灰が降る。
枯れ葉と灰が降り積もる地面に、紗月は押し付けられていた。
「動かないでくださいね、形勢逆転ですよ」
紗月の肩甲骨が沈み、肺が押し潰される。
上にいる誠の体温は高い。さっきまで血を失っていたはずの人間の熱ではない。
「……女の子の扱いは教わらなかったみたいだね」
紗月が低く言った。
言いながら、呼吸を整える。
藍沢の血に刻まれた魔術を、最短で組み上げる。
身体強化。
瞬間出力。
筋繊維に魔力を流し込み、骨格の支点を固定する。
誠の体重程度なら、これで十分だ。
重心を崩して──投げる。
そういう術だ。
紗月の背中、皮膚の下で魔術回路が発熱した。
指先が冷え、視界が僅かに澄む。
次の瞬間。
──バン。
地面が鳴った。
紗月は両腕を跳ね上げ、誠の胸を押し返す。
関節が一気に伸び、脚力が土を抉る。
通常なら、これで相手は浮く。
胸郭が持ち上がり、重心が後ろへ流れ、身体が転がる。
だが。
誠は、動かなかった。
押し返されるどころか、重みが“増した”ように感じる。
紗月の術圧が、獣の肩に食い込み──それでも沈まない。
「……」
紗月の喉から、短い声が漏れた。
誠の両腕が、紗月の手首を地面へ縫い付けている。
指の力が異常だ。骨を掴む握力。
爪が皮膚に食い込み、痛みが走る。
誠の顔が近い。
目の奥が、熱で濁っている。
焦点が合っていないのに、獲物だけを捉えている。
人の視線ではない。
「……っ、灰原君!」
名前で呼ぶ。
先輩としての声。
だが、反応は薄い。
誠は、低い唸りのような息を吐いた。
その息が、甘く鉄臭い。血の匂いだ。
紗月は、歯を噛みしめる。
もう一度。
肘を支点に、肩甲骨を開き、瞬間的に全身を反転させる。
押してくる力を、逆に捻って落とす。
成人男性なら──簡単だ。
紗月の腰が浮き、脚が跳ねる。
身体が半回転し、誠の重心を“引き剥がす”動き。
──外れる。
外れるはずだった。
誠の腕が、紗月の動きに合わせて“ついてくる”。
いや、ついてくるだけじゃない。
獣が、獲物にしがみつくように。
誠は紗月の腹の上で体勢を変え、重心を落とし、さらに低く抑え込んだ。
地面が軋む。
紗月の背骨に、鈍い圧がかかる。
息が、喉で折れる。
「……何、それ……!」
紗月が言った。
怒りではない。
理解できないものを前にした、短い恐怖だ。
誠の力は、筋肉だけではない。
関節の強度。
筋繊維の密度。
出力に対して壊れない、異常な整合。
──紗月のように魔術で強化している訳でもない肉体では、説明のつかない出力。
紗月の視線が、誠の口元へ落ちる。
唇の端に、赤い線。
自分の血だ。
それが、誠の喉へ飲み込まれた瞬間、あの左腕が戻った。
紗月の胸が、冷たくなる。
「……バーサーカーの力、か」
呟きが漏れる。
確信ではない。
だが、仮説としては最悪の答えだった。
紗月は、手首を捻ろうとする。
だが誠の指が、さらに締まる。
骨が軋む音が、耳の奥で鳴った。
「っ……!」
痛みで視界が白くなる。
紗月は、痛みに歯を食いしばりながらも、視線を逸らさなかった。
誠の顔を、真正面から捉える。
近い。
近すぎる距離で、彼の異変がはっきりと見える。
瞳孔の開き。
呼吸の間隔。
力の入れ方──無駄がなく、獣的で、それでいて“借り物”の癖が混じっている。
「……灰原君」
声を、あえて低く落とす。
叱るでもなく、責めるでもなく──警告として。
「節操がないにもほどがあるよ」
誠の動きが、ほんの一瞬だけ止まった。
完全な停止ではない。
だが、押さえ込む力の“質”が変わる。
紗月は、その隙を逃さない。
「セイバー、キャスター、そしてバーサーカー」
一つずつ、言葉を積み上げる。
「この聖杯戦争で、君が接触したサーヴァント由来の力。異世界の歪な要素を──節操なく、取り込んでる」
紗月の声が、鋭さを帯びる。
「そんな使い方、長く保つわけがない」
押さえ込まれたまま、それでも言い切る。
「君のそれは──混線だよ。世界観も、肉体のルールも違う力を、無理やり一つの器に詰め込んでる。君の身に宿る聖杯を導管としているんだろうけれど、あまりに無茶だ」
誠の喉から、低い息が漏れた。
笑っているのか、唸っているのか、判別がつかない。
「……大丈夫です」
誠が言った。
即答だった。
「ちゃんと制御できてます。見ての通り、問題ない」
力が、さらに強まる。
紗月の手首が、地面に押し付けられる。
「馬鹿言わないで……」
紗月は、思わず息を吐いた。
苛立ちよりも、呆れに近い。
「……ああ、なるほど」
短く、乾いた音。
嘲りというより、見切りに近い笑いだった。
「自分が“扱っている”つもりになってるんだ」
誠の上から向けられる圧を受けたまま、それでも視線は揺れない。
むしろ、その目には冷静さが戻っていた。
「ねえ、灰原君」
紗月は、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「君、自分がどれだけ未熟か分かってる?」
返事を待たず、続けた。
「魔術師としても。器としても。ましてや──英雄たちと比べるなんて、笑えない」
誠の眉が、わずかに動く。
「英霊はね」
紗月の声が、低くなる。
「信仰も、憎悪も、願いも、破滅も──全部を背負って、それでもなお立ち続けた者たちだ。異聞帯とはいえ、そこは変わらない」
押さえつけられたまま、胸の奥で魔力を回す。
指先ではなく、服の内側。
「それを、ただ力として取り込んで……制御できてる、なんて?」
紗月は、はっきりと言った。
「傲慢だよ。滑稽なくらいに」
その瞬間。
──パチリ。
乾いた音が、誠のすぐ耳元で弾けた。
次の瞬間、衝撃波が炸裂する。
紗月の胸元、服の内側に仕込まれていた複数の護符が、同時に発光した。
破魔でも防御でもない。
純粋な反発衝撃だけを叩き込む、対人用の粗暴な術式。
「──っ!?」
誠の身体が、強制的に浮かされた。
獣のような力で押さえ込んでいた重心が、一瞬で破壊される。
視界が回転し、衝撃と共に背中から地面へ叩きつけられた。
──ドンッ!!
枯れ葉が舞い上がり、灰と土が夜気に散る。
紗月は、その反動を利用して身体を転がし、距離を取った。
すぐに立ち上がる。
焼け焦げた服。
護符の残骸が、はらりと落ちる。
彼女は、それを気にも留めず、手で顔の前の灰を払った。
「……ふう」
一息。
そして、誠を見下ろす。
視線は冷たい。
だが、そこにあるのは恐怖でも怒りでもない。
格付けだ。
「いい? 灰原君」
紗月は言い放つ。
「私は君を“力があるから怖い”なんて思ってない」
一歩、踏み出す。
「力を借りて、暴れてるだけの素人ほど、扱いやすいものはない」
誠の前に立ち、はっきりと告げる。
「──今から、見せてあげる」
紗月の肉体が再度、魔術によって強化されていく。
即興ではない。
長年、血と経験で磨き上げた体系化された魔術。
「魔術師としての“格”の違いを」
誠は、ゆっくりと立ち上がった。
その足元で、灰が渦を巻く。
胸の奥から溢れ出すように、黄色の狂い火が身体に絡みついた。
皮膚の表面をなぞるのではない。
骨の内側、神経の裏側から──世界の縫い目を焦がす火が滲み出る。
「……上等だ」
誠の声は低く、掠れていた。
「何度でも叩き潰してやりますよ」
次の瞬間。
大気が、歪んだ。
狂い火が爆ぜる。
熱ではない。圧でもない。
現実の解釈そのものが、乱暴に捻じ曲げられる感覚。
誠の足元から、地面が溶けるように崩れた。
だが──
紗月は、もうそこにいなかった。
踏み込み。
狂い火が膨張する、その半拍前。
紗月は、地を擦るように距離を詰めていた。
古武術の歩法。
重心を落とし、上体を沈め、力を地面へ逃がす。
同時に、身体強化の魔術。
「……っ!」
誠が気づいた時には、もう遅い。
──一打目。
紗月の掌底が、誠の鳩尾へ叩き込まれる。
魔術で瞬間的に硬化された掌が、内臓を揺さぶる。
息が、喉から抜けた。
──二打目。
肘。
鎖骨の下、神経の集束点。
視界が白く弾ける。
──三打目。
膝。
腿の内側、踏み込みを殺す一点。
誠の身体が、半歩遅れる。
「文系部での日々が懐かしいよね。私の事、文学少女だって思ってたかな」
紗月の声は、冷静だった。
殴り合いではない。
力比べでもない。
狩りだ。
誠は、反射で距離を取ろうと跳ねた。
──その腕が、木を突く。
次の瞬間。
ドンッ!!
突いた木が、内側から炸裂した。
符が刻まれていた。樹皮の下、幹の芯。
クレイモアのように、前方だけを薙ぎ払う指向性爆破。
「──っ!!」
誠は吹き飛ばされ、着地する──はずだった。
だが。
地面が、沈んだ。
踏み込んだ瞬間、土が抜け落ちる。
魔術で脆弱化された地層が、一気に陥没した。
膝まで、腰まで、誠の身体が沈む。
足が、抜けない。
狂い火が揺れる。
だが、燃やす対象がない。
紗月は、少し離れた位置で立ち止まり、静かに構えを解いた。
「ここ一帯」
淡々と告げる。
「君が目を覚ます前から、色々仕込ませてもらったよ」
倒木。
地面。
岩陰。
木々の配置。
誠の視線が、初めて揺れた。
狂い火が、焦燥を孕んで跳ねる。
紗月は、その様子を見て、わずかに眉を寄せた。
「力はある。確かにね」
だが、と続ける。
「使い方が、全部雑」
次の瞬間。
再び、距離が詰まる。
拳。
肘。
踵。
魔術で補助された古武術が、急所だけを正確に穿つ。
誠の身体が、陥没した地面の中で揺れ、崩れ、立て直せない。
黄色い揺らめきが紗月の肩口を撫で、空気の輪郭をひしゃげさせる。
だが、その火は──もう「攻撃」にならなかった。
紗月の打撃が、呼吸の継ぎ目を正確に断っていく。
鳩尾。肋間。顎の付け根。
どれも致命ではない。だが、立ち上がるための機能だけを奪う。
誠の視界で、月光が二重に揺れた。
森の輪郭が、遠のく。
「……っ」
声にならない息が漏れる。
膝が、陥没した土の縁を滑った。
倒れる、というより。
身体の中から力が抜け落ち、世界がそのまま暗転した。
──意識が、途切れる。
紗月は、数秒だけ動かなかった。
倒れた誠の胸が上下している。
呼吸は浅いが、途切れていない。
狂い火の気配も、ない。
熱が引いた後の空気だけが、ざらついて残っている。
「……よし」
呟きは小さく、森に吸われた。
紗月は近づき、陥没した地面の縁に膝をつく。
土は柔らかい。罠として組んだ“落とし”が、まだ形を保っている。
腕を伸ばし、誠の脇の下に手を入れる。
引き上げる。
成人男性の体重は、軽くない。
だが紗月は呼吸を乱さず、重心を落として持ち上げた。
掘り出す、という表現が一番近い。
土の縁から、誠の身体がずるりと抜ける。
枯れ葉と灰が、衣服に貼り付いたまま。
紗月はそれを払わず、少し平らな場所へ横たえた。
首筋に指を当てた。
脈はある。
次に、瞳。
瞼は閉じたまま、反応は薄い。
「……ほんと、最悪な気分」
言い捨てるように呟き、立ち上がった。
「……アサシン。応答して」
返事はない。
もう一度。
「対象は確保。殺害手段が必要。応答して」
紗月の周囲に淡い光が走る。
だが、返ってくるのは──沈黙だけだった。
小さく舌打ちし、護符を握り直す。
戦闘中。
それも、相当な規模で。
繋げば繋ぐほど、こちらの位置を晒す可能性がある。
紗月は一度だけ目を閉じ、判断を切り替えた。
「……まだ、か」
紗月は静かに息を吐いた。
誠は動かない。
だが、完全に安全とも言えない。
狂い火は沈黙しているが、あれは“消えた”わけではない。
意識が落ちている今は、ただ潜んでいるだけだ。
──次に目を覚ました瞬間、何が起きるか分からない。
紗月は立ち上がり、周囲を見渡した。
倒木。
折れた枝。
地面に半ば埋もれた岩。
焦げ跡の残る木々。
「……ロープはない。拘束符も、さっきのでだいぶ使っちゃった」
呟きながら、視線を巡らせる。
完全な拘束には、物理的な“枷”が欲しい。
手頃な蔓。
裂けにくい枝。
最悪、衣服を裂いて縛るか──
その時。
ふっと。
空気が、変わった。
森を満たしていた湿った夜気が、一瞬だけ押し流される。
葉擦れの音が、同時に止んだ。
──風。
一陣。
意図を持ったかのように、木々の間を抜ける風。
紗月は即座に身体を強張らせ、誠の前に立つ。
視線が、木陰へ跳ねた。
そこに──
いつの間にか、男が立っていた。
金髪。
月明かりを弾く黄金。
そして、赤い瞳。
夜の森の中でなお、はっきりと浮き上がる異質さ。
年の頃は二十代前半。
細身だが、姿勢に一切の隙がない。
腕は組まれていない。
武器も、見えない。
それでも。
──不遜。
そう形容するしかない立ち方だった。
まるで、ここが自分の庭であるかのように。
あるいは、すでに勝敗が決しているかのように。
紗月の脳裏に、即座に映像が重なる。
黒野本邸。
応接間。
黒野恒一郎と共にいた男。
「何の用?」
紗月は、一歩も動かずに口を開いた。
問いは短い。
声も、冷えている。
金髪の青年は、わずかに口角を上げた。
笑み、と呼ぶには感情が薄い。
確認と、侮りの中間。
「
青年は、ゆっくりと歩き出した。
枯れ葉を踏んでいるはずなのに、足音はほとんどしない。
力を抜き切った所作。
それでいて、近づくほどに空気が重くなる。
生きている人間の気配ではない。
だが、死者とも違う。
──枯れ木。
水気を失い、折れる寸前でなお直立する、歪な存在。
金髪の青年は、視線を誠から外さずに言った。
「アサシン──あれの魔剣ならば、不死者であろうと無傷では済まぬだろう。対不死者として、あれほどの適任もおるまい」
淡々とした評価。
誇張も、皮肉もない。
事実として“認めている”声音だった。
「肉体再生、血肉の巻き戻し、概念寄りの修復……いずれも例外ではない」
赤い瞳が、わずかに細まる。
「正しく当たれば、な」
紗月の眉が、ぴくりと動いた。
「……だから、なに?」
声に、怒気が滲む。
「貴方たち、黒野が取り仕切る聖杯戦争のルールに則って戦っているわ。なにか文句でも……」
言い切る前に、青年が一歩、距離を詰めた。
それだけで、空気が軋む。
「勘違いするな、小娘」
低い声。
乾いているのに、異様に通る。
青年は、誠の傍らに立つ。
倒れ伏す身体を、見下ろすようでいて──見ていない。
視線は、もっと奥。
誠の内側、その“歪み”へ向いていた。
わずかに、首を振る。
「灰原誠を、今ここで殺すことは赦さん」
その言葉が落ちた瞬間。
紗月の中で、何かが弾けた。
「……は?」
一歩、踏み出す。
魔力が、自然と立ち上がる。
「何様のつもり?」
声は低い。
だが、完全に怒っていた。
「監督官のサーヴァント、あなたに何の権限があるって言うの?」
迎撃の構え。
間合いに入れば、即座に打つ。
──その瞬間。
青年が、ほんの僅かに眉を動かした。
「黙れ」
たった、それだけ。
声を張ったわけでもない。
威圧したわけでもない。
それなのに。
紗月の喉が、強制的に閉じた。
言葉が──止まる。
魔力の流れが、一瞬、乱れる。
符が、空中で意味を失い、落ちた。
「……っ」
歯を噛みしめるが、身体が動かない。
青年は、紗月を見た。
見下ろすのではない。
対等ですらない。
まるで、枯れ木が若木を見下ろすような──
生の密度そのものが違う視線。
「不敬だな」
静かな断定。
「力を振るった直後で、感情が先走るのは理解する」
赤い瞳が、冷たく光る。
「だが、それでも言葉を選べ。我に向ける声ではない」
紗月の拳が、震える。
屈辱。
怒り。
だが、それ以上に──理解不能な“格差”。
「……何者なの、一体何が目的だっていうの」
絞り出すように言う。
青年は、ようやく小さく笑った。
それは、嘲りではない。
諦観に近い、枯れた笑み。
それが、王の所作だった。
「よかろう」
乾いた声が、森に落ちる。
「
その名が発せられた瞬間、紗月の背中を冷たいものが走った。
世界最古の物語、ギルガメッシュ叙事詩に記された王。
古代ウルクを統治した半神半人の英雄王。
だが、眼前の存在は──知識の中のそれと一致しない。
金の輝きに、熱がない。
王者の傲慢に、生命の湿りがない。
枯れ木のように落ち着き、黄金のように不遜で、そして歪だ。
青年は、間を置かずに言い足した。
「しかし、お前の知る正史の存在ではない」
赤い瞳が、わずかに細まる。
面白がっているわけではない。
“当然の事実”を告げる目だ。
「食い殺してやったのだ、不敬な蛇をな」
言葉が、淡く刺さる。
「完全なる世界線──死を超越した王」
紗月の呼吸が、一拍遅れた。
魔術師として積み上げた理解が、頭の中で組み替わる。
世界線。異聞。分岐。
理屈は立つ。前例なら、既に身近に何人もいる。
「……最初の、不死者……?」
呆然とした声が漏れる。
自分が、そんな声を出したことに紗月自身が一番驚く。
青年──ギルガメッシュは、その反応を気にも留めなかった。
興味がないのだ。
紗月の驚きも、怒りも、理解も。
彼にとって重要なのは、目の前の“器”だけ。
ギルガメッシュは踵を返し、誠の方へ歩いた。
灰を踏む。
枯れ葉を踏む。
けれど、音は薄いまま。
「……待て!」
紗月が叫ぶ。
喉がきしむ。無理やり声だけを通した。
「触るな!」
しかし、ギルガメッシュは止まらない。
まるで、虫の鳴き声でも聞き流すように。
誠の傍に膝をつく。
横たわる身体の上に、月光が斑に落ちる。
ギルガメッシュは、誠の首元──血が滲んだ痕跡へ視線を落とした。
次に、腕。
再生した左腕の皮膚の色。筋の走り。指先の微かな痙攣。
「……滑稽だな」
それは、紗月へではない。
誠へでもない。
「お前には、まだまだ働いて貰わねばならん」