Fate/You Died.   作:助兵衛

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第45話 隻腕の狼

 灰原の駅前は、昼の顔をしていた。

 

 チェーンの看板。自転車の列。改札から吐き出される人の波。スピーカー越しの案内が、時間を均すように繰り返される。

 その雑踏の中に、ひとつだけ“薄い違和感”が混じっている──と言われても、誰も気づかない。

 

 アサシンは、違和感にならないための装いをしていた。

 

 現代風の黒いパーカー、細身のパンツ。スニーカー。

 マスクとキャップで顔の輪郭をぼかし、髪は隠す。

 そして何より、義手は見せない。

 

 左腕は長袖の内側で固定し、肘の少し上まで布を二重に巻く。動かすたびに出る微細な金属音も、布と皮膚の摩擦に沈む。

 

 歩幅は周囲に合わせる。

 速すぎず、遅すぎず。

 視線は一点を刺さない。だが、流すだけでもない。

 

 駅前広場に差し掛かったとき、音が変わった。

 

 雑踏のざわめきに、もう一つ、均された声が混じる。

 人工的で、平板で、どこか安心させる調子。

 

 街頭テレビだ。

 

 駅前のビル壁面に設置された大型モニター。

 昼のニュース枠。昼休みの人間を引き止めるための、少し大きめの音量。

 

 アサシンは立ち止まらない。

 ただ、歩く速度をほんの僅かに落とした。

 

 画面には、見覚えのある建物が映っている。

 

 灰原中央病院。

 

 正面玄関。

 黄色と黒の規制線。

 警備員の背中。

 遠巻きにスマートフォンを構える人々。

 

『──昨夜、灰原地区で発生した病院内の混乱を受け、現在、当該医療施設は一時的に封鎖されています』

 

 女性キャスターの声は落ち着いている。

 不安を煽らない訓練された抑揚。

 

 だが、画面の下に流れるテロップは、言葉を選び切れていない。

 

【原因不明の症状】

 

【患者が一時的に錯乱】

 

【安全確保のため全患者を移送】

 

 アサシンの足取りが、半拍だけ遅れる。

 

 画面が切り替わる。

 病院の裏手。

 夜明け前に撮られたらしい、薄暗い映像。

 

 ストレッチャー。

 シーツに覆われた人影。

 搬送用の車両。ナンバーはぼかされている。

 

 

『現在、入院患者および一部の外来患者は、関係機関が指定した別の医療施設へ移送されており──』

 

 関係機関。

 便利な言葉だ。

 

 教会とも、黒野家とも、行政とも言わずに済む。

 

 アサシンは、街頭テレビの前を通り過ぎながら、音だけを拾う。

 映像は視界の端で十分だ。

 

『──なお、今回の件と関連している可能性がある体調不良について、市は引き続き注意を呼びかけています』

 

 キャスターの背後に、グラフが表示される。

 日付と共に、ゆっくりと右肩上がりの折れ線。

 

『現時点で詳しい原因は判明しておらず、専門家は「過度な不安を避け、正確な情報を待つように」としています』

 

 アサシンは、駅前広場を抜けた。

 

 人の密度が、目に見えて薄くなる。

 チェーン店の看板は減り、個人経営の古い飲食店や、シャッターを半分下ろした商店が目につき始めた。

 足元の舗装も、いつの間にか継ぎ目が荒くなる。

 

 雑踏は、背後に置いてきた。

 

 それでも音は消えない。

 車の走行音。遠くの踏切。エアコンの室外機。

 生活の音だ。危機感のない、日常の音。

 

 アサシンは、一本裏の通りへ折れた。

 人通りはさらに減る。

 ここまで来れば、歩く速度を周囲に合わせる必要もない。

 

 マスクの奥で、小さく息を吐いた。

 

 病院で起きた“獣化”。

 患者が凶暴化し、人の形を失い、理性を捨てる病。

 

 ──皆目、見当がつかない。

 

 少なくとも、自分の知る毒でも呪いでもない。

 戦場で見てきた薬物、禁呪……蟲憑きの秘術。

 それらのどれとも微妙に食い違っている。

 

 

 異常だ。

 不自然ですらある。

 

 アサシンは歩きながら、左腕に意識を向けた。

 布の下に隠した義手は、静かだ。

 違和感も、軋みもない。

 

 ──だが。

 

 沙月の祖母。

 

 咳。

 慢性的な発熱。

 原因不明。

 医療でも魔術でも、決定打がない症状。

 

 それには、覚えがあった。

 

 足が、自然と緩む。

 思考が、過去へ引き戻される。

 

 ──葦名。

 

 名を思い出した瞬間、喉の奥に鉄の味が蘇った。

 

 山に囲まれ、霧と血と死が常に漂っていた地。

 剣と忍が生き、そして死んだ国。

 アサシンが育ち、そして一度“終わった”場所。

 

 そこに蔓延した病があった。

 

 竜咳。

 

 アサシンは、歩きながら視線を落とした。

 アスファルトのひび割れが、山道の岩肌と重なる。

 

 竜咳は、病ではなかった。

 

 原因は、明確だった。

 生き返る者がいる。

 死を拒み、理を踏み越え、何度も立ち上がる存在がいた。

 

 その代償として、周囲の人間が削られる。

 命が、分け与えられるのではない。

 吸い取られる。

 

 それが、竜の理だった。

 

 咳。

 発熱。

 衰弱。

 やがて、静かな死。

 

 ──似ている。

 

 アサシンの歩調が、わずかに乱れる。

 

 紗月の祖母の症状。

 獣の病とは別に、灰原で増え続ける原因不明の体調不良。

 報道で伏せられた数字の裏側。

 

 竜咳と、酷似している。

 

 だが──。

 

 この世界には、いないはずだ。

 

 竜も、竜胤も──自らが手にかけた、その御子も……

 

 アサシンは、路地裏の自販機の横で立ち止まった。

 風に揺れる電線の音が、遠雷のように響く。

 降り積もった灰が、風に巻かれて渦となる。

 

 ──いない、はずだ。

 

 そう、理屈では分かっている。

 この世界に、竜はいない。

 竜胤も、御子も、あの理そのものも存在しない。

 

 それでも。

 

 アサシンの胸の奥で、嫌な一致が重なり続けていた。

 

 竜咳が蔓延した理由。

 あの病が生まれた直接の原因。

 

 それは己、アサシン──狼と呼ばれた忍の幾度もの死、そして竜胤による蘇生。

 

 アサシンは、ゆっくりと息を吸った。

 マスクの内側で、呼吸音がわずかに反響する。

 

 もし。

 もしも、この世界に竜胤が持ち込まれたとしたら。

 

 それは誰だ。

 

 答えは、嫌になるほど明確だった。

 

 ──自分だ。

 

 アサシン──狼は今聖杯戦争において、一度死んでいる。

 

 相手はセイバー、黒野理央のサーヴァント。

 灰原誠を守ろうと立ちはだかった、剣の英霊。

 

 胸を貫かれ。

 地に伏し。

 意識が、完全に途切れた。

 

 戦闘不能。

 サーヴァントとしての活動限界を超えた、完全な沈黙。

 

 それでも。

 

 自分は、戻ってきた。

 

 理を無視して。

 死を無かったことにして。

 何事もなかったかのように、いつもの様に立ち上がった。

 

 アサシンは、左腕を押さえた。

 義手の内側に、何かが脈打つ気がした。

 錯覚だと分かっていても、振り払えない。

 

 あの蘇生の瞬間。

 この世界に、何が流れ込んだ? 

 

 竜咳は、竜胤による不死者の死により蔓延する。

 

 歯が、軋んだ。

 

 悔恨が、遅れて押し寄せる。

 理解してしまったがゆえの、逃げ場のない痛みだった。

 

 ──まただ。

 

 同じことを、繰り返している。

 

 アサシンは、拳を握った。

 指先が、布越しに掌へ食い込む。

 痛みはある。だが、それは生きている証でしかない。

 

 それが、いちばん憎い。

 

 生前、自分は選んだ。

 竜胤の御子と契約し、不死となる道を。

 守るためだった。使命のためだった。

 だが結果として、葦名に竜咳を蔓延させた。

 

 人が、倒れた。

 名もなき者が、静かに咳き、熱にうなされ、衰弱して死んだ。

 

 原因は、常に自分だった。

 

 だからこそ。

 最後に、自分は剣を振るった。

 

 御子の命により。

 御子自身を、殺した。

 

 竜胤の理を断つために。

 不死という災厄を、この世から消すために。

 

 その後、自分は仏門に降りた。

 刀を置き、名を捨て、ただ静かに業を背負って朽ちるはずだった。

 

 ──それで、終わったはずだった。

 

 なのに。

 

 再び、この身は呼び出された。

 英霊として。

 しかも、竜胤を宿したまま。

 

 誰が、決めた。

 何が、許した。

 

 アサシンは、壁にもたれかかるようにして、路地裏に立ち尽くした。

 昼の光が、フードの影を深くする。

 

 自分が生き返った。

 たった一度。

 その“たった一度”で、十分だった。

 

 灰原で、咳が始まった。

 発熱が広がった。

 数字は伏せられ、原因はぼかされ、それでも確実に増えている。

 

 ──また、奪っている。

 

 知らぬ人間の命を。

 守るべきであった者たちの時間を。

 

 悔しかった。

 

 怒りではない。

 恐怖でもない。

 

 ただ、どうしようもなく、悔しかった。

 

 自分は学ばなかったのか。

 あれほどの犠牲を見て、なお。

 

 義手の下で、心臓が強く打った。

 不死の理が、まだここにあると主張するように。

 

「……俺は」

 

 喉から漏れた声は、掠れていた。

 誰に向けた言葉でもない。

 否定でも、言い訳でもない。

 

 それでも、止められなかった。

 

「……九郎様」

 

 名を、呼んでしまった。

 

 あの、小さな背。

 静かな声。

 剣を受け入れた、穏やかな眼差し。

 

 許しを請う資格など、ない。

 救われる理由も、ない。

 

 それでも。

 

「……なんと、不甲斐ない」

 

 声が、震えた。

 マスクの内側で、息が乱れる。

 

 自分は、約束を破った。

 終わらせたはずの災厄を、またこの世に引き戻した。

 

 仏門に降りた意味は、どこへ行った。

 あの選択は、何だった。

 

 アサシンは、額を壁に預けた。

 冷たいコンクリートが、現実を突きつける。

 

 悔しくて。

 悔しくて。

 悔しくて、堪らなかった。

 

 この街に、葦名を重ねてしまう自分が。

 再び“原因”になってしまった自分が。

 

 ならば。

 

 せめて。

 

 この身が不死であることが災いならば。

 この身が病を生むのならば。

 

 ──今度こそ、正しく終わらせねばならない。

 

 ──正しく、終わらせる。

 

 その言葉が、胸の奥で静かに反響した。

 

 アサシンは、ゆっくりと壁から身を離した。

 足元の影が、昼の光に引き延ばされる。

 路地の向こうでは、誰かが笑い、誰かが電話をしている。

 この街は、まだ“生きている”。

 

 葦名と、決定的に違う。

 

 葦名は、終わりの途中だった。

 誰もがそれを理解していた。

 戦も、病も、理も、すべてが絡まり合い、もう引き返せない段階にあった。

 

 だからこそ、自分は剣を振るえた。

 御子の願いを受け入れ、災厄を断ち切る覚悟を持てた。

 

 ──では、灰原は? 

 

 まだ、終わっていない。

 まだ、日常が息をしている。

 まだ、取り戻せる余地がある。

 

 アサシンの脳裏に、マスターの顔が浮かんだ。

 

 紗月。

 

 静かな声。

 怯えを隠すためではなく、決意を零さないために抑えた表情。

 迷いがあることを、最初から否定しない眼。

 

 彼女は、逃げていない。

 

 慢性的な土地の霊脈異常。

 増え続ける感染者。

 正体不明の災厄。

 

 それらを前にして、彼女は選んだ。

 

 ──灰原誠を、殺す。

 

 アサシンは、目を伏せた。

 

 似ている。

 

 あまりにも、似ている。

 

 守りたい存在がいる。

 そのために、もっと大切なものを切らねばならない。

 誰かを救うために、誰かを殺す。

 

 正しさではない。

 美しさでもない。

 

 ただ、責任だ。

 

 御子は、最後に言った。

 

 ──これで、よいのです。

 

 紗月の眼にも、同じ色があった。

 誰にも見せない場所で、すでに泣き終えた者の色。

 

 アサシンは、息を吐いた。

 胸の奥で、悔恨が静かに形を変えていく。

 

 ならば。

 

 自分は、再び剣を取る。

 

 今度は、御子のためではない。

 自分の贖罪のためでもない。

 

 ──彼女の覚悟の、隣に立つために。

 

 もし、竜胤の不死がこの世界に災いをもたらすのなら。

 もし、自分が原因であるのなら。

 

 その業ごと、断ち切る。

 

 灰原誠を守ろうとする者がいるなら、斬る。

 誤った延命を望む理があるなら、忍殺す。

 

 そして最後に。

 もし必要とあらば──この身すら。

 

 アサシンは、フードの奥で目を細めた。

 そこに迷いはない。

 あるのは、重なった二つの使命だけだ。

 

 葦名で果たした使命。

 そして、紗月が今、背負おうとしている使命。

 

 同じ重さ。

 同じ痛み。

 

 だからこそ。

 

 アサシンは、再び歩き出した。

 

 路地を抜け、閑静な住宅街へ入る。

 舗装は整い、街路樹が増える。

 

 アサシンは足を止めず、自然な速度のまま曲がり角を一つ越えた。

 

 視界が、ひらける。

 

 塀。

 高く、厚く、無駄がない。

 古さと新しさが、意図的に同居している。

 装飾は抑えられているが、土地と資金と権力を、隠そうともしていない。

 

 門の脇に、表札があった。

 

 ──黒野。

 

 短く、太い文字。

 それだけで十分だと言わんばかりの、簡潔さ。

 

 アサシンの足が、わずかに緩む。

 

 そのとき。

 

 門の内側で、低いエンジン音が鳴った。

 

 黒塗りの車。

 磨かれた車体が、昼の光を鈍く反射する。

 運転手付き。

 後部座席のカーテンが、静かに引かれている。

 

 帰還だ。

 

 門が開き、車がゆっくりと外へ出る。

 警戒はされているが、緊張はない。

 “戻ってきた”という空気が、屋敷全体に漂っている。

 

 アサシンは、歩道の影に溶け込むように立ち位置を変えた。

 存在感を、さらに一段落とす。

 

 車が通り過ぎる。

 

 一瞬、カーテンの隙間が揺れた。

 

 見えたのは、横顔。

 

 灰原誠。

 

 若い。

 まだ、終わりを背負う顔ではない。

 だが、何かを抱え込んだまま、逃げ切れなくなっている顔だ。

 

 その隣に、黒野理央。

 背筋を伸ばし、外界を睨むような視線。

 守る者の眼だ。

 

 アサシンの胸に、感情は湧かなかった。

 

 憎しみも、怒りもない。

 哀れみすら、ない。

 

 あるのは、理解だけだ。

 

 ──あのときの、自分と同じ。

 

 アサシンは、フードの影で静かに息を整えた。

 心拍が、一定に落ち着く。

 忍として、もっとも澄んだ状態。

 

 刀には触れない。

 殺気も、向けない。

 

 ただ、決める。

 

 黒塗りの車が角を曲がり、視界から消える。

 

 その背を見送りながら、アサシンは、ほとんど音にならない声で呟いた。

 

「……改めて」

 

 風に紛れるほどの小ささで。

 

「……お命を、頂戴いたす」

 

「今一度、不死断ちをなさん」




真名:狼(御子の忍/不死断ち)
クラス:アサシン
性別:男性
身長・体重:172cm・62kg
属性:秩序・悪

筋力:B 耐久:A 敏捷:A+
魔力:D 幸運:C 宝具:A

概略
葦名の地にて、竜胤の理により不死となった忍。
数度の死と蘇生が「竜咳」を生み、災厄の中心となった竜胤の御子を――御子の願いに従い、自らの手で終わらせた。
不死断ちを成し遂げた後、仏門に降った“終わらせる者”。その霊基は暗殺者の枠に収まるが、剣聖葦名一心を始めとした数々の強敵との死闘の末、直接戦闘能力はセイバーにも匹敵する。

クラススキル

気配遮断:A+
気配を断ち、視覚・聴覚・霊的感知のいずれからも“そこにいない”ように振る舞う。静止・潜伏状態で最大。戦闘開始の瞬間まで殺気を残さない。忍び義手に備わった無数の機構を使いこなす事により、忍として最高峰のランクを保持するに至った。

単独行動:B
一定期間、マスターの魔力供給が希薄でも現界を維持できる。忍としての生存術と、戦場孤児として生きた経験がこれを可能とする。

陣地作成:D
工房ではなく“待ち伏せの地”を作る。罠・導線・遮蔽物の配置によって局地的優位を構築するが、長期固定の魔術的拠点は築けない。

保有スキル

忍びの技量:B
潜入、攀じ登り、隠密、偽装、暗器、毒、罠、近接格闘までを一連の“作法”として完成させた総合技能。
都市環境でも適応し、監視網の死角を読んで行動できる。
養父であり師、大忍び梟から叩き込まれた忍びの極意。主は命を賭して守り、奪われたら必ず取り戻せ。

忍殺:EX
「隙」「体勢崩し」「油断」を条件に、対象の霊核へ直接“死”を通す。
防御・装甲・再生能力を迂回し、仕留めるための一点に収束する暗殺技法。不死断ち【拝涙】と組み合わせる事で不死者すら殺す一撃を放つ、しかし、別世界の不死性に対しては完全な死を与える事は出来ず、不死と不死断ちの拮抗により対象は仮死状態となる。

見切り:A
相手の初動・重心・魔力の偏りを読み、致命を回避する戦闘直感。剣士や槍兵の間合いにも対応可能だが、完全な未来視ではない。

仏門の誓い:B+
感情による判断ブレ、恐怖、精神干渉への高い耐性。
“終わらせる”と決めた理に対して、躊躇を許さない自己規律。

回生:EX
本来は断たれたはずの竜胤の残滓が霊基に滲む。
霊核を破壊されて完全に霊基が消失した後であっても、任意のタイミングで復活可能、即座に行動に移る事が出来る。
死ぬ度に周囲の生命力を吸い取り、竜咳と呼ばれる病を齎す災厄である。

宝具

不死断ち【拝涙(はいるい)】
ランク:A 種別:対不死宝具
レンジ:1〜3 最大捕捉:1人

葦名に伝わる二振りの不死斬り、そのうちの一振り。
死なない者を死なせるためだけに鍛えられた、極めて限定的かつ純粋な殺しの刃。

その一太刀は“不死”という現象を斬るのではなく、不死を成立させている因果・契約・理そのものを終わらせる。

狼が成し遂げた不死断ちとは、単に御子を殺したことではない。
御子の命に従い、「人が死なずに在り続けるという歪んだ循環」を、この世界から消し去る選択であった。

その終着点で用いられたこの刃は、涙と共に振るわれ、以後、再び抜かれることはない……はずだった。



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