東方雷狼竜 作:NO!
まだ肌寒い季節の中、ここはとある世界の山の中。
天気は快晴で、雲が一つもない青空だったが、その山は全体は緑色に覆われている。
無理もない。山だからだ。
それに緑色だと云う証拠は、山には沢山の木が生えているから。
木は秋にはオレンジや黄色などの鮮やかな色に変わり、冬は葉がなくなり、春は桜に変わる。
しかし、それは木が決め、自然が決める事、人間や生き物達が決めるではない。
そんな山の中には、人や生き物の唯一の希望であり、人が生きる為に必要な水が豊富にある川が流れていた。
川の色は無色で澄んでいて、汚い、と云う言葉とは似つかわしくない。
そして、川の中には魚が泳いでいて、魚にとって綺麗な川が楽園そのもの。 無論ーー天敵がいるのは余計だが。
そんな川の奥には、川の源であろう滝が流れていた。滝は岩と岩の間を流れており、触れるだけでもとても痛い。
だが、それが川を作る役目をする滝だからか、あるいは自分の邪魔をさせない為にあるのだろうか。
「香車を前進」
そんな滝の裏側には、僅かながらに大きな穴があり、その中には、二人の少女がいた。
一人は、ウエーブの掛かった外バネが特徴な青髪に、赤い珠が幾つも付いているアクセサリーでツーサイドアップにしていて。サファイア色の瞳。白いくねくねとした物が刻まれている緑色のキャスケットを被っている。
服は白いブラウス、肩にポケットがある上着、裾には沢山のポケットが特徴的な青いスカートを穿いていて、胸元には紐で固定した鍵がある。青い長靴を履いていて。背中にはリュックサックを背負っていた。
少女の名は
向かい側には、白い耳と白い尻尾があり、白い髪と赤い眼をしていて、綿が付いている小さな赤い被り物、裾がない和服に近い白い服を着て、赤い刺のような物が描かれている黒い袴を穿いていて、赤い下駄を履いている少女が座っていた。
少女の近くには剣と、紅葉の葉が描かれている盾が置かれている。
そして、少女の名は
そして、椛とにとりは正座しながら大将棋をしている。無論、まだ互角だが。
「では私は、飛車を右の隅にまで動かすね?」
にとりは飛車と書かれている駒を隅にまで動かす。
「あ、後ろががら空きだ」
椛は目を見開くも、飛車の前には後ろを向けている香車の駒がある。
香車の駒は裏返すまでのコマまでは行っておらずピンチだった。
次は椛の番だが、香車を少し動かせば、香車は
しかし、そうなっても、飛車に奪われるからだ。
それは、飛車にとって香車を奪うまたとないチャンスを意味していた。
「ふふっ、椛は飛車の存在を忘れていたね?」
にとりは腕を組みながら不敵に笑う。それを見た椛はしまったと思いながら頭を掻く。
「う~ん、私は香車が先に行くと思っていたから」
椛は口元に手を当てながら考えるも、にとりは笑った。
「ふふっ、椛は先を考えてはいないからだよ?」
「それはそうですけど……!?」
椛は眼を閉じる。が、直ぐに何かに驚いて眼を見開く。
「? どうした、椛?」
それを見たにとりは椛に訊いた。しかし、椛は滝の方を見た。
滝には何も異変はないが、椛は置いてある剣と盾を持ちながら立ち上がった。
「椛?」
にとりは椛の行動に不信感を抱くも、椛は滝の方を見ながら言った。
「ごめんなさい、勝負は御預けにしてくれませんか?」
「えっ?」
にとりは眼を見開くも、椛は眼を細めながら、にとりを見た。
「この妖怪の山に侵入者が!」
椛はそう言い残すと剣と盾を持ちながらその場を走り去った。
後ろからにとりの叫び声が聞こえるも、椛は背中で受け止めるように聞く耳を持たなかった。
一方その頃、滝が流れている川の一キロ先。そこは川が流れているが、少し離れた向かい側や反対側には沢山の樹木が生い茂っている。
そして、川と樹木の間にある地面は土だけではなく、沢山の小石がある川辺だ。
そして、その場所には眼を閉じたまま横向けに倒れている人物がいた。
「うん……あっ」
その人物は目を覚ました。しかし、目の前が明るく、そして空が眩しいのを感じながら微かに目を開ける。
空には大きな太陽に、周りには雲が一つもない青い空が広がっていた。
「うん? ……えっ!?」
その人物は眼を見開きながら起き上がった。左目が見える。あの時、ボウガンの弾をモロに食らった筈。
あれは失明してもおかしくはなかった。しかし、その人物は左目に激痛を感じていた筈だった。だった筈……だ。
それは、彼がジンオウガの時に。そして、彼がジンオウガ自身である事に。
しかし、ジンオウガはそれ以上に驚いたのが。
「えっ!?」
ジンオウガは驚くも、更に驚くべき事がある事に気付く。それは、手に、ある玉を握っている事に。
「あっ!?」
それは蒼い輝きを放っている玉、雷狼竜の碧玉。それも仲間の物。
それに大人の頭くらいの大きさの物ではなく、大人の
「うげっ!?」
更に驚くべき事がある。それは自分の身体に。
「えっ、えっ!?」
ジンオウガは自分の身体を見て驚くも。ジンオウガは慌てて立ち上がると、近くの川に駆け寄り、僅かながらも川の水面を鏡代わりにして、自分の顔を見た。そして驚いた。
「あ……ああ!!」
ジンオウガは自分でも信じられないかのように人間になっていた。それも十代後半の青年に。
少し長めの水色の髪に澄んだ黒い瞳。スリムだが筋肉が少し付いている身体をしていた。
それに服を着ている。上は、胸元が見えるくらいの水色の長袖のシャツで、襟からシャツの端から端までは黄色く、両前腕だけは麦に近い黄色。中には白いシャツを着ている。
下は上と同じ水色の長いズボンだが、膝から足首までは黄色く、靴も黄色い。
おまけに、頭の両側にはジンオウガの角を模した二本の鋭角を模した髪飾りを付けている。
「あ、ああ!」
ジンオウガは自分の服を、髪を、肌を触って違和感を覚えた。
自分は人間になっている。自分を殺した人間になっている。
それはジンオウガにとって仰天そのもの。自分はどうなっているのかも解らないでいた。
「そんな、何が!?」
ジンオウガは自分の身体を触り続ける。するとさっきの場所に、ある物が落ちている事に気付く。
「……?」
ジンオウガはそれを見た。それは、縦長い刀、太刀と云う武器。
ジンオウガは知らないが、太刀の鞘は全身が蒼く、上から下まで距離を取るように刻まれている黄色い点々に、
先端は爪が赤い黄色い手を模した物があり、周りには白く鋭い毛のような物が生えており、更に赤い布のような物が二本も巻かれて、それが紐のようになっていた。
柄には蒼と赤を二重捲きにするように模していて、中央は黒い。柄と鞘の繋がっている部分は四本の細長い指が鞘を掴んでいるように造られていた。
「これは……」
ジンオウガは太刀に近づき跪くと、太刀の鞘に手を伸ばし、触った。
「!?」
直後、ジンオウガを何かを感じると共に何かが脳裏に過るのを感じた。
それは何か懐かしいのと同時に何かの悲鳴、獣逹の悲鳴が聞こえたのも感じた。
「っ!?」
ジンオウガは一瞬、下唇を噛みながら涙を浮かべる。
間違いない。
「…………」
ジンオウガは今度は手の中にある碧玉を見つめた。
碧玉は未だに蒼い輝きを放っているが、ジンオウガは太刀を掴むと、両手にある碧玉と太刀を強く抱き締めた。
これは亡き仲間達の遺品。つまり、仲間が死んだ事を教えている。
さっきの悲鳴も仲間達の無念、怒り、悲しみそのものを表している。仲間である故に。
「グウゥ……!」
ジンオウガは表情を険しくする。許せない、人間共め一人残らずブチ殺してやる、と思っていた。
「ごめんよ、皆」
ジンオウガは微かに呟いた。遅いかも知れないが、仲間に詫びの言葉を口にする。
しかし、無念を晴らしたいと云うジンオウガ自身の気持ちでもあった。
「……でも」
ジンオウガは周りを見渡す。渓流であるにも拘らず、生き物の声が一つも無く、気配さえも感じない。
そして、ジメジメすると云う感覚さえもある。
「暑い、何処なんだ、ここ?」
ジンオウガは暑さを感じていた。人間だからだろうか。そして疑問を抱く。ここはどこなのだろうか。自分は渓流地帯にいたのに、自分がいた渓流地帯とは少し違う。
ましてや、渓流地帯と呼ばれる証拠である川がある上に、川の流れる音も微かに違う。それに、自分は何故、仲間を殺し、自分をも殺した人間になっているのだろうか。
どちらも最大の疑問であり、謎でもある。ジンオウガは、この状況や自分の状況を呑み込めないでいた。
ジンオウガは太刀と碧玉を持ちながら立ち上がる。ここにいても何も始まらない事に気付く。
「重い……」
だが、太刀が重い事に気付き、石だらけの地面の上に置く。
そして太刀は今の自分と同じくらい長く、おまけに重い。
「でも……」
が、ジンオウガにとって、仲間達の身体の一部だと思うと、置いていく訳にはいかなかった。
置いていけば、仲間を見捨てる事になる。ジンオウガにはそれは出来なかった。
ジンオウガは太刀をどうすれば良いかと思ったが、太刀の鞘に巻いてある赤い物に気付く。
「まさか」
ジンオウガは赤い紐に手を伸ばす。すると、遠方から足音が聞こえた。
「?」
ジンオウガは耳を疑うと、後ろを見た。振り返った直後、遠方から何者かが、ジンオウガの下へと駆け寄る。椛だった。
手には剣と盾があり、足音は下駄が石を踏んでいる為に起こった音だった。
「あれは侵入者!?」
椛はジンオウガに気付き表情を険しくする。
「人間か!?」
ジンオウガは眉間に
「ぐっ!」
椛は剣を握っている手に力を入れる。そして、ジンオウガのすぐ近くにまで来ると、
ジンオウガの服目掛けて、剣を横に振る。
「え……!?」
ジンオウガは目を見開くも、椛の攻撃を避ける時間もないかのように、椛の攻撃を受ける。
直後に、ジンオウガの服の胸部分には横一文字の傷が出来ていた。
「あっ!」
ジンオウガは後退りするが、椛は直ぐにバックステップして、ジンオウガとは距離を置くように離れる。
「ちょっ!?」
ジンオウガは自分の服に出来た横一文字の傷を見た。それは赤くなっていて、血が出ている。
そして、ジンオウガは怪我をした事を意味していた。
「おま!?」
ジンオウガは椛を見る。が、椛はいつの間にかすぐ近くにまで来て、剣をジンオウガの喉元に突き付けるように向けていた。
それは、椛がジンオウガが服を見ている間に近づいていたのだ。
そして直後に、椛は剣をジンオウガの喉元に突き付けるように向けていたのだ。
「っ!?」
ジンオウガはビクッと震えた。喉元にはあと僅かで触れるであろう剣の刃先があり、剣の刃先は妖しく輝いていた。
それは直ぐにでも突き殺すと云う事を教えていた。
「うぐっ……!」
ジンオウガは生唾を呑む。動けない。動けば殺される。今の自分は、あの肌が固かった頃の
肌の柔らかい一人の人間である。そして、ジンオウガは椛を見据えた。
椛は表情を険しくしていたが、沈黙がない。
その理由は、二人の近くに流れている川が音を立てながら流れているのと、
川辺に微かに吹き流れる風の音が、二人の周りを支配する沈黙を和らげていた。