東方雷狼竜 作:NO!
ジンオウガが覚醒し、刃と短い死闘をしている間、遥か東側の森の中に建てられている博霊神社。その神社の本殿とは別に建てられている巫女宅。
「…………」
その巫女宅の一室、和室には簞笥に丸い机が置かれていて、一つの布団が敷かれ、二人の少女がいた。一人は正座しているが、近くには水の入っている気の桶が置かれている。もう一人の少女は敷かれている布団で眠っているように気を失っていたが、額には湿っている白い布が置かれている。
「……ふぅ」
正座している少女は溜め息を吐く。そして、少女は博霊霊夢、博霊神社の巫女だった。霊夢は、布団で横になっている少女を見つめていた。しかし、布団を出したのは霊夢だった。
最初、霊夢は少女を巫女宅の和室にまで運んだ。そして、直ぐに布団を敷き、その後に少女を布団に寝かした。
その後に外に出ると、少女と共に現れた武器を拾うと、巫女宅に戻り、少女とは別の部屋に置いた。その後、土間にまで行き、木の桶と白いを用意し、木の桶に白い布を入れた後に水を入れると、少女がいる和室へと戻った。そして、少女の着ている物を全部脱がすと、白い布で少女の身体を拭いた。
身体の隅々まで拭き終わると、簞笥から自分の寝間着同然の白装束を取り出し、それを少女に着させると、少女の身体に布団を掛けた。白い布と水が入っている木の桶と、少女の着ていた服を持って和室を出ていき、少女の服を浴室に置き、木の桶に入っている水を取り換える為に土間に向かい水を取り換えると、和室へと戻った。その後、布団の横に正座すると、木の桶を横に置き、水が含んでいる白い布を両手で搾ると、布を少女の額の上に置いたのだ。そして、今に至る。
話を戻そう。霊夢は少女を見つめる。少女は眠り続けているように気を失い続けていた。
「はあ……」
霊夢は軽く溜め息を吐く。そうだろう。何時もなら境内での掃除を済ませ、縁側で茶を啜り、夜になれば就寝、という形で一日が終わる。が、それは同じ繰り返しみたいな毎日なのに、今日は見知らぬ少女と見た事もない武器が現れたのだ。
つまり、霊夢にとって異変が起きる前触れとしか思えない。だが、布団の中で眠っている少女が何かの異変を起こすのであれば、本来の仕事である異変解決の為に動かなければならない。
しかし、その少女は傷だらけ、無防備の形で眠っているように気を失っているならば話は別だ。少女は何かの異変を起こす前に身体中が傷だらけであり、異変を起こす前に倒れる事は誰の眼から見ても明らか。ならば、少女を保護し手当し、少女から異変を起こすか起こさないかを聴くのと、何処から来たのかも訪ねなきゃならない。
まあ、大抵は知り合いのスキマ妖怪、紫が知っている事だがーーそれに、少女を連れてきたのも紫かもしれないし、紫なら何かを知っているのであろう。
霊夢はその事を紫から訊こうと思ったが、今は少女が気が付くのを期待し、異変を起こさない事も期待していた。
「う……」
すると、気を失っている事で穏やかな寝顔に近い表情をしていた少女が眉間に皺をよせながら弱い声を上げる。
「あっ!?」
霊夢は少女が気が付くのではないかと思い、少女の顔を覗き込む。少女は眉間に皺をよせながら首を軽く左右に振ると、ゆっくりと眼を開ける。
「う、ん……」
少女は目の前がボヤけているのを感じていた。そして、少女が最初に見たのは茶色い天井と霊夢、それが少女にとって初めて見る物でもあった。が、少女は霊夢を見る。
「っ!?」
直後、少女は霊夢を見るや否や眼を見開きながら起き上がる。が、少女の身体を覆っていた布団が少女が起き上がった事ではねのけられ、額に置かれていた布が落ちる。しかし、少女は起き上がった直後、自分の手を見て戦慄が走る。
「えっ!?」
少女は自分の手を見て驚きを隠せない。そうだろう。少女は人間を憎み嫌っていた。その理由は、少女は最初、人間ではない。少女は、元は雌火竜・リオレイアの生まれ変わりだったからだ。それ故、少女は自分が竜の時、
しかし、その自分は今、憎むべき筈の人間になっている。それは少女にとって信じられない事、絶望としか思えなかったのだ。
「ちょっと?」
すると、霊夢は少女に訊く。
「ひっ!?」
少女は霊夢は見て驚くと、座ったまま後刷りする。
「ちょっと!?」
少女に手を伸ばそうとするも、少女は霊夢から離れるように後退りしていた為、無理だった。
そして、少女は霊夢から離れながらも後ろから何かにぶつかるも、それは壁だった。それでも、少女は霊夢を見ながら。
「来ないで、来ないで!!」
少女は自分の身体を抱き締め震わせつつ眼に涙を浮かべながら、霊夢を拒絶する。それは何かに怯えている事を意味している。それは霊夢には判らないが、少女だけが判る事だった。
「大丈夫なの?」
そして、それを見た霊夢は不信感を感じつつ、身体を震わせている少女を慰める為に立ち上がり、少女に近付くと、少女に手を伸ばす。
「嫌っ、来ないでーーッ!!」
少女は泣き叫びながら、霊夢の手を払い除ける。
「つ!?」
霊夢は少女を見て焦る。無理もない。今の少女は自分を殺した人間に恐怖を抱いている。それに少女は人間になっている事を理解せず、驚愕している。つまり、今の少女は錯乱状態に陥っている事も意味している。それでも、霊夢は少女の震えている理由は解らなかった。
「っ……あっ!」
霊夢は困惑するも何かを思い出し、懐からある物を取り出し、それを少女に見せる。
「ねぇ……これは、解るかしら?」
霊夢は恐る恐る持っている物を少女に見せながら、少女に問い掛ける。これなら解るだろう、と。
「あっ!?」
少女は震えながら、霊夢の持っている物を見て眼を見開くと、それを霊夢から取り上げるように素早く奪う。
「ちょっ!?」
霊夢は少女の行動に驚くも、少女はそれを手のひらで持つように見つめる。そして、霊夢が懐から出し、少女が大切そうに持っている物は、紅い輝きを放っている紅玉が付いている首飾り。
そして、それは少女にとって大切な物であり、大切な人の遺品でもあった。少女は首飾りに目玉とも言える紅玉を見つめ続ける。
「……レウス……」
少女は紅玉を見つめ続けながら再び嗚咽を上げる。
レウスーーそれは火竜・リオレウスの事。そして、少女がリオレイアの頃の大切な恋人だった。しかし、そのリオレウスはリオレイアを護る為に、ある竜と闘い、敗死した。
そして、その出来事は少女の心に大きな傷を作る原因を作り、人間に狩られると云う切っ掛けをも作ってしまう。
「レウス……レウ、ス」
話を戻そう。少女は紅玉を見据えつつ泣きながら、亡き恋人の名を呟き続ける。
「ねぇ?」
一方、霊夢は少女に掛けてやる言葉が見付からず戸惑う。少女の名は何なのか? 何故、少女は泣いているのかも解らないからだった。しかし、霊夢は再び少女に対して手を伸ばそうとするも、少女は霊夢に気付くと。
「触らないで!!」
少女は叫ぶ。それを聞いた霊夢はたじろぐ。
「っ……」
霊夢は困惑する。が、少女は泣きながら、霊夢を睨む。だが、霊夢は諦めないかのように。
「ねぇ、貴女は誰なの? 何処から来たの?」
霊夢は少女に訪ねる。しかし、少女は鋭い視線を霊夢に向けたまま何も答えない。
「ね……」
「それは私が説明するわ」
霊夢は再び少女に訊こうとして何かを言い掛けた直後、霊夢の近くからピンク色のリボンが付いている綴じ目が現れ、綴じ目から声がする。
霊夢と少女は綴じ目を見るも、綴じ目は開き、そこから黒い亜空間に無数の眼が見える。
そして、中からスキマ妖怪、八雲紫が現れた。
「紫……」
霊夢は不信感を抱きながら、紫の名を呟く。しかし、それも当たり前だろう。少女を連れてきたのは紫かもしれないからだ。無論、それは紫から訊けば良いだけ。霊夢は紫を睨み付ける。紫がスキマから出てくると、スキマは閉じ、綴じ目は自然と消えた。
「霊夢、私を睨まないでよ~?」
紫は霊夢に言う。
「誰なの、あんたは?」
一方、少女は霊夢だけでなく紫も睨みながら、紫に訪ねる。そして、紫は少女の呼び掛けに答えるように少女を見る。が、紫は喜びの表情をしていた。
「貴女が雌火竜、リオレイアかしら?」
紫は少女の事を知っているかのように、少女の名を言う。それを聞いた少女は耳を疑い、眼を見開く。しかし、少女は紫が何故、自分が竜だった頃の名を知っているのかは解らなかった。そして、紫は懐から扇子を取り出すと、扇子を開き、扇子を扇ぐ。
「紫?」
霊夢は紫の言葉に疑問を感じる。だが、霊夢は少女の名を知っている紫に疑問を感じていた。
しかし、紫は少女を知っているとしたら、少女を連れてきたのは紫であり、少女が何処から来たのかも知ってる筈。霊夢は紫に訊こうとしたが、紫は霊夢を見るも、紫は笑みを浮かべながら。
「まあまあ、霊夢、ここは私に任せてくれないかしら?」
「どういう事よ?」
紫の言葉に、霊夢は疑問を抱く。そして、紫は少女を見ると、少女の前に座る。
「貴女、リオレイアよね?」
「…………」
少女は紫を睨みながら何も言わない。
「そんなに睨まなくたって良いわよ? 私達は貴女をどうこうするつもりはないわ」
紫は少女を安心させる為に少女を気遣うような事を言う。そして、少女は紫を睨み続けながら。
「貴女は誰なの? 此処は何処? それに何故、私の名を知っているのよ?」
少女は不意に口を開く。そうだろう。少女は
「ええ。私は貴女の事を知っているーーそして、貴女の大切な
「!?」
紫が言葉を述べると、少女は驚きを隠せない。しかし、霊夢も驚きを隠せないでいた。が、紫は自分の顔の右半分を扇子で覆い隠す。
「勿論、貴女が私の言う事を聞いてくれるなら、ね?」
紫はうっすらと不敵に笑う。しかし、紫の言葉に少女は何も言わない。
「紫……」
そして、霊夢も紫の言い分に何も言わなかった。仕方ない。霊夢も少女の秘密を知りたいと思っていた。本当なら、紫を問い詰めるのが先だが、少女の事もあり、少しでも少女の正体を知りたかったからだ。
霊夢、紫、そして、紫に“リオレイア”と呼ばれた少女。二人の少女は一人の女性の真実を知りたそうだった。一人は正体を、もう一人は自分が人間となっている理由を。
そして、二人の少女と一人の女性の間には重苦しい空気が流れていた。しかし、それを和ませる意味で断ち切る事が出来るのは、紫だけ。