東方雷狼竜 作:NO!
「電気の音?」
永琳の言葉に、椛は耳を疑い、ジンオウガは激痛を堪えながら、永琳を見据える。
が、ジンオウガの鼓動が電気の音に聞こえる事に、椛と永琳は理解出来ないでいた。
椛はジンオウガの身体の秘密に、永琳はジンオウガの珍しい身体に興味を示したくなりそうに。
そして、その身体に謎を持っているジンオウガは首を傾げる。
「どうしたんだよ、お前ら?」
ジンオウガは二人を気にする。すると、永琳はジンオウガを見ながら。
「ジンオウガ、貴方は何者なの?」
「はっ?」
ジンオウガは惚ける。
「惚けないで、貴方の鼓動は何故、電気の音が聴こえるのかしら?」
「知らねぇよ……それに俺は、自分が人間だと云う事は知らねぇし、嫌いなんだよ……っ!?」
ジンオウガは腹を押さえる。
「ジンオウガ!!」
椛はジンオウガの背中を擦り、もう片方の手をジンオウガの手の上に重ねる。
「触ーーあぐっ!?」
ジンオウガは腹を押さえ続ける。それを見た永琳は聴診器を鞄に入れ、再び何かを探すように鞄を漁る。
そして、何かを取り出す。それは十五錠の、赤と白が相対するようになっている小さく細長い薬が入っている、手のひらサイズのガラス瓶だった。瓶の出入口はコルク栓が閉まられている。
永琳はガラス瓶を片手で持ちながら、それをジンオウガに見せた。
「この薬を飲みなさい」
「クスリ?」
永琳は微笑みながら頷く。
「ええ。これはどんな激痛をも和らげてくれるわーー試す?」
永琳は瓶のコルク栓を開けると、瓶の出入口を手のひらに向けながら軽く振ると、瓶の中にある十五錠の内の一錠を取り出し、薬を持ちながら、瓶の出入口をコルク栓で閉じると、薬をジンオウガに見せるように向けた。
ジンオウガは戸惑うも、永琳は椛を見た。
「すまないけど、お水の入ったコップを持って来てくれないかしら?」
「判りました」
椛は頷くと。
「少し待っててくれないか?」
椛はジンオウガにそう言いと、ジンオウガから離れ立ち上がり、ジンオウガと永琳に背を向けると、襖の方へと向かい、部屋を出ると通路の左側へと消えて行くように歩く。
部屋にはジンオウガと永琳しかいなかった。
「さてと、ジンオウガ?」
永琳はジンオウガに訊く。ジンオウガは永琳を見る。
「何だよ?」
「私はこれから、永遠亭に戻らなきゃいけないの」
「永遠亭?」
ジンオウガは永琳に訊くも、永琳は瓶を近くの畳の上に置く。
「ええ、永遠にはウドンゲがいるわ、でも、ウドンゲ一人じゃ危ないから」
「ウドンゲ?」
「ええ。でも、貴方の診察は永遠亭で行うわ。それに、貴方の身体の秘密を調べる為にね?」
永琳は微笑む。すると、通路の方から足音が聞こえた。
ジンオウガと永琳は通路の方を見ると、通路の左側から椛が出てきた。
椛は両手に、水の入ったコップを上に乗せている円形の木の盆を持っていた。
椛は
「ほら、ジンオウガ」
椛は盆を置くと、水の入ったコップを持ち、それをジンオウガに差し出す。
ジンオウガは戸惑うも、椛と永琳を交互に見る。
椛と永琳は悲しい眼をしている。それはジンオウガを心配する眼をしていた。
それを見たジンオウガは戸惑うも、椛の持っている水の入ったコップを手に取る。
椛は喜ぶも、ジンオウガはもう片方の手で、永淋の持っている一錠の薬を手に取ると、コップを見た。
「どうやって飲むの?」
「「えっ?」」
ジンオウガの言葉に、椛と永琳は眼を点にする。しかし、それも仕方ない事だった。
ジンオウガはコップを知らないし、飲み方さえも知らない。いきなり飲めと言われても、初めて見る物をどうすれば良いのかさえ判らなかった。
ジンオウガはコップを見て困るも、椛は困りながら手をコップを持つ形にしながら、ジンオウガに。
「薬を口に入れて、こう」
椛はコップを飲むと云う素振りを見せると、ジンオウガは「そうか」と思いながら薬を口の中に放り投げ、コップの水を口に含む。
水が口内の隅々にまで染み渡り、喉のカラカラが無くなるように思えた。そして、薬を連れて食道にまで行く。
「……あっ!?」
ジンオウガは何かに気付いた。それは、身体中に走る激痛が無くなった事に。
ジンオウガはコップを畳の上に置くと、身体中を触る。それを見た永琳は手を口元に近付けながら「フフッ」と笑っているも、ジンオウガに。
「ジンオウガ、さっきも言ったけど、私は永遠亭に戻るわね」
「えっ?」
椛は驚く。それでも、永琳は薬の瓶を畳の上に置き、両手で鞄の出し入れ口を閉じ、立ち上がった。
「八意先生」
椛も立ち上がると、ジンオウガに「ここで待ってくれ」と言い残すと、永琳を連れて部屋を出て、通路の右側に向かった。
「あ……あ~っ」
ジンオウガは腕を回し、身体中を触るなどの行動をする。だがジンオウガは、まだ理解出来ないでいた。
あの激痛が嘘のように、無くなるとは思いもしなかった。それに薬の瓶を見る。薬は、まだ残っているが、ジンオウガは薬の瓶を手に取る。
「すげぇ……」
ジンオウガは薬に褒める。これは秘薬だ。それも一番強力な、と。
ジンオウガは薬を見続けるも、椛が部屋に戻ってきた。
「ジンオウガ」
椛はジンオウガに訊く。ジンオウガは薬を見せながら。
「すげぇよこれ、何だよ、この薬の効果は!?」
ジンオウガは子供のようにはしゃぐ。それに対し椛はジンオウガを無視するかのように、障子の方へと向かう。
「…………」
椛は無言で障子を開ける。そして障子の外側は縁側になっており、扉型の窓があり、更には茶色い雨戸がある。更に窓の外は木の堀があり、それは家の
ジンオウガは窓から射し込む光に暑さや眩しさを感じるも。椛はジンオウガの元に歩み寄り、ジンオウガの近くに屈む。
「ジンオウガ、これを」
椛は懐からある物を取り出し、それをジンオウガに見せるように差し出す。
「こ、これは!?」
それを見たジンオウガはき、薬の瓶を落とす。音は聞こえなかった。それは敷き布団の上に落としていたからだった。
そして、椛が持っている物は、蒼い輝きを放っている碧玉だった。
ジンオウガはそれを手に取ると碧玉を見つめる。
「……あっ!?」
ジンオウガは何かに気付き、椛を見る。
「
ジンオウガは碧玉の他にあった武器ーー太刀の事を訊く。それに対し椛は溜め息を吐く。
「あの武器は、にとりが調べている」
「な!?」
ジンオウガはさっきの元気が嘘のように驚くが、椛は言葉を続ける。
「だけど、
「あ……」
椛の言葉に、ジンオウガは顔の向きを椛から碧玉の方へと変える。
碧玉は衰えを見せないように蒼い輝きを放っている。それはまるで新品同様だった。
しかし、何故か湿っている。
「何か、温かいな……」
「うぐっ!?」
椛は顔を紅潮する。しまった、と。しかし、それには理由がある。それは……。
「でも」
そんな時、ジンオウガは何かを呟くと碧玉を見つめながら下唇を噛む。
「ごめん……」
ジンオウガは碧玉を握り締めながら仲間に謝る。だが、それはもう過ぎた事で遅い事。
仲間は帰ってこない。死んだから。それに、自分だけが生き残った事にも罪悪感を覚えた。
そんなジンオウガに、椛は手を握り締めしながら微笑む。それは今のジンオウガに向ける表情にはは似つかわしくないが、それは椛の決意でもあった。
「ジンオウガーー私と一緒に住まないか?」
「はっ?」
椛は微笑みながら、ジンオウガに言う。ジンオウガは顔を上げて椛を見ながら驚く。
「ジンオウガ、お前は行く所もないだろ?」
「な、何を言うんだよ? 俺は、ここに居るとまだ決まった訳じゃ」
ジンオウガは慌てるも、椛はジンオウガの身体を指差す。
「その身体でか?」
「えっ?」
ジンオウガは自分の身体を見る。一方、椛は腕を組む。
「今のお前は何者かは判らない以上、お前が傷付いた身体でいる以上、お前を外に出す訳にはいかない」
「だけ……」
「ジンオウガ」
ジンオウガは何かを言う前に、椛は表情を険しくしながら不意に呟く。
「私は準備がある。お前は部屋から出るな」
椛は空のコップと薬の入っている瓶を盆に乗せると、立ち上がり、ジンオウガに背を向けるながら開いている襖の方へと歩く。
椛は部屋を出る前に再びジンオウガを見た。ジンオウガも表情を険しくしていた。
それを見た椛は悲しい笑みを浮かべながら。
「私の言う事を聞いてくれよな?」
椛はそう言うと、部屋から出て、後ろ手で襖を閉めた。
部屋に取り残されたジンオウガは、まだ表情を険しくしていたが、どうする事も、何もする事が出来なかった。
その一時間後。部屋の中の至る所は橙色に変わっていた。茶色い天井、黄緑色の畳、滝が描かれている襖、白い枕、掛け布団や敷き布団も、障子も全て、橙色によって変わっていた。
だが、部屋全体と云う訳ではない。襖や障子は、障子が開いている方から射し込む光で影を作り、部屋を薄暗くしていた。
そして、橙色の正体は、開いている障子の外にある、地上から消えるように沈み掛けつつある夕日だった。
夕日は赤く、空は橙色。夕日と橙色の空は妖怪の山の麓を山頂を、山全体を橙色で支配するように変えている。
無論ーーそれは時間が決める事であり、時間は戻らす逆らえない。
「…………」
そんな部屋の中には、開いている障子の横に凭れ掛かりながら座っているジンオウガがいた。 ジンオウガは右膝を曲げながら左脚を伸ばしながら座っている。そして、ジンオウガは夕日を寂しそうに見つめていた。
ああ、また一日が終わりを迎えるんだな……。それも毎日毎日、永遠の繰り返し。それに死が訪れるまで、生きている間に、この世の終わりが来るまでの永遠の繰り返しだ。
ジンオウガはそう思いながら右手に握り締めている碧玉を見つめる。
周りが橙色に支配される中、碧玉だけは本来の色である蒼で、僅かながらに蒼い輝きを放っている。
ジンオウガは一筋の涙を流す。それは頬に伝いズボンの脹ら脛部分の上に滴り落ちる。
しかし、ジンオウガは碧玉を見て泣いている。
碧玉を見るだけでも、自然を涙を流したくなる。いや、流さなければいけないと言い換えればいいだろう。
ジンオウガは碧玉を握り締めると、手で自分の両目を覆い隠す。涙を拭く為に。
すると、襖の方から微かに足音が聞こえた。それはどんどんと大きく、そして襖が開く。
ジンオウガは手を退かすと視線を襖の方へと向ける。そこには、椛がいた。
「犬走……」
ジンオウガは微かに呟く。
「どうしたジンオウガ、灯りも点けないで?」
椛はジンオウガに訊く。ジンオウガは椛から眼を逸らす。
「いや、ちょっと、考え事で忘れていた」
「そうか」
椛は表情を険しくしていたが、直ぐに微笑む。
「それよりも、夕飯にしないか?」
「ゆうはん?」
ジンオウガは椛を見ながら首を傾げる。
「ああ。夕飯だ。私が作った」
「そうか……もう、そんな時間か」
ジンオウガは思う。が、自分は雷狼竜の頃、ガーグァ、ケルビ、アプトノスなどの草食動物を捕らえ喰ってきた。何匹かは判らないが。だがそれは生きる為の食物連鎖。誰も悪い訳ではない。
ジンオウガはその事を思い、軽く悲しい笑みを浮かべる。
「ジンオウガ?」
椛は気にするも、ジンオウガは静かに頷いた。
「ああ、食べるよ」
ジンオウガは食べ物に負けると、軽く笑うと、重い腰を上げるように立ち上がる。
そして、夕日は完全に沈みかけるも、空は地上を暗くするかのように夜になりつつあった。