの中へ手を差し入れたからだ。

 

 金属の留め具が軽く鳴る。

 取り出されたのは、黒と白を基調とした二つの重箱型弁当。

 高級料亭を思わせる漆塗りの艶が、昼の光を受けて柔らかく反射する。

 

 理央は迷いなく誠の机に自分の弁当を並べ、その片方を誠の前に置いた。

 

「はい、灰原君の分」

 

「……え、あ、俺の分……」

 

「当然でしょ? 一緒に食べるつもりで用意したの。とにかく全てに警戒しないといけないわ、毒物にもね。今後は私が用意した食事以外は摂らないように」

 

 あっさりと言い切る。

 声は穏やかで、まるでこれが当然のルーティンだと言わんばかりだった。

 しかし──教室の周囲は、爆弾でも落とされたかのようにざわつき始める。

 紫村が悲壮感溢れる顔で理央の弁当箱を見つめていた。

 

「マジかよ灰原氏……いつの間にそんなルートに!?」

 

 空気が一瞬で熱を帯びる。

 誠は、頭の芯がじりじりと焼けるような感覚を覚えた。

 

 しかし隣の理央は、そんな周囲の反応など存在しないかのように、箸を取り出して淡々と蓋を開けていた。

 中には綺麗に詰められた卵焼き、焼き魚、季節の野菜、そして色鮮やかな果実。

 香りの時点で、家庭料理の域を超えている。

 

「召し上がって」

 

 理央は当然のように箸を誠の手元へ差し出す。

 誠は反射的に受け取るが、心臓は落ち着く気配がない。

 

「いや、その……黒野、これはさすがに目立つって……」

 

「問題ないわ。食事は生きるために必要なことよ。周囲のノイズは気にしないで」

 

「いや、ノイズって……」

 

 周囲の生徒たちは明らかに耳をそばだてている。

 誠は諦めのため息をつき、仕方なく弁当の蓋を開けた。

 

 ──そして、思わず感嘆の息が漏れる。

 

 美しい。

 芸術的な配置。どこを取っても計算された彩り。

 しかも、味も──一口食べた瞬間に、軽く目を見開いた。

 

「……うまっ」

 

 理央はわずかに唇の端を緩めた。

 

「それは良かった。調理は一ノ瀬が担当したわ。もともと宮中仕えの家系らしいわ」

 

「……料理人のレベルが違うんだな……」

 

 誠が呆れ混じりに呟いたその時、教室の扉が静かに開いた。

 

 ──ガラリ。

 

 入ってきたのは、三年生用のリボンをつけた女子生徒。

 整った顔立ちに冷たい気配をまとい、どこか空気の温度を一段下げるような存在感。

 

 ざわついていた教室が、またしても静まり返る。

 

「……藍沢紗月だ……!」

 

「三年の……なんでここに……」

 

 声が波のように広がる。

 

 誠は思わず息を止めた。

 昨日──セイバーと刃を交えたアサシンのマスター。

 なにより、誠を一度殺した存在。

 彼女の姿が、今こうして教室の入口に立っていた。

 

 藍沢紗月はゆっくりと教室を見渡す。

 その瞳は穏やかでありながら、獣が獲物を測るような冷たさを秘めていた。

 

「……や、灰原君いるかな。ちょっと、お話があるのだけれど」

 

 教室の空気が再び凍りつく。

 理央が箸を止め、わずかに目を細めた。

 その表情には──明確な警戒があった。

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