異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第九十五話 西部の洗礼

 

 

 

 

 

 

 ───教会訪問から翌日、事前に準備を済ませてくれたお陰で俺たちはスムーズに出発出来た。もはや呪詛で定着したオーパーツに邪魔されると面倒だし、俺だけ昨日から眠らず行動してる。

 

 もちろん【快復魔法(ヒーリング)】を利用した徹夜だから体調は万全だ。以前なら一徹くらいどうってことなかったんだが・・・・・・王立学校入学までのマナー講座、姿勢矯正、座学の強行軍───うっ、頭が。

 

 

「・・・・・・大丈夫ですか、カーツさん?」

「ああごめん、ちょっと嫌な記憶が蘇ってさ」

「ああ・・・・・・その節は本当にお疲れさまでした。あの頃のカーツさん、目から光が消えてましたもんね」

 

 

 クインからもそう見えてたよなやっぱり。興味のない話や優先順位の低過ぎる話を脳に刻むのはストレスが凄い。"故郷"での勉学経験がなかったら詰んでた、いやマジで。

 

 とにかく時間がなかったから、ひたすら【快復魔法(ヒーリング)】で体力を補充してたからなぁ。そして昼夜を問わず勉強、勉強、勉強・・・・・・本当によく頑張ったよな、俺。

 

 

「・・・・・・お二方とも、ま(・)た(・)関所が見えてきました。お静かに願います」

 

 

 手綱を操る御者さんが声を掛けてくれる。その言葉に従い、俺たちは雑談を一時中断する。今乗ってるのは、人を運ぶための馬車じゃなく見窄らしい・・・・・・ってのは失礼だが年季の入った荷馬車。その二(・)重(・)底(・)の隙間に、俺たちは隠れて移動していた。

 

 この荷馬車は『聖人』さまやイーグレットさんの口利きで用意してもらったものだ。何でこんな"訳あり"な馬車を教会がお持ちなのかは敢えて聞かない。絶対碌な回答が返ってこないし、こうして俺たちも助かってるからな。

 

 

「(・・・・・・にしても、本当に関所が多いな。この地方だけ監視社会って感じだな)」

「(言い得て妙な表現ですね。教会でお話した通り、様々な思惑を持った方が活動される地方ですから。監視の為と、資金を吸い上げることで物理的に行動を抑制する試みかと)」

 

 

 ああ、関所を設ければ関税を取って良いんだっけ?本来なら交易を損なうからあまり推奨されないらしいけど。

 

 元々は迷宮を利用せずとも豊富な鉱山資源や稀少作物の密輸防止に建てられたとか。今じゃ出入りする人間を監視する設備って訳だ。

 

 

「───あっ、動き出しましたよカーツさん」

「かなり無遠慮に物色してたな。教会相手でもお構いなしか・・・・・・想像以上に物騒だなブラックダイア領って」

 

 

 西部入り口はまだ順調だった。オブシディア男爵領は【浄血】や教会に好意的だし、独立派のジェット男爵領も金は掛かったらしいが馬車の中まで探られることはなかった。

 

 だけどブラックダイア公爵領に入ってから露骨にチェックが厳しくなった。荷物の中身を放り出すのは序の口で、聞こえてきた限りだと御者さんに刃物まで向けてたっぽいし。

 

 どうやら隠れてる人間を炙り出すためによくやる脅しらしい。後から教えてもらったけど、すぐ飛び出せる位置に居たら危なかったな。まんまと炙り出されてたところだ。

 

 

「此処を抜けたら後は問題なさそうか?」

「そうですね、ブラックダイアさえ通過すれば中央派はブラックオパール子爵領のみになります。この領地は代替わりをされて以降、不作に伴う財政難に悩まされているとのことです。賄賂の要求は激しいかもしれませんが、保持している武力は乏しいかと」

「まあ平時の軍事力はただの金喰い虫だからな。それならあともうちょっとの辛抱だな」

 

 

 想定より時間は掛かってる。だけど道程はもう半分以上は通り過ぎてる。要注意な領土もあとちょっとだ。

 

 第三王子が動けない以上、この状況で下手にトラブルを起こせばどこまで利用されるか分かったもんじゃない。貴族はどうか知らんが王族はもう罪のでっち上げすら躊躇してないだろう。とにかく騒ぎを起こさないようにしないとな。

 

 

「それより、結構狭いとこに長居してるが体調は大丈夫か?いつでも【快復魔法(ヒーリング)】掛けるからな」

「はい、今のところは特に問題ありません。お気遣い──────カーツさん!!」

「くっ・・・・・・!おいおい、嘘だろ!?」

 

 

 クインの大声に反射で装(・)置(・)に手を掛ける。落とし穴みたいに開いた底板へと飛び込み、空中でクインの風に誘導される。

 

 ───その直後、荷馬車が爆発した。状況を確認する暇もなく、空から飛来してくる物体を大急ぎで躱していく。着弾すると同時に爆風を撒き散らすそれは、あの学外実習でみたものと多分同じ代物だ。

 

 

「───【献言する蛇(サマエル)】の尖兵・・・・・・!」

「外から来た奴を片っ端から襲撃してんのか、それとも待ち伏せか・・・・・・どっちにせよこっちの動きが漏れてやがるな」

 

 

 爆破が止んで着地すると、悪趣味なローブを纏った集団に取り囲まれた。『大蛇衆』とは何度かやり合ってきたが、下っ端を見たのはこれが初めてだな。

 

 まさか伯仲堂々仕掛けてくるとはな。しかし王族の手駒はともかく、何で急にこいつらが出てくるんだ?"ティアマト"や"バシュム"の物言いだと『殺すのは最後にしてやるよ』って感じだった筈だけど。

 

 

「───助かったクイン、君が反応してくれなかったらお陀仏だった」

「荷馬車に纏わせておいた"風の網"が不自然に揺れたので・・・・・・御者さんは、間に合いませんでしたが」

「・・・・・・・・・そうか。酷な話だけど頭を切り替えよう。弔いも詫びも、まずは此処を切り抜けてからだ」

 

 

 俺たちの戦いに巻き込んでしまった。忸怩たる思いだが足を止めてはいられない。カラレスに着かなきゃあの人の犠牲が無意味になる。反省や後悔は全部済んでからだ。

 

 

「カーツさん、対呪詛の用意は如何です?」

「全部俺の懐に仕舞ってある。ある程度なら使いまくっても問題ない」

「了解しました、それでは北の一角を切り崩します。援護をお願いします!」

 

 

 一気に魔力を練り上げるのに合わせて、俺も長杖を組み立て魔法を準備する。二人だけならあの爆弾も障壁で防げる。また妙な真似される前に、脇目を振らず全力で切り抜けよう。

 

 

 

 

 

 

 

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