登少尉達の樺太先遣隊と共に赤毛の少女は豊原を出て亜港に向かった。ロシア領である北樺太の亜港には、ロシアの政治犯が収容されている監獄があり、キロランケや尾形はそこを目指して進んでいるようだ。
玉井達に連絡を取りたかったが、常に月島が側におり難しい。月島はアンだけでなく鯉登のお目付け役もしているようで、顔が疲れ切っていた。
移動はやはり犬橇だった。
「犬橇か。私はどちらに乗れば良いんですか?」
「ん・・・そうだな。」
月島は考え込んでいる。
2台の犬橇を所有しているのは、樺太アイヌのヘンケと呼ばれている爺様とその孫娘のエノノカである。この2人が乗る橇に鯉登と月島あわせて4人が乗り、もう一台に杉元、チカパシ、谷垣ら3人が乗っていた様だ。普通に考えたらアンが乗るのは杉元達の橇になる筈だが、少女は一応第七師団の監視下にあるので月島達の橇に乗るのが正しい、それに杉元側は3人だが谷垣の巨体が気になる。
「谷垣、もしかして太った?」
「いやッ、そんな事は・・・」
「曲馬団で踊ってたのを観た時からそう思っていたんだよね。」
「「観ていたのか、アレを!?」」
月島と谷垣の声が合唱した。月島は一瞬動揺したが、直ぐに冷静さを取り戻し“アレは任務の一環だった”と言い出したが、谷垣は頬を赤らめて興奮しながらアンに詰め寄った。
「どうだった!?」
「へ?」
「俺は上手く踊れていたか!?フミエ先生も紅子先輩も褒めてくれたんだ!!」
「う・・うん。上手だった。」
「ありがとう!!」
本当の事を言うと少女団はあまり見れなかった。隣に座っていた野間の動揺ぶりが凄まじく、顔を上げられないまま彼に一生懸命声掛けしていたのだ。しかし谷垣は褒められてシンミリと喜びに浸っている。まさか自分の同期である野間に見られていたとは知らないだろう。
「樺太の何処かにいるアシリパさんに俺が生きている事を伝えたくて、曲馬団に出たんだ。新聞に載れば伝わると考えてさ。」
杉元は苦笑いしながらそう言った。
尾形の暴挙を、キロランケの企みを、予め知っていればこんな事態は防げたのだろうか。杉元もアシリパもそこまでの大金が欲しいワケでは無いのだから、丸くおさめる方法があったかも知れない。
「・・アシリパが羨ましいな。」
アンの呟いた一言に杉元は“そうか”と呟き、軍帽を深く被り直す。
谷垣の体重が気になったが、アンは杉元とチカパシ、谷垣の橇に乗る事になった。杉元とチカパシの間に座ると、先導する犬橇に乗るエノノカが落ち着きなくチラチラとこちらを見てくる。
ーーん?
「ヘンケ、私、チカパシの橇に行くの駄目?」
エノノカは祖父にそう訴えていたが、もう出発するから、と諭されて諦めていた。後ろを振り向くとチカパシがむず痒い様な顔をしてエノノカの方をジッと見ている。
ーーまさか!?
今思えばチカパシと再会してから『トカプ』を一切指摘されていない。彼はエノノカの前で格好をつけているらしい。
ーーエノノカちゃんは私に嫉妬しているのか?
アンが、場所を代わろうか申し出る前に犬橇は出発してしまい、樺太の雪原を犬橇はひたすら走る。尾形とキロランケ、アシリパ、白石を追って。
ーーそうだよなぁ、嫉妬とはこんな感じの可愛らしいモノじゃないといけないよなぁ。
赤毛の少女の頭に、かつて日高で出会った汚い乳首の男の顔が過ったが、慌てて振り払った。自分はあの男とは違う。これは悪人を退治しに行く旅だ、自分や杉元達を裏切った邪悪な男を殺しに行く・・・これは善行なんだと自身に言い聞かせた。
◇
橇の先頭に座る杉元が気が付くと、酷い吹雪の中にいた。前後左右が全く分からず、橇を引く犬達任せに白い暗闇を進んでいるような感覚である。身を切る様な猛吹雪に杉元の橇に乗る4人は縦に並んだまま身を寄せ合う。
「リュウ!?」
杉元は慌てた。犬橇の犬に加えられたアイヌ犬のリュウが一匹だけ違う方向に向かおうとしたからだ。
「どうしたんだ!?」
杉元のすぐ後ろから赤毛の少女が話し掛けて来た。彼女は、杉元の不倶戴天の敵となった尾形百之助に一方的に惚れていた少女で、杉元の信頼する相棒であるアシリパの古い友人だ。
「リュウが列から離れようとしている!」
「えぇ、こんな時に!」
「何か理由があるんじゃないか!?」
谷垣はそう言うが、猟犬にはやはり橇を引くなど無理だったのだろうか。結局リュウは列を離れる事など出来ず、諦めて他の犬に合わせて走った。前を走っていた月島達の犬橇と逸れてしまい、海の近くを走っていたのに気が付いたのはその暫く後だった。
「マズイ、何とかしないと・・・死ぬぞ!」
やむなくその場で凍った土に浅い穴を掘って火を起こす。谷垣が火の上に土を被せ出したので驚いたが、これで長時間燃やし続ける事が出来るらしい。4人は穴の中に横になり、橇の犬を掛け布団代わりにして温まる。
「田中さん、チカパシの隣に入りなよ。」
杉元は少女にそう伝えるも断られた。
「左から谷垣、チカパシ、杉元、で私が入る方が一番良い。私とチカパシは体温が高いから、脂肪の少ない杉元を温める事ができる!谷垣は・・寒冷地の動物みたいな体型だから外側で大丈夫な筈だ!」
「・・・」
谷垣が何か言いたそうな顔をしていたが彼女は見えない振りをしていた。杉元は寒ければ交代すると少女に伝え、彼女の指示に従う。
谷垣から『カネモチ』と言う非常食が一口ずつ3人に配られた。
「美味しい。ありがとう谷垣。」
「いや、構わん。ところで寒冷地の動ぶ・・」
「フハッ、しかし“金持ち”なんて縁起の良い名前だな。」
少女は谷垣の質問を無視していたが、杉元には彼女が言いたい事が直ぐに分かり、誤魔化して谷垣に伝える。
「谷垣、田中さんは肉付きが良くて色っぽいって言っているんだよ。」
「谷垣ニシパはムチムチでカッコイイ熊ちゃんだ!」
チカパシが谷垣をそう褒め、谷垣は一応は納得していた。
「それにしてもこのカネモチ、何処かで食べた様な気がするな。」
「そんな筈は無い。」
杉元の発言を谷垣は即座に否定した。これは彼が自分で編み出した特製カネモチのようだ。4人は穴の中で仰向けになり、犬布団を被りながら空を見上げる。吹雪はなかなか収まりそうに無かった。
杉元は右隣の少女に話し掛ける。
「寝ちゃ駄目だよ。」
「うん。」
「確かに田中さん、体温高いよね。年下だからかな?」
「・・・尾形にもそう言われたよ。ガキは体温が高いってさ。」
杉元は言葉に詰まった。正直な所杉元は、彼女は尾形との繋がりがまだあるのではと言う考えを払拭出来ていない。アシリパの古い友人で、鯉登少尉から彼女が尾形を恨んでいる事を説明されても尚、疑念を抱いている。少女が嘘まで吐いて尾形にくっついて来たからだ。
「・・田中さんは尾形に対してどう思ってるんだ?」
「杉元と同じだ。・・殺してやりたい。」
「・・・そうか。悪かったね、変な事聞いてさ。」
悔しさを滲ませながら答えた少女に一抹の不安は残るも、不死身の男は謝った。怨敵に撃たれた左の額が疼く。
◇
どれくらいの時間が経っただろうか、右隣から穏やかな呼吸音が聞こえて来て杉元は焦った。
「田中さん!?寝ちゃ駄目だ!!」
「ん・・寝て・・・ない。」
「いやいや、寝てたよね!?起きてェ?」
チカパシは谷垣と会話しながら意識を保っている。ならば自分も赤毛の少女と話をせねばならない、近接戦最強の不器用な男は焦った。
「たっ田中さん、確かお父さんがイギリス人だったよね!?」
「う・・ん、鶴見中尉が言ってた、悪の秘密結社の親分・・・らしい。」
ーー何かトンデモナイ事を言い出した!!?
杉元は焦った、彼女は寒さで錯乱している、と。思えば大雪山の時も錯乱していた。
「場所代わろう?真ん中の方が暖かいよ?」
「駄目・・、そっちにはリュウがいる・・・」
赤毛の少女が杉元達と豊原で久しぶりに再会した際、あれだけ彼女に懐いていたリュウが彼女に警戒して唸ったのだ。
「尾形にも見捨てられたし・・リュウにまで嫌われた・・・」
ーー泣いてる!?
杉元が慌てて右側を見ると少女と目があった。寝ても泣いてもいないが、目が虚ろだった。
「どうしたの?」
「七つの大罪って言葉・・・知ってる?」
「え?」
「私は死んだら地獄に落ちるんだろうな・・・」
「えェェ・・・」
「ずっとアシリパが羨ましかった。私はあんな風にはなれない・・・」
杉元はひたすら慌てているが、少女はお構い無しに空を見上げて呟く。
「・・笑い話にしなければやってられなかった。でも・・・尾形の事は・・笑えないよ。」
「え?どういう事!?」
「星・・・」
「へッ?」
杉元が空に目を遣るも、当然吹雪で星等見えない。しかしその瞬間、谷垣が何かに気付き声を上げた。
「違う!あれは星じゃない、燈台だ!」
谷垣の『燈台』の一言で皆が我に返り、慌てて身体を起こして穴から出た。4人で固まり光の指す方向へ向かって進む。ガタブル震えながら漸く建物を見つけ、皆で固まったまま燈台の隣にある民家の扉を開ける。
暖かい室内には燈台守のロシア人夫婦、そして樺太先遣隊の2人とヘンケ、エノノカがいた。
「このスーシュカと言う菓子パン、お茶うけにとても合う。鶴見中尉殿にも教えてあげたい。」
寒さに凍え切った4人の前、監視対象が凍えているにも関わらず鯉登少尉が優雅にお茶会をしていた。
「ごいどーーーッ!!!」
「ブホッ!!田中、何よする!?」
手袋を鯉登の顔面に叩き付け、青年将校に決闘の申し込みをした赤毛の少女。理不尽な位に怒りで喚きながら殴りかかろうとする彼女を止めながら、杉元は安心した。あぁいつもの田中さんに戻った、と。
ペチカと言う暖房の上で、全身が寒さでかじかんだ4人は身体を温める。“フフ、虫みたい”と笑う鯉登にまたしても食ってかかる少女を杉元達3人で引き止めながら何とか凍死は免れた。
◇
翌日。杉元達は犬橇の修理をするヘンケの手伝いをしていた。ヘンケは器用に応急処置をしており、杉元だけでなく赤毛の少女も感心している。
「流石ヘンケだぜ。」
「鯉登、金槌片付けてくれ。もう使わないみたいだ。そこの角にある木箱に入ってたんだ。」
少女が金槌を鯉登に渡すと、若い将校は金槌の頭を掴んで受け取ってしまう。
「あ、馬鹿!!」
氷点下を切る寒さの中、金槌の頭は鯉登の掌にくっついてしまい取れなくなった。鯉登は慌てて月島に相談するが、少女はその様を見て大笑いしている。
「笑うな、田中!!」
「誰か、小便かけて溶かしてやれ。」
「俺、出るぜ。」
金槌を鯉登の掌から綺麗に剥がす為、月島が温かい液体、この場合は小便をかける事を提案しており、杉元はそれに応じようとした。しかし育ちの良い鯉登は納得いかない様だ。
鯉登は杉元と暫し見つめ合った後、軽快な足取りで雪原を駆けて・・否、逃げていく。それを同じ様に軽快な足取りで追いかける杉元。
その場に残されたヘンケと月島、谷垣、赤毛の少女から2人の姿が見えなくなって少し経った頃、雪原の彼方に鯉登の猿叫が響いた。悲痛な叫びだった。
その後、燈台守の夫婦が食事を振る舞ってくれた。杉元達は食卓に並んで座りご馳走になる。
「赤い・・・辛いのかな?」
「いや、この赤い汁物はボルシチと言って、赤いのはビーツと言う株の色素の為だ。」
「ボルシチ・・・」
赤毛の少女は湯気を立てるボルシチを啜りだした。
「美味い!あぁ・・じゃなくて、ヒンナでもなくて・・・確か、ふくなす?だっけ。」
「何か違うよ、田中さん。」
杉元は少女の怪しげなロシア語を聞いて苦笑いしながら。月島に代わりに聞いてやる。
「フクースナだ。」
「そう、それ!ふくーすな!!ふくーすなです!」
少女はニコニコしながら燈台守の夫婦に感謝して、ボルシチを夢中になって食べておかわりまでしている。
ーーやっぱりこの娘は尾形とは違うよなぁ。
杉元はそう感じた。燈台守の奥さんがおかわりをよそい、赤毛の少女に器を渡すと彼女は頭をペコペコしながら嬉しそうに受け取る。奥さんはその様子を見て、手で口を抑えながら涙を流し出し、杉元達は慌てた。
「え、え?おかわりしたら駄目だったかな・・・」
「いや・・・、田中、お前を見ていたら家を出たまま行方不明になった娘を思い出したと言っている。」
月島が燈台守の夫婦から話を聞き出してくれた。どうやら彼らの一人娘が赤毛の少女と同じ位の年齢の時に脱走兵と駆け落ちしたらしく、未だに見つかって無いようだ。日露戦争のゴタゴタがあり、灯台を壊す様に言われたり一時的にここを明け渡したりもしたが、夫婦はいずれ帰って来るだろう娘の為に、この燈台に戻って来たらしい。
「脱走兵と駆け落ち・・・」
杉元は呟き、おかわりのボルシチを食べる手が止まってしまった少女の様子をチラッと伺う。
「杉元に谷垣、そもそも私には親がいないから。」
赤毛の少女にバッサリと否定された。
杉元の考えていた事はバレバレであった。しかも谷垣まで同じ事を思った様で、男2人は思わず顔を見合わせた。気不味い。
「それに・・私ならこんなご両親の娘に生まれていたらもっと普通の暮らしで満足していたよ?まぁ、でもそのお陰で燈台が残されて私達が助かったんだよなァ。」
赤毛の少女はシンミリとした表情で再びボルシチを食べながら、月島に頼み事をしだした。彼女は軍曹にロシア語を教えて欲しいと言っており、月島は少し面倒臭そうな顔をして断っている。
杉元は燈台守のスヴェトラーナと言う娘の写真を自分の写真と交換してもらい、出来る範囲内で捜す事を約束した。
◇
燈台を出立する前、アンは月島を引き止めて2人きりになり話を切り出した。少し離れた場所では寒空の下、鯉登や杉元達が燈台守の夫婦と話をしている。
「月島さん、いくら何でも小便は無いんじゃないですか?お湯を沸かせば良いのに。可哀想に、鯉登、手が真っ赤になるまで洗っていましたよ?」
アンは鯉登達の方を指で差しつつ、笑いながら月島の方に話しかける。月島は何故今更その話を蒸し返すのか疑問に思いながらも、いつもの無表情で溜め息交じりに答える。
「戦時中は一々お湯を沸かして等はいられなかった。あぁやって対処したのだ。」
「あぁ、そうか。でも鯉登はあの通りばるちょーなくだし、ちょっと可哀想かも。」
『ばるちょーなく』の一言に一瞬、月島はギクリとした表情を見せた。
「田中・・・」
「やっぱり意味は『苦労知らずのお坊ちゃま』で合ってましたか?」
「・・・」
「やだな、睨まないで下さいよ。鯉登にはまだ尾形がロシア語を喋れる事は伝えてませんから。」
アンは戯けながら話を続ける。
これはただのハッタリだったが、無言の月島から感じる圧迫感の様な物が次第に強くなってきて、彼女は確信した。
ーー尾形もロシア語を喋れるのか。そして尾形は月島さんと一緒にロシア語を使って鯉登に何かしたのか?
彼ら2人は仲が良いとは思え無いので、おそらくだが上官・・鶴見中尉辺りの命令で鯉登に何かをした、それもロシア人のふりをして、と推測した。
鶴見中尉がアンを利用する為に生きたまま確保する事に拘らなければ、少女は月島にこの場で殺されていたかもしれない。戯けながらも言葉を選び慎重に話を続ける。
「私には興味ない話ですし、鯉登にはこのまま黙っておきます。ここに来るまでにもアイツから何度か質問責めに会いましたが、適当にはぐらかしています。」
「何が言いたい・・・」
「私にロシア語を教えて下さい。辞書はあるけどやっぱり先生が欲しいんですよ。」
「は?」
月島はてっきり、アンが自分の逃亡を見逃せ、と言い出すのかと思っていたので面食らった。ロシア語を話せる人間は月島自身がいるからこれ以上は必要無いし、何より面倒臭い。
「面倒なのは分かります、でも私だって尾形を見つけて殺してやりたい気持ちはあるんです。少しでもロシア語が分かれば情報を掴みやすくなります。私、杉元に先を越されたく無いんですよ。」
「笑いながらする話か、それは。」
月島は呆れながらも了承した。どうせ旅の短期間で習得出来るモノではない、月島にとって面倒臭い事が一つ増えるだけなのだ。
◇
樺太先遣隊が燈台の夫婦に別れを告げた数日後、尾形とキロランケはアシリパと白石を連れて既にロシア国境を越えていた。4人は馴鹿の橇から徒歩に切り替えて林の中の雪道を歩く。
尾形は歩きながら、奇妙な夢を思い出していた。
ロシアの国境守備兵と狙撃戦をした際、彼は勝ったものの高熱を出して寝込んでしまった、その時に見た夢だ。
『兄様。』
そう自分を呼び、慕ってくる弟の頭を背後から撃つ。
弟は頭を撃たれたにも関わらず倒れる事なく、頭から血を流しながらゆっくりと尾形の方を振り向いた。
『勇作殿・・・』
尾形が呟いた瞬間、左手を誰かに引っ張られた。
彼の手を引っ張る人物に対し、夢の中の尾形は心当たりが無い。誰かは分からない。しかしその人物に手を引かれるまま、頭を撃った弟から、戦場から、逃げる様に走る。
ーーあれは・・・
小樽で死にかけて入院し、一時的に目が覚めた時に手を握ってくれていた娘を思い出す。北海道の案内人として無理矢理仲間に引き込んだ少女だったが、お節介なのかお転婆なのか、夢の中にまで出て来て進むべき方向に彼を引き摺って行こうとしている様だ。
ーー阿呆くせェ・・・
北海道に戻ったら、今度こそ別れを告げるつもりの相手だ。彼女は自分と同じだと考えていたが、全く違った。逆境の中、要領良く笑いながら生きていた。
ふと顔を上げると尾形の目の前の林の中に大型の猫の様な生き物がおり、こちらを見ている。山猫・・自らに付けられた蔑称を思い出す。
ーー高貴の血なんざ下らねェ、どんな人間だって同じはずだ。
尾形はゆっくりとその生き物に銃口を向けるも、先を歩くアシリパやキロランケに呼ばれて目を離した隙に山猫はいなくなっていた。