──闇の底から浮かび上がるように、意識が戻ってきた。
硬い地の底を延々と沈んでいたような感覚。その先で、ふいに浮力を得たように思考が浮かびあがる。誠はゆっくりと瞼を開ける。
木目の浮いた天井板。白い漆喰の壁。古い洋館のような部屋だったが、どこか規則正しい質素さがある。まだ見慣れない、灰原誠の仮住まい。
──黒野理央の家だ。
それを認識すると同時に、身体の奥で鈍いだるさがじわりと広がった。
「……っ……」
喉が乾いて声が掠れる。上半身を起こすと、倦怠感が背骨に重たく残っていることに気付いた。だが、痛みはない。体のどこにも外傷はなく、呼吸も安定している。
ゆっくりと辺りを見渡すと、ベッドの隣の椅子に人影が座っていた。
銀髪の女狩人──バーサーカー。
返り血も傷もすでに跡形もない。淡い生成り色のシャツに黒いスカートという簡素な服装で、行儀よく脚を揃えて座っていた。その姿は、戦場で獣を屠る時の狂気とはまるで別人のようだった。
ページをめくる、静かな紙の音。
バーサーカーは姿勢を崩さず、本を読んでいた。まるで誠が目を覚ますのを知っていたかのように──ページを閉じ、静かに言った。
「お目覚めですね、マスター」
その声音は穏やかだった。血に濡れた戦場にいたはずなのに、一切の濁りのない透明な声だった。
「ここは──」
「黒野理央の邸宅です。あなたは一時的な魔力枯渇による昏睡状態にありました。ですが、もう問題はありません」
バーサーカーは立ち上がると、寝台のそばへ歩み寄り、まっすぐに誠を見下ろした。紅い瞳は戦場で見せた獣のそれではなく、研ぎ澄まされた狩人の光を宿している。
「……あなたが無事で、何よりです」
その言葉は驚くほど自然だった。契約の義務としてでも、忠誠の宣言でもなく、ただ事実を述べたような声音。
誠は思わず黙り込む。
つい数時間前──あの校舎で、狂い火の壁に飲み込まれた。理央も紗月も、セイバーもバラバラに引き裂かれた。キャスターは──化け物じみた“何か”へ変貌しようとしていた。
あの地獄は、夢なんかじゃない。
ならば──。
「……みんなは? 理央は、セイバーは、藍沢先輩は……無事なのか?」
問いかけると、バーサーカーはほんのわずかに視線を伏せた。
「ご安心を。全員、生存しています。現在は各員、休養をとっています」
胸の奥の緊張が、少しだけほどけた。
助かった──全員、生きている。
その事実だけで、張り詰めていたものがぷつりと切れるのを感じた。力が抜けて、ベッドに背を預けてしまいそうになる。喉の奥で、安堵が熱となって広がった。
「……そっか……良かった……本当に……」
そんな誠の反応を見届けると、バーサーカーは席を立つ。
「少しお待ちください。黒野様をお呼びしてきます」
「え……あ、ああ、頼む」
軽く会釈をして、バーサーカーは音もなく部屋を後にした。
扉が静かに閉まる。部屋に再び静寂が満ちる。
急にひとりになったことで、安堵と同時に疲弊が重く押し寄せた。ベッドに腰をかけたまま、誠は深く息をつく。
「生きてる……」
まだ現実感は薄い。だが、自分は助かった。それだけは確かだった。
思考がそこまで辿り着いたとき──扉が再び開いた。
入ってきたのは二人。
一人は、黒野理央。
その隣には──両手を後ろで拘束された状態の、藍沢紗月がいた。
「……え?」
紗月の両手には銀色の手枷。表面には複雑な魔術式の刻印が浮かび、淡い燐光を放っている。
さらに、そのすぐ側にはセイバーが控えていた。焼け焦げた鎧の一部は修復されていたが、まだ完全ではない。その手は剣の柄にかけられ、わずかに誠の方へ身体を向けた理央を守るような立ち位置を取っていた。
緊張に満ちた空気が部屋に入り込む。
「ど、どういう……ことだよ……」
紗月は前を向いたまま、無言だった。表情は無機質に近いが、頬に走るうっすらとした傷と、疲弊の色が隠せていない。
理央は一歩前に進み出る。
「おはよう灰原君」
理央の声はいつものように落ち着いていた。しかしその声音には、張りつめた糸のような緊張が紛れ込んでいた。
誠は混乱を隠せず、紗月と理央、そして側に控えるセイバーとを交互に見る。
「な、なんで藍沢先輩が拘束されてるんだ……? 一緒にキャスターと戦って、それで──」
理央は静かに首を横に振った。
「成り行きで協力したとはいえ、彼女は敵勢力のマスターよ」
その言い回しには、曖昧さも情もなかった。冷徹な事実として言葉にされた音だけが、部屋に確かな重さを残した。
「それは……でも、藍沢先輩は俺たちを助けたじゃないか。共闘を──」
「したわ。でも、それは彼女にとっても必要だったから。キャスターの存在が脅威になったから一時的に手を結んだだけ。──敵が共通していただけのこと」
理央は表情ひとつ動かさずに言葉を重ねた。
「それに──忘れたとは言わせないわ」
誠の呼吸が止まる。
理央はわずかに視線を落とし、しかしその黒い瞳は鋭く冴えていた。
「この女は、一度あなたを殺した相手よ。私はそれを、決して曖昧にしない」
誠は押し黙った。
紗月は表情を変えず、ただ無言のままそれを聞いている。だが、その瞳の奥に一瞬だけ僅かな揺らぎが走ったのを、誠は見逃さなかった。
理央は淡々と続けた。
「この屋敷に連れてきたのは、共闘の義理を果たすため。それと、彼女がキャスターについて何か知っている可能性があるから。……でもそれはそれ。灰原君、あなたが目を覚ました以上、彼女の処遇を決めなければならない」
「処遇って……」
誠は言い返そうとして、言葉を失った。
理央は誠の視線をまっすぐに受け止めた。
「灰原君。この状況で、敵を野放しにできるほど甘い戦いじゃないわ。キャスターはもう聖杯戦争の枠を超えつつある。今ここにいる全員が、生き延びるための陣営を整えなければならない」
そして、はっきりと告げた。
「──藍沢紗月を、このまま解放するわけにはいかない」
部屋の空気がさらに重く沈んだ。
理央の宣告は冷静で、それゆえに容赦がなかった。
「あなたの命を狙った敵。しかも今もなお、アサシンというサーヴァントを従えている。……敵を家に招き入れて背中を預けるほど、私は愚かじゃない」
セイバーの指がかすかに剣の柄を締め直す。
紗月は薄く笑った。皮肉とも諦観ともつかない、感情を伴わない笑みだった。
理央は一瞬だけ誠を見たあと、紗月へ視線を戻す。
「結論を言うわ。藍沢紗月はここで処分するべきよ。まずサーヴァント──アサシンを強制的に自害させ、その後で本人を処理する」
その言葉には一切の迷いがなかった。まるで、それが当然の戦術判断であるかのようだった。
「ちょ、ちょっと待てよ理央! 今ここで『処分』って……!」
「灰原君。これは情ではなく判断の話よ。彼女を生かしておくメリットはない。むしろ危険だけが残る。アサシンを繋いだままこの屋敷に置くなんて、危険度はキャスターの次よ。それに──」
理央が言葉を切り、わずかに目を細める。
「一度あなたを殺した相手を庇う意味が、どこにあるの?」
刃のような問いだった。
部屋の空気が冷たく刺すように沈む。だが誠は唇を噛み、視線を逸らさずに言い返した。
「……それでも、殺すなんて話になるのはおかしいだろ!」
「おかしくなんてないわ。彼女は敵。敵を見逃せば、次はあなたが死ぬ。それだけの話よ」
即答だった。誠は一瞬、言い返す言葉を失う。
理央は続ける。
「……灰原君、あなたは甘いわ。優しいと言えば聞こえはいい。でも今必要なのは甘さじゃないの。冷酷さよ。キャスターがこの世界を燃やそうとしてる今、敵を一人でも減らすべきなの」
「でも──」
「でもじゃないわ。これは戦争よ。殺すか殺されるか、それだけ。彼女をここで殺しておけば、少なくともあなたはもう一度こいつに刺されずに済む」
そう言って理央は僅かに顎を引いた。
「セイバー」
「命令とあらば」
セイバーが、剣を抜く。
銀の刃がきらりと光り、空気が緊張で張り裂けそうになる。
「待てよ!!」
思わず、誠は叫んでいた。
セイバーの動きが止まる。理央の視線が誠を射抜く。
「……何?」
誠は息を詰まらせながら、それでも必死に言葉を続けた。
「やりすぎだ……! いくらなんでも、いきなり殺すなんて……!」
「甘いわ」
「甘くていい!」
理央の瞳がわずかに揺れる。
「……そりゃ、先輩は俺を殺した。でも……それでも、殺すなんて……そんなの、俺は絶対に嫌だ」
誠は紗月を見る。
紗月は無言のまま誠を見返す。その瞳は静かで、しかしどこか影を宿しているように見えた。
「藍沢先輩は俺を狙った。だったら理由があるはずだろ。……なんでだ? なんで俺だった? お爺さんが──灰原家が、一体何をしたっていうんだ」
誠の問いかけを受け、部屋の空気がさらに張り詰める。
理央はすぐに返答しなかった。わずかに目を伏せ、しかし次に顔を上げたとき、その瞳は揺れの消えた冷たい光を宿していた。
「理由なんて、どうでもいいことよ」
短く、切り捨てるような声音だった。
「灰原家が何をしたとか、何を背負っているとか、そんなことは関係ない。重要なのは──この女は“敵だった”という事実。それだけ」
理央はわずかに顎を引き、セイバーへ再度指示を出そうとする。
「やめなよ、みっともない」
その声は澄んでいて、しかし強かった。
誠でも理央でもない。拘束されていたはずの藍沢紗月だった。
彼女は両手に手枷をかけられたまま、それでも姿勢を崩さず、まっすぐに誠と理央を見据えた。
「私は誰に殺されても文句は言わない。敵だったのは事実だからね。でも──一つだけ言わせてほしい」
その声音は不思議と静かで、虚勢も恐怖もなかった。
「灰原君には“真実を知る権利”がある。それを奪ったまま殺すなら、それは“正しさ”を捨てたやり方だ。私は──求められれば、すべて話すつもりでここに来た」
誠は息を呑む。
それは挑発でも、命乞いでもなかった。
ただ淡々と、ひとつの筋を通す者の宣言だった。
「ふざけないで」
理央の声が鋭くなる。
「あなたに口を開く資格なんて──」
「あるよ。灰原誠にとっての真実を持っているという意味ではね」
紗月は──微笑んだ。
顔の傷も手枷も痛みも、すべて無関係かのように。
その笑みは、どこか諦めに近く、残酷なほど穏やかだった。
「先輩、何を知ってるんですか」
誠の声はかすれた。
紗月はその問いを真正面から受け止める。
「求められれば、なんでも答えると言ったはずだよ。君の祖父──灰原一乃進が何をしたか。君自身が“なぜ狙われるのか”。灰原家の罪が何なのか。全部ね」
理央の表情が変わった。
その一瞬、彼女は何かを隠そうとする者の顔をした。静かな意志の奥で、怒りにも似た緊張が走った。
「──黙りなさい」
低く絞った声音。しかし紗月は引かない。
「君は怖いだけだ、黒野理央。灰原君が知るべきことを、彼自身の意思で知る前に“君の都合で”殺そうとしてる」
理央の黒い瞳が細くなる。感情がほとんど表に出ない彼女にしては、明確な怒りの色が宿っていた。
「灰原君。聞く必要なんて──」
「ある」
誠は遮った。
理央が息を呑んで振り向く。
「真実を知りたい。聞かせてくれ。……俺は、何も知らずに狙われて、巻き込まれて、それで理由もわからないまま人が死ぬのを見て──そんな状況を、これ以上認められない」
その言葉は、静かで──確かな意志があった。
「黒野頼む。……殺すにしても、待ってくれ。先輩が何を知ってるのか、それを聞いてからでも遅くないはずだ」
理央は言葉を失っていた。
誠の視線は真っ直ぐ理央へ向けられていた。迷っていない。逃げるつもりもなかった。
静寂が落ちた。
理央の唇がわずかに動く。しかし、声は出なかった。
その黒い瞳は誠を射抜く──けれど、そこにはいつもの冷たさだけではなく、微かな逡巡が見えた。
「……黒野」
誠が静かに呼びかける。
「──頼む」
しばしの沈黙ののち、理央は視線をそらし、小さく息を吐いた。
「……わかったわ。聞くだけ。話を聞いたその後で、判断を下す。──それでいいわね、灰原君」
「ああ」
誠は力強く頷いた。
理央はひとつだけ条件をつけるように続けた。
「ただし、何を聞いても情に流されないこと。危険と判断すれば──その時は私が手を下す」
「……わかった」
誠が頷くと、理央はセイバーへ視線を向ける。
「セイバー、待機。沙月を監視しながら、即応態勢を維持して」
「了解した」
剣をわずかに収めながらも、セイバーは一歩も動かない。完全に警戒を解かない位置取りのままだ。
理央は紗月をまっすぐに見据えた。
「──話しなさい。藍沢紗月」
そう告げられても、紗月は逃げなかった。むしろ、堂々と前を向いて言った。
「どこから話してほしい? 灰原誠が“なぜ狙われるのか”──それとも、『灰原家の正体』から?」
誠は喉を鳴らした。
彼女はほんの少しだけ肩をすくめ、冷静に言った。
「なら順序を追って話すよ。まず──灰原家がどういう家だったかから始めよう」
彼女は、かつての歴史を語り始めた。
「灰原家は、かつてこの一帯を統括していた魔術の名家だった。起源は古く、魔術協会とも繋がりがあった。時計塔とも交流を持ち──技術や血統の面でも、それなりに評価を受けていた」
誠は息を呑む。
紗月は静かに続けた。
「実は──黒野家と藍沢家は、その灰原家に“従属”していた家系だった」
理央の表情が微かに動いた。
だが紗月は構わず、言葉を重ねた。
「つまり、私たちの家は灰原の下にあった。……君の一族は、この土地の魔術共同体の頂点だったんだよ」
紗月は言葉を一度切り、誠の反応を確かめるように視線を向けた。
「……けど、それも今は昔の話だ」
「昔?」
誠が問い返すと、紗月は静かに頷いた。
「ああ。灰原家は没落した。──君の祖父の代でね」
理央の眉がわずかに動く。誠は息を呑み、黙って続きを促した。
「灰原一乃進。君の祖父にあたる人物だ。彼は当時、この日本で最も優秀な魔術師の一人だった。だが──同時に“最も危険な魔術師”と恐れられていた」
「……危険?」
「彼は魔術協会の主流である“人理延長”や“第二・第三魔法理論”には興味を持たなかった。彼が追ったのは──“根源”」
その言葉に、理央の瞳に一瞬だけ影が差す。
紗月は続けた。
「魔術協会の多くは根源へ至るための術式理論を構築することを目的にしているけど──灰原一乃進は別のアプローチを取った」
「別の……?」
「ああ。“人間を、根源へ送り込む”のではなく──“根源の方を地上へ引きずり出す”手法を模索し始めた」
誠は言葉を失った。理央は赤い唇を結び、紗月を睨む。
「彼は世界構造そのものを逆流させようとした。結果的に彼が目指したのは、“聖杯”を用いた術式だった」
「聖杯……?」
その単語に、誠は嫌な予感を覚えた。
「君も知ってるはずだ。冬木で用いられた人工聖杯──アインツベルンの錬金技術をベースにした“聖杯システム”の存在を」
誠は息を呑む。
紗月は静かに告げた。
「灰原一乃進は、アインツベルンの資料の一部を手に入れた。それを基に──彼独自の聖杯を作ろうとした。“灰の聖杯”と呼ばれるものをね」
──灰の聖杯。
その名は、紛れもなく今誠たちが巻き込まれている“灰原聖杯戦争”の元凶そのものの名前だった。
「待て、それじゃあ……今のこの状況は……」
「ああ。すべて君の祖父が始めたことだ。灰原家の技術と魔力基盤を使って作られた“灰の聖杯”──けれど、それは失敗した」
淡々とした声で、紗月は宣告した。
「その代償として──一帯を巻き込む大規模な魔術災害が発生した。灰原一乃進は死亡。彼の息子夫婦──つまり君の両親も同時に死んだ」
「────ッ」
誠の視界が揺らぐ。
紗月は表情を崩さず、淡々と続けた。
「だが、“灰の聖杯”は死ななかった。君の祖父はそれを完成させ損ねたが、確かに生み出してしまった。──それが、今の“灰原聖杯戦争”だ」
重い沈黙が部屋に落ちた。
誠は拳を震わせながら、声を絞り出す。
「……そんな……じゃあ……俺の家は……俺の家が……全部の元凶だっていうのか……?」
誠は拳を握りしめ、必死に声を搾り出す。
「じゃあ……藍沢先輩は……俺を殺そうとしたのは、その復讐のためか……? 灰原家が原因で、たくさんの人が死んだから……?」
紗月は即座に首を横に振った。
「違う」
その否定ははっきりしていた。迷いも怒りもない。ただ確かな意思だけがあった。
「勘違いしないでくれ。私は君を憎んでいない。灰原一乃進の罪と、君は無関係だ。──私は、復讐のために君を狙ったんじゃない」
誠は息を呑んだ。
その言葉に嘘はなかった。紗月の声は冷静で、一切の憎悪を含んでいなかった。
「じゃあ、なんで──」
「理由は一つ。魔術災害は、終わっていないからだよ」
部屋の空気がわずかに震えた気がした。
「……今でも、灰原地区は緩やかに“壊れ続けている”」
「壊れ、続けてる……?」
「ああ。君も感じてるはずだ。ずっと降り続けている“灰”のことを」
誠の背筋が凍った。
──あれは、この町の日常の一部だった。
理由もなく空から舞う灰。雪のように絶え間なく降り続ける異様な現象。それについて、この町の住民は誰も理由を説明できなかった。
「まさか、あの灰って……」
「灰原家の“灰の聖杯”によって起きた魔術災害の、副産物だよ」
紗月は告げる。
「この土地の大気は汚染されている。魔力構造が歪められ、空間座標は局所的に乱れ、霊的耐久は低下──簡潔に言うと、世界そのものが少しずつ侵されてる」
誠は言葉を失った。
「止める方法は──不明。少なくとも、藍沢家では解析しきれなかった。黒野家も同じはずだ」
理央の沈黙が、それを肯定していた。
「だけど、ひとつだけ可能性が見つかった。“灰原一乃進の魔術回路”が災害の中枢に関与している──そう仮説が立てられた」
紗月は静かに言葉を重ねた。
「そして灰原の回路を継いでいる者がいる。──それが“君”だ、灰原君」
誠は息を吸い込むのも忘れ、ただ紗月の言葉を聞いていた。
「正直に言うよ。君が死ねば──この呪いが止まる“可能性”があると、そう結論づけた。たとえ望みが薄くても、試す価値はあるとね」
その言葉には、微塵のためらいもなかった。
「だから私は、君を殺そうとした。──復讐のためじゃない。“この町を救うため”だ」
その宣告は、誠の胸に重く響いた。