Fate/You Died.   作:助兵衛

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第12話 一時共闘

 昼休みのざわめきは、藍沢紗月が一歩踏み込んだだけで空気ごと凍った。

 

 静まり返った教室。その入口から、紗月の視線がゆっくりと誠へ向けられる。

 深い藍色の髪を肩で揃えた無駄のない美しさ──その存在感はまるで鋭く鍛えられた刃だ。

 

 しかし──

 

 誠に歩み寄ろうとしたその瞬間、彼女の進路を遮るように理央が立ち上がった。

 

 椅子が静かに引かれる音だけが響く。

 

 それは冗談でも偶然でもない──明確な拒絶の意思だった。

 

「悪いけど、藍沢先輩。昼休みに後輩の教室へ無断で乱入とは、校則違反では?」

 

 理央の声は低く、澄んでいるのに冷たい。

 

 紗月は微笑した。けれどその笑みには、温度が欠片もなかった。

 

「まあ、堅いことは言わないで。灰原君と少し“話”に来ただけなんだよね……個人的に」

 

 ──“話”。

 

 その言葉の裏側に含まれた意味を、誠は理解していた。

 

 理央は一歩前に出て、誠と紗月の間に立ちはだかる。

 

「“話”なら後にして。今は食事中よ」

 

 理央の右手が机に触れた。その指先は静かに力を帯び、魔力の微かな震えを生んでいる──

 

 紗月は動じなかった。むしろ──愉しんでいる。

 

「ふふ……ずいぶん過保護なんだね、黒野さん。そういうタイプだったんだ?」

 

「あなたに答える義理はないわ。藍沢先輩」

 

 空気が張り詰める。

 教室の空気はまだ昼休み──のはずだった。しかし今、この場だけ異質だ。

 一見すればただの口論。しかし実態は違う。

 目に見えない殺気──マスター同士の対峙。

 

 クラスメイトたちは息を飲み、何が始まるのか理解できないまま固まっている。

 

 ──その時。

 

 ひどく微かな“揺れ”が教室に走った。

 

 風でも音でもない。何か、世界の表面がかすかに波打つような気配。

 誠はハッと顔を上げた。同時に理央も、そして紗月も──わずかに視線を動かす。

 

「……今の」

 

 誠の声はかすれた。

 

 理央は素早く誠の側に近寄り、窓の外へ鋭い視線を向ける。

 黒い瞳の奥で魔力が揺らめいた。

 

「何者かが魔術を行使している。はっきりとは感知出来ないけれど、相当大規模な物」

 

 その言葉に誠の心臓が跳ねる。しかし周囲の生徒たちはキョトンとしていた。

 ──見えていない。魔力の揺らぎは一般人には認識不可能。

 

 気づいているのは──この場で、わずか三人。

 

 理央、誠、そして──藍沢紗月。

 

 誠が紗月を睨む。

 

「……お前の仕業ね、藍沢沙月」

 

 紗月は小さく首を横に振った。

 

「誤解しないで。私も今、それを確認に来たの。──まさにその件で話があるのだけれど」

 

「その件?」

 

 理央の目が細くなる。

 

 紗月はわずかな視線の動きだけで教室の扉を示した。

 

「ここじゃ話せない。外で話そ」

 

 その抑えた声音には、ふだんの冷笑的な調子がなかった。そこにあったのは、緊張と──危機察知の色。

 

 理央は一瞬だけ考え──短く言った。

 

「……分かったわ。灰原君、行くわよ」

 

「え、いいのか? もう休み時間が」

 

 反論しかけたが、それよりも早く理央は誠の手首を掴み、席から立たせていた。

 

 誠は覚悟を決めて立ち上がり、藍沢紗月とともに教室の前へ向かう。

 

 ざわ……と、周囲のざわめきが一気に膨れあがる。

 

「灰原……行くのか?」「これ絶対ヤバいやつじゃん……」「なんだ? マジの修羅場ってやつか?」

 

 クラスメイトたちの誤解もひどいが、今は構っていられない。

 

 理央は一度だけ教室全体を振り返り、冷ややかに告げる。

 

「──灰原君と私は早退するわ、誰か先生に伝えておいてくれないかしら」

 

 教室の空気が一瞬ざわめいて爆発しかけるのを背に、三人はドアを開け外へ出た。

 

 廊下を抜け、階段を降り、校舎裏へ続く通用口へ向かう。

 

 誰もいない中庭に出た瞬間──

 

 理央の瞳が鋭く光った。

 

「──セイバー」

 

 応える声はない。しかし、空気がわずかに重く変わる

 

 霧がほどけ、そこから全身を甲冑を纏ったセイバーが姿を現す。

 

 霊体化解除。

 

 鋭い殺気を纏いながら、彼は理央の背後に静かに控えた。

 

 続いて──藍沢紗月も、低く囁いた。

 

「──アサシン」

 

 闇が揺れた。

 

 気配だけがそこに現れる。姿は見えない。しかし──間違いなく、そこに“殺意”がいた。

 

 理央が一歩前へ進み、短く言う。

 

「ここまで来たんだもの。続きを聞かせてもらえるわよね、藍沢先輩」

 

 紗月は頷いた。

 

「ええ。率直に言うわ──この学校にサーヴァントが侵入した。クラスは恐らくキャスター」

 

「狙いは?」

 

「──私たちマスター全員かな」

 

 中庭に冷たい風が吹いた。

 

 嵐の前の──静けさだった。

 

 藍沢紗月の言葉に、理央は静かに眉を寄せた。

 

「……正気なの? 人目がある昼間の学校で、聖杯戦争の戦闘行為を仕掛けるなんて」

 

 怒気でも呆れでもない──もっと冷たい、皮膚の内側が凍るような声だった。

 

「監督官をなんだと思っているのかしら、そのキャスターとやらは」

 

 理央は額に手を当て、短くため息をついた。

 

「表向きこの儀式は“秘匿”が大原則よ。監督官は戦闘行為が露見しないよう監督する立場。あからさまに一般人を巻き込むような真似をすれば──」

 

「監督官が動く。消極的介入では済まない、直接制裁レベル……ってところかしらね」

 

 紗月が代わりに言葉を継ぐ。

 

 理央はわずかに視線を落とす。

 

「……キャスターのマスターは、自分の立場が理解できていないか、あるいは──理解した上で無視している」

 

 誠は飲み込むように息を吸った。

 

「つまり、ヤバい奴ってことだな」

 

「ええ。とんでもなく“厄介”。私が言いたいのはそれだけ」

 

 理央は眉間に指を当てた。

 わずかにうんざりした気配をまとう。

 

「本当に……どうしてこう、みんな規律を守れないのかしら」

 

 理央がこめかみを押さえて頭を抱えると、紗月は肩をすくめて言う。

 

「まあまあ落ち着いて。敵が変則的なら、こちらも歩調を合わせるしかないでしょう?」

 

 理央は鋭い視線を向けた。

 

「あなた、先日灰原君を下校中に襲撃してきたわよね?」

 

「まあね、仕方ないじゃん」

 

「殺しに来たと言った方が早いかしら」

 

 紗月は苦笑を浮かべ、それ以上は何も言えなくなる。

 

 誠は唖然としてそのやり取りを見ていた。

 

 だが、紗月は切り替えるように表情を引き締めた。

 

「とにかく──キャスターをどうにかしないと。何をしようとしているか分からないけど、一般生徒も巻き添えになるよ」

 

「……それは困るわね」

 

 理央も短く同意する。

 

 紗月はそこで一歩踏み出し──提案した。

 

「一時的に共闘しようよ、黒野さん」

 

 空気がわずかに張りつめた。

 

 誠は息をのむ。

 

 理央は──間髪入れずに答えた。

 

「──断るわ」

 

「あら……」

 

 紗月は特に傷つくでもなく、軽くため息をつく。

 

「灰原君は? 君はどう思う?」

 

「は? 俺は……!」

 

 誠が返答するより早く、理央が言い切った。

 

「私たちは単独で対処する。──行くわよ、灰原君」

 

 いつもの冷静さで言い放つと、理央は踵を返そうとする。

 

「ちょ、ちょっと黒野、本気で行くのか!?」

 

「当然よ。危険因子とは距離を取るべきだわ」

 

「誰が危険因子だって?」と紗月。

 

「あなたよ」と理央。

 

 完全に話は平行線。

 

 誠は額を押さえて言う。

 

「なあ、もうちょっとだけ落ち着い──」

 

 理央が誠の手を取り、歩き出す。

 

 その瞬間──

 

 ゴン……ゴン……ゴン……

 

 異様な“何か”が、地面を擦りながら近づく音がした。

 

「……ッ!?」

 

 三人が同時に足を止める。

 

 通用口へ続く裏道。その先の影──そこに、「それ」はいた。

 

 2m近い巨漢、泥と灰に塗れた筋骨隆々の肉体と、異様な形状の兜。

 

 ──否。

 

 それは兜ではない。

 

 巨大な、鉄でできた“カボチャ”を模したような頭部装甲。

 

 顔は見えず、呼吸音だけがひゅうひゅうと不気味に漏れる。

 

 そして──

 

 その手に握っているのは、地面を抉るほど巨大な鉄塊のハンマー。

 

 いや、それも──

 

 カボチャを模したような歪な打撃武器。

 

 まるで悪夢の職人が作った拷問具。

 

「な、なんだよあれ……サーヴァント、なのか……?」

 

 誠が震えた声で問う。

 

「セイバー」

 

「はい、マスター」

 

 セイバーは理央の前に出て、剣を抜き構えた。

 

 藍沢紗月も即座に構える。

 

 かぼちゃ頭の男は、ゆっくりとハンマーを引きずりながら顔を上げる。

 

 ──笑っている。

 

 顔は見えないのに、確かに分かる。

 

 歪んだ嗤いが、そこにあった。

 

 次の瞬間──

 

 ゴウッ!!! 

 

 地面が爆ぜるほどの踏み込みで、かぼちゃ頭は突進してきた。

 

 轟音。

 

 かぼちゃ頭が振り下ろしたハンマーは、地面を砕きながらセイバーを叩き潰そうと襲いかかる。

 

 だが──

 

「突撃力は相当な物だ」

 

 鈍い金属音と同時に、その一撃はいとも容易く弾かれた。

 

 セイバーは片手で構えた騎士盾で衝撃を斜めにそらし、衝突の力を地面へと逃がす。地を揺るがすほどの怪力にも、表情すら変えない。

 

 再び振り上げられた巨大ハンマー。質量も攻撃範囲も桁外れ。まともに受ければサーヴァントであってもただでは済まない。

 

 ──だが。

 

 セイバーの剣が走る。

 

 静かな剣速だった。

 

 気負いも、血気もない。ただ淡々と“斬るためだけ”に磨かれた質実剛健な剣撃。

 

 ギンッ!! 

 

 かぼちゃ頭の手元が揺らいだ。

 

 切断には至らない──しかし関節の可動域を狙った鋭い一撃で動きを封じる。

 

「あのかぼちゃ君は、多分キャスターの尖兵かな。サーヴァントにしては何から何まで雑過ぎる」

 

 藍沢紗月がわずかに目を細めて声を漏らした。

 

「すごい、全然相手になってない」

 

 誠の隣で見ていた理央も、セイバーの戦いぶりを見つめながら小さく呟く。

 

「彼は──“力で殴り合うタイプの剣士”じゃないわ。徹底した戦闘経験と技量で敵を処理するタイプ。ああいう手合いの相手ならお手の物よ」

 

 その評価通り、セイバーは一切押されていない。

 

 かぼちゃ頭が再び怨嗟のような唸り声を上げ、獣じみた横薙ぎを繰り出す。ハンマーは地面を抉り、視界を砂埃で覆い尽くす。

 

 ズガアァァァァン!!! 

 

 しかし──その豪打は、またしても当たらない。

 

 砂埃が晴れるほんの一瞬、セイバーの姿が──消えた。

 

 跳躍。

 

 高く跳び上がり、かぼちゃ頭の懐を取ったセイバーが天から振り下ろす。

 

「──ッ!!」

 

 対格差を利用する機動。

 

 盾でバランスを制御し、全身の力を乗せた──一点突破の斬撃。

 

 西洋剣が、鈍い金属音を立てながら敵の胸部を裂く。

 

 ガンッ──ガギィィィン!! 

 

 分厚い鎧の隙間を狙い突破した剣は、内部に届いた。

 

 かぼちゃ頭の巨体がよろめく。

 

 胸部装甲には──深々と斜めの切り傷。

 

 普通の戦士なら致命傷。それほどまでの一撃だった。

 

 しかし──かぼちゃ頭は、ぐらりと立ち直る。

 

 黒い煤のような“何か”が、傷口からじわりと溢れ出す。

 

 それが血なのかすら分からない。だが──

 

 それは確かに、“流れ出していた”。

 

 かぼちゃ頭はよろめき、胸に触れた。

 

 指にまとわりつく黒い液体──。

 

 その瞬間、奴の動きが止まる。

 

 しばらくの間、自分の手についたそれを見つめ──ゆっくりと、掬い上げるようにして掌を傾けた。

 

 とろり、と液体が滴る。

 

 ──ゴ……お……

 

 くぐもった、何かを押し殺したような声。

 

 何を思ったのか、かぼちゃ頭は震える指でその“血”を撫で──

 

 次の瞬間、突如として狂った。

 

「──────アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 耳をつんざくような絶叫。

 

 かぼちゃ頭は自らの兜──いや、頭部装甲を両手で掴み、何度も何度も自分の頭を地面へ叩きつけ始めた。

 

 ガンッ! ガンッ! ガンガンガンガンガン!! 

 

「な、なんだよあれ……!? イカれてるだろ完全に!!」

 

 誠が声を震わせる。

 

 砂煙が跳ね上がり、鉄と石がぶつかり砕ける音が響き続ける。信じられないことに、奴は自傷行為を繰り返しながら喜悦に震えていた。

 

 歪んだ呼吸音が笑い声に変わっていく──。

 

 ヒュウゥ……ヒュ、ヒュヒュヒュ……ヒィ──! 

 

 次の瞬間。

 

 ──かぼちゃ頭はセイバーを完全に無視した。

 

 跳ねるように立ち上がり──一直線に、理央へ向かって走り出す。

 

 セイバーが追いすがるが、かぼちゃ頭は狂気的な速度で一直線に突進し続ける。ハンマーを振り上げ、その狙いは理央ただ一人。

 

 セイバーが叫ぶ。

 

「下がれ、マスター!!」

 

 しかし──理央の瞳は一切揺らがなかった。

 

 その一瞬で理解していた。

 

 この敵は、致命的に“異常”だ。

 

 ただの前哨戦──小競り合いで済ませられる相手ではない。

 

 生半可に戦闘を長引かせれば、それだけ一般生徒や民間人に被害が出る。

 

 だから──理央は即断した。

 

 今、この場で“確実に仕留めるべき”だと。

 

「──セイバー」

 

 呼びかけられたその名に、セイバーの瞳がわずかに揺れた。

 

「叩き潰しなさい、方法は任せるわ」

 

 炎のように揺れる黒紅の瞳が、理央の許可を受けてわずかに光を帯びた。

 

「──御意」

 

 静かな返答。だがその一言が、この世界における戦闘階梯の変化を告げる合図となった。

 

 セイバーは走り出す。

 

 荒れた地面を蹴り砕き、かぼちゃ頭──狂った尖兵に向かって風を裂く。

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァァァァ──ッ!!!」

 

 獣じみた咆哮が上がる。ハンマーが振り上げられる。

 

 ──それでも届かない。

 

 セイバーの剣が、淡く燃えた。

 

 いや──燃え始めた。

 

 金属が溶けるように、形状が崩れていく。

 

 同時に、灼熱の灰が舞った。

 

「なんだ……剣が、燃えて……崩れて──」

 

 誠の息が詰まる。その現象は、剣としての機能崩壊を意味するはずだった。

 

 だが、違う。

 

 崩れ落ちた金属は形を失ったのではない──変形していた。

 

 舞う灰が渦を巻く。

 

 剣身は消え、代わりに巨大な──炎の獣の爪痕が出現した。

 

「【灰の遺剣】……【デーモンの爪痕】」

 

 セイバーの手に宿ったのは、紅蓮渦巻く“火の爪”。

 

 セイバーは踏み込む。

 

 灰が爆ぜる。

 

 足元の地面が崩れ落ちる。

 

 放たれた剛腕は──炎の渦と共に回転する。

 

 轟烈な回転斬撃。

 

「────ッ!!」

 

 あまりにも激しい回転と共に、セイバーの身体そのものが“竜巻”となった。

 

 炎と灰が暴風を巻き起こし、その中心に宿るのは──世界を焼く焔。

 

 紅蓮の渦が、かぼちゃ頭を真正面から飲み込んだ。

 

 次の瞬間、

 

 爆炎。

 

 轟音。

 

 灰塵。

 

 その全てが、一秒の中で炸裂した。

 

 ──抵抗はなかった。

 

 巨大なかぼちゃ頭の装甲は、炎に触れた瞬間に燃え崩れる。

 

 肉体は焼失し、大質量のハンマーさえも灰に沈む。

 

 一体、何が起きたのか──

 

 誠はただ呆然と見ていることしかできなかった。

 

 ほんの一撃。

 

 それだけで。

 

 ──あの異常な化け物が、“存在ごと消滅”した。

 

 校舎裏の地面には、ただ焦げた痕跡と灰だけが残る。

 

 セイバーは回転を止め、静かに灰を払った。

 

 紅蓮の火柱が消え、世界が音を取り戻す。

 

 焼けた土の匂いと、まだ空気中に残る熱気だけが、この場で起きた破壊の余韻を物語っていた。

 ぼろぼろと炎が崩れ、赤い灰が舞う。それは剣の形へと収束し、やがて元の西洋剣へと姿を戻した。

 

 宝具、解除。

 

 その瞬間、セイバーの視線がわずかに理央へ向けられる。

 

「……敵性存在の殲滅を確認。付近に魔力残滓──依然反応あり」

 

「ええ、分かってる。早くここを──」

 

 そこで理央の声がわずかに揺れた。

 

 誠は、その異変を見逃さなかった。

 

 一瞬──本当に一瞬だけ、理央の肩が微かに沈んだ。

 

 その白い額には、小さな冷や汗が浮かんでいた。

 

 ──宝具の使用。

 ──それが、どれだけ魔力を消費する行為なのか。

 

 誠は、ようやく理解し始めていた。

 

「ねえ、黒野さん」

 

 緊張を破ったのは、藍沢紗月の声だった。

 

 彼女は、セイバーの火焔を見届けた後でも、わずかに笑みを崩さない。

 

 ──が、その額には薄い汗。

 

 アサシンのマスターでありながら、セイバーの宝具を見た直後でも動揺を見せない胆力。それでも完全には無傷ではいられなかったらしい。

 

「やっぱり──ここで潰し合う余裕なんて、ないよね?」

 

 理央は紗月を見据えた。

 

 数秒の沈黙──それはこの場の誰もが呼吸を止めた時間。

 

 そして──

 

 黒野理央は静かに告げる。

 

「──分かったわ。藍沢先輩。一時的な共闘を受け入れる」

 

「……っ、そうこなくっちゃ」

 

 紗月はふっと笑うが、すぐに表情を引き締める。

 

「勘違いしないでね。仲良しごっこをするつもりはない。ただ──」

 

 理央が言葉を継ぐ。

 

「キャスターが本当にこの学園全体を覆う規模で動くなら──共闘以外の選択肢はない」

 

 互いに短い視線を交わす。

 

 そこに信頼はない。けれど──理性だけはあった。

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