東方雷狼竜   作:NO!

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雷狼竜、人里へ

 三時間後。快晴の昼間。ここは妖怪の山から数十キロ離れた先にある街、人里。その街は昔の東洋の島国にある街を思い出させ、昔の雰囲気を醸し出させるかのような街並みだ。

 家の造りや大半は木造平屋で、それが全て軒を重ねている。中には、八百屋、肉屋、蕎麦屋、豆腐屋などの店があり、服屋などの日常に必要な物が売ってる店もある。子供達が勉学する寺子屋、他の建物よりも広大な屋敷も建てられていた。

 そして、人里には沢山の人間や、ごく僅かに妖怪達がいる。

 

「っ……」

 

 そんな人里の街中に、しかめっ面で人々(通り過ぎる人もいれて)を見据えている者がいた。

 その者は長袖の黄色シャツの上に水色のベストを着ていて、水色の長ズボンを穿き、スニーカーに近い黒い靴を履いていた。その人物は青年。そして、その青年の名はジンオウガ。

 そして、そのジンオウガの前には椛がいる。二人は人里を歩いていた。

 何故、二人は人里に来たのかは、椛は食材の買い出しとジンオウガを案内する為だった。因みに椛は空を飛べるが、ジンオウガを抱えながら飛んでいた。

 しかし、ジンオウガは椛よりも背が高く重い為、人里に着くまで時間が掛かってしまった。

 因みにベストと黒い靴は椛が選んだ物である。

 

 話を戻そう。ジンオウガは人々を見ながら、椛に従いていくように歩く。

 

「ジンオウガ?」

 

 そんなジンオウガに、椛は立ち止まる。ジンオウガは椛がいきなり立ち止まった事で驚き止まる。

 

「な、何だよ?」

 

 ジンオウガは椛に訊くが、椛はジンオウガを見る。だが、椛はジンオウガに疑問を抱いている。

 

「どうしたんですか? そんなにオドオドして」

 

 椛はジンオウガに問う。

 

「い、いやーーその……」

 

 ジンオウガは落ち着かないのかオドオドしながら髪を掻く。

 何故なら、ジンオウガは人里にいる事、周りに人間達がいる事に戸惑いを隠せなかった。反面、警戒している事は椛は知らない。

 

「…………」

 

 一方、椛はジンオウガを見る。ジンオウガは何かに警戒しているが、ジンオウガは椛に。

 

「何で俺達は、俺達がいた場所(妖怪の山)を数時間も飛んで、何でここ(人里)に来なきゃ行けないんだよ?」

 

 ジンオウガは戸惑いながら、椛に言う。仕方なかった。ここは人里。人間達が住んでいる場所。無論、ジンオウガは人間が嫌いで憎いのだ。彼等は狩人(ハンター)達と同種でもあり、ジンオウガにとって人間達に怒りと恐怖、仲間達の仇にしたいと云う強い気持ちで一杯だった。

 しかし、そんなジンオウガの気持ちを椛は解る筈もない。椛はジンオウガに呆れながら。

 

「仕方ないじゃですか、大天狗様は今日は不在で、にとりは貴方の武器に興味を持ち、他の人達は忙しい上、守矢の方々もいない」

 

 椛は腕を組むが、言葉を続ける。

「今日は紹介したい人達が皆多忙の為、それに食材も底を尽きそうで、食材の買い出しもしなきゃいけませんから」

 

 椛は手ジンオウガに指摘する。

 

「っ!?」

 

 一方、ジンオウガは下唇を噛むも、椛は言葉を続ける。

 

「貴方が何故苛ついているかは解らないが、早く買い物を済ませましょう」

 

 椛はジンオウガにそう言いながら、歩き始める。一方、ジンオウガは「ぐっ!」と苛立ちを隠せないように唇を噛むと、椛に従いていくように再び歩く。

 

 一時間後、ジンオウガは両手に二つの布袋。椛は片手には一つの布袋を持っていた。その理由は、ジンオウガと椛は店での買い物を終えた為だった。

 最初は八百屋、次は肉屋や魚屋などで食材を買い。その次は日常生活に必要な物を買っていた。歯ブラシ、洋服などの日常品。

 そしてそれは、椛がジンオウガの為に買った物だった。ジンオウガと椛は互いに肩が触れるくらい、人里の中を一緒に歩いている。

 

「な、なあ犬走?」

 

 ジンオウガは椛に訪ねる。

 

「何でしょうか?」

 

 椛はジンオウガを見た後に答える。

 

「これよ、何だ?」

 

 ジンオウガは不思議そうに両手に持っている布袋を軽く掲げるように上げる。

 

「ジンオウガ、それは貴方のです」

「俺の?」

 

 椛は軽く頷く。

 

「はい。それは貴方の着るべき服が入っています」

「服が?」

「はい。それは貴方にとって、着る物に困らないでしょ?」

 

 椛は笑顔で答える。そう。ジンオウガが持っている物はジンオウガの服。椛が給料でジンオウガの日常品を買ったのだ。それはジンオウガの為であり、ジンオウガが困らないように気遣ったのである。一方、椛を見たジンオウガは首を傾げる。

 

「さあ、早く帰りましょう」

 

 椛はジンオウガに微笑みながら歩く。

 

「お、おい」

 

 ジンオウガは椛の後に続くように歩く。二人は妖怪の山に戻る為に、人里の出入口を目指す。

 

「あら?」

 

 そんなジンオウガと椛の二人が人里を歩いていると、二人に気付いた者達がいた。

 

「あれは、椛さーーん!」

「「?」」

 

 ジンオウガと椛は声がした方を見た。その先には、一人の女性と二人の少女。その内の一人の少女は椛とジンオウガに対して手を振っていた。

 

 三人の内、一人の女性は腕を組みながら笑っている。その女性は紫がかっている青髪に左右に広がったボリュームのあるセミロング。冠のようにした注連縄(しめなわ)を頭に付けており、右側には赤い楓と銀杏の葉の飾りが付いている。茶色に近い赤い眼。

 背中に、複数の紙垂を取り付けた大きな注連縄を輪にした者を装着している。服は赤色の半袖の上着、下にはゆったりとした白い長袖の服を着ていて、臙脂(えんじ)色のロングスカートを穿き、草履を穿いている。首元、上着の袖、腰回り、足首には小さな注連縄を巻いている。そして、胸には黒い鏡が付いている首飾りを付けていた。

 

 女性の名は八坂(やさか)神奈子(かなこ)。神様。守矢にいる二人の神の一人。

 

 二人は三人の内、少女よりも少し高く、神奈子よりも少し低い、まだ幼さが残る少女。その少女は金髪のショートボブに琥珀色の瞳。青と白を基準とした壺装束(つぼしょうぞく)。白のニーソックスを穿き、黒い革靴を履いていて、

 目玉が二つ付いている特殊な市女笠(いちめがさ)を被っている。

 

 少女の名は洩矢(もりや)諏訪子(すわこ)。少女であるが神様。守矢の神様の一人。

 そして、諏訪子と神奈子の間にいる十代後半の少女。その少女は、胸の位置まである緑のロングヘアーで髪の左側を髪留めで纏め、前に垂らしている。周りを見る事が出来る翡翠色(ひすいいろ)の瞳。白地に青の縁取りがされた上着、水玉や御幣(ごへい)のような模様が書かれた青いスカートが特徴的な巫女装束を着ている。

 少女の名は東風谷(こちや)早苗(さなえ)。人間であり守矢の巫女。

 

 そして、神奈子、諏訪子、早苗の三人は妖怪の山の頂にある守矢神社の者達でもある。

 

「神奈子様、諏訪子様、早苗さん」

 

 椛は三人に気付き、守矢の面々の下へと歩く。

 

「お、おい!?」

 

 ジンオウガは椛を呼び止めるも、椛は守矢の面々の下へと歩き続ける。

 

「いぬ……っ」

 

 ジンオウガは下唇を噛むと、椛の後を追うように歩く。椛は、ジンオウガは後から守矢の面々の下へと着く。

 

「皆さん、どうして人里に?」

 

 椛は早苗、神奈子、諏訪子に訪ねる。すると、三人はジンオウガを見る。

 

「椛さん。この人は?」

 

 早苗は、椛の近くにいるジンオウガを見て、椛に訊く。

 

「ぐっ!」

 

 ジンオウガは表情を険しくする。早苗が人間である為に。

 

「?」

 

 椛はジンオウガを見た直後に、早苗を見ると。

 

「彼はジンオウガ。訳あって、私の所で住んでる者です」

「ふ~ん。こんにちは、私は東風谷早苗、守矢神社の巫女をしています!」

 

 早苗はニッコリと明るく言いながら、ジンオウガの下へと歩み寄る。

 

「っ!?」

 

 ジンオウガは早苗に驚く。何だ、この人間は何だ? と。ジンオウガは早苗の行動に不信感を抱く。

 

「ジンオウガさん?」

 

 早苗はジンオウガの様子に疑問を抱く。神奈子と諏訪子はジンオウガの様子に疑問を抱き、互いの顔を見合わせた後、ジンオウガを見た。

 

「ジンオウガ」

 

 すると、椛がジンオウガを呼ぶ。ジンオウガは椛を見る。

 

「どうしたの?」 

「っぐ……」

 

 ジンオウガは戸惑いを感じていた。椛、神奈子、諏訪子は兎も角、早苗と云う人間の少女。彼女だけはどうしても好きになれず、話し掛ける事さえも出来ない。

 そうだろう。彼女は自分(ジンオウガ)を殺した憎き人間の仲間であり、憎悪の対象。自分が言うのもあれだが、そんな彼女を見れば、いや、人里にいる人間達を見たら、人里で暴れかねない。

 ジンオウガは下唇を噛みながら、椛、神奈子、諏訪子、早苗の四人から視線を逸らす。

 

「ジンオウガさん?」

「っ!?」

 

 ジンオウガは眼を見開きながら、早苗を見る。早苗はジンオウガマジマジと見ている。

 

「ジンオウガさん、貴方は何処から来たんですか!?」

 

 早苗はジンオウガに訊く。一方、ジンオウガは冷や汗を流しながら、早苗から後退りする。

 

「ジンオウガさん、どうしましたか?」

 

 早苗は今度はジンオウガに近付く。その距離は僅かゼロに近く、互いの鼻がくっ付くくらいだ。

 

「うっ!?」

 

 ジンオウガは慌てて後退りすると、椛の後ろに隠れるように移動する。

 

「どうしましたか?」

 

 椛はジンオウガを見ながら問う。

 

「…………」

 

 ジンオウガは冷や汗を流し、表情を険しくしながら、早苗を睨む。人間、人間だ。自分(ジンオウガ)を狩り殺した狩人(ハンター)達の仲間、同種。

 ジンオウガは早苗が人間である事に気付いたのだ。それはジンオウガに警戒、恐怖、憎悪を大きくし、今すぐ攻撃した欲望に駆り立てていた。

 

「…………ッ!」

 

 が、ジンオウガは唇を噛み締める。何故か解らないが、暴れたい気持ちを抑えていた。

 それは誰かの為か、或いは……。

 

「ジンオウガ?」

 

 そんなジンオウガに椛は気にし、ジンオウガに訊く。

 

「どうしたんだ?」

 

 椛はジンオウガを見つめる。その表情は心配そうであり、ジンオウガを気にするかのように。

 

「犬走……」

 

 ジンオウガは悲しい眼をしながら、椛から眼を逸らす。言える筈もない。自分は雷狼竜であるのと人間に殺された。

 それも人間である早苗が苦手など、言える筈もなかった。ジンオウガは下唇を噛みながら震える。椛はジンオウガに疑問を抱き。

 早苗、神奈子、諏訪子もジンオウガの様子に不信感を抱いていた。

 そして、人里にいる者達はジンオウガを気にする者、気にせずに通り過ぎる者達に別れていた。

 そして、五人はその場を動かず、五人の周りには沈黙が流れていた。




 
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