東方雷狼竜   作:NO!

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雷狼竜の初体験

 広間。ここはジンオウガがいた部屋と同じだが、真ん中には円形のテーブルがある。

 テーブルの上には、白いご飯、豆腐の味噌汁、焼き魚、山の山菜を使った煮物や漬物が二つずつ置かれている。そして、白いご飯と味噌汁と焼き魚には湯気が立っていて、更には茶色い箸が二膳、熱い茶が注がれている湯呑みが二つ、急須(きゅうす)が一つ置かれていた。

 そして、テーブルの近くにはジンオウガ、その向かい側には椛が座っている。

 二人は正座しているも、ジンオウガは歯を食い縛りながら脚の裏を擦る。

 

 痺れる、脚の裏が痺れると。

 

「ジンオウガ?」

 

 椛は首を傾げながら、ジンオウガに疑問を抱く。ジンオウガは椛に気付き答える。

 

「だ、大丈夫だ、さ、食べ」

「脚が痺れるのか?」

 

 椛はジンオウガの用意に気付き答える。ジンオウガは「えっ?」と驚くも、椛は呆れながら。

 

「別に正座しろとは言わないけど、胡座(あぐら)でも良いんだよ?」

「あぐら?」

 

 ジンオウガの問いに、椛は頷く。

 

「ああ、胡座をかいても良いんだぞ?」

「そんな事も言われても、どうやりあ良いんだよ?」

 

 椛は眼を見開く。

 

「解らないのか?」

「ああ。俺は胡座(それ)を知らない。その言葉も知らない」

「うーーん」

 

 椛は頭を掻きながら唸る。そして、溜め息を吐きながら、ジンオウガに。

 

「こうやるんだよ」

 

 椛は正座したままテーブルから離れると、ジンオウガに見える位置で座り方を正座から胡座へと変える。

 それを見たジンオウガは「そっか」と納得しながら胡座をかく。

 

「こうか……何か、こっちの方が座り易い」

「そうか」

 

 椛は安心し喜ぶと、胡座から正座に変え、正座しながらテーブルに近付くと、ジンオウガに。

 

「食べよう」

 

 椛は視線を手を合わせる。それを見たジンオウガは首を傾げる。

 

「それは何だ?」

「えっ?」

 

 ジンオウガの言葉に、椛は惚ける。それでも、ジンオウガは椛の手を指差す。

 

「それだよ? それは何なの?」

「これか?」

 

 椛は視線を自分の両手に向ける。

 

「これは「いただきます」の合図だよ」

「いただきます? 合図?」

 

 椛は頷く。

 

「そう、それは御飯を食べる挨拶なんだ」

「あいさつ?」

 

 ジンオウガは不思議そうに訊くと、椛は頷く。

 

「そうだ」

「挨拶、か……」

 

 ジンオウガは不思議そうに手を合わせると、椛は微笑む。

 

「そうだ、それでいい」

 

 椛は手を合わせながらテーブルに並べられている御飯を見ながら。

 

「いただきます」

「いただき、ます」

 

 椛に続くように、ジンオウガは手を合わせながら呟く。すると、椛は味噌汁の入っている汁椀(しるわん)を両手に取ると、味噌汁を飲む。

 それを見たジンオウガは疑問を抱くも、近くにある自分の味噌汁を見た後に、味噌汁の入った汁椀を両手で持ち、それを飲む。

 

「!?」

 

 直後、ジンオウガは汁椀を口から離すと、汁椀を激しくテーブルの上に置く。しかし、激しく置いたせいで、味噌汁の汁が噴き出るように零れる。

 

「ああっ!?」

 

 椛は驚くも、ジンオウガは舌が熱いのを感じながら、近くの湯呑みを手に取る。

 

(あち)っ!?」

 

 だが、湯呑みを触った直後、掌が熱く感じ、ジンオウガは湯呑みを放す。

 湯呑みは零れなかったが、ジンオウガは掌にフ~、フ~と息を吹く。

 

「ジン、オウガ?」

 

 椛は驚きながら、ジンオウガを見つめるも、ジンオウガは嫌そうな顔をしていた。

「っ~~」

 

 ジンオウガは自分が眠っていた部屋でグテ~っとだらけるように俯せに倒れていた。

 ジンオウガは顔を上げると、苦悶の表情をする。

 

「辛い……」

 

 ジンオウガは情けない言葉を発する。それは、さっきの食事の事だ。そうだろう。ジンオウガは雷狼竜の頃、ケルビやアプノトスは手で食べ、川や滝の水などは、がぶ飲みしていた。それなのに、さっきの食事は箸を使ったり、御椀や汁椀を手で持ったりなどの正しい食べ方があり、ジンオウガには辛い事だらけだった。

 ジンオウガは口を擦る。まだ舌が熱く、触るだけでも痛く感じる。ジンオウガは困りながら、身体を俯けから仰向けへと変えるように身体を動かすも、視線を天井に設けられている丸い蛍光灯の方へとやる。

 蛍光灯は白い光を出しているが、ジンオウガは眼をパチパチと瞬きする。眩しい、と。

 そんなジンオウガに、ジンオウガの部屋を出入り出来る襖が開き、ジンオウガは襖の方を見る。そこには、ジンオウガに疑問を抱いているような表情をしている椛が立っていた。

 

「ジンオウガ?」

 

 椛はジンオウガに訊くと、ジンオウガは横を向く。

 

「どうしたも何も、俺はさっきの飯で参ってるんだ……」

「? さっきの飯?」

 

 ジンオウガは頷く。

 

「そうだよ。飲み物は熱いわ、白いやつも熱いわ、冷たいやつもあるわ、魚の骨が喉に刺さるわで大変だったよ」

 

 椛は腕を組む。

 

「それはそうだろ? ご飯はいつも、ああいうのが一般的何だから」

「そうなの?」

 

 ジンオウガは眼を丸くしながら、椛に訊く。

 

「そうだよ?」

「っ~~」

 

 ジンオウガは唸り声を上げながら眼を閉じる。そうだろう。ジンオウガにとって、初めて眼にする()と口にする()だった。

 そんなジンオウガに、椛は溜め息を吐くと、フッと笑う。

 

「それよりもジンオウガ、私に()いて来てくれないか?」

「はっ?」

 

 ジンオウガは惚けながら、椛を見る。椛は何故か微笑んでいた。

 

「ここは?」

 

 椛に()いていったジンオウガは、とある部屋の室内に居て、室内を見て呟く。その部屋は余り狭くもなく広くもない部屋で、東側には洗面所や鏡が設けられ、洗濯機や服を入れる(かご)が置かれていて、西側には五段棚が置かれていて、北側には何かの部屋に続く扉があり、南側には部屋を出入り出来る扉があった。

 ジンオウガは室内を見渡すも、ジンオウガの隣にいる椛は。

 

「ここは浴室だ」

「浴室?」

 

 ジンオウガは椛に訊くが、椛は奥の扉の所まで歩くと、扉を開ける。

 扉の奥の部屋は浴室だが、人二人は入れるだろう、(うるし)が塗られている四角い浴槽(お湯が溜まっている)と、シャワーや鏡が設けられていて、赤、緑、青の三個のプラスチックボトルが置かれていた。

 

「ここは浴槽だが、入る時は裸になってくれ」

 

 椛は浴槽を指差しながら、ジンオウガに言う。

 

「裸?」

 

 ジンオウガは首を傾げるも、椛は頷きながら、ジンオウガの横を通り過ぎると出入り出来る扉の前に止まると、ジンオウガを見た。ジンオウガも椛を見る為に後ろを見たが、椛は頬を真っ赤にしながら。

 

「私が浴室を出た後に脱いでくれ」

 

 椛はそう言い残すと、部屋を出てようとする。

 

「ちょっと待てよ!?」

 

 ジンオウガは椛を呼び止める。

 

「何っ?」

 

 椛はジンオウガに訊くと、ジンオウガは。

 

「何を脱ぐの?」

「えっ?」

 

 ジンオウガの言葉に椛は惚ける。それでもジンオウガは言葉を続ける。

 

「何を脱げは良いの?」

「えっ? ……それはズボンだよ?」

「ズボン?」

 

 ジンオウガの言葉に椛は頷くと、ジンオウガのズボンを指差す。

 

「それ」

「これ?」

 

 ジンオウガはズボンを指差すも、椛に。

 

「どうやって脱ぐの?」

「えっ?」

 

 椛は再び驚く。そして、ジンオウガは言葉を続ける。

 

「脱ぎ方が解んない」

「いやっ、えっ? そ、それはズボンの端を両手で掴んで下に下ろすんだよ」

「下ろす?」

 

 ジンオウガは、そう言いながらズボンの端を掴む。

 

「ちょっ!?」

 

 椛は頬を真っ赤にしながら何かを言うも、ジンオウガはズボン、または何も知らずに脱ぐ。そして、トランクスと一緒に。

 ジンオウガがズボンとトランクスを脱いだ直後、ジンオウガは股関を見た。

 

「えっ!?」

 

 ジンオウガは股関にある物を見て眼を見開く。

 

「お、おいっ、俺にキノ……」

 

 ジンオウガは何かを言いながら、椛を見る。

 

「キャーーッ!!」

 

 直後、椛は悲鳴を上げながらジンオウガの腹に蹴りをおみまいした。

 

「オブっ!?」

 

 そして、ジンオウガの悲鳴が室内に木霊いた。

 

(いち)ち……」

 

 

 ジンオウガは一糸纏わぬ姿で腹を手で押さえながら、股間を、もう片方の手に持っている白いタオルで覆い隠しながら、タオルを片手で押さえながら、浴槽の中に貯まっているお湯を見詰める。

 

「それにしても、何で怒っていたんだ?」

 

 ジンオウガは椛を思い出す。しかし、椛は顔を真っ赤にしながら、ジンオウガに「それを棚に入っているタオルで隠してださい。弁えてください!」と言い捨てて浴室を出て行った。ジンオウガは腹を押さえながら棚に入っているタオルを取ると、浴室に入ったのだ。

 

「何で怒っていたのかは解んねぇけど……どうするんだよ?」

 

 ジンオウガは浴槽に溜まっているお湯を見る。お湯は澄んだ無色に湯気が立っていて、見ただけでも綺麗な熱い水だと思う。しかし、ジンオウガは冷や汗を流しながら唇を噛んでいた。

 “今度は口の中だけではなく、身体にも負担をかけるとは”と。

 ジンオウガはそう重いながら、浴槽のお湯を人差し指で触る。

 

「熱っ……」

 

 直後、ジンオウガは人差し指が熱く感じて、小さな悲鳴を上げると、人差し指を咥える。

 

「熱い……」

 

 ジンオウガは呟く。ああ、これはもう、入るのが嫌と思っていた。しかし、入らなければ、椛の気持ちを無駄にするだろう。

 

「何で、かな……」

 

 ジンオウガは頭を掻きながら、椛の顔を浮かべる。あの時の椛は自分(ジンオウガ)を気遣い、促してくれた。

 そうなったら……。

 

「クシュン!」

 

 ジンオウガはくしゃみをすると、肌が寒く感じて、身震いする。

 

「や、やべぇ」

 

 ジンオウガは焦る。このままでは自分は危ない、と。

 

「くぅ~~っ!」

 

 ジンオウガは自分でも解らないように、覚悟を決めて浴槽の中に入り、浴槽の中に座る。しかし、ジンオウガが浸った事でお湯が噴き出るように零れるも、タオルは浮かんでいる。

 しかし、ジンオウガは顔や身体を真っ赤にしながら眼を見開く。

 

(あっ)ちーーーーッ!!!!」

 

 そして、浴室内で悲鳴に近い大きな叫び声を上げた。

 

 

 二十分後、ジンオウガの部屋。蛍光灯は灯りを出していて、部屋の中を明るくしていた。

 

「ウ~~ッーー」

 

 ジンオウガは敷き布団の上で上半身裸で、下半身には水玉模様のズボンを穿きながら敷き布団の上で俯せになりながら唸っていた。

 

「はぁ……」

 

 そんなジンオウガに、敷き布団の横で正座している椛は溜め息を吐く。

「どうすれば、浴槽のお湯で火傷するんですか?」

 

 椛はジンオウガに問う。それは二十分前、椛は台所で皿を洗っていたが、ジンオウガの悲鳴を聞いて、皿を洗う手を止めると、浴室へと向かい、浴槽の扉を開けると、床の上で身体をピクピクとしながら俯せに倒れているジンオウガがいた。 

 椛は「ジンオウガ!?」と言いながら、ジンオウガの所で屈む。ジンオウガは意識を失いつつも起き上がろうとした。しかし、椛はジンオウガの身体を見て顔を赤くして立ち上がり、ジンオウガに背を向けると、『小さいズボンを穿いた後に、ズボンを穿いて下さい!』と言いながら浴室を出ていった。

 ジンオウガは立ち上がると、よろけながら洗面所へ向かい、床に落ちているトランクスとズボンを穿いた後に浴室を出て、よろけながら自分の部屋へと向かった。 ジンオウガが部屋の襖を開けると、枕と敷き布団(枕の近くには碧玉が置いてある)を見た後に、ジンオウガはそのまま敷き布団の所まで歩くと、敷き布団の上で俯せに倒れ、頭を枕に預けた。

 その後、椛が部屋に入り、敷き布団の横にまで来ると正座し、今に至る。

 

 話を戻そう。椛はジンオウガに呆れるも、ジンオウガは。

 

「犬走、お前は何時も、あんな熱いお湯に身体を水浴びしてんのか?」

 

 ジンオウガは椛を見ながら問う。椛は頷く。

 

「そうです。私は毎日入っているよ?」

「嘘だろ……」

 

 ジンオウガは眼を見開きながら、椛を見るも、椛は人差し指を立てながら指を振る。

 

「それに、あれは水ではなくお湯で、水浴びではなく、浸る、と言うのですよ?」

 

 椛はジンオウガに正しい事を述べる。それを聞いたジンオウガは下を向く。

 

「そんなの知らねぇよーーそれに、俺はもう、あんなのには入らねぇよ……」

 

 ジンオウガの言葉に、椛は困りながら。

 

「駄目だ、入らなければ身体が臭くなるし、病気にもなるのかも知れないんだよ?」

 

 ジンオウガは眉間に皺を寄せながら、再び椛を見る。

 

「病気?」

 

 椛は頷く。

 

「そうです。お風呂は身体を綺麗にするだけではなく、病気にならない為にもあるのです」

「それを、俺に毎日入れって言いたいのか?」

 

 椛は喜びながら。

 

「はい、そうすれば貴方も困らないでしょ?」

 

 椛はジンオウガにウインクする。それを見たジンオウガは眼を逸らす。

 

「無理だよ……」

 

 ジンオウガは元気のない声で言う。それを聞いた椛は少し困るも、ジンオウガの身体に掛け布団を掛ける。

 

「うん?」

 

 ジンオウガは困惑しながら、椛を見た。椛は何故か悲しい眼をしながら立ち上がると。

 

「風呂はもういいですから、今日はもう遅いから寝てて下さい」

「えっ、ちょっ」

 

 ジンオウガは何かを言うも、椛はジンオウガに背を向けると、部屋を出ようと歩く。途中、壁にある蛍光灯のスイッチを押す。

 天井の蛍光灯の電気が消えるも、椛はジンオウガの部屋を出ると、襖を閉めた。

 そして、部屋にはジンオウガしかいなかった。

 

「…………」

 

 ジンオウガは俯けから仰向けへと寝返る。いや、俯けでは眠れない、とも言えた。

 ジンオウガは暗い部屋の中で、天井を見つめる。夜のせいか、天井は暗く、茶色だったのかも嘘ぐらい判らなく、昼間は判る筈も丸い蛍光灯も暗い部屋の中でも僅かながら見える。

 

「俺は、これから何を」

 

 ジンオウガは考える。自分は、これからどうすれば良いのだろう。

 椛から『一緒に住まないか?』と言われても、自分は「判りました」と言った訳ではない。

 

「それに……」

 

 ジンオウガは枕の近くにある碧玉を取り出す。暗闇の中でも碧玉は蒼い輝きを放っていた。

 それはまるで、一筋の光のように。ジンオウガは碧玉を枕の近くに置く。

 

「あれは……」

 

 ジンオウガは悲しい眼をしながら武器を思い出す。あの武器は大丈夫なのだろうか。あの武器は、にとりが調べているが、仲間達の身体の一部で造られた物であり、狩人(ハンター)達にとって、あの武器は戦利品でもある。

 だが、仲間達の遺品でありながら戦利品になっているのはおかしい。

 ジンオウガは下唇を噛みながらやるせない思いを感じる。しかし、どうすれば良いのかさえ判らない。

 ジンオウガは悲しい眼をしながら眼を閉じる。疲れた、解らない事が多すぎる、と思いながら。そして、明日はどんな事が起きるのかと思いながら、眠った。

 




 第5話、雷狼竜への診察でのお詫びと誤字報告

読者の皆さんに報告があります。実は五話で「丸い白い蛍光灯が設けられている」の設を儲と間違えて書いてしまいました。本当に申し訳ございませんでした。

 それと、この話は、もしもモンスターが、人間の食卓やお風呂ではどんな反応をするのかを思い出しながら書きました。
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