東方雷狼竜 作:NO!
「お前は何者だ!?」
この沈黙を破ったのは椛だった。椛は剣をジンオウガの喉元に向けながら問う。
しかし、それはジンオウガを侵入者と見なしたからであり、妖怪の山を
例えそれが、いかなる理由だろうと、椛は聞く耳さえ持つかどうかも判らない。
「お、俺はーー」
椛の問いに、ジンオウガは答えようとしたが、ある事が脳裏に過る。
一人称。自分が自分自身を呼ぶ時の言葉。ジンオウガは自分は俺と言った事だ。
だが、それはジンオウガが思い付いた言葉ではなかった。
それは、
「早く答えろ!」
しかし、それを許さなかった者がいた。椛だ。
椛は、何時まで経っても話さないジンオウガに怒る。
ジンオウガは椛の問い掛けに気付き、椛を見据える。
椛は歯を食い縛りしながら怒っている。無理もない。
「お、俺は……」
ジンオウガはたじろぐ。
「早く答えろ!」
椛は剣を握る手に力を入れる。
「……っ!」
それに対し、ジンオウガは下唇を噛む。答える事は出来ない。
“自分は元は竜でした”
そんな事が言える筈もない。言ったとしても、目の前の
無理だ。納得する筈もないだろう。それに、さっきから気になっていた事があるが、ジンオウガは目を逸らしながら碧玉を握っている手に力を入れる。
「答え……!」
「ジン……オウガ」
椛が何かを言い掛けたが、ジンオウガは素直に答える。
「えっ?」
椛は眼を見開くも、ジンオウガは口ごもりながら言葉を続ける。
「ジン、オウガ。それが俺の名前だ」
「ジン、オウガ?」
椛はジンオウガの名を言う。
ジンオウガ? それが彼の名前か? もしも、それがそうならば、彼はジンオウガと云う名前を持っているのと、侵入者である事にも変わりない。
椛は彼をジンオウガと知ると、剣の刃先をジンオウガの喉元から、ジンオウガの首筋へと移動させる。
「っぐ……」
ジンオウガは再び生唾を呑みながら冷や汗を流す。
次は首筋か。今度は首を挽き殺そうとするつもりか。
ジンオウガは納得出来ないと思いながらも冷や汗を流すも、ある事を口にする。
「お、俺は言ったーーお前の名は?」
「何ッ?」
ジンオウガは冷や汗を流しながら、そう口にする。
「お前の名は、何だ?」
「私か?」
ジンオウガは首を軽く縦に振る。
「ああ」
ジンオウガは言う。それに対し、椛は口ごもりながら。
「……椛」
「はい?」
ジンオウガは眼を見開く。椛は微かながらに口を開く。
「犬走椛、白狼天狗の者だ」
「犬走――椛?」
ジンオウガは椛の名を口にする。犬走椛? それが目の前にいる敵の名か。
白狼天狗? それは何なのか、それはジンオウガには解らず、ジンオウガは戸惑う。
しかし、さっきも気になっていたが、椛の頭にある白い耳や、後ろの尻に生えている柔らかい白い尻尾は何だろうか。
それも、その二つもジンオウガにとって謎であり、何を意味するものなのかも判らない。
それに、椛は
だとしたら、椛の耳と尻尾は防具か装飾品なのだろうか。ジンオウガは生唾を呑む。
「もういいか?」
椛は剣を構えたまま、ジンオウガを見据える。ジンオウガは「グッ!?」と下唇を噛み続ける。
そして、強く噛みすぎたせいか、下唇から血が滲み出る。
「椛ーーっ!!」
直後、椛の後ろの遠方から叫び声が聞こえた。
椛は後ろを見る。
「!?」
ジンオウガはチャンスと思い、碧玉を持ってない方の手で椛の剣の刃先を掴む。
「あっ!?」
椛はジンオウガの行動に気付き、ジンオウガを見た。
だが、ジンオウガは椛の剣を掴んでいる手から少し血が流れていながらも、手を横へと移動する。
「うわっ!?」
椛は剣を掴まれた事で、横に移動された事で剣を掴んでいる腕が、身体が横に引っ張られるように動く。
しかし、ジンオウガは椛の剣を掴んでいる手をさっきの場所へと移動させる。
椛は再び引っ張られるように動くも、さっきの場所に戻るように動く。
「はっ!」
ジンオウガは椛の剣を掴んだまま、椛を押すも、椛の剣を放す。
「うわっ!」
椛は押されて尻餅を付くと、剣を放してしまう。その間にジンオウガは足下にある太刀を拾う。
「っ!」
重い、とジンオウガは思う。しかし、ジンオウガは太刀を鞘から抜き取る。
太刀の刀身は雷を模したかのように尖端から端は黄色く、尖端が矢の
内側は蒼く、温度計を模したかのようにメーターに近かった。
「っぐ!!」
ジンオウガは鞘を足元に落とすと、碧玉も持ったまま太刀を両手で持つと、太刀を椛に向ける。
「痛た……っ」
椛は尻を擦る。そして、ジンオウガを見た直後に歯を食い縛ると、剣を手にして立ち上がると、
ジンオウガと距離を取るように離れると、ジンオウガに剣を向ける。
「ギリッ……」
「っ!!」
ジンオウガと椛は武器を構えたまま、互いの相手に隙を見せないようにしている。
「椛ーーっ!」
しかし椛の後ろから、椛の下へと駆け寄る者がいた。にとりだ。
にとりは背負っているリュックサックの取っ手を両手で掴みながら、椛の下へと駆け寄る。
「もみーーあっ!?」
にとりは椛のすぐ近くにまでくると、ジンオウガに気付く。
ジンオウガも、にとりに気付き、眉間に皺を寄せて気付く。
「だれ……」
ジンオウガは、にとりに訊こうとする。だが、椛はジンオウガ目掛けて剣を振り上げる。
「な……!?」
ジンオウガは眼を見開くも、椛は剣をジンオウガ目掛けて振り下ろす。
ジンオウガは慌てて剣で受け止めようとしたが、間に合わず、剣を下に弾き落とされる。
刀身の叩き落とされる音が辺りに響くも、椛は剣を横に振る。
ジンオウガは太刀を放して、その場を放れようとした。無理だった。
椛の剣はジンオウガの服の胸部分に横一文字の傷を付けた。
「あっ……!」
ジンオウガは服に傷を付けられた事に驚き、碧玉を落としてしまう。
碧玉は小さな音をたてながら転がる。そして、椛は剣をジンオウガの頭上目掛けて振り上げる。
「もみっ!」
にとりは椛を止めようとするも、既に椛は剣を振り下ろしていた。
椛の剣は、剣の刃先はジンオウガの額を斬り付けた。
「あぁーーっ!!」
ジンオウガは額に激痛を感じ、額から血が流れ出ているのを感じて悲鳴を上げる。
血は血飛沫を上げながら辺りに飛び散り、ジンオウガは額を押さえる。
「うぐっ……!」
ジンオウガは額を押さえながら
しかし、椛は表情を険しくしながら、攻撃の手を緩めない事を意味するかのように、剣をジンオウガに向ける。
「椛!!」
そんなジンオウガを見かねたのか、にとりは椛の肩を揺らす。
「にとり?」
椛は驚く。それに対し、にとりは首を左右に振りながら。
「もういいだろ!? こいつはもう、椛の強さを知ったからさ!?」
「でも、そいつは侵入者なのかも知れないんだよ!?」
「それは解るけど……」
にとりはジンオウガを見た。ジンオウガは額を押さえていた両手の内、片手だけ額から放すと、椛とにとりを睨む。
その眼には、相手や誰かに殺意を向ける者の眼をしていた。
にとりはたじろぐも、ジンオウガと向き合う。
「ごめん、椛は侵入者を許さないんだ。でも……」
にとりはジンオウガの前にしゃがむ。
「椛は悪い奴じゃない、良い奴だから」
「良い奴……」
ジンオウガは視線を椛の方へとやる。椛は険しい表情のままだが、ジンオウガはにとりを見た。
にとりは哀しい笑みを浮かべている。それはまるで、仲間を思う者にしか口に出来ない言葉だった。
ジンオウガは眉をひそめるも、軽く頷く。
「……ああ、悪かった」
「良いんだ。椛もそれで良いかい?」
にとりは椛を見た。椛は眼を見開くも、軽く頷いた。
「そうか」
にとりは立ち上がると、椛に。
「なぁ椛、こいつは誰だ?」
「ジン、オウガ」
にとりは首を傾げる。
「ジン、オウガ?」
椛は「うん」と頷く。
「ジン、オウガねぇ」
にとりは頭を掻く。ジンオウガ。それが彼の名か。しかし、変と言う訳ではないが、どうみても彼は人間に思える。
「うーーん」
にとりは頭を掻きながら唸ると、視線を近くに落ちている碧玉の方へとやる。
「うん?」
にとりは気付くと少し驚く。
「何だ、これは?」
にとりは屈むと、それを拾おうと、碧玉に手を伸ばす。
「触るな!!」
ジンオウガは叫ぶ。それを聞いた椛とにとりはビクッと驚く。
「ジン、オウガ?」
にとりと椛はジンオウガを見る。ジンオウガは慌てながら碧玉を拾うと、碧玉を握っている手を胸に当てる。
「触るな、これには触るな!」
ジンオウガは眼を閉じながら言い続ける。が、ジンオウガの額にまだ流れ出ている血は止まってはいない。
それでも、ジンオウガは碧玉の方を選んでいた。
「…………」
そんなジンオウガに、椛は剣をおさめると、ジンオウガの前に屈む。そして剣を置くと、ジンオウガの額に手を当てる。
「なっ!?」
ジンオウガは眼を見開くも、椛はジンオウガの額を優しく触り続ける。
「何すんだ貴様!」
ジンオウガは椛の手を退かすと、椛を睨む。椛は哀しく、そして険しい眼をしていた。
情けをかける訳でもない。手を差し伸べた訳でもない。それは椛が決める事であり、椛がどう云う理由でそんな行動をしたのかは解らない。
それでも、椛は口を開く。
「大丈夫か?」
「何がだ?」
ジンオウガは怒りながら答える。
「私は別にお前を馬鹿にしている訳ではない。私はお前を心配しているんだ」
「だったら何故、俺に武器を向けた!?」
ジンオウガは碧玉が手の中にある手と共に、両手で椛の胸ぐらを掴む。
にとりは慌てながら、ジンオウガを羽交い締めしょうとする。
しかし、ジンオウガの力は強く、にとり一人で止める事は出来ない。
「っ!?」
椛は胸ぐらを掴まれて表情を険しくする。
それに対し、ジンオウガは、こう叫んだ。
「お前ら
ジンオウガは腕を振り上げる。それを見たにとりは眼を見開くも。
「あぁっ!?」
ジンオウガは驚きながら眼を見開き、椛も眼を見開く。
「あ、ああっ……!」
ジンオウガは身体中に痺れを感じ、椛の胸ぐらを掴んでいた両手を自分の方へと寄せ、自分の両二の腕を強く掴む。碧玉を落としたのも知らずに。
「う、ううっ!?」
ジンオウガは何かに震え、寒気を感じていた。何だこれは、身体中に痺れを感じる。ジンオウガはそう思っていた。
それは強く、何かが身体中に集まるようにも感じる。
「うぐあぁーーっ!!!」
ジンオウガはその場で悲鳴を上げる。
「「ジン、オウガ!?」」
椛とにとりはジンオウガを呼び掛ける。どうした、何かあったのか。
二人はジンオウガを心配して、椛はジンオウガの肩に手を、にとりはジンオウガの背中に手を置こうとした。
「うあっ!?」
置いた直後、直ぐに手を放れさせた。いや、放れざるをえなかった。
何故なら、ジンオウガに触れた直後、静電気が起きたからだ。
にとりと椛は静電気を触った手を触りながら、ジンオウガを見る。
ジンオウガは、まだ唸り声を上げながら下を向いている。
「う、うぅっ……!」
ジンオウガは強く眼を閉じる。同時に、ジンオウガの身体中から青い稲妻が出始める。
「うわっ!?」
「っ!?」
にとりは立ち上がり後退し、椛は立ち上がるとバックステップしながら、ジンオウガから離れる。
椛は剣を構えるも、ジンオウガは眼を開けて空を見上げながら。
「あぁぁーーっ!!!!」
ジンオウガは悲鳴に近い叫び声を上げた。同時にジンオウの周りにバチバチと鳴っていた青い稲妻が強く光り、それがジンオウガの周りを包む。それは蒼い光に近く、ジンオウガを見えなくするように大きくなっていた。
「あぁっ!?」
にとりは叫ぶ。それに対し、椛は剣を構え続けながら歯を食い縛る。
そして、ジンオウガを包んでいる青い稲妻の光は。
「ガァァーーッ!!」
ジンオウガの獣に近い叫び声と共に、大きな放電をするかのように散った。
そして、ジンオウガは身体中に青い稲妻を出しながら、眼を鋭くしていた。
「ガァァ……」
ジンオウガは椛を睨むと。
「ガァァーーッ!!」
ジンオウガは理性を失ったかのように叫んだ。
それは、大地に轟き、空を切り裂くかのような叫び声だった。そして、椛に殺意を向ける意味でもあった。
皆さん、こんにちは。NOです。ここで今後の物語で、ナルガクルガの擬人化を出す事に決めました。(他は出すかは未定ですが)