Fate/You Died.   作:助兵衛

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第48話 火力対火力

 瓦礫の山が、ゆっくりと崩れた。

 

 焼け焦げた木材。

 砕けた石材。

 粉塵と硝煙が、まだ空間を満たしている。

 

 ガトリングの余熱が残る空気の中で──

 

 ゴトリ。

 

 重い金属音が、瓦礫の奥から響いた。

 

 次いで、砂利を踏み砕く鈍い振動。

 

 理央は、反射的に目を細める。

 

「……来る」

 

 セイバーの剣先が、わずかに持ち上がった。

 

 隣室の崩れた壁の向こう。

 かつて応接室だった空間の中心で、煙が割れる。

 

 そこから──

 

 “何か”が、立ち上がった。

 

 まず現れたのは、異様に太い脚部だった。

 

 人間のものではない。

 鋼鉄の骨格に、厚い装甲板。

 関節部には、複数の油圧シリンダーと魔術回路に似た紋様。

 

 一歩、踏み出す。

 

 床の残骸が、粉砕される。

 

 次に現れたのは、胴体。

 

 人型を模しているが、比率は人間のそれではない。

 胸部装甲は厚く、まるで超重戦車の正面装甲のようだ。

 

 そして、肩。

 

 異様なほど巨大な構造物が、機体後部に備わっている。

 

 二基。

 

 左右対称に配置された、巨大なコンテナユニット。

 

 弾薬庫か。

 武装ラックか。

 あるいは──兵装そのもの。

 

 その質量感だけで、常識的な重量を遥かに超えていると分かる。

 

「全く、今日は慌ただしい日だよ。見たまえ、一張羅が誇りまみれさ」

 

 アーチャー──マイケル・ウィルソンの爽やかな笑み。

 余裕に溢れた声。

 

 ただし、その姿はもはや“人間”ではなかった。

 

 全高、約三メートル。

 

 人間を踏み潰せるほどの巨体。

 鋼鉄の外骨格に包まれた、人型兵器。

 

 その中央に、アーチャーが“収まっている”。

 

 まるで、鎧ではない。

 兵器そのものが、彼の肉体の延長になっている。

 

 煙の中で、彼は一歩も動かずに立ち止まった。

 

 堂々たる姿勢。

 

 両足を大地に踏みしめ、背に巨大な二基のコンテナを背負い、腕を自然に垂らしたまま──

 

 仁王立ち。

 

 ガトリングの銃撃を受けたはずの空間に、まるで何事もなかったかのように、彼は存在していた。

 

「紹介しよう、我が宝具──特殊機動重装甲、【METAL WOLF】だ」

 

 人型兵器が、低く唸った。

 

 アーチャーは、ゆっくりと一歩を踏み出す。

 

 ドン──。

 

 床が、沈んだ。

 瓦礫が跳ね、粉塵が舞い上がる。

 

 その一歩ごとに、距離が詰まる。

 逃げ場を削るような、計算された接近。

 

「私の役割は時間稼ぎだ──しかし」

 

 金属越しに響く声は、相変わらず軽い。

 だが、その奥には、明確な“戦闘意思”があった。

 

「別に倒してしまっても構わないだろう?」

 

 背負った二基のコンテナユニットが、同時に動く。

 

 ──ガシャン。

 ──ガコン。

 

 装甲板がスライドし、内部機構が露出する。

 理央は、思わず目を見開いた。

 

 多すぎる。

 

 ミサイルランチャー。

 多連装ロケット。

 対空用と思しき回転砲。

 用途不明の筒状兵装。

 刃物ですらない、巨大な衝角兵器。

 

 どう考えても、三メートル級の人型に“収まる量”ではない。

 

「……空間圧縮」

 

 理央が、息を詰めたまま呟く。

 

「正解」

 

 アーチャーは楽しげに応じる。

 

「軍需はね、常に“もっと積め”と要求されるものさ」

 

 展開された武装群が、一斉に宙で固定される。

 それぞれが、数秒だけ“待機”するように静止した。

 

 そして。

 

 その中の一つ。

 

 胴体側面からスライドしてきた、大口径マシンガン。

 

 人が持てば、反動で吹き飛ぶ質量。

 対装甲用の重弾を連射できる、完全な殺戮兵器。

 

 アーチャーは、それを掴み取った。

 

 金属の指が、グリップを包む。

 機体と武装が、完全に同期する。

 

「さて……」

 

 他の武装が、次々と収納されていく。

 コンテナが閉じ、再び一体化する。

 

 残ったのは──そのマシンガンだけ。

 

 選別された“一つ”。

 

「お気に入りの一つだ。アメリカ人といえば、大口径だろう」

 

 アーチャーは、銃口を下げたまま、再び歩き出す。

 

 一歩。

 また一歩。

 

 理央と秀則へ。

 

 その間に立つセイバーが、剣を構え直す。

 剣先が、わずかに震えた。

 

 理央の思考は、刃のように研ぎ澄まされていた。

 

 視線は一瞬で【METAL WOLF】の全体をなぞる。

 装甲厚、コンテナ容量、武装選択の速度。

 

 ──だめだ。

 

 セイバー単独では、押し切られる。

 

 理央は、喉が裂けるほどの声で叫んだ。

 

「紫村君ッ!!」

 

 秀則が、反射的に振り向く。

 

「ライダーに──!」

 

 理央の声は、命令だった。

 思考を挟ませない、即断即決の指示。

 

「追撃を指示して! 今すぐ! 屋敷はいくら壊しても構わない!」

 

 秀則の顔から、迷いが吹き飛ぶ。

 

 理解するより先に、口が動いた。

 

「ラ、ライダーちゃん! 撃て! 魔力はまだ大丈夫!」

 

 一瞬の沈黙。

 

 次の瞬間。

 

 空が、割れた。

 

 ──ゴォォォン!! 

 

 超大型武装ヘリの両翼下、そして胴体側面が一斉に開く。

 そこから姿を現したのは──ミサイルポッド。

 

「君も大口径主義かね? 気が合うじゃないか」

 

 アーチャーが、初めて足を止めた。

 

 センサーが、上空を捕捉する。

 だが、もう遅い。

 

「ファイア」

 

 ライダーの声は、冷たく、機械的だった。

 

 ──ドォン、ドォン、ドォン、ドォン!! 

 

 発射音が重なり合い、空気が震える。

 煙の尾を引きながら、数十発のミサイルが同時に落下してくる。

 

「……はは」

 

 アーチャーの口元が、歪む。

 

「これは、なかなか──」

 

 次の言葉は、爆炎に飲み込まれた。

 

 ドォォォォォォォン!! 

 

 衝撃波が、屋敷全体を叩き潰す。

 地面が跳ね、瓦礫が宙を舞い、空気が燃える。

 

 連続爆発。

 間髪入れず、第二波、第三波。

 

【METAL WOLF】のいた位置が、巨大な火柱と黒煙に覆われた。

 

 セイバーが、即座に剣を構え直す。

 

「……直撃、確認」

 

 理央は、歯を食いしばりながらも視線を逸らさない。

 

「まだよ……」

 

 煙の向こう。

 あの男が、これで終わるはずがない。

 

 黒煙が、風に引き裂かれていく。

 

 爆炎の余熱が、まだ地面から立ち上る。

 焦げた木の匂い。焼けた金属の匂い。

 瓦礫の粒子が、夕光の中で白く舞う。

 

 ──その中心。

 

 火柱の“核”に、影が立っていた。

 

 いや。

 立っていた、ではない。

 

 跳ねた。

 

 土煙が一瞬、内側から爆ぜる。

 黒い塊が、噴き上がるように空へ躍り出た。

 

「──!」

 

 理央の喉が鳴る。

 

【METAL WOLF】。

 三メートルの人型兵器が、まるで重力を忘れたように飛ぶ。

 

 装甲には煤が付いている。

 だが、凹みも、裂傷も、欠損もない。

 

 無傷。

 

「嘘だろ……」

 

 秀則が、声にならない声を漏らす。

 

 セイバーが一歩踏み込もうとする。

 だが、その瞬間には──もう遅い。

 

 アーチャーは、空中で体勢を変えた。

 

 背の機構が開き、内部の推進装置が短く噴く。

 爆発ではない。

 “跳躍”を“飛翔”に変える、短い補助。

 

 狙いは明確だった。

 

 庭でも、屋敷でも、理央たちでもない。

 

 ──上空。

 

 滞空する超大型武装ヘリ。

 

 交差反転式の二つのローターが、圧倒的な揚力で空を掴んでいる。

 その基部。

 二重の回転が干渉する、最も重要な“芯”。

 

 アーチャーの視線が、そこに刺さる。

 

「それではそろそろ、反撃といこう!」

 

 低い声が、金属越しに響いた。

 

 そして──

 

 空中で、マシンガンが持ち上がる。

 

 大口径。

 対装甲弾。

 人型兵器の腕でしか制御できない反動。

 

 銃口が、ローターの“根”へ向いた。

 

「やめ──!」

 

 理央の叫びは、音にならなかった。

 

 先に来たのは──発射音。

 

 ──ダダダダダダダダダダッ!! 

 

 空気が裂ける。

 銃口の閃光が連続し、弾道が一本の光線に見えるほどの密度で収束する。

 

 狙うのは翼でも胴体でもない。

 ローターハブ。

 ブレードの付け根。

 回転を支える心臓部。

 

 金属の火花が、上空で散った。

 

 ローターの唸りが、一瞬だけ“割れる”。

 

 ──ギャリッ。

 

 乾いた異音。

 回転が、わずかに乱れる。

 

 ライダーがコックピットで歯を食いしばり、操縦桿を引く。

 

「回避──」

 

 言い終える前に、追撃が来た。

 

 ──ダダダダダダッ!! 

 

 同じ一点。

 同じ角度。

 同じリズム。

 

 二基の基部に、交互に弾が叩き込まれる。

 

 逃げても、逃げても。

 追いかけるのは弾ではない。

 “計算された散布”だ。

 

 ヘリの機体が、初めて大きく揺れた。

 

 ──ゥゥゥゥゥゥゥ……! 

 

 唸りが低く沈む。

 揚力の音が、重くなる。

 

 次の瞬間。

 

 片方のローターが、わずかに“遅れた”。

 

 回転の位相がずれる。

 干渉が起きる。

 本来、同期しているはずの二重の円が、歪む。

 

「っ……!」

 

 ライダーの目が見開かれる。

 計器が一斉に赤へ跳ねる。

 

 機体が、腹を見せるように傾いた。

 

 浮いているのに、落ちる感覚。

 

 ──揚力が、抜ける。

 

 アーチャーは、空中で最後の一斉射を叩き込んだ。

 

 ──ダダダダダダダッ!! 

 

 そして撃ち尽くす。

 

 乾いたクリック音が、戦場の境界を切る。

 

「ウーム、良いビートだったよ。お嬢さん」

 

 乾いたクリック音の直後。

 

 世界が、一段深く沈んだ。

 

 ──ギャリギャリギャリ……! 

 

 ローターが悲鳴を上げる。

 回転は続いている。だが、それはもはや“揚げる”ための回転ではない。

 

 制御を失った円運動。

 互いに干渉し、喰い合い、揚力を殺し合う二重の刃。

 

 超大型武装ヘリは、大きく──傾いた。

 

 機首が下がる。

 胴体が流れる。

 姿勢制御用の補助スラスターが噴くが、意味を成さない。

 

 屋敷の上空を、低く、斜めに横切る。

 

 ローターの風圧が、庭木を根元から押し倒し、瓦礫を吹き散らす。

 窓という窓が、一斉に軋み、割れた。

 

「──みんな伏せて!」

 

 理央の声が飛ぶ。

 だが、もう誰もヘリを見ていなかった。

 

 視線は、その“進行方向”へ向いている。

 

 屋敷の奥。

 木々が密集する、山の斜面。

 

 逃げ場のない、硬い壁。

 

 ヘリは、まるで引き寄せられるように、そこへ突っ込んでいった。

 

 ──ゴォォォォォン……!! 

 

 胴体が最初に樹冠へ突き刺さる。

 太い枝が折れ、幹が裂ける。

 

 次いで、爆音。

 

 土砂と木片が、山肌から噴き上がる。

 炎は、まだ上がらない。

 

 だが──衝突は、確実だった。

 

 巨大な鉄塊が、斜面を削りながら飲み込まれていく。

 ローターの音が、途切れ、引き裂かれ、そして──消えた。

 

 数秒。

 

 風だけが残る。

 

 理央は、息を止めたまま、山の方角を見つめていた。

 

「……ライダー……」

 

 その名を呼びかけた、次の瞬間。

 

 ──風を切る音。

 

 白い影が落ちてくる。

 

「着地は任せた、ハンドラー」

 

 声と同時に、秀則の胸に、柔らかな衝撃がぶつかった。

 

「──っ!?」

 

 反射的に腕を出す。

 抱き留めた、その中に──

 

 白髪の少女がいた。

 

 小柄な身体。

 軽い。

 しかし、確かな存在感。

 

 ライダーだった。

 

 ヘルメットも、外套もない。

 だが、その身体に傷はない。

 

 彼女は、秀則の胸元に顔を埋めるようにし、

 そのまま──額を、すり……と擦りつけた。

 

 甘える仕草。

 安堵を確かめるような、幼い動き。

 

「……ごめん」

 

 小さな声。

 

「ヘリ壊れちゃった」

 

 秀則は、一瞬、言葉を失い──

 次の瞬間、力いっぱい、抱きしめていた。

 

「……っ、ばか……! そんな良いから……!」

 

 秀則の腕の中で、ライダーが小さく息を整える。

 

 白髪が風に揺れ、真紅の瞳が一度だけ伏せられたあと──ゆっくりと開いた。

 

 その視線は、自然と前方へ向かう。

 

 瓦礫と煙の向こう。

 

 そこに、まだ立っているものを捉えて。

 

 ──ズン。

 

 重い足音。

 

 崩れた応接室の残骸を踏み越え、【METAL WOLF】が姿を現す。

 装甲は煤に汚れ、関節部からわずかに蒸気が漏れている。

 

 だが、動きに迷いはない。

 

 アーチャーは、改めて理央と秀則、そしてセイバーの正面に向き直った。

 

 三メートルの人型兵器が、真正面から“見下ろす”構図。

 

 その中で──

 

「一瞬ひやりとしたが……」

 

 金属越しに、低い笑い声が響いた。

 

「あのような空飛ぶ鉄屑に負ける訳にはいかない。何故なら私は、大統領だからだ」

 

 右腕が動く。

 

 マシンガンが、自然な所作で胸元へ引き寄せられる。

 次の瞬間、装甲の一部が開いた。

 

 ──ガチャン。

 

 弾倉が、床に落ちる。

 

 空になったそれは、歪み、焼け、役目を終えた金属の塊だ。

 

 アーチャーは一切急がない。

 

 背後のコンテナユニットが開き、

 内部から、新たな弾倉が“押し出される”。

 

 信じ難い容量。

 信じ難い整然さ。

 

 彼はそれを掴み、

 ゆっくりと、確実に装填した。

 

 ──カチリ。

 

 乾いた音。

 

「さて」

 

 銃口が、再び下がる。

 だが、それは油断ではない。

 

 いつでも上げられる位置。

 撃てる距離。

 

「第二ラウンドと行こう。レディス&ジェントルメン」

 

 不敵な笑みが、声から伝わる。

 

 セイバーが、半歩前に出る。

 

 その背後で。

 

 ライダーが、秀則の胸元から顔を上げた。

 

「……ハンドラー」

 

 声は小さい。

 だが、はっきりしている。

 

 彼女は、片手を虚空へ伸ばした。

 

 太い銃身。

 重量感のあるスライド。

 大型のグリップ。

 

 ライダーはそれを両手で持ち、少しだけ眉を下げる。

 

 空間が、わずかに歪む。

 

 次の瞬間、そこに現れたのは──拳銃だった。

 

「……ごめん」

 

 秀則を見る。

 

「もう、これしか出せない。ACを出せばハンドラーがまた死んでしまう」

 

 言い訳でも、弱音でもない。

 

 事実の報告。

 

 そして──

 

 彼女は、その銃を、秀則の手に押し当てた。

 

 秀則の手に、ずしりと重みが伝わる。

 

 冷たい金属。

 だが、不思議と、拒絶感はない。

 

「ライダーちゃん……よくぞやってくれましたぞ、ここからは我々にお任せください」

 

 前方で、アーチャーがその様子を見ていた。

 

「ほう……」

 

 愉快そうな声。

 

「マスター自らが銃を取るとは。これはまた、珍しい展開だ」

 

 マシンガンが、ゆっくりと持ち上がる。

 

 センサーが、三人を捉える。

 照準が、静かに収束する。

 

「さあ」

 

 不敵な笑み。

 

「Let's party!」

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